命が進むは早瀬の如く

琴里 美海

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第弐拾七話

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 全員一斉に音のした方を見た。山の麓の方で炎の灯りが見える。
 あたいは恵風を見ると、恵風は悲しそうな顔をしていた。

「瑞光…………」
(そう、もう始まったのね。)
「な、何の話だよ。」

 あたい一人話に付いて行けてない状態で、恵風はあたいの前にしゃがんで説明してくれた。

「実はね、瑞光は戦を起こすつもりだったんだ。」

 何でも、特定の人物を炙り出す為だけに、国中を戦火で包むつもりらしい。そしてその途中にあるこの森の結界が非常に厄介だったらしい。何故なら、森の意思一つでこの山より先全てを守る事が出来るらしいから。
 その為に恵風を暴走させる計画を立てていたって、恵風が捕まっていた時に瑞光から直接聞いたらしい。

「……………な、なら如何したら良いんだよ。」

 森の心臓にあたる木はあたいが守り切れなくて根元から見事に折れちまってるし。他に心臓になる苗なんて、そんなの何処にあるんだよ。
 後ろから足音が聞こえると、あたいはすぐに振り返った。

「環、紫蘭母さん。」

 二人が山を登って来ていた。
 あたいはすぐに二人に駆け寄って紫蘭母さんを支えて、その間に環は切れた息を整えていた。

「早瀬さん…………」

 紫蘭母さんが母さんを見ると、母さんは倒れている木から、紫蘭母さんの方に視線を移した。

「もしもの時が、来てしまいましたね……………」
(えぇ、そうね。)

 二人が何の話をしてるのか分からない。だけど恵風も環も、何故か悲しそうな顔をしている。
 紫蘭母さんはおぼつかない足取りで母さんの方へ歩いて行った。

「森の長の『最後の仕事』。やはりこの子に伝える事になりますね。」
(…………出来る事なら、この子に気付かれないように村を出たかったのにね。恵風が大きくて目立つから。)
「な、なぁ、何だよその『最後の仕事』って。」

 あたいがそう聞くと、環は驚いた顔をした。

「もしや、早瀬殿からお聞きしていないのですか?」
「え?」

 ちょっと待てよ、何で皆知ってるのに、あたい一人知らないんだよ。
 母さんは少しずつあたいに近付いて来た。

(ごめんなさいね、これは本当に貴方に言いたくなかった事だから。)
「か、母さん……………」
(森の長の『最後の仕事』。それは有事の際、森の心臓にあたるこの巨木が、何かしらの原因で死ぬ様な事があった時…………………)

 少しだけ黙って、そして言った。

(その時の森の長が、次の森の心臓になる事。)
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