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ほしがることは罪ですか?
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しおりを挟む黒瀬くんと、すっかり見慣れた夜道を並んで歩く。
「あの人、萌黄さんって……何だか不思議な人だね」
「……そうかな?」
「悪い人ではなさそうだけど……」
「まぁ、悪い奴ではないよ。……信用はできないけど」
黒瀬くんは何か思うところがあるのか、夜空を見上げて暫く黙っていたけど……緩く口角を持ち上げて、自然な動作で私の左手を握った。
「あの人のことは置いておいてさ。そんなことより……ねぇ百合子さん。俺、お願いがあるんだけど」
「お願い?」
「そう。百合子さんに、“好き”って言ってほしいなって」
「……ん?」
ニコニコ。そんな効果音が聞こえてきそうな笑顔を浮かべている黒瀬くん。その表情はどこか期待しているようにも見えるし、私の反応を見て、何だか面白がっているようにも見える。
「……どうして今?」
「んー、百合子さんの口から、今聞きたいなって思ったから?」
「……」
“好き”なんて、たったの二文字の言葉だ。だけど黒瀬くんの黒曜石のような瞳に見つめられると、何故だか照れが勝ってしまって――どうしてか、口籠ってしまう。
「……まぁ、無理強いしてもしょうがないか」
フッと息を漏らすように笑った黒瀬くんは、空いている左手で私の頬に触れて微笑む。
「百合子さんから言いたくなるように、俺からもいっぱい伝えていくことにしようかな。楽しみにしててね」
「……はいはい」
黒瀬くんからなんて、もう十分すぎるくらいにいっぱい伝えてもらっている。だけど意地っ張りの私は、やっぱり可愛さの欠片もない返しをしてしまったのだけど――そんな私の言動にすら、黒瀬くんは嬉しそうに笑っていた。
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