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束縛が強いのはお互い様
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しおりを挟む「へぇ。嬢ちゃんが、椿が言ってた女か」
近くで見れば、男性は中々に整った顔立ちをしていた。黒瀬くんとは系統の違ったイケメンだ。焦げ茶の髪は前髪を上げるようにセットされていて、精悍な顔つきながら、どこか艶めかしい色気を感じさせる。
「……あの、萌黄さんから聞きました。あなたが黒瀬くんに……私から身を引くように言ったって」
「……ほう? だったら何だって言うんだ?」
男性はニヒルな笑みを湛えて、私を試すような視線で射抜く。
「ちょっと、皇さん」
黒瀬くんが窘めるような声音で男性の名前を呼んでいる。私は掌をグッと握りしめて、男性を真っ直ぐに見据えた。
「私は……黒瀬くんが何をしているのか、どんな危険なことをしているのかなんて、詳しいことは何も知りません。でも、だから身を引けとか離れろとか言われても……納得はできません」
「へぇ。嬢ちゃんは、危険な目に遭うのも怖くねぇってのか?」
「それは……怖いですよ。私は力が強いわけでもない平々凡々の人間ですし。さっきの喧嘩なんて、見てるだけで痛そうでした」
「ハハッ、喧嘩か。なら、俺の言いたいことは分かるだろ?」
咥えていた煙草を胸元から取り出したシリンダータイプの携帯灰皿に押し入れた男性は、目を細め、じっと見透かすようなまなざしで私の返答を待っている。
「でも、だからって……私が黒瀬くんのそばにいることに、誰かから口出しされる謂われはないと思います。それは、私と黒瀬くんが話し合って決めることですから。それに……誰に何て言われようと、私は黒瀬くんから離れるつもりはありません」
最後に黒瀬くんの方に視線を送って、彼にも私の気持ちが届くようにと、伝えたいことを一気に吐き出した。
私の話を黙って聞いていた男性は、依然として鋭さを孕んだまなざしで私を見つめている。――かと思えば、何故か俯き、肩を震わせ始めた。
「くっくっ……嬢ちゃん、面白れぇな」
顔を上げた男性は、何故か笑っていた。
――結構生意気なことも言ってしまったという自覚はあったし、一発殴られるかもしれない、くらいの覚悟はしていたのに。
予想外の反応を返されて呆けた顔をしていれば、隣に立っている黒瀬くんが「はぁ」と溜息を漏らす音が聞こえた。
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