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第一部 はじまり
第十二話 ぜったいに助けるからね
しおりを挟む「天乃さん」
一日の授業がすべて終わった、放課後。
カバンを持って席から立ち上がれば、日下部くんにつかまってしまった。
「日下部くん、また明日…「今日もアイツのところに行くの?」
「……」
「はぁ、やっぱり」
ごまかそうと思ったけど、日下部くんをだますことはできそうにない。
わたしの無言の返しから、國上のところに行こうとしていることはバレてしまったみたいだ。
わたしたちの様子を見た桃香ちゃんは「なになに、修羅場~?」と楽しそうに笑いながら、「すみれちゃん、がんば!」と言って、先に帰っていってしまった。
……桃香ちゃんの、はくじょう者!
「昨日も言ったけど、アイツからは妖怪の気配もしたんだ。危険だよ」
「でも……もしそうだとしても、國上は、悪い妖怪なんかじゃないよ」
「そんなのわかんないよ? やさしいフリして、天乃さんに近づいてきたのかもしれない。天乃さんのやさしさにつけこんで、何かよからぬことを考えてる可能性だってある」
日下部くんが、じゅんすいにわたしのことを心配してくれているってことは、わかってる。だけど……。
「わたしが接してきた國上は、明るくて、いつも楽しそうで、子どもっぽいところもあって……でも、いざという時には、いつもわたしを助けてくれるの。それに、式神の子たちを大切にしてた。すごくやさしいひとだなって思うんだ。それにね、わたしが何かした時には、いつもありがとうってお礼を言ってくれるんだよ。そんなの、本当に悪い妖怪だったら、ぜったいにしないと思うの」
わたしは、だれかの言葉で決めるんじゃなくて、自分の目で見た國上のことを信じたい。
――それを、日下部くんにもわかってほしい。
日下部くんの目をまっすぐに見つめ返してそう伝えれば、だまりこんでいた日下部くんは、はぁ、とためいきをもらした。
「……わかったよ。だけど、もし少しでも危ないと思ったら、すぐに逃げてね。本当はおれもいっしょについていきたいんだけど、今日は家の用事があって無理なんだ。だから……はい、これ」
そう言った日下部くんがカバンから取りだしたのは、以前にももらったことがあるもの。
「え? このお札は、この前もらったけど……」
「前にあげた分は、昨日使っちゃったでしょ? 多く持っていてこまることはないし、心配だから……せめてこれだけでも、もらってくれたらうれしいな」
「……ありがとう。日下部くんって、本当に親切でやさしいよね」
「……べつにおれ、だれにでもこんなに親切にしているわけじゃないよ」
「え?」
――それってどういうこと?
意味を聞こうと思ったけど、教室の時計を見た日下部くんは、あわてた様子でリュックをせおって行ってしまう。
「それじゃあ天乃さん、また明日!」
「あ、うん。また明日!」
どういう意味かはよくわからなかったけど、日下部くんにもらったお札は大切にカバンにしまって、わたしは今日も一人、國上のもとにやってきた。だけど……。
「國上? いないの?」
いつもはすぐ出迎えてくれる國上の姿が、どこにも見えない。
ユキくんとアオくんの姿も見えないし……いったいどうしたんだろう?
きょろきょろとあたりを見わたしていれば、お社の中からアオくんが出てきた。
よかった、中で休んでいただけみたい。
そう思ったけど……何だか、アオくんの様子がおかしい。
「アオくん? そんなにあわてて、どうし…「早くきてくれ! ぬしさまが……!」
「え? ……國上に、何かあったの?」
アオくんの後をついていけば、お社の中で、たおれている國上の姿を見つけてしまって……わたしは、息がとまっちゃうかと思った。
こわくてたまらなくなって、あわてて國上のそばにかけよる。
「っ、國上! ねぇ、どうしたの!?」
声をかければ、閉じられていた國上の目が、ゆっくりと開かれる。
「……あぁ、すみれか。出迎えができなくて、すまなかったな」
「ううん、そんなこと気にしなくていいから。顔が真っ赤だけど……もしかして、熱があるの?」
國上のおでこにふれてみれば、すっごく熱い。
やっぱり、熱があるみたい。
「昨日、あの人間の術をうけてしまったせいで……ふだんのぬしさまなら、あんなのまったく効かないっていうのに……!」
アオくんが、くやしそうにつぶやく。
どうやら、昨日、日下部くんからむけられたお札のせいで、熱を出してしまったらしい。
今の國上はまだ力が回復していないから、そのせいで熱を出しちゃったんだって。
「……そうだ!」
名案を思いついたわたしは、ユキくんとアオくんにも協力してもらうことにした。
「ねぇ、ふたりとも。國上をわたしの家につれて帰ろうと思うんだけど、だめかな?」
わたしの言葉に、ユキくんもアオくんも、ぎょっとした顔をする。
「はぁ? おまえ、何を言ってるんだ? ばかなのか?」
「だ、だって、お社はまだ完全にきれいにできてないから、ゆっくり休めないだろうし……家なら、ふかふかの布団の上で休んでもらえるかなって。そしたらわたしも、夜の間も看病できるし……」
いい考えだって、思ったんだけど……。
アオくんには、ばかだって言われちゃった。
「……たしかに、すみれ様の言うとおりかもしれませんね」
だけどユキくんが、わたしの言葉にうなずいてくれた。
「はぁ? ユキ、正気かよ?」
「うん。だってぬしさまも、すみれ様に看病してもらえた方が、早く回復しそうでしょう? ぬしさまは、すみれ様のことがだいすきだし」
「……え!?」
まさか、ユキくんからそんなことを聞かされることになるとは思っていなかったから、びっくりしちゃった。
だけど、そんなわたしをおいて、ユキくんとアオくんは会話をつづける。
「ぬしさまのことはすみれ様にお願いして、その間に、ぼくたちで少しでも早くお社を復興できるように作業をすすめておくっていうのはどう?」
「……はぁ、わかったよ。おい、人間」
「……は、はい!」
アオくんにキッとするどい目で見られて、背すじをのばして返事をする。
「ぬしさまのこと、たのんだぞ。わかっているとは思うが、もしぬしさまに何かあったら……許さないからな」
「っ、うん! まかせておいて!」
アオくんも、わたしが看病することをみとめてくれたみたい。
力強くうなずいて返せば、ユキくんとアオくんは、國上の体にぴたりと寄りそう。
そうしたら、ぼふんと白いけむりが上がった。
「え? ユキくん、アオくん!? だいじょうぶ……!?」
「はい、だいじょうぶですよ」
ユキくんの声が聞こえてきた。
白いけむりがはれて、周りが見えるようになってきたら……そこに、國上の姿は見えなくなっていて。
かわりに、ユキくんたちよりも少しだけ大きいサイズの、真っ白な子トラが寝そべっていた。
よく見れば、その毛並みは真っ白っていうよりも、白銀って感じの色をしている。
「もしかして、國上、なの……?」
「ああ。ぬしさまは、ほんらいは神獣であり、このお姿をしているんだ。体も小さくしたから、これならおまえでも抱えて連れ帰れるだろう」
アオくんが教えてくれた。
たしかに、人間の姿の國上を連れ帰ったとしても、おじいちゃんたちに説明するのはむずかしいもんね。
学校の友達っていうのには、無理があるし。
「それでは、すみれ様。ぬしさまのこと、よろしくお願いしますね」
「うん!」
こうして、小さなトラの姿になった國上を抱いて、こっそり家に連れて帰ることになった。
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