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Ⅳ Cheat
4-14 破れる虚構
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細く長い指先が、机の上で踊る。不規則な舞踏は、楽しげでもあり、ただの手慰みのようでもあり、あるいは苛立ちを押し殺しているようでもあった。
自らの指を眺めるニグル・フーリア・ケッペルの表情もまた、笑みのようにも無感情のようにも、見ようによっては不機嫌そうにすら見える。
「……ん」
五指の行進が、扉の向こうで聞こえた足音に止まる。慌ただしさを感じさせる駆け足の音が徐々に近づき、そして離れていった。
「…………」
前のめりになりかけた腰を戻し、指先が微かに動く。
「鍵をかけていないとは、不用心だな」
しかし、音も無く開いた扉の先、躊躇なく部屋に足を踏み入れた白の魔術師の姿に、指先は机に落ちた。
「これは、アルバトロス卿。先の決闘、一先ずはご無事で何よりです」
「この期に及んで、余計な建前は必要ない。汝も理解しているだろう」
アルバトロスの左手、杖を掴む手が僅かに前に出る。
「……まぁ、そうですね。貴方がここに来たという事は、そういう事になりますか」
対するニグルも立ち上がり、アルバトロスへと向き直る。
「それでも、一応は聞いておきましょうか。私に何用でしょう、アルバトロス卿」
「何用、か。あえて一つあげるとすれば……」
床に白磁の杖が触れ、短く音が鳴る。
「中途半端に終わった遊戯の続きをするため、とでも言おうか」
音の終わりに、アルバトロスの右手の空間から火柱が噴出。互いに距離の無い状態からの一撃は、直立していたニグルを真中に捉える。
「好戦的ですね、アンナにでも感化されましたか?」
「ここ数日はあれと顔を合わせていない時間の方が短かった。その可能性も否定はしない」
火の消え去った後、ほぼ無傷のニグルを前に、アルバトロスも顔色一つ変えない。
「しかし、それにしても性急に過ぎるのでは? アルバトロス卿とて、今回の事態の全貌を掴んでいるわけではないでしょう」
「それは、汝の思い違いだ」
どこか可笑しそうな声が、ニグルの言葉を否定する。
「我の興味の矛先は、ただ自らの魔術がどこまで通用するのかについてのみ」
「……ああ、なるほど。たしかに、そういう事なら」
ニグルの呟きが終わるよりも早く、もう一度白杖が打ち鳴らされた。
「кyк」
唄うような響きに連動して生み出された氷の杭は、しかし突如として現れた雷に打ち消される。
「ただ、やはり性急なのは変わらない」
ニグルの指が伸び切るよりも先に、雷はアルバトロスへ到達し、貫通していた。
胸元を雷に貫かれたアルバトロスの姿は、しかし朧に薄れて消えていく。決闘の舞台でも見せた虚像の魔術は、同時に白の魔術師の実体を視覚的に覆い隠す。
「可視光を操作し、視覚的に欺く。方向性としては有用ですが」
薄れて消えていったアルバトロスの虚像を予想通りというように、雷は迷いなく方向を変えると、そのまま一直線に奔っていた。
「闘技場と客席の距離ならともかく、この距離で本体の位置を完全に隠せるほど、あなたの魔術は完全ではありません」
自らの右斜め後ろ、雷の直撃を受けて音も無く倒れたアルバトロスへと振り返り、ニグルは独り語る。
「……ニグ、ル? これは、どういう?」
だが、その呟きに、あり得ないはずの返事が返ってきていた。
「ははっ……ティアか。まったく、いいタイミングだ」
自らの指を眺めるニグル・フーリア・ケッペルの表情もまた、笑みのようにも無感情のようにも、見ようによっては不機嫌そうにすら見える。
「……ん」
五指の行進が、扉の向こうで聞こえた足音に止まる。慌ただしさを感じさせる駆け足の音が徐々に近づき、そして離れていった。
「…………」
前のめりになりかけた腰を戻し、指先が微かに動く。
「鍵をかけていないとは、不用心だな」
しかし、音も無く開いた扉の先、躊躇なく部屋に足を踏み入れた白の魔術師の姿に、指先は机に落ちた。
「これは、アルバトロス卿。先の決闘、一先ずはご無事で何よりです」
「この期に及んで、余計な建前は必要ない。汝も理解しているだろう」
アルバトロスの左手、杖を掴む手が僅かに前に出る。
「……まぁ、そうですね。貴方がここに来たという事は、そういう事になりますか」
対するニグルも立ち上がり、アルバトロスへと向き直る。
「それでも、一応は聞いておきましょうか。私に何用でしょう、アルバトロス卿」
「何用、か。あえて一つあげるとすれば……」
床に白磁の杖が触れ、短く音が鳴る。
「中途半端に終わった遊戯の続きをするため、とでも言おうか」
音の終わりに、アルバトロスの右手の空間から火柱が噴出。互いに距離の無い状態からの一撃は、直立していたニグルを真中に捉える。
「好戦的ですね、アンナにでも感化されましたか?」
「ここ数日はあれと顔を合わせていない時間の方が短かった。その可能性も否定はしない」
火の消え去った後、ほぼ無傷のニグルを前に、アルバトロスも顔色一つ変えない。
「しかし、それにしても性急に過ぎるのでは? アルバトロス卿とて、今回の事態の全貌を掴んでいるわけではないでしょう」
「それは、汝の思い違いだ」
どこか可笑しそうな声が、ニグルの言葉を否定する。
「我の興味の矛先は、ただ自らの魔術がどこまで通用するのかについてのみ」
「……ああ、なるほど。たしかに、そういう事なら」
ニグルの呟きが終わるよりも早く、もう一度白杖が打ち鳴らされた。
「кyк」
唄うような響きに連動して生み出された氷の杭は、しかし突如として現れた雷に打ち消される。
「ただ、やはり性急なのは変わらない」
ニグルの指が伸び切るよりも先に、雷はアルバトロスへ到達し、貫通していた。
胸元を雷に貫かれたアルバトロスの姿は、しかし朧に薄れて消えていく。決闘の舞台でも見せた虚像の魔術は、同時に白の魔術師の実体を視覚的に覆い隠す。
「可視光を操作し、視覚的に欺く。方向性としては有用ですが」
薄れて消えていったアルバトロスの虚像を予想通りというように、雷は迷いなく方向を変えると、そのまま一直線に奔っていた。
「闘技場と客席の距離ならともかく、この距離で本体の位置を完全に隠せるほど、あなたの魔術は完全ではありません」
自らの右斜め後ろ、雷の直撃を受けて音も無く倒れたアルバトロスへと振り返り、ニグルは独り語る。
「……ニグ、ル? これは、どういう?」
だが、その呟きに、あり得ないはずの返事が返ってきていた。
「ははっ……ティアか。まったく、いいタイミングだ」
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