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Ⅱ Gambler
2-4 交友
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「よっす、後輩」
「よっす、先輩」
「ていっ」
椿との夜を越え、翌朝の学校。適当な挨拶を適当に返される。無礼を咎めるつもりも無かったが、なんとなく頭にチョップをかます。
「いたいけな少女に対して朝からばいおれんすですね」
頭を軽くさする藍沢は、しかし全く痛がってはいなかった。優しいバイオレンスなのだ。
「今日は男の子の日なんだ」
「……それは流石にセクハラだと思います、先輩」
なぜか目を細めて糾弾される。普段の藍沢の発言に比べれば何でもない軽口だと思うのだが、思春期少女の思考はなかなかに難解だった。
「良くわからないけど、とりあえず謝っておこう。ごめんなさい」
「うむ、わかればよろしい」
偉そうに反り返る藍沢の胸がわずかに強調される。本当にわずかに。
「で、視姦先輩はどうしてこんな時間から生徒会室に?」
「冬服の胸部が視線と結ばれただけで視姦とはあまりに短絡的だな。欲求不満か?」
「だって、先輩は透視とかできるじゃないですか」
やたらと真剣な目で問い掛けてくる少女から目を逸らす。
「……そんな事してないよ」
「やっぱり、できない、じゃなくてしてない、なんですね」
「俺はちょっと時間稼ぎに立ち寄っただけだけど、藍沢こそどうしてここに?」
「うわ、露骨に話を逸らすし。私は一時間目から自習なんで、ただの暇つぶしですけど」
見ると、藍沢の手には知恵の輪が握られていた。会長がいつも弄んでいるものだろうか。
「そう言えば、会長は?」
「どうでしょう、今日は見てないですね」
どうやら、あの人も流石にいつでも生徒会室にいるわけでもないらしい。そもそも、もう授業が始まるまであまり時間も無い。ここにいる藍沢の方がおかしいのだ。
「じゃあ、俺はそろそろ教室に行くから」
「えー、こんなにかわいい私を一人っきりで置いていくんですかぁ」
生徒会室を後にしようとするも、藍沢に袖口を掴まれる。
「そう寂しがるな。俺はいつでもお前の心の中にいるから」
頭をよしよしと撫でてやると、あっさりと袖から手を離した。見ると、その手で崩れた髪を直している。
「それはそれで鬱陶しいので、たまに遊びに来るくらいにして下さい」
甘えて来たと思いきや、藍沢はやはりつれない。寂寥感を抱きつつ、部屋を出る。
「まぁ、このくらい時間を空ければ十分か」
流石に二日連続で肩を並べて登校しては、俺と椿の関係が疑われかねない。
時間をずらして教室に入るため、生徒会室までの遠回りは不自然でない時間稼ぎくらいにはなった。これ以上時間を潰していては、今度は遅刻になってしまう。
「おっ、宗耶。随分と遅かったじゃん」
教室に入ってすぐ、場に合わない声の発信源を追うと、なぜか俺の席に腰掛けた生徒会長がこちらへと手を振っていた。
「どうも、会長。とりあえず、そこ座るんでどいてください」
「あれ、あんまり驚いてないね」
会長が俺の席から立ち上がり、自然に右前の席へと座り込む。
その席に先程まで座っていたはずの黒木はというと、まるで打ち合わせをしていたようなタイミングで黄色い声をあげながら友人達の元へと向かっていた。生徒会長は非常におモテになるようで。正直あまり羨ましくはなかった。
「驚いてはいますよ。会長が生徒会室にいない事に、ですけど」
「ははっ、引きこもりじゃないんだから。俺だって散歩にくらい出るよ」
冗談にはずれた返答が返ってくる。この人にとって、生徒会室は家か何かなのだろうか。
「同居人が暇そうにしてたんで、早く帰ってあげた方がいいと思いますよ」
「同居人? ああ、雛姫の事か。あれはむしろ居候かな」
会長が再び口を開けて笑う。
「同居と言えば、そっちは上手くいってるの?」
続いた楽しそうな会長の言葉に、自らの犯した失策に今更気付く。話題の連想ゲームはあまりに当然に過ぎた。
「はぁ、こっちはぼちぼちですね。今のところは困った事も無いですし」
適当に言葉を濁す。隣の席に言葉通りの同居人がいて、なおかつクラスの誰が聞いているかもわからない状況であまり詳細に語るわけにもいかない。
「ふーん。まぁ、宗耶の方はあんまり心配してないけど」
しかし、会長はそんな事はお構いなしに視線を隣に向けていた。
「どう? 優奈ちゃんは、宗耶に変態的なプレイとか強要されてない?」
アウトである。情報の秘匿の面でも、そしてセクハラ的な意味でも。この人といつも生徒会室にいるから藍沢はあんな子になってしまったに違いない。
「い、いえ、そんな。宗耶さんはすごく優しくしてくれてます」
うん、そうなんだけど、今の流れだとなんか変な意味に聞こえる。椿にはそんなつもりは一切無いだろうが、心の汚れた者にはそう聞こえるのだ。会長なんか爆笑してるし。
「では、ベッドジェントルマンの宗耶君にはより一層の健闘を願っているよ」
一通り笑い終えた会長は、立ち上がり伸びをする。意識しているのかは知らないが、いちいち行動が目立つ人だ。
「いや、あんた結局何しに来たんだ」
「宗耶が遅いから時間なくなっちゃったんだよ。本当は少しだけ話しておこうかと思ったけど、まぁ後で生徒会室に来てくれればそれでいいかな」
時計を見ると、たしかにもういつチャイムが鳴ってもおかしくはない。雑談をしていなければ少しは時間もあったのではないかとは思うが。
「優奈ちゃんと、あと由実ちゃんもまた後でね。仲良く宗耶をシェアするんだよー!」
その言葉を最後に、会長は教室後ろのドアから消えていった。
と、ほぼ同時に担任が前のドアから姿を現し、また同時にチャイムが鳴る。どいつもこいつも体内時計が正確すぎる。
会長の軽率な発言により、あらぬ誤解と歪んだ真実が教室を駆け巡ったのはまた別の話。
「よっす、先輩」
「ていっ」
椿との夜を越え、翌朝の学校。適当な挨拶を適当に返される。無礼を咎めるつもりも無かったが、なんとなく頭にチョップをかます。
「いたいけな少女に対して朝からばいおれんすですね」
頭を軽くさする藍沢は、しかし全く痛がってはいなかった。優しいバイオレンスなのだ。
「今日は男の子の日なんだ」
「……それは流石にセクハラだと思います、先輩」
なぜか目を細めて糾弾される。普段の藍沢の発言に比べれば何でもない軽口だと思うのだが、思春期少女の思考はなかなかに難解だった。
「良くわからないけど、とりあえず謝っておこう。ごめんなさい」
「うむ、わかればよろしい」
偉そうに反り返る藍沢の胸がわずかに強調される。本当にわずかに。
「で、視姦先輩はどうしてこんな時間から生徒会室に?」
「冬服の胸部が視線と結ばれただけで視姦とはあまりに短絡的だな。欲求不満か?」
「だって、先輩は透視とかできるじゃないですか」
やたらと真剣な目で問い掛けてくる少女から目を逸らす。
「……そんな事してないよ」
「やっぱり、できない、じゃなくてしてない、なんですね」
「俺はちょっと時間稼ぎに立ち寄っただけだけど、藍沢こそどうしてここに?」
「うわ、露骨に話を逸らすし。私は一時間目から自習なんで、ただの暇つぶしですけど」
見ると、藍沢の手には知恵の輪が握られていた。会長がいつも弄んでいるものだろうか。
「そう言えば、会長は?」
「どうでしょう、今日は見てないですね」
どうやら、あの人も流石にいつでも生徒会室にいるわけでもないらしい。そもそも、もう授業が始まるまであまり時間も無い。ここにいる藍沢の方がおかしいのだ。
「じゃあ、俺はそろそろ教室に行くから」
「えー、こんなにかわいい私を一人っきりで置いていくんですかぁ」
生徒会室を後にしようとするも、藍沢に袖口を掴まれる。
「そう寂しがるな。俺はいつでもお前の心の中にいるから」
頭をよしよしと撫でてやると、あっさりと袖から手を離した。見ると、その手で崩れた髪を直している。
「それはそれで鬱陶しいので、たまに遊びに来るくらいにして下さい」
甘えて来たと思いきや、藍沢はやはりつれない。寂寥感を抱きつつ、部屋を出る。
「まぁ、このくらい時間を空ければ十分か」
流石に二日連続で肩を並べて登校しては、俺と椿の関係が疑われかねない。
時間をずらして教室に入るため、生徒会室までの遠回りは不自然でない時間稼ぎくらいにはなった。これ以上時間を潰していては、今度は遅刻になってしまう。
「おっ、宗耶。随分と遅かったじゃん」
教室に入ってすぐ、場に合わない声の発信源を追うと、なぜか俺の席に腰掛けた生徒会長がこちらへと手を振っていた。
「どうも、会長。とりあえず、そこ座るんでどいてください」
「あれ、あんまり驚いてないね」
会長が俺の席から立ち上がり、自然に右前の席へと座り込む。
その席に先程まで座っていたはずの黒木はというと、まるで打ち合わせをしていたようなタイミングで黄色い声をあげながら友人達の元へと向かっていた。生徒会長は非常におモテになるようで。正直あまり羨ましくはなかった。
「驚いてはいますよ。会長が生徒会室にいない事に、ですけど」
「ははっ、引きこもりじゃないんだから。俺だって散歩にくらい出るよ」
冗談にはずれた返答が返ってくる。この人にとって、生徒会室は家か何かなのだろうか。
「同居人が暇そうにしてたんで、早く帰ってあげた方がいいと思いますよ」
「同居人? ああ、雛姫の事か。あれはむしろ居候かな」
会長が再び口を開けて笑う。
「同居と言えば、そっちは上手くいってるの?」
続いた楽しそうな会長の言葉に、自らの犯した失策に今更気付く。話題の連想ゲームはあまりに当然に過ぎた。
「はぁ、こっちはぼちぼちですね。今のところは困った事も無いですし」
適当に言葉を濁す。隣の席に言葉通りの同居人がいて、なおかつクラスの誰が聞いているかもわからない状況であまり詳細に語るわけにもいかない。
「ふーん。まぁ、宗耶の方はあんまり心配してないけど」
しかし、会長はそんな事はお構いなしに視線を隣に向けていた。
「どう? 優奈ちゃんは、宗耶に変態的なプレイとか強要されてない?」
アウトである。情報の秘匿の面でも、そしてセクハラ的な意味でも。この人といつも生徒会室にいるから藍沢はあんな子になってしまったに違いない。
「い、いえ、そんな。宗耶さんはすごく優しくしてくれてます」
うん、そうなんだけど、今の流れだとなんか変な意味に聞こえる。椿にはそんなつもりは一切無いだろうが、心の汚れた者にはそう聞こえるのだ。会長なんか爆笑してるし。
「では、ベッドジェントルマンの宗耶君にはより一層の健闘を願っているよ」
一通り笑い終えた会長は、立ち上がり伸びをする。意識しているのかは知らないが、いちいち行動が目立つ人だ。
「いや、あんた結局何しに来たんだ」
「宗耶が遅いから時間なくなっちゃったんだよ。本当は少しだけ話しておこうかと思ったけど、まぁ後で生徒会室に来てくれればそれでいいかな」
時計を見ると、たしかにもういつチャイムが鳴ってもおかしくはない。雑談をしていなければ少しは時間もあったのではないかとは思うが。
「優奈ちゃんと、あと由実ちゃんもまた後でね。仲良く宗耶をシェアするんだよー!」
その言葉を最後に、会長は教室後ろのドアから消えていった。
と、ほぼ同時に担任が前のドアから姿を現し、また同時にチャイムが鳴る。どいつもこいつも体内時計が正確すぎる。
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