妹の友達と付き合うために必要なたった一つのこと

玄城 克博

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四章 妹

4-4 真面目な話は場所を選んで

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「――やっぱり、これは違うと思うな」

 冷えた身体の表面から、一気に芯まで染み込んでくる湯の温かさを感じながら、頭の後ろから響く柚木の声を聞く。

「たしかに、これは正解ではないかもしれない。だが、今の俺達に取れる最適解なんだ」

 俺の上に柚木はダメ。背中合わせは、かなり狭っ苦しい事になるので望ましくない。互いに向かい合い、足を広げて相手の頭を挟むように置くなんて案も思いついたが、考えるだけで色々とやばそうなので却下。

 結果、湯船の中、俺が柚木の上に座る形で一応の決着を付けたのだが。

「これなら、私がひろ兄の上に座るのでもいいじゃん。むしろ、そっちの方がいいよ」

「わかってくれ、柚木。それはダメなんだ。ダメなんだそれは」

「これもダメだと思うけどなぁ……」

 湯船の中、大の男が年下の女の子の上に座るという構図は、それだけ見れば滑稽でしかないわけで。

「まぁ、そう言わないで。俺の尻の感触でも楽しんでくれ」

「変な事意識させないでっ! ……っ」

 勢い良く抗議して、その後で柚木はわずかに声を漏らした。

 浮力が重さを軽減してくれているとはいえ、俺の身体が柚木の上に重なっている事に変わりはないわけで。逆であればどうなっていたか、やっと気付いたらしい。

 ちなみに、上は上で、背中で柚木の胸の感触を味わう形にはなっているが、水着越しなのでなんとかセーフ。なんとかセーフだと思いたい。

「……や、やっぱり、一緒にお風呂はちょっと恥ずかしすぎたかな?」

「何を今更」

「だよね……あははっ」

 後ろから、湯を口でぶくぶくする音が聞こえる。

「それなのに、どうして一緒に風呂に入ろうと思ったんだ?」

 先程はなんだか有耶無耶になってしまった問いを、もう一度柚木に投げかける。

「……ひろ兄を、ゆーわくしようと思ったの」

「誘惑?」

「そう、ゆーわく」

 どうにも柚木に似つかわしくない言葉に、後ろを振り向こうとするも、寸前で首を抑えられてしまい、柚木の顔が見えない。

「ひろ兄えっちだから、一緒にお風呂に入ったら喜ぶかなって」

「まぁ、間違ってはいない事もない事もないでもないような気もしないでもないな」

 否定するとかえって怪しいので、とりあえず誤魔化してみる。

「私、明日でお家に帰っちゃうでしょ。そしたら、その間にひろ兄が他の人と付き合っちゃうんじゃないかって思って」

「なんだ、俺が妹の友達と付き合うのが寂しいのか?」

「……寂しいよ。私、ひろ兄の事好きだもん」

 消え入りそうな声は、ごく近い距離と風呂場の反響で嫌でも耳に入る。

「俺も、柚木の事は大好きだぞ」

 狭い湯船の中、無理矢理身体を反転させて柚子の頭を撫でる。わずかに背けられた柚木の顔が赤いのは、湯の暖かさだけが原因ではないだろう。

「違うよ、そうじゃないの。私は、ひろ兄の事、恋愛の意味で好きなの」

「…………」

 腰のタオルがずれないように気を付けながら、頭をゆっくり撫で続ける。抱きしめたいのも山々だが、流石にこの状態ではまずいだろう。

「ごめんな、柚木。俺は、妹の友達と付き合うのが夢だから」

 柚木が俺の事を好いているなんて事は、あえて考えるまでもなく知っていた。それが兄に対しての好意とは違うという事も、自惚れかと思いつつも気付いてはいた。

 俺も、柚木の事は好きだ。それがどういった類の好きかは自分ではわからないが、柚木に対して性的な魅力を感じてしまう、というか今現在感じているのも事実である。

 それでも、俺の口から出た言葉は謝罪だった。

「……じゃあ、いつかそれを諦めたら、ひろ兄は私と付き合ってくれる?」

「今のところ、妹の友達を諦める予定はないな」

「それなら、私が妹の友達になったら?」

 畳み掛けるような柚木の言葉に、、じりじりと詰められていく。

「……それは、俺の事をお兄さん、って呼んでくれるのか?」

「ひろ兄が、ううん、お兄さんがそうしてほしいならいいよ」

 その言葉を聞いた瞬間、自分の中の何かが突き動かされる音がした。

「うわぁぁああぁ!」

「あっ、ひろ兄!? ちょっと!?」

 このままではまずい。湯船から上がり、慌てて脱衣場へと飛び出すと、体を拭くのもそこそこに着替えを済ませる。

 脱衣場から廊下に出たところで、ようやく柚木の風呂場の扉を開ける音が聞こえた。
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