着ぐるみどらごん&ないと

桐条京介

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第9話 人間とは違うのです

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「奇妙な外見で、魔法使いなのを隠してたのか!? おい! そのガキを先に狙うぞ!」

「ああ! わかった!」

 盗賊のリーダーと残ったひとりが同時にナナを狙おうとするも、衛兵が力を振り絞って妨害にかかる。

「――チッ。しつこい野郎だ。黙って寝てやがれ!」

「そうはいかん。俺だって栄えある王国の兵士だ。盗賊ごときに好き勝手やられてたまるか!」

 衛兵が意地を見せている間に、倒れていたサレッタが起き上がり、カイルの側へと走り寄る。

「飲んで」

 リュックの中から回復用のポーションを取り出し、地面でぐったりしたままのカイルへ飲ませてくれる。おかげですぐに体力が回復し、酷かった傷がみるみる治っていく。

 生命力の高い人間では心許ない効果のポーションでも、悲しいかな、実力の乏しいカイルには必要十分すぎるほどだった。

「これでまた戦える!」

「気を付けて。死んじゃったらポーションは効かないんだよ!」

「わかってる。だが、ナナを守らないと!」

 この場に来た三人の盗賊の中でも、一番の実力者と思われるリーダーの男がナナに迫っている。そのスピードは、やはり他の二人よりも上だ。

 まともに戦えばカイルの勝ち目は皆無だが、不意を突ければなんとかなるかもしれない。倒れた際に手から離してしまっていたロングソードを拾い、右手でしっかり握る。

「今、行くぞ!」

 カイルがナナの方に顔を向けた直後、ごうと勢いよく風が吹いた。見れば、ナナが再び炎を吐いたところだった。

 奇襲攻撃も同然だった先ほどとは違う。部下がひとり犠牲になったおかげで、盗賊のリーダーはナナの火炎攻撃を知っている。

 スピードを活かして回避すると、そのまま死角からナナに迫ろうとする。

「魔法かアイテムの効果かは知らないが、炎を吐けるといっても、食らわなければなんということはない! 覚悟してもらうぞ!」

「ナナは恐怖のどらごんなのです。人間とは違うのです」

 そう言うとナナは、炎を吐き終えて閉じたばかりの口を再びパカッと開いた。

 二発目がくると悟った盗賊のリーダーは無暗に突っ込まず、炎が自身に向かってくるのを待つ。

 急いで攻撃を仕掛けて炎を食らうより、回避しながら距離を詰めていく戦法を選んだのだ。一気に片をつけるのは難しくなるが、その分だけ相手の攻撃に対応できる時間が増える。いわば安全策だった。

 勢いよく吐き出された炎を、先ほど同様に盗賊のリーダーが横に跳躍してかわす。炎が標的に向かう速度はかなりのものなのだが、敵はその上をいっている。

「詠唱してる時間がないのは気になるところだが、魔法使いを相手にしてると思えばさほど恐れる必要もない。ただのガキではないとわかったからには、貴族の売り物にするのはやめだ。この場で仕留めさせてもらうぞ!」

 強い口調で宣言した盗賊のリーダーが、炎を回避すると同時に再度ナナとの距離を詰めようとする。

「ナナちゃん!」

 悲痛な叫びを放ったのはサレッタだ。

 カイルも動き出してはいるが、視界に捉えている盗賊のリーダーの背中は遠ざかるばかり。

 こうなったら駄目元でロングソードを投げるしかない。当たるとは思えなかったが、何もしないよりはマシだと思った。

 しかしカイルが行動する前に、突撃してくる盗賊のリーダーを尻目に、炎を吐いてる最中のナナがそのまま体を回転させ始めた。

 体が回転すれば、必然的に顔の向きも変わる。それは炎の吐き出される方向が変化するのを意味していた。

「何っ!?」

 驚いた盗賊のリーダーがさらに逃げるも、ナナは追いかけるように体の向きを回転させ続ける。

 体の向きを変えてもすぐに炎は消えず、少しの間その場に残る。名残に新たな炎が加われば、即座に勢いを取り戻す。程なくして、ナナを中心に炎の輪が完成した。

 横に逃げ続ければ炎の輪に包まれて一巻の終わりだ。盗賊のリーダーは、一旦距離を取るしかなかった。

 炎の脅威から逃れられたはいいものの、今度は攻撃手段を見つけられない。ナイフを投じたところで、炎の輪に弾かれる。

 口を開きっぱなしのナナは延々と炎の輪を作り続ける。徐々に炎の輪が上に伸びていき、輪から壁に変化するともう手の施しようがない。

 唖然とするカイルの側にまで、炎の壁が発する熱が寄ってくる。チリチリと頬が焼かれるみたいだった。

「炎の壁を作ったのか? こんな魔法は知らないぞ。チッ。おい! あのガキは何者だ!」

 盗賊のリーダーが、カイルを怒鳴りつけるように聞いてくる。

 カイルの代わりに答えたのは、サレッタだった。

「私が教えてあげる。ナナちゃんはどらごんよ!」

「ドラゴン!? はっ! ふざけすぎだ。確かに火を吐けるのは驚きだが、どうせ口の中にマジックアイテムでも仕込んでんだろ!」

 言ったあとで盗賊のリーダーは、衛兵と戦闘中の部下に声をかける。

「お前は倒れてる奴を拾え。衛兵を突破して盗みを成功させただけでも、十分に話題にはなる! 今回の最大の目的は名を広めることだ!」

 わかったと部下のひとりが返事をするのを待っていたかのように、炎の壁から直径十五センチメートルはありそうな火の玉が放たれた。

 火の塔と形容してもいい状態から、よもや攻撃を仕掛けられるとは、その場にいる誰もが予想だにしていなかった。

 不意を突かれたも同然になった盗賊のひとりが、情けない悲鳴とともに火の玉に吹き飛ばされる。

 全身にまとわりつく火に体力を奪われながら、地面に倒れてのたうち回る。肌の焼かれる音が不気味に闇夜へ響く。

 転げ回るうちに盗賊の体の火は消えたが、先ほどまでみたいに全力で戦闘できる状態ではなくなった。今ならカイルでも勝てそうだ。相手は立ち上がるのすら、やっとなのだから。

 大砲でも撃つような音が響き、次々と火の玉が炎の壁から生み出される。とんでもない速度で、寸分違わずにひとり残っている盗賊のリーダーを襲う。

「――くっ!? なんてスピードだ!」

 盗賊のリーダーの素早さをもってしても、ナナが放ってると思われる火の玉から逃れるのはやっとだった。

 ますますカイルの頭の中で、ナナという存在についてクエスチョンマークが浮かぶ。

 まさか、本当にドラゴン?

 しかし、外見は普通の人間だ。考えれば考えるほどわけがわからなくなる。

「こうなったら!」

 不利を察した盗賊のリーダーが、素早くカイルの背後に回り込んで盾にする。

 油断していたせいで、簡単に両腕を拘束される。右手に持っていたロングソードが地面に落ち、悲鳴のような甲高い音を鳴らした。

「火の玉を吐くのをやめろ。さもないと、この男を殺すぞ! こうやって盾にしている限り、貴様は火の玉を――!?」

 盗賊のリーダーの目が驚愕に見開かれた直後、関係ないといわんばかりに新たな火の玉が放出された。

 カイルを人質にしようとしていたせいで、眼前にまで迫った火の玉を盗賊のリーダーは避けられなかった。ついでにカイルも。

 二人揃って「おごぉ」と無様な声をこぼし、仲良く地面に転がる。

 腹立たしさはもちろんあるが、それ以上に盗賊のリーダーをざまあみろと思う気持ちの方が強かった。

「フン……盾にする人間を間違えたな……にしても……痛え……」

 火の玉を食らったのに、何故か火傷を負った盗賊の子分みたいに全身が燃えていない。強い衝撃で吹き飛ばされただけだった。

 倒れている盗賊のリーダーも同様で、よろよろとではあるが立ち上がる。

 ナイフでも突きつけようと考えていたのか、盾にしたカイルで全身を隠しておかなかったのが盗賊のリーダーの仇になった。

 きちんと狙いを定められるらしいナナは、見えている盗賊のリーダーの腹部へ正確に火の玉を命中させたのである。カイルの左腕ごと。

「くそ……まさかガキひとりに……」

 倒れた際に落とした袋を背負って逃げようとするも、盗賊のリーダーの命運はすでに決まったようなものだった。

 負ったダメージの影響で、従来の素早い動きを維持できなくなった盗賊のリーダーが、次の火の玉を避けるのは不可能に近かった。

 今度はカイルの方に火の玉が飛んでこなかったので、安心して地面で倒れたままになる。急いで立ち上がった挙句、巻き添えを食らったら笑い話にもならない。

 視線を向けた先で、火の玉を食らった盗賊のリーダーが悔しそうに呻きながら地面に崩れ落ちる。衛兵とカイル、それにサレッタの三人がかりでもどうにもできなかった盗賊連中を、ナナがほぼひとりで倒した。

 盗賊のリーダーが戦闘不能になったのを見届けたからか、徐々に炎の壁の勢いが弱まり出す。ついでに、周囲がザワザワとしている。

 戦闘に集中していたのでわからなかったが、いつの間にやら現場の周りに人だかりができていた。

 考えてみれば当然だ。町中、それも夜に炎の塔みたいなのがいきなり現れたら、誰だって驚く。正体を確かめるために、この場にやってきてもおかしくなかった。

 野次馬と化した町の住民が見守る前で炎が消えていく。壁から輪のような形態に戻り、ドラゴンの着ぐるみを着たナナが姿を現す。どよめきが大きくなり、周囲が騒然とする。

「まさか、あの小さな女の子が、さっきのをやってたのか?」

「魔法……? 素質があれば幼い子でも使えると聞いたことはあるが……」

 信じられないような面持ちで、住民たちは近くの者同士でナナについてあれこれと話し出した。
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