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家族の新生活編
いきなり屋台大作戦
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世間一般の学校が夏休みに突入してすぐ、葉月の住む町では恒例の夏祭りが開催された。
夜になっても昼間の熱気はまだ消えておらず、そこへどこにこれだけ住んでいたのかというくらいの人が集まるのだから余計に気温が上昇する。
暑い暑いと手で仰ぐ浴衣姿の女性を狙って複数の屋台がかき氷を出す。
興味を示した連れの女性の袖を引っ張られ、おねだりされた男がニヤけ顔で財布を出す。
こうして祭りは盛り上がり、屋台の売上も跳ね上がる。
普段はわりと閑散としている大通りを挟むように立ち並ぶ屋台の一角に、葉月も他に負けじとワクワクした顔で陣取っていた。
「そろそろうちも準備に取り掛からないとね」
「楽しみだねぇ」
葉月の隣にいるのは、夏祭りに屋台を出そうと提案した茉優だった。
これまではお客さん側で楽しんできたが、今回は常に一緒だった菜月の帰省が間に合うかわからないため、屋台側になってみたいらしかった。
商工会議所など関係各所へも事前に連絡し、きちんと許可も取った。
あとは参加するだけとなったタイミングで、屋台の設営を終えた実希子が葉月の前にやってくる。
「で、結局、何を売ることにしたんだ?」
商工会議所との関係が良好なおかげで、パン系の軽食というなんとも曖昧な品目でも審査を通った。
そこまではいいが、問題は実希子の質問通り、何を出すかである。
「ホットドッグにしようかと思ったんだけど、事前の打ち合わせでフランクフルトの屋台を出すおじさんにやめてくれって泣かれちゃったんだよね」
「ああ……もろに被って売上に被害が出るもんな」
袖を捲り上げた特製のTシャツに、膝までの短パン姿という実希子が腕を組んで頷く。
身長が高くてメリハリのきいたボディの持ち主だけに、その服装でも破壊力は抜群なのだが、男の目を気にしない性質だけに最初はレギンスで夜店に参加しようとして、おおいに慌てた好美に直前で阻止されていた。
ムーンリーフの屋台なので制服も視野に入れていたが、夜とはいえ暑く、屋外なので冷房もないので体調面を考慮して止めた。
その代わりに用意したのは、店名と月と葉の絵を描いた特注のオリジナルTシャツである。
下は各自に任せているので葉月はジーンズだが、茉優はホットパンツだ。
彼女もまた実希子ほどではないにしろ、かなり魅力的なむちむち具合なので、屋台の設営前から客は元より、周囲の露天商にもチラチラと見られていた。
「で、お昼まで悩みに悩んでいたんだけど、ようやく決めました!」
芝居がかった葉月の態度にも、ノリのいい茉優と実希子は揃って「おー」と歓声を上げ、拍手までしてくれる。
気分が上がってきたところで、ババンと効果音を自ら口にして発表する。
「ムーンリーフの出し物は冷やしケーキです!」
「「冷やしケーキ?」」
やはりノリのいい二人は、申し合わせたように首を傾げる。
「冷やしトマトを見て思いついたの。比較的痛みにくいチーズケーキにいちごジャムをコーティングして、キンキンに冷やしたのを一口サイズに切り分けて、棒に挿して100円で販売します!」
最初は大好きでパン屋をやりたいと思うきっかけにもなったプリンにしようかと思ったが、この暑さで常温では衛生上の問題が発生しかねない。
悩んでいた葉月は仕事の合間に和葉に相談し、それでも良案が思いつかず、昼食のメニューを聞いてみたら件の冷やしトマトが出てきたのである。
先に伝えた好美は諸手を挙げて賛成してくれた。
それは聞いたばかりの実希子と茉優も同じだった。
「一口サイズなら食べやすいし、見た目的にもお洒落だもんねぇ」
「っつーことは、アタシに持ってこさせたクーラーボックスにはケーキが入ってんのか」
「その通りだよ! 茉優ちゃんも実希子ちゃんも試食してみる?」
尋ねるなり、二人の手が勢いよく挙がった。
「くはっ、こりゃ美味い、が、ちと甘すぎるな」
「これくらいで丁度いいよぉ。実希子ちゃんはお酒のつまみと考えるからだめなんだよぉ」
茉優におっとり口調でダメ出しされ、実希子が「たはは」と頬を掻く。
兎にも角にも二人にも絶賛された冷やしケーキを、早速葉月は屋台に並べていった。
*
「予想以上の大盛況ぶりね。かなりの数を用意してたはずなのに……」
葉月たちが不在のムーンリーフを一人で支えてくれていた好美が、店を閉めた報告を持って陣中見舞いに来てくれた。
通常の繁盛時間に加え、ムーンリーフでは午後六時過ぎにもう一山くる。
部活帰りの学生を中心に、仕事終わりの人たちも寄ってくれるからだ。
葉月がスーパーのパン屋で働いていた時に、よく立ち話をしていたお客さんが追いかけるように常連になってくれたおかげもある。
そのせいで古巣の店長は大打撃だよと嘆いていたが。
「へへん、凄えだろ。もうほとんど完売状態だぜ」
夜店は午後十時まで開かれているが、午後九時前の現在で残りの商品はほとんどなかった。
「地域のSNSでも話題になってるっぽいから、明日はもっと数が必要かもしれないわね」
「嬉しいけど、大変だ」
報告をくれた好美に、葉月はにぱっと笑ってみせる。
二日に渡って行われる神社のお祭りに合わせての縁日なので、明日も昼から午後十時まで屋台が並ぶ予定になっている。
昔は二日目の営業時間は短かったらしいのだが、二日目も遅くまでやってほしいという要望が通って現在の形に変わったみたいだった。
「仕込みは朝だから大丈夫にしても、店を回すのは好美一人じゃ無理だろ。葉月が屋台に出るなら、ムーンリーフには茉優が残らねえと」
実希子の言葉に、難しそうな顔をしたのはムーンリーフオリジナルTシャツの上に薄手のカーディガンを羽織り、やはり薄手のロングスカートを履いている好美だ。
「屋台だって一人じゃ手が足りないわ。迷惑をかけてしまうけど、和葉ママに手伝ってもらうしかないんじゃない?」
「うーん」
新居が完成するまで春道とラブラブ生活を楽しんでいるみたいなので、娘としてあまり邪魔したくない気持ちが強い葉月は唸らざるを得ない。
そうしている間にも着実に冷やしケーキは売れ続け、そろそろ完売というタイミングで救いの主がひょっこりと顔を出した。
「茉優から屋台をやるとは聞いていたけれど、冷やしケーキとはまた斬新ね。衛生面は大丈夫なの?」
「「「なっちー!」」」
葉月、実希子、茉優の声と一緒に、好美の「菜月ちゃん」という声が、午後十時に迫りつつあっても、いまだ客足の衰えない大通りに響いた。
「な、何? 何なの?」
状況がわからず、いきなりの熱烈歓迎ぶりに菜月は戸惑い、そして頭脳明晰な彼女はすぐに察しがついたとばかりに屋台から背を向けようとする。
「帰省はしたけれど、しばらくママとパパのところに泊まるわね、それじゃ」
「はいはい、お客様、少しお待ちくださいね」
「離しなさいっ! もうソフトボールをやっていないのに、どうしてこんなに力が強いのよっ」
「ハッハッハ、なっちーがいつもゴリラゴリラと言ってるじゃないか」
実希子に羽交い絞めにされた菜月が引き摺られる様子を、一緒に帰省したと思われる真がどこか慣れた様子で見守っていた。
そんな彼氏を見て「薄情者」と叫ぶも、薄々己の未来を予期していた菜月は観念したように深い息を吐いていた。
*
「ハッハッハ、頑張ってるな、美人姉妹」
葉月と菜月が担当している屋台に、店から完成された冷やしケーキを実希子が運んできてくれた。
葉月がこちらにかかりきりな分だけ店の商品は少なめだが、今日に限っては好美が出ずっぱりで、茉優と協力してなんとか回しているらしい。
「だったら実希子ちゃんも手伝っていくといいわ」
ジト目の菜月に睨まれ、怖い怖いと実希子が両手を上げる。
「アタシもそうしたいんだが、店の方も一杯一杯でな。好美の奴、冷静なようでいて、完全に余裕がなくなるとパニクっちまうから」
長い付き合いで友人の性格を熟知している実希子が、冷たいスポーツドリンクを差し入れして、すぐにムーンリーフへ戻って行った。
「帰省した次の日にバイトさせられるなんてね……とんだブラック家庭だわ」
「アハハ……苦労かけます」
口コミでも冷やしケーキの噂は広がっていたらしく、すでに夏休みに突入している学生たちがこぞって買いに来てくれた。
高校でパン販売をしている影響もあっただろう。すぐに販売ペースが想定を上回り、忙しいさなかのムーンリーフに追加発注をせざるを得なくなってしまったのだ。
「はづ姉、早く追加を頂戴。お客様が待っているわよ」
「うん!」
と勢いよく返事をしたものの、鳴り出したスマホに葉月の手が止まる。
「あ、実希子ちゃんが戻っても、お店がもう限界だって」
「それじゃどうする――
店に戻ってもいいわよ、はづ姉」
「え? でも……」
「問題なくなったわ。追加の人員が来たから」
眼を光らせた菜月の視線の先には、余所行き姿できょとんとしている愛花、涼子、明美の姿があった。
「帰省した早々に菜月がアルバイトに励んでると聞いて様子を見に来たんですけど……何やら不穏な空気が漂ってますね」
「気のせいよ、愛花。さあ、ここに立って」
「働かせる気マンマンじゃないですか!」
愛花が叫ぶも、意外に涼子と明美は乗り気だった。
「部活に入ってるとバイトしてる暇がないからね、ちょっとでも稼げるならボクは歓迎さ」
「あたしも涼子ちゃんと同じ。丁度、欲しい服が新発売になってたし」
二人にそう言われ、菜月に頼まれれば、基本的に人の好い愛花は首を横に振れなくなる。
「アハハ、皆、ごめんねえ。きちんとお給料は払うから、お願いしていいかな」
*
店で収拾をつけて屋台に戻ると、屋台には完売の札が立てられており、菜月を中心にした四人が美味しそうに、他の屋台で調達した戦利品をつまみに酒盛りをしていた。
夜になっても昼間の熱気はまだ消えておらず、そこへどこにこれだけ住んでいたのかというくらいの人が集まるのだから余計に気温が上昇する。
暑い暑いと手で仰ぐ浴衣姿の女性を狙って複数の屋台がかき氷を出す。
興味を示した連れの女性の袖を引っ張られ、おねだりされた男がニヤけ顔で財布を出す。
こうして祭りは盛り上がり、屋台の売上も跳ね上がる。
普段はわりと閑散としている大通りを挟むように立ち並ぶ屋台の一角に、葉月も他に負けじとワクワクした顔で陣取っていた。
「そろそろうちも準備に取り掛からないとね」
「楽しみだねぇ」
葉月の隣にいるのは、夏祭りに屋台を出そうと提案した茉優だった。
これまではお客さん側で楽しんできたが、今回は常に一緒だった菜月の帰省が間に合うかわからないため、屋台側になってみたいらしかった。
商工会議所など関係各所へも事前に連絡し、きちんと許可も取った。
あとは参加するだけとなったタイミングで、屋台の設営を終えた実希子が葉月の前にやってくる。
「で、結局、何を売ることにしたんだ?」
商工会議所との関係が良好なおかげで、パン系の軽食というなんとも曖昧な品目でも審査を通った。
そこまではいいが、問題は実希子の質問通り、何を出すかである。
「ホットドッグにしようかと思ったんだけど、事前の打ち合わせでフランクフルトの屋台を出すおじさんにやめてくれって泣かれちゃったんだよね」
「ああ……もろに被って売上に被害が出るもんな」
袖を捲り上げた特製のTシャツに、膝までの短パン姿という実希子が腕を組んで頷く。
身長が高くてメリハリのきいたボディの持ち主だけに、その服装でも破壊力は抜群なのだが、男の目を気にしない性質だけに最初はレギンスで夜店に参加しようとして、おおいに慌てた好美に直前で阻止されていた。
ムーンリーフの屋台なので制服も視野に入れていたが、夜とはいえ暑く、屋外なので冷房もないので体調面を考慮して止めた。
その代わりに用意したのは、店名と月と葉の絵を描いた特注のオリジナルTシャツである。
下は各自に任せているので葉月はジーンズだが、茉優はホットパンツだ。
彼女もまた実希子ほどではないにしろ、かなり魅力的なむちむち具合なので、屋台の設営前から客は元より、周囲の露天商にもチラチラと見られていた。
「で、お昼まで悩みに悩んでいたんだけど、ようやく決めました!」
芝居がかった葉月の態度にも、ノリのいい茉優と実希子は揃って「おー」と歓声を上げ、拍手までしてくれる。
気分が上がってきたところで、ババンと効果音を自ら口にして発表する。
「ムーンリーフの出し物は冷やしケーキです!」
「「冷やしケーキ?」」
やはりノリのいい二人は、申し合わせたように首を傾げる。
「冷やしトマトを見て思いついたの。比較的痛みにくいチーズケーキにいちごジャムをコーティングして、キンキンに冷やしたのを一口サイズに切り分けて、棒に挿して100円で販売します!」
最初は大好きでパン屋をやりたいと思うきっかけにもなったプリンにしようかと思ったが、この暑さで常温では衛生上の問題が発生しかねない。
悩んでいた葉月は仕事の合間に和葉に相談し、それでも良案が思いつかず、昼食のメニューを聞いてみたら件の冷やしトマトが出てきたのである。
先に伝えた好美は諸手を挙げて賛成してくれた。
それは聞いたばかりの実希子と茉優も同じだった。
「一口サイズなら食べやすいし、見た目的にもお洒落だもんねぇ」
「っつーことは、アタシに持ってこさせたクーラーボックスにはケーキが入ってんのか」
「その通りだよ! 茉優ちゃんも実希子ちゃんも試食してみる?」
尋ねるなり、二人の手が勢いよく挙がった。
「くはっ、こりゃ美味い、が、ちと甘すぎるな」
「これくらいで丁度いいよぉ。実希子ちゃんはお酒のつまみと考えるからだめなんだよぉ」
茉優におっとり口調でダメ出しされ、実希子が「たはは」と頬を掻く。
兎にも角にも二人にも絶賛された冷やしケーキを、早速葉月は屋台に並べていった。
*
「予想以上の大盛況ぶりね。かなりの数を用意してたはずなのに……」
葉月たちが不在のムーンリーフを一人で支えてくれていた好美が、店を閉めた報告を持って陣中見舞いに来てくれた。
通常の繁盛時間に加え、ムーンリーフでは午後六時過ぎにもう一山くる。
部活帰りの学生を中心に、仕事終わりの人たちも寄ってくれるからだ。
葉月がスーパーのパン屋で働いていた時に、よく立ち話をしていたお客さんが追いかけるように常連になってくれたおかげもある。
そのせいで古巣の店長は大打撃だよと嘆いていたが。
「へへん、凄えだろ。もうほとんど完売状態だぜ」
夜店は午後十時まで開かれているが、午後九時前の現在で残りの商品はほとんどなかった。
「地域のSNSでも話題になってるっぽいから、明日はもっと数が必要かもしれないわね」
「嬉しいけど、大変だ」
報告をくれた好美に、葉月はにぱっと笑ってみせる。
二日に渡って行われる神社のお祭りに合わせての縁日なので、明日も昼から午後十時まで屋台が並ぶ予定になっている。
昔は二日目の営業時間は短かったらしいのだが、二日目も遅くまでやってほしいという要望が通って現在の形に変わったみたいだった。
「仕込みは朝だから大丈夫にしても、店を回すのは好美一人じゃ無理だろ。葉月が屋台に出るなら、ムーンリーフには茉優が残らねえと」
実希子の言葉に、難しそうな顔をしたのはムーンリーフオリジナルTシャツの上に薄手のカーディガンを羽織り、やはり薄手のロングスカートを履いている好美だ。
「屋台だって一人じゃ手が足りないわ。迷惑をかけてしまうけど、和葉ママに手伝ってもらうしかないんじゃない?」
「うーん」
新居が完成するまで春道とラブラブ生活を楽しんでいるみたいなので、娘としてあまり邪魔したくない気持ちが強い葉月は唸らざるを得ない。
そうしている間にも着実に冷やしケーキは売れ続け、そろそろ完売というタイミングで救いの主がひょっこりと顔を出した。
「茉優から屋台をやるとは聞いていたけれど、冷やしケーキとはまた斬新ね。衛生面は大丈夫なの?」
「「「なっちー!」」」
葉月、実希子、茉優の声と一緒に、好美の「菜月ちゃん」という声が、午後十時に迫りつつあっても、いまだ客足の衰えない大通りに響いた。
「な、何? 何なの?」
状況がわからず、いきなりの熱烈歓迎ぶりに菜月は戸惑い、そして頭脳明晰な彼女はすぐに察しがついたとばかりに屋台から背を向けようとする。
「帰省はしたけれど、しばらくママとパパのところに泊まるわね、それじゃ」
「はいはい、お客様、少しお待ちくださいね」
「離しなさいっ! もうソフトボールをやっていないのに、どうしてこんなに力が強いのよっ」
「ハッハッハ、なっちーがいつもゴリラゴリラと言ってるじゃないか」
実希子に羽交い絞めにされた菜月が引き摺られる様子を、一緒に帰省したと思われる真がどこか慣れた様子で見守っていた。
そんな彼氏を見て「薄情者」と叫ぶも、薄々己の未来を予期していた菜月は観念したように深い息を吐いていた。
*
「ハッハッハ、頑張ってるな、美人姉妹」
葉月と菜月が担当している屋台に、店から完成された冷やしケーキを実希子が運んできてくれた。
葉月がこちらにかかりきりな分だけ店の商品は少なめだが、今日に限っては好美が出ずっぱりで、茉優と協力してなんとか回しているらしい。
「だったら実希子ちゃんも手伝っていくといいわ」
ジト目の菜月に睨まれ、怖い怖いと実希子が両手を上げる。
「アタシもそうしたいんだが、店の方も一杯一杯でな。好美の奴、冷静なようでいて、完全に余裕がなくなるとパニクっちまうから」
長い付き合いで友人の性格を熟知している実希子が、冷たいスポーツドリンクを差し入れして、すぐにムーンリーフへ戻って行った。
「帰省した次の日にバイトさせられるなんてね……とんだブラック家庭だわ」
「アハハ……苦労かけます」
口コミでも冷やしケーキの噂は広がっていたらしく、すでに夏休みに突入している学生たちがこぞって買いに来てくれた。
高校でパン販売をしている影響もあっただろう。すぐに販売ペースが想定を上回り、忙しいさなかのムーンリーフに追加発注をせざるを得なくなってしまったのだ。
「はづ姉、早く追加を頂戴。お客様が待っているわよ」
「うん!」
と勢いよく返事をしたものの、鳴り出したスマホに葉月の手が止まる。
「あ、実希子ちゃんが戻っても、お店がもう限界だって」
「それじゃどうする――
店に戻ってもいいわよ、はづ姉」
「え? でも……」
「問題なくなったわ。追加の人員が来たから」
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「帰省した早々に菜月がアルバイトに励んでると聞いて様子を見に来たんですけど……何やら不穏な空気が漂ってますね」
「気のせいよ、愛花。さあ、ここに立って」
「働かせる気マンマンじゃないですか!」
愛花が叫ぶも、意外に涼子と明美は乗り気だった。
「部活に入ってるとバイトしてる暇がないからね、ちょっとでも稼げるならボクは歓迎さ」
「あたしも涼子ちゃんと同じ。丁度、欲しい服が新発売になってたし」
二人にそう言われ、菜月に頼まれれば、基本的に人の好い愛花は首を横に振れなくなる。
「アハハ、皆、ごめんねえ。きちんとお給料は払うから、お願いしていいかな」
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