364 / 495
穂月の小学校編
頼もしい味方は実力も煽り力も母親譲り
しおりを挟む
穂月が改めて見る体育館は、両親に遊びに連れていってもらった自然公園の屋内遊技場よりもずっと広かった。
昼休みなのもあって、多くの児童がそこかしこではしゃいでいる。まるでお祭りみたいだと楽しくなり、穂月は「おー」と歓声を上げる。
「あたりまえですけど、じょうきゅうせいばかりですね」
入学して以来、一緒に行動している沙耶が眼鏡を直しながら周囲を見渡す。常におどおどとしている悠里も「はわわ」と場の雰囲気に呑まれている感じだ。
「きょ、きょうしつであそんだほうがいいとおもうの」
クイクイと服の裾を引っ張られたが、穂月は気にせずに前に出る。
「でもゆずちゃんがあそんでいいっていったよ」
「せんせいをちゃんづけはだめです。しりあいだとしても、したしきなかにもれいぎありです」
「はわわ、さっちゃんはむずかしいことばをしってるの」
驚きと称賛の言葉を悠里に贈られ、沙耶が得意げに胸を張る。
穂月と柚が知り合いなのは、普段と変わらない態度で接してしまったため、とっくに周囲の事実になっていた。
それでも露骨な贔屓はなく、また入学式当日に穂月の暴挙を目にしていたのもあり、クラスメートが表立って文句を言うことはなかった。
自己紹介時に何かと突っかかってきていた男児も希に睨まれて以来、積極的に穂月に絡んではきていない。
最初はよそよそしかったクラスメートも徐々にではあるが、穂月との会話にも応じるようになってくれている。
入学してから数日が経過しただけで、希という少女が隙あらば眠ろうとし、なおかつちょっとやそっとでは起きないと認知されたのも大きい。
強引に起こすには、それこそ穂月がしたような力業が時には必要になってしまうのだ。とはいえ主に一緒に行動するのは沙耶や悠里で、クラスでは早くもグループみたいなのが幾つも形成されつつあった。
「ところで……のぞちゃんはどこです?」
忽然と姿を消した友人を不安がるせいか、沙耶の眼鏡が曇る。悠里もはわわと一緒に該当の少女を探す中、一番に見つけたのはやはり穂月だった。
「あそこでおねむしてるよ」
体育館の壁を背もたれに、手足を投げ出した格好ですやすやと寝息を立てている。入学式こそおめかししたスカート姿だったが、入学式中に堂々と眠った件もあり、以降はズボンばかりだった。おかげで惨事は避けられているが。
「なんだかしたいみたいです」
「はわわ、のぞちゃんしんじゃったの」
「もののたとえです、きちんといきてますから、なかないでください」
すぐに涙目になる悠里を沙耶が慌てて宥めている間に、穂月は希に近づく。寝ている彼女に怪我させないよう周囲が気遣ったのか、そこだけポッカリと空きスペースになっていた。
「ここならあそべそうだよ」
穂月を追いかけてきた2人も含めて入口近くの壁際でまとまる。早速遊ぼうとする穂月だったが、黒ぶち眼鏡を光らせる沙耶に制止された。
「なにをしてあそぶんですか?」
「ボールあそびっ」
真っ先に提案した葉月に、力なく首を左右に振る沙耶。
「ざんねんですが、あそこのようぐしつにはせいとだけでかってにはいれません」
「じゃあ、ゆずちゃんにおねがいするー?」
「しょっけんらんようはいけないです」
「はわわ、さっちゃんはむずかしいことばをしってるの」
「……なんかにたようなやりとりをすこしまえにしたような……まあ、いいです」
コホンと咳払いをした沙耶が、改めてボール遊びは難しいと穂月に通告する。
むーんと唸ってはみたが、ボールがなければボール遊びができないのは当たり前。しかし体育館では多くの児童がボールで遊んでいる。
穂月の視線で何を言いたいのか察したらしく、その点について沙耶が説明する。
「あれはがっこうのびひんではなく、こじんでもってきているものです」
「おー、ならいっしょにあそべばいいよ」
「え? じょうきゅうせいとですか、それはちょっときけんです」
「どうして?」
頬に人差し指を当てて首を傾げると、またしてもコホンと沙耶が咳払いをする。何かを説明する時の彼女の癖みたいなものなのかもしれない。
「なまいきなしんにゅうせいはいじめられ――
あっ、ほっちゃん、待ってください」
肩を捕まえようとする手を華麗にすり抜け、穂月は壁で1人ボール当てをしている少女に近づく。持っているボールは白くて穂月の顔くらいの大きさだ。
「いっしょにあそぼ」
「あん? なんだおまえ」
少女がギロリと穂月を睨む。背格好は同じくらいだが、髪の毛が綺麗な茶色だった。吊り上がり気味の目つきは鋭く、狼みたいな唸り声でも上げそうな雰囲気だ。
「ほづきだよ」
「いちねんか、あっちにいけ」
「どうして?」
「どうしてもだよ」
けんもほろろに追い返されそうな穂月を心配して、沙耶もやってくる。悠里は怖いのか、その背中に隠れるようにしていた。
「ほっちゃん、のぞちゃんのとこにもどったほうがいいです」
「でも、みんなであそんだほうがたのしいよ」
「おれはひとりであそぶのがすきなんだよ」
「どうして?」
「うるせえよ、いいからあっちいってろ」
突き飛ばされ、その場に尻もちをつく穂月。
悠里が小さな悲鳴を上げる。沙耶は顔を青くしているが、それでも穂月を守ろうと前に出る。だが年上と思われる女児にひと睨みされると、恐怖で足を震わせた。
「いちねんがなまいきいうからだ」
「あら、体育館を使うのに、1年も2年も関係ないわよ」
肩を抱いた柔らかい手が、穂月を優しく立ち上がらせてくれた。途中から口を挟んできたのは、実の姉みたいに思っている大好きな少女だった。
「あーちゃん!」
「教室に遊びに行ったら、体育館に行ったって聞いてね。追いかけてきたの」
微笑んだ朱華は、穂月を支えていた手を自分の腰に当てて、威圧するように茶髪の少女を見下ろした。
「あなた、2年生よね。
先生に新入生の面倒を見てあげるように言われなかった?」
「おれよりとしうえなら、おまえがみてやればいいだろ」
「一緒にお世話すればいいじゃない」
「いやだ」
即答にさすがの朱華も目を丸くした。不良じみた少女が頑なな理由は本人の口から語られることですぐに解決する。
「いちどあまやかすと、ちょうしにのってまいにちくるかもしれないだろ」
「だったら毎日遊んであげればいいじゃない」
「それがいやなんだよ、おまえもつきとばすぞ」
「先生に言うわよ」
「はんっ、すきにしろよ。こわくねえし、それにしょうこだってないだろ」
朱華と少女が正面から睨み合う。あまりの迫力に怖気づいたのか、沙耶が半ばポカンと傍観していた穂月の手を引いた。
「あのおねえさんはしりあいなのですか?」
「ともだちのあーちゃんだよ」
「じゃあ、とめたほうがいいです」
「どうして?」
「けんかになるかもしれないです」
「おー。でも、どうやって?」
再び首を傾げる穂月に、どうやって説明しようかと沙耶が悩む。彼女もまた上級生同士の睨み合いを止めたいものの、方法がわからずに困っていたのかもしれない。
「……こうやって」
とことこと穂月の横を通り過ぎる影は朱華の隣まで進むと、何の躊躇もなく不良じみた少女の肩をポンと叩いた。
「皆でいじめるのはよくない。下手だから1人で練習していた」
「はあ!? おまえもいちねんか、ふざけんなよ」
「大丈夫、わかってるから」
いつもの眠そうな半眼のままでグッと親指を立てる希。
普段は誰との会話にも応じず机に突っ伏して寝ているだけの少女が、急に活発化したために、希に慣れていない沙耶と悠里は目をパチクリさせっぱなしだった。
「いいかげんにしろよ、てめえ」
さらに言葉遣いを乱暴にした少女が腕を伸ばすも、希は器用に躱す。
「努力はきっと報われる」
「だからちがうっていってんだろうが!」
「なら勝負してみる?」
「はっ、じょうとうだ。こうかいさせてやる」
振り返った希が改めて穂月にサムズアップする。
「これで一緒に遊べるし、喧嘩もなくなった」
「おー」
見事な手際に思わず拍手する穂月。一方で上手く掌で転がされたと悟った上級生は苦虫を潰したような顔になる。
「フフン、今さらさっきのなしとか、格好悪いこと言わないわよね」
「いわねえよ! そっちこそなかまがけがさせられてなくんじゃねえぞ!」
新たな睨み合いを勃発させた上級生同士の会話で、小さなスペース内でドッジボールをすることが決まった。
穂月は「おー」と大喜びだが、運動に自信がないのか沙耶と悠里は及び腰だ。それでも朱華という上級生がいるからか、参加はしてくれるみたいだが。
「じゃあ、アタシはこれで」
「どこいくんだよ! てめえもやるんだよ! いちばんにぶつけてやる!」
「ねむいからやだ」
「ふざけんな! うらあああ!」
いきなり投げつけられたボールを、目を閉じずに片手でキャッチする。
「はえ?」
素っ頓狂な声を上げ、不良少女が目を丸くする。
「あんなにちかくからなげられたのに……しかもかたてで……」
「おー。のぞちゃんすごいねー」
拍手する穂月の背後で、チッと舌打ちした茶髪少女が身構える。
「くるならきやがれっ!」
「……」
相手と視線を合わせた希はゆったりした動作でしゃがむ。
足元にそっとボールを置く。
気怠そうに茶髪少女に背中を見せる。
そして――。
「はわわ、のぞちゃん、ねちゃったの」
慌てた悠里が起こそうとするも、瞼を閉じた希はてこでも動こうとしない。
「……のぞちゃんを倒すとはやるわね」
「おれはなにもやってねえ!」
*
ギャーギャーと騒ぎながらも、結局穂月たちは茶髪の少女は予鈴がなるまで体育館の隅でドッジボールを遣り続けた。
フンとつまらなさそうにボールを回収する少女。その小さな背中に穂月は声をかける。
「またあそぼうね、ええと……」
「……おれは陽向《まひる》だ、西野《にしの》 陽向《まひる》」
名前だけを短く告げると、やはり茶髪の少女はつまらなさそうに体育館から出て行った。
昼休みなのもあって、多くの児童がそこかしこではしゃいでいる。まるでお祭りみたいだと楽しくなり、穂月は「おー」と歓声を上げる。
「あたりまえですけど、じょうきゅうせいばかりですね」
入学して以来、一緒に行動している沙耶が眼鏡を直しながら周囲を見渡す。常におどおどとしている悠里も「はわわ」と場の雰囲気に呑まれている感じだ。
「きょ、きょうしつであそんだほうがいいとおもうの」
クイクイと服の裾を引っ張られたが、穂月は気にせずに前に出る。
「でもゆずちゃんがあそんでいいっていったよ」
「せんせいをちゃんづけはだめです。しりあいだとしても、したしきなかにもれいぎありです」
「はわわ、さっちゃんはむずかしいことばをしってるの」
驚きと称賛の言葉を悠里に贈られ、沙耶が得意げに胸を張る。
穂月と柚が知り合いなのは、普段と変わらない態度で接してしまったため、とっくに周囲の事実になっていた。
それでも露骨な贔屓はなく、また入学式当日に穂月の暴挙を目にしていたのもあり、クラスメートが表立って文句を言うことはなかった。
自己紹介時に何かと突っかかってきていた男児も希に睨まれて以来、積極的に穂月に絡んではきていない。
最初はよそよそしかったクラスメートも徐々にではあるが、穂月との会話にも応じるようになってくれている。
入学してから数日が経過しただけで、希という少女が隙あらば眠ろうとし、なおかつちょっとやそっとでは起きないと認知されたのも大きい。
強引に起こすには、それこそ穂月がしたような力業が時には必要になってしまうのだ。とはいえ主に一緒に行動するのは沙耶や悠里で、クラスでは早くもグループみたいなのが幾つも形成されつつあった。
「ところで……のぞちゃんはどこです?」
忽然と姿を消した友人を不安がるせいか、沙耶の眼鏡が曇る。悠里もはわわと一緒に該当の少女を探す中、一番に見つけたのはやはり穂月だった。
「あそこでおねむしてるよ」
体育館の壁を背もたれに、手足を投げ出した格好ですやすやと寝息を立てている。入学式こそおめかししたスカート姿だったが、入学式中に堂々と眠った件もあり、以降はズボンばかりだった。おかげで惨事は避けられているが。
「なんだかしたいみたいです」
「はわわ、のぞちゃんしんじゃったの」
「もののたとえです、きちんといきてますから、なかないでください」
すぐに涙目になる悠里を沙耶が慌てて宥めている間に、穂月は希に近づく。寝ている彼女に怪我させないよう周囲が気遣ったのか、そこだけポッカリと空きスペースになっていた。
「ここならあそべそうだよ」
穂月を追いかけてきた2人も含めて入口近くの壁際でまとまる。早速遊ぼうとする穂月だったが、黒ぶち眼鏡を光らせる沙耶に制止された。
「なにをしてあそぶんですか?」
「ボールあそびっ」
真っ先に提案した葉月に、力なく首を左右に振る沙耶。
「ざんねんですが、あそこのようぐしつにはせいとだけでかってにはいれません」
「じゃあ、ゆずちゃんにおねがいするー?」
「しょっけんらんようはいけないです」
「はわわ、さっちゃんはむずかしいことばをしってるの」
「……なんかにたようなやりとりをすこしまえにしたような……まあ、いいです」
コホンと咳払いをした沙耶が、改めてボール遊びは難しいと穂月に通告する。
むーんと唸ってはみたが、ボールがなければボール遊びができないのは当たり前。しかし体育館では多くの児童がボールで遊んでいる。
穂月の視線で何を言いたいのか察したらしく、その点について沙耶が説明する。
「あれはがっこうのびひんではなく、こじんでもってきているものです」
「おー、ならいっしょにあそべばいいよ」
「え? じょうきゅうせいとですか、それはちょっときけんです」
「どうして?」
頬に人差し指を当てて首を傾げると、またしてもコホンと沙耶が咳払いをする。何かを説明する時の彼女の癖みたいなものなのかもしれない。
「なまいきなしんにゅうせいはいじめられ――
あっ、ほっちゃん、待ってください」
肩を捕まえようとする手を華麗にすり抜け、穂月は壁で1人ボール当てをしている少女に近づく。持っているボールは白くて穂月の顔くらいの大きさだ。
「いっしょにあそぼ」
「あん? なんだおまえ」
少女がギロリと穂月を睨む。背格好は同じくらいだが、髪の毛が綺麗な茶色だった。吊り上がり気味の目つきは鋭く、狼みたいな唸り声でも上げそうな雰囲気だ。
「ほづきだよ」
「いちねんか、あっちにいけ」
「どうして?」
「どうしてもだよ」
けんもほろろに追い返されそうな穂月を心配して、沙耶もやってくる。悠里は怖いのか、その背中に隠れるようにしていた。
「ほっちゃん、のぞちゃんのとこにもどったほうがいいです」
「でも、みんなであそんだほうがたのしいよ」
「おれはひとりであそぶのがすきなんだよ」
「どうして?」
「うるせえよ、いいからあっちいってろ」
突き飛ばされ、その場に尻もちをつく穂月。
悠里が小さな悲鳴を上げる。沙耶は顔を青くしているが、それでも穂月を守ろうと前に出る。だが年上と思われる女児にひと睨みされると、恐怖で足を震わせた。
「いちねんがなまいきいうからだ」
「あら、体育館を使うのに、1年も2年も関係ないわよ」
肩を抱いた柔らかい手が、穂月を優しく立ち上がらせてくれた。途中から口を挟んできたのは、実の姉みたいに思っている大好きな少女だった。
「あーちゃん!」
「教室に遊びに行ったら、体育館に行ったって聞いてね。追いかけてきたの」
微笑んだ朱華は、穂月を支えていた手を自分の腰に当てて、威圧するように茶髪の少女を見下ろした。
「あなた、2年生よね。
先生に新入生の面倒を見てあげるように言われなかった?」
「おれよりとしうえなら、おまえがみてやればいいだろ」
「一緒にお世話すればいいじゃない」
「いやだ」
即答にさすがの朱華も目を丸くした。不良じみた少女が頑なな理由は本人の口から語られることですぐに解決する。
「いちどあまやかすと、ちょうしにのってまいにちくるかもしれないだろ」
「だったら毎日遊んであげればいいじゃない」
「それがいやなんだよ、おまえもつきとばすぞ」
「先生に言うわよ」
「はんっ、すきにしろよ。こわくねえし、それにしょうこだってないだろ」
朱華と少女が正面から睨み合う。あまりの迫力に怖気づいたのか、沙耶が半ばポカンと傍観していた穂月の手を引いた。
「あのおねえさんはしりあいなのですか?」
「ともだちのあーちゃんだよ」
「じゃあ、とめたほうがいいです」
「どうして?」
「けんかになるかもしれないです」
「おー。でも、どうやって?」
再び首を傾げる穂月に、どうやって説明しようかと沙耶が悩む。彼女もまた上級生同士の睨み合いを止めたいものの、方法がわからずに困っていたのかもしれない。
「……こうやって」
とことこと穂月の横を通り過ぎる影は朱華の隣まで進むと、何の躊躇もなく不良じみた少女の肩をポンと叩いた。
「皆でいじめるのはよくない。下手だから1人で練習していた」
「はあ!? おまえもいちねんか、ふざけんなよ」
「大丈夫、わかってるから」
いつもの眠そうな半眼のままでグッと親指を立てる希。
普段は誰との会話にも応じず机に突っ伏して寝ているだけの少女が、急に活発化したために、希に慣れていない沙耶と悠里は目をパチクリさせっぱなしだった。
「いいかげんにしろよ、てめえ」
さらに言葉遣いを乱暴にした少女が腕を伸ばすも、希は器用に躱す。
「努力はきっと報われる」
「だからちがうっていってんだろうが!」
「なら勝負してみる?」
「はっ、じょうとうだ。こうかいさせてやる」
振り返った希が改めて穂月にサムズアップする。
「これで一緒に遊べるし、喧嘩もなくなった」
「おー」
見事な手際に思わず拍手する穂月。一方で上手く掌で転がされたと悟った上級生は苦虫を潰したような顔になる。
「フフン、今さらさっきのなしとか、格好悪いこと言わないわよね」
「いわねえよ! そっちこそなかまがけがさせられてなくんじゃねえぞ!」
新たな睨み合いを勃発させた上級生同士の会話で、小さなスペース内でドッジボールをすることが決まった。
穂月は「おー」と大喜びだが、運動に自信がないのか沙耶と悠里は及び腰だ。それでも朱華という上級生がいるからか、参加はしてくれるみたいだが。
「じゃあ、アタシはこれで」
「どこいくんだよ! てめえもやるんだよ! いちばんにぶつけてやる!」
「ねむいからやだ」
「ふざけんな! うらあああ!」
いきなり投げつけられたボールを、目を閉じずに片手でキャッチする。
「はえ?」
素っ頓狂な声を上げ、不良少女が目を丸くする。
「あんなにちかくからなげられたのに……しかもかたてで……」
「おー。のぞちゃんすごいねー」
拍手する穂月の背後で、チッと舌打ちした茶髪少女が身構える。
「くるならきやがれっ!」
「……」
相手と視線を合わせた希はゆったりした動作でしゃがむ。
足元にそっとボールを置く。
気怠そうに茶髪少女に背中を見せる。
そして――。
「はわわ、のぞちゃん、ねちゃったの」
慌てた悠里が起こそうとするも、瞼を閉じた希はてこでも動こうとしない。
「……のぞちゃんを倒すとはやるわね」
「おれはなにもやってねえ!」
*
ギャーギャーと騒ぎながらも、結局穂月たちは茶髪の少女は予鈴がなるまで体育館の隅でドッジボールを遣り続けた。
フンとつまらなさそうにボールを回収する少女。その小さな背中に穂月は声をかける。
「またあそぼうね、ええと……」
「……おれは陽向《まひる》だ、西野《にしの》 陽向《まひる》」
名前だけを短く告げると、やはり茶髪の少女はつまらなさそうに体育館から出て行った。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。
その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。
全7話
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
会社員の青年と清掃員の老婆の超越した愛
MisakiNonagase
恋愛
二十六歳のレンが働くオフィスビルには、清掃員として七十歳のカズコも従事している。カズコは愛嬌のある笑顔と真面目な仕事ぶりで誰からも好かれていた。ある日の仕事帰りにレンがよく行く立ち飲み屋に入ると、カズコもいた。清掃員の青い作業服姿しか見たことのなかったレンは、ごく普通の装いだったがカズコの姿が輝いて見えた。それから少しづつ話すようになり、二人は年の差を越えて恋を育んでいくストーリーです。不倫は情事かもしれないが、この二人には情状という言葉がふさわしい。
学園のアイドルに、俺の部屋のギャル地縛霊がちょっかいを出すから話がややこしくなる。
たかなしポン太
青春
【第1回ノベルピアWEB小説コンテスト中間選考通過作品】
『み、見えるの?』
「見えるかと言われると……ギリ見えない……」
『ふぇっ? ちょっ、ちょっと! どこ見てんのよ!』
◆◆◆
仏教系学園の高校に通う霊能者、尚也。
劣悪な環境での寮生活を1年間終えたあと、2年生から念願のアパート暮らしを始めることになった。
ところが入居予定のアパートの部屋に行ってみると……そこにはセーラー服を着たギャル地縛霊、りんが住み着いていた。
後悔の念が強すぎて、この世に魂が残ってしまったりん。
尚也はそんなりんを無事に成仏させるため、りんと共同生活をすることを決意する。
また新学期の学校では、尚也は学園のアイドルこと花宮琴葉と同じクラスで席も近くなった。
尚也は1年生の時、たまたま琴葉が困っていた時に助けてあげたことがあるのだが……
霊能者の尚也、ギャル地縛霊のりん、学園のアイドル琴葉。
3人とその仲間たちが繰り広げる、ちょっと不思議な日常。
愉快で甘くて、ちょっと切ない、ライトファンタジーなラブコメディー!
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる