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穂月の小学校編
運動会の競技に睡眠と応援はありません
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よく晴れた日曜日。児童たちの足音が響くグラウンドに砂埃が舞う。幼稚園の時とは規模が違う小学校の運動会に、穂月は目を輝かせっぱなしだった。
春の日差しは暖かいとはいえ半袖半ズボンはまだ少し寒いが、すぐに気にならなくなるほどの熱気に現場は包まれていた。
「みなさん、かってにこうどうしないでほしいです」
委員長の沙耶が先頭でクラスメートを整列させようとするが、他のクラスの児童も昇降口に集まっているせいでガヤガヤしまくっている。
話を聞かずにお喋りに興じているだけならまだいい方で、勝手にグラウンドへ飛び出そうとする児童も見受けられた。
「はわわ、さっちゃん、こまってるとおもうの」
「おー」
心根が優しい悠里はなんとか助け舟をと思ったみたいだが、頼りにされた穂月は他の児童同様に物珍しさできょろきょろするのを止められなかった。
各学年に2クラスずつしかないので、それぞれ赤組と白組に分かれて全学年で点数を競い合う。
上級生ほど気合が入っていて、下級生はどちらかといえばお祭り気分だ。
「もうすぐこうしんです! ちゃんとならんでほしいです!」
「はわわ、たいへんなの」
まとまりがなく惨事になるかと思われたが、柚が様子を見に来たことで状況が一変する。どうやら教師組も、低学年の児童が問題なく行進するとは思っていなかったようだ。
「たすかりました……」
心から安堵する沙耶は赤いハチマキを巻いた額に汗を浮かべており、運動会が始まる前から疲れているみたいだった。
「のぞちゃんはほっちゃんにおねがいします」
「あいだほっ」
幼稚園と違って定着はせず、一部の男子にはこそこそと何か言われているみたいだが穂月は別に気にしない。好きでやっていることなのだから。
下駄箱に寄りかかって今にも眠りそうな希を引き起こす。不満はありそうだが、行事などの場合は完全に寝たりはしない。
「のぞちゃん、うんどうかいたのしみだね」
「……早寝競争が……あれば……」
「そんなのないとおもうの。
はわわっ、のぞちゃんがまたおねむしようとしてるの」
「おー」
「おーじゃなくて、おこさないとまずいの。こうしんがはじまっちゃうの」
涙目で悠里が慌てるものの、希はなんとか更新を終えて、心配はひとまず杞憂に終わった。
*
「おまえらもあかぐみかよ、あしをひっぱるんじゃねえぞ」
グラウンドで穂月を見かけるなり、ポニーテールを弾ませて陽向が駆け寄ってきた。2年生なので、待機場所も1年生から近い。
「それはこっちの台詞よ、ほっちゃんに連戦連敗中のまーたん」
「はんわらいでいうな! だいたい、なんでおれだけ、ちゃんじゃなくてたんなんだよ」
「まーたんだからでしょ」
「こたえになってねえ!
っていうか、いつからそこにいたんだよ」
「ついさっきだけど今更気にするの? まーたん、心が狭いわよ」
3年生も低学年に分類されるため、やはり朱華もそう離れてない場所に自分の待機場所があった。長い黒髪と一緒に赤色のハチマキが風になびいている。
クラスに友人もいるはずなのに、ことあるごとに穂月たちの様子を見に来てくれる朱華は今も昔もお姉さん同然だった。
教室にもよく遊びにくることもあり、穂月の知り合いだとクラスからも認知されている。そのおかげか穂月や希が自由奔放に振舞っていても、仲間外れにされるなどの深刻な問題は発生していなかった。
「とにかく! なさけないことだけはするなよ!」
グラウンドでも横になりたがる希に特に強く言ったあと、陽向は自分のクラスへと戻っていった。
「ほっちゃんも他の皆も気にしなくていいからね」
「あいだほっ」
沙耶と悠里も気遣ってくれた朱華にお礼を言う。
朱華も立ち去ると、すぐに穂月たち1年生の50メートル走が始まるとアナウンスされた。
*
「のぞちゃん、はしらないの」
黒髪を短めに切りそろえている頭を前後左右にふらふらさせる希は、穂月に問いかけられても目立った反応はしなかった。
それでも長い付き合いだけに、穂月には「仕方ないから走る」と態度で言っているのがわかる。
「のぞちゃんママもきてるよー」
保護者席には実希子のみならず、穂月の両親に祖父母もいる。近くには沙耶や悠里の両親もいて仲良く観戦中だ。3年生の朱華の両親も混じっている。
「はわわ、ころばないかしんぱいなの」
「だいじょうぶです、けがしないようにがんばりましょう」
出席番号順に出走するので、悠里を励ましてすぐに沙耶がスタートラインに立った。1年生の担当なのかジャージ姿の柚が「位置について」と言い、スターターピストルを空に向ける。
パアンと小気味良い音が響き、沙耶を筆頭に走者が腕を振る。
各クラスから3名ずつ選ばれた合計6名が、大差なくゴールへ飛び込んだ。沙耶は僅差で3位に入り、赤組に点数が加えられる。
「さっちゃん、すごいね」
自分のことのように悠里が喜ぶ中、今度は希の番になった。
先ほど同様にスターターピストルが鳴ると、全員一斉に走り出す――
――かと思いきや、希だけは少し遅れてしまった。
「のぞちゃん、がんばれー」
大きな声で穂月は声援を送る。遠ざかる背中に届いたかは定かでなくとも、希の速度が少しだけ上がったような気がした。
「多少の差なんぞハンデだ! ぶっちぎれ、希!」
運動会中の店番を茉優に任せたというこで、ムーンリーフの関係者ほぼ全員が集まっているが、怒鳴るように応援するのはもちろん実希子だった。
睡眠と読書以外にはなかなか積極的にならない希だが、今回は赤組全体の結果がかかっているからか、走っている途中でサボったりはしなかった。
最後尾からスタートしたにもかかわらず、一気に抜き去って先頭でゴールラインを越える。保護者席の歓声が一段と大きくなった。
「おー」
「さすがのぞちゃんなの、ゆーちゃんは……むりだとおもうの」
「ほづきがおうえんするからだいじょうぶだよ」
そう言って送り出そうとするも、高木と野々原で出席番号が比較的近く、間には1人しかいなかったため、一緒に走ることになってしまった。
「はわわ、たいへんなの」
「それならほづきがはしらないで、ゆーちゃんをおうえんするよ」
「ええっ? それはだめだとおもうの」
「ふれーふれー」
穂月は本気だったのだが、状況を察した柚に走るように説得された。
仕方なしにスタートラインに並ぶと、スターターピストルの音に合わせて上半身を前に傾ける。
「おー」
グングンと加速するうちに左右に生徒の姿が見えなくなる。
どうしたことかと戸惑っているうちにゴールラインへ到達していたらしく、母親の喜ぶ声が届いてくる。その隣では祖母が祖父の肩を揺さぶりながら、ものすごく興奮していた。
上級生に案内されて1位の列に並んでいると、最下位で悠里がハアハアとよろけながらゴールする姿が目に入った。
*
「ハッハッハ、希も穂月もやるじゃねえか。悠里も借物競争で挽回してたし、赤組はなかなかじゃねえか」
「おー」
大喜びの実希子に背中を叩かれ、危うく穂月は口に含んでいたおにぎりを噴き出すところだった。
「実希子ちゃん、食事中に行儀悪いわよ」
一緒に運動会の見物に来ていた好美に注意され、素直に実希子が「すまん」と頭を下げた。
昼休憩のために立ち寄ったブルシートのスペースには他にも保護者がいる。そうした理由も影響していたのだろう。
「あれ、あそこにいるのってまーたん?」
母親手作りのサンドイッチをはむはむしていた悠里が、校庭の隅でポツンとしている陽向を見つけた。
すぐに穂月は立ち上がり、1人で菓子パンを食べている陽向に声をかける。
「なんだよ、ごごはリレーがあるんだから……って、おい、ひっぱるな」
「おともだちのまーたんだよ」
強引に座らされて戸惑う陽向に、前々から穂月に話を聞かされていた葉月がおにぎりを手渡す。
「他人の作ったものって食べられる? あ、私は穂月のママだよ。はじめまして」
「あ、え? あの、はじめまして」
「まーたん、今日はやけにおとなしいわね」
昼休みになって合流した朱華の感想に陽向が赤面し、大人たちが笑う。照れ隠しか慌てておにぎりを頬張っては、喉に詰まらせてお茶を貰っていた。
「まーたんのママとパパは?」
「……いねえよ。うちはしんぐるまざーってやつだから」
「ほお、立派じゃねえか」
実希子の感想に、目を丸くする陽向。
「うちのこときくと、だいたいひそひそいいやがるのに……」
「あン?
そんな連中なんぞ気にすんな。お前の人生に何一つプラスになんねえから」
「……ハハっ。おまえらはおやもかわってるんだな」
「おまえじゃなくてほづきだよ。ほっちゃんって呼んでね」
「く……これまでなんとか呼ばずに逃げてきたのに」
「ハッハッハ、年貢の納め時ってやつだな」
穂月にじーっと見られ、豪快に笑う実希子の背中を叩かれ、やがて陽向は観念したように、とても小さな声で「ほっちゃん」と言った。
*
「お願いだから、第7走者のところに並んで、穂月ちゃん」
「やだー」
女担任の懇親のお願いを一蹴した穂月は、むんと気合の握り拳を作る。
「りれーではしるより、おうえんをするの」
「なら走りながら応援しましょう? ね?
あっ、希ちゃん、そこで寝ないで! 1走なんだから!」
午後の学年別リレーは女子と男子が交互に4人ずつ走る。第1走者が女子なのでアンカーは必然的に男子になる。
体育の授業で運動神経の良さはほぼクラスにバレていて、希がトップで穂月がアンカー手前の走者に推薦で決まっていた。
しかし穂月には走るよりも――走るのも好きだが――やりたいことがあった。それが応援である。
「ふれーふれー」
「もうリレーが始まるのよ、穂月ちゃん!
希ちゃんも起きて!
もう誰かなんとかしてー」
「むりです」
委員長の沙耶に容赦なく断言され、柚はガックリと肩を落とした。
その後、なんとかスタートしたリレーでは希と穂月の活躍もあってクラスは勝利。総合点でも赤組が勝利した。
春の日差しは暖かいとはいえ半袖半ズボンはまだ少し寒いが、すぐに気にならなくなるほどの熱気に現場は包まれていた。
「みなさん、かってにこうどうしないでほしいです」
委員長の沙耶が先頭でクラスメートを整列させようとするが、他のクラスの児童も昇降口に集まっているせいでガヤガヤしまくっている。
話を聞かずにお喋りに興じているだけならまだいい方で、勝手にグラウンドへ飛び出そうとする児童も見受けられた。
「はわわ、さっちゃん、こまってるとおもうの」
「おー」
心根が優しい悠里はなんとか助け舟をと思ったみたいだが、頼りにされた穂月は他の児童同様に物珍しさできょろきょろするのを止められなかった。
各学年に2クラスずつしかないので、それぞれ赤組と白組に分かれて全学年で点数を競い合う。
上級生ほど気合が入っていて、下級生はどちらかといえばお祭り気分だ。
「もうすぐこうしんです! ちゃんとならんでほしいです!」
「はわわ、たいへんなの」
まとまりがなく惨事になるかと思われたが、柚が様子を見に来たことで状況が一変する。どうやら教師組も、低学年の児童が問題なく行進するとは思っていなかったようだ。
「たすかりました……」
心から安堵する沙耶は赤いハチマキを巻いた額に汗を浮かべており、運動会が始まる前から疲れているみたいだった。
「のぞちゃんはほっちゃんにおねがいします」
「あいだほっ」
幼稚園と違って定着はせず、一部の男子にはこそこそと何か言われているみたいだが穂月は別に気にしない。好きでやっていることなのだから。
下駄箱に寄りかかって今にも眠りそうな希を引き起こす。不満はありそうだが、行事などの場合は完全に寝たりはしない。
「のぞちゃん、うんどうかいたのしみだね」
「……早寝競争が……あれば……」
「そんなのないとおもうの。
はわわっ、のぞちゃんがまたおねむしようとしてるの」
「おー」
「おーじゃなくて、おこさないとまずいの。こうしんがはじまっちゃうの」
涙目で悠里が慌てるものの、希はなんとか更新を終えて、心配はひとまず杞憂に終わった。
*
「おまえらもあかぐみかよ、あしをひっぱるんじゃねえぞ」
グラウンドで穂月を見かけるなり、ポニーテールを弾ませて陽向が駆け寄ってきた。2年生なので、待機場所も1年生から近い。
「それはこっちの台詞よ、ほっちゃんに連戦連敗中のまーたん」
「はんわらいでいうな! だいたい、なんでおれだけ、ちゃんじゃなくてたんなんだよ」
「まーたんだからでしょ」
「こたえになってねえ!
っていうか、いつからそこにいたんだよ」
「ついさっきだけど今更気にするの? まーたん、心が狭いわよ」
3年生も低学年に分類されるため、やはり朱華もそう離れてない場所に自分の待機場所があった。長い黒髪と一緒に赤色のハチマキが風になびいている。
クラスに友人もいるはずなのに、ことあるごとに穂月たちの様子を見に来てくれる朱華は今も昔もお姉さん同然だった。
教室にもよく遊びにくることもあり、穂月の知り合いだとクラスからも認知されている。そのおかげか穂月や希が自由奔放に振舞っていても、仲間外れにされるなどの深刻な問題は発生していなかった。
「とにかく! なさけないことだけはするなよ!」
グラウンドでも横になりたがる希に特に強く言ったあと、陽向は自分のクラスへと戻っていった。
「ほっちゃんも他の皆も気にしなくていいからね」
「あいだほっ」
沙耶と悠里も気遣ってくれた朱華にお礼を言う。
朱華も立ち去ると、すぐに穂月たち1年生の50メートル走が始まるとアナウンスされた。
*
「のぞちゃん、はしらないの」
黒髪を短めに切りそろえている頭を前後左右にふらふらさせる希は、穂月に問いかけられても目立った反応はしなかった。
それでも長い付き合いだけに、穂月には「仕方ないから走る」と態度で言っているのがわかる。
「のぞちゃんママもきてるよー」
保護者席には実希子のみならず、穂月の両親に祖父母もいる。近くには沙耶や悠里の両親もいて仲良く観戦中だ。3年生の朱華の両親も混じっている。
「はわわ、ころばないかしんぱいなの」
「だいじょうぶです、けがしないようにがんばりましょう」
出席番号順に出走するので、悠里を励ましてすぐに沙耶がスタートラインに立った。1年生の担当なのかジャージ姿の柚が「位置について」と言い、スターターピストルを空に向ける。
パアンと小気味良い音が響き、沙耶を筆頭に走者が腕を振る。
各クラスから3名ずつ選ばれた合計6名が、大差なくゴールへ飛び込んだ。沙耶は僅差で3位に入り、赤組に点数が加えられる。
「さっちゃん、すごいね」
自分のことのように悠里が喜ぶ中、今度は希の番になった。
先ほど同様にスターターピストルが鳴ると、全員一斉に走り出す――
――かと思いきや、希だけは少し遅れてしまった。
「のぞちゃん、がんばれー」
大きな声で穂月は声援を送る。遠ざかる背中に届いたかは定かでなくとも、希の速度が少しだけ上がったような気がした。
「多少の差なんぞハンデだ! ぶっちぎれ、希!」
運動会中の店番を茉優に任せたというこで、ムーンリーフの関係者ほぼ全員が集まっているが、怒鳴るように応援するのはもちろん実希子だった。
睡眠と読書以外にはなかなか積極的にならない希だが、今回は赤組全体の結果がかかっているからか、走っている途中でサボったりはしなかった。
最後尾からスタートしたにもかかわらず、一気に抜き去って先頭でゴールラインを越える。保護者席の歓声が一段と大きくなった。
「おー」
「さすがのぞちゃんなの、ゆーちゃんは……むりだとおもうの」
「ほづきがおうえんするからだいじょうぶだよ」
そう言って送り出そうとするも、高木と野々原で出席番号が比較的近く、間には1人しかいなかったため、一緒に走ることになってしまった。
「はわわ、たいへんなの」
「それならほづきがはしらないで、ゆーちゃんをおうえんするよ」
「ええっ? それはだめだとおもうの」
「ふれーふれー」
穂月は本気だったのだが、状況を察した柚に走るように説得された。
仕方なしにスタートラインに並ぶと、スターターピストルの音に合わせて上半身を前に傾ける。
「おー」
グングンと加速するうちに左右に生徒の姿が見えなくなる。
どうしたことかと戸惑っているうちにゴールラインへ到達していたらしく、母親の喜ぶ声が届いてくる。その隣では祖母が祖父の肩を揺さぶりながら、ものすごく興奮していた。
上級生に案内されて1位の列に並んでいると、最下位で悠里がハアハアとよろけながらゴールする姿が目に入った。
*
「ハッハッハ、希も穂月もやるじゃねえか。悠里も借物競争で挽回してたし、赤組はなかなかじゃねえか」
「おー」
大喜びの実希子に背中を叩かれ、危うく穂月は口に含んでいたおにぎりを噴き出すところだった。
「実希子ちゃん、食事中に行儀悪いわよ」
一緒に運動会の見物に来ていた好美に注意され、素直に実希子が「すまん」と頭を下げた。
昼休憩のために立ち寄ったブルシートのスペースには他にも保護者がいる。そうした理由も影響していたのだろう。
「あれ、あそこにいるのってまーたん?」
母親手作りのサンドイッチをはむはむしていた悠里が、校庭の隅でポツンとしている陽向を見つけた。
すぐに穂月は立ち上がり、1人で菓子パンを食べている陽向に声をかける。
「なんだよ、ごごはリレーがあるんだから……って、おい、ひっぱるな」
「おともだちのまーたんだよ」
強引に座らされて戸惑う陽向に、前々から穂月に話を聞かされていた葉月がおにぎりを手渡す。
「他人の作ったものって食べられる? あ、私は穂月のママだよ。はじめまして」
「あ、え? あの、はじめまして」
「まーたん、今日はやけにおとなしいわね」
昼休みになって合流した朱華の感想に陽向が赤面し、大人たちが笑う。照れ隠しか慌てておにぎりを頬張っては、喉に詰まらせてお茶を貰っていた。
「まーたんのママとパパは?」
「……いねえよ。うちはしんぐるまざーってやつだから」
「ほお、立派じゃねえか」
実希子の感想に、目を丸くする陽向。
「うちのこときくと、だいたいひそひそいいやがるのに……」
「あン?
そんな連中なんぞ気にすんな。お前の人生に何一つプラスになんねえから」
「……ハハっ。おまえらはおやもかわってるんだな」
「おまえじゃなくてほづきだよ。ほっちゃんって呼んでね」
「く……これまでなんとか呼ばずに逃げてきたのに」
「ハッハッハ、年貢の納め時ってやつだな」
穂月にじーっと見られ、豪快に笑う実希子の背中を叩かれ、やがて陽向は観念したように、とても小さな声で「ほっちゃん」と言った。
*
「お願いだから、第7走者のところに並んで、穂月ちゃん」
「やだー」
女担任の懇親のお願いを一蹴した穂月は、むんと気合の握り拳を作る。
「りれーではしるより、おうえんをするの」
「なら走りながら応援しましょう? ね?
あっ、希ちゃん、そこで寝ないで! 1走なんだから!」
午後の学年別リレーは女子と男子が交互に4人ずつ走る。第1走者が女子なのでアンカーは必然的に男子になる。
体育の授業で運動神経の良さはほぼクラスにバレていて、希がトップで穂月がアンカー手前の走者に推薦で決まっていた。
しかし穂月には走るよりも――走るのも好きだが――やりたいことがあった。それが応援である。
「ふれーふれー」
「もうリレーが始まるのよ、穂月ちゃん!
希ちゃんも起きて!
もう誰かなんとかしてー」
「むりです」
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