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穂月の小学校編
陽向の家庭事情……はともかく一緒に遊んだり宿題したりしよう
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一生懸命に誕生日のケーキを作ってあげた弟も4歳になり、晴れて穂月が卒園した幼稚園に通いだした。
そのうちにじめじめした空気は燃え盛る太陽に吹き飛ばされ、汗が垂れ落ちる暑さがやってきた。
学校や幼稚園が夏休みになると、夏の最大の楽しみと言っても過言ではない縁日がやってくる。
本当は神社のお祭りみたいなのだが、穂月の興味は夜を嫌うように並ぶ明々とした屋台に集中する。
希や朱華と一緒にはしゃぎまくったあとは、これもお待ちかねの誕生日がやってくる。
両親が中心になって開催してくれた希と穂月のお誕生日会には朱華だけでなく悠里や沙耶も招待した。
陽向も誘ったのだが頑なに拒否された。夏休み中でなければ2年生の教室へ突撃して強引に連れて来ただけに、その時初めて穂月は夏休みなのを残念に思った。
希と穂月は誕生日が近いので、誕生日会も立て続けになるのだが、2つともに招待された悠里も沙耶もたくさん遊べて嬉しいとむしろ喜んでくれた。
沙耶の誕生日は5月ですでにお誕生日会も終わっているが、悠里は11月なので今から何をプレゼントしようか穂月は楽しみにしていた。
そんな夏休みも8月に突入したばかりのある日、穂月は沙耶や悠里と一緒に近所の公園へやってきた。
四隅が草や木々の緑で彩られた公園は、タイヤでできた跳び箱みたいな遊具以外には何もない。広さも学校の体育館の半分ほどだ。
穂月や希がもっち小さい頃に、よく遊びに連れてきてもらっていたらしい。
公園の中央は土や砂で固められており、遮るものがないので太陽に照らされて眩しいくらいだった。
「おー。まーたんがいるー」
半袖短パン姿でボールを土に弾ませていた不良っぽい少女が、穂月の声を耳にするなりギョッとした。
「何でお前らがここにいるんだよ」
「あそびにきたからだよー」
穂月の説明に若干苛ついたような素振りを見せる陽向に、遊びでも生来の委員長気質を発揮中の沙耶が補足する。
「ほっちゃんのおうちがちかくにあるんです」
「マジかよ……」
手で顔を押さえながら距離を取ろうとするが、その前に穂月が捕まえる。
「いっしょにあそぼ」
「おれはいいよ、夏休みまでお前らにまとわりつかれてたまるか」
「じゃあドッジボールしよう」
「話を聞けよ! それにお前ら、バドミントンのラケットを持ってきてるだろ」
なんとか逃れようとする陽向だが、穂月にTシャツをガッチリ捕獲されていてはどうしようもない。
「おたんじょうびかいもきてくれなかったし、いっしょにあそぶの」
「あれは……くっ、ちくしょうめ」
「諦めなさい。それよりまーたんこそ、どうしてこの公園で遊んでたの? 実は家が近所だったとか?」
穂月たちの引率役でもある朱華が尋ねると、陽向は拗ねたように唇を尖らせた。
「いつものとこが年上のやつらにつかわれてたんだよ」
家はそこまで近所ではなかったみたいだが、夏休みで時間もあるので、あることを知っていたこの公園までわざわざ出向いたという。
「だったら一緒に遊んだっていいじゃない。そもそもほっちゃんが逃がしてくれないと思うけど」
「うう……わかったよ、あそんでやればいいんだろ!」
*
陽向も一緒になって公園で遊び倒したあと、ムーンリーフで揃って昼食をとった。
午後はさあ何をしようかとなったところで、朱華が思わぬ提案をした。
「皆で宿題をしましょう。早めに終わらせておくと、ゆっくり遊べるもの」
「さすがあーちゃんです」
穂月や悠里と違い、幾つか手をつけているらしい沙耶が真っ先に賛成した。
「ハッ、じゃあ午後からは1人であそべるな」
手をひらひらさせてどこかへ行こうとする陽向を、今度は朱華が捕獲する。
「逃がすわけないでしょ。苦労も皆で背負えば楽しくなるものよ」
「おれをまきこむな!」
「いいから観念しなさい!」
かなり力の強い陽向だが、1学年上の朱華はそれ以上だった。力ずくでは逃げられないと察したのか、陽向は唾を飛ばしながら反対意見を並べる。
「だいたい、おれはしゅくだいなんて持ってきてねえぞ!」
「だったら取りに行くわよ」
「はあ!? だれが! おい、離せって!」
基本的に待ち合わせ場所はムーンリーフなので、穂月たちの宿題はそこにある。元から勉強をするつもりで、好美あたりに教えてもらおうとも思っていた。
悠里と沙耶にもその点は説明していたので、2人もムーンリーフに置いておいたリュックに宿題を詰め込んできていた。
残るは陽向1人で最後まで抵抗していたが、やがて諦めたように項垂れた。
「ま、お前らとつるむのもあきてきたしな」
半ズボンのポケットに手を突っ込んでいた陽向は、途中から不貞腐れたような態度になっていた。
そんな彼女に案内されたのは同じような建物が無数に並ぶ場所だった。
「ここがおれんちだよ」
鍵を使って陽向がドアを開ける。中はさほど広くなく、突き当りに部屋がある。
入口のすぐ横にトイレと風呂があり、突き当りの大部屋の他は襖で隔てた部屋が1つあるだけだった。
いわゆる市営住宅なのだが、そんなのは知らない穂月は友人の家に「おー」と新鮮な感動を露わにする。
「ボロいしきたないだろ。うちはびんぼうだからな。わかったらお前らもおれにかかわるなよ」
「どうして?」
「どうしてって、お前はちいさいからしらないだろうけどな、おとなにはいろいろあんだよ」
「まーたんはこどもだよ?」
「だから!」
激昂しかけた陽向に悠里と沙耶が怯えるも、朱華は気にせずに手で制止する。
「私もほっちゃんと同じ気持ちね。家がボロくて汚くてついでにまーたんが貧乏だから何だって言うのよ、くだらない」
「くだらないって……」
「どうせ他の大人にこそこそ言われたんでしょうけど、私たちなら大丈夫よ。
むしろそんな理由でまーたんを仲間外れにでもしたら、全員揃ってこっぴどく叱られちゃうわ」
穂月だけでなく、悠里や沙耶も頷く。
希だけは穂月の背中にもたれかかるようにして気怠そうにしているが。
「そんなことよりお邪魔するわよ、宿題をしないと」
「ほんきかよ、おいっ!」
「もしかして友達を家に上げると、お母さんに怒られちゃう?」
「いや……それはねえよ。だいたい、母親はパートってのをいろいろやってるから、ひるはうちにいねえし」
「その点はうちも似たようなものね。希ちゃんのとこもだけど」
襖で仕切られた奥が陽向の部屋らしく、ちらかっていると嫌がりながらも最後には穂月たちを案内してくれた。
*
「まあ、陽向のお友達?」
夕方になって帰宅した陽向の母親が、襖を開けたまま勉強していた穂月たちを見るなり顔を綻ばせた。
「宿題が嫌だと駄々をこねたので、家にまでお邪魔させてもらいました」
「そうなの? うふふ、いらっしゃい」
朱華の物言いにも眉を顰めたりせず、笑顔で歓迎する。溢れる愛嬌が人当たりの良さを連想させ、雰囲気も優しげだった。
買物ついでにムーンリーフまで送ってもらい、葉月とも何か会話をしていたみたいだが、内容について穂月はあまり興味を覚えない。
そんなことよりも大事なことがあった。
「まーたん、あしたもあそぼうね」
「はあ!? あそんだばっかじゃねえか!」
「いいじゃない、午前中のまだ涼しいうちに外で遊んで、日中からは家の中で勉強しましょう」
「お前もかってにきめるな!」
「お前じゃなくてあーちゃんよ」
「うぐっ……」
他の面々を愛称呼びするのにまだ抵抗があるらしい陽向は顔を真っ赤にする。
「うふふ、皆、いい子ね。
陽向は1人だと勉強しないんだから、お言葉に甘えなさい」
「それなら家で預かってますから、仕事終わりにでも立ち寄ってください」
「高木さん……ありがとうございます」
*
「どりゃあああ!」
翌日。ムーンリーフ近所の公園に、雄叫びのような陽向の声が響いた。穂月は慌ててラケットを伸ばすが、無情にもその先に打ち込まれたシャトルが落ちた。
「いちねんせいあいてにかっこわるいです」
「あまいな、よのなかはきびしいんだよ」
「むー、のぞちゃん!」
穂月が全力で呼ぶと、日陰の草むらで寝転がっていた希が億劫そうにしながらも立ち上がった。
「そういやお前にいつだったかのかりがあったな」
「まーたん、のぞちゃんってよんであげたほうがいいとおもうの」
悠里にも指摘され、陽向は顔を赤くする。よく遊ぶようになってわかったが、気性が荒いようでいて、意外と照れ屋ですぐに赤面していた。
「はずかしいっていってんだろ! どうしてもっていうんなら、おれにかってからにしろ!」
「……」
希がサーブを打つ。大人げない陽向は最初から全力のスマッシュで応戦するが、難なく希が拾う。
「相変わらず信じられない運動神経ね」
朱華が半ば呆れ気味に見守っていると、希が逆襲のスマッシュを放った。
「おー、のぞちゃんすごいー」
「……マジかよ。くそっ、もう1回だ!」
「……疲れたからやだ」
「嘘つけえ!」
強引に陽向がサーブするも、希はあっさり背中を向ける。
「お、おいって……」
「……」
「頼むって!」
「……」
「あと1回だけでいいから! のぞちゃん!」
「……次が本当に最後」
のぞちゃんと呼ばれて感動したわけではないだろうが、嬉しくてにこにこしている穂月を見たあと、ため息をついて希は陽向と対峙した。
「よっしゃ! こんどこそは!」
気合を入れ直した陽向だったが、結果は希の圧勝で終わった。
そのうちにじめじめした空気は燃え盛る太陽に吹き飛ばされ、汗が垂れ落ちる暑さがやってきた。
学校や幼稚園が夏休みになると、夏の最大の楽しみと言っても過言ではない縁日がやってくる。
本当は神社のお祭りみたいなのだが、穂月の興味は夜を嫌うように並ぶ明々とした屋台に集中する。
希や朱華と一緒にはしゃぎまくったあとは、これもお待ちかねの誕生日がやってくる。
両親が中心になって開催してくれた希と穂月のお誕生日会には朱華だけでなく悠里や沙耶も招待した。
陽向も誘ったのだが頑なに拒否された。夏休み中でなければ2年生の教室へ突撃して強引に連れて来ただけに、その時初めて穂月は夏休みなのを残念に思った。
希と穂月は誕生日が近いので、誕生日会も立て続けになるのだが、2つともに招待された悠里も沙耶もたくさん遊べて嬉しいとむしろ喜んでくれた。
沙耶の誕生日は5月ですでにお誕生日会も終わっているが、悠里は11月なので今から何をプレゼントしようか穂月は楽しみにしていた。
そんな夏休みも8月に突入したばかりのある日、穂月は沙耶や悠里と一緒に近所の公園へやってきた。
四隅が草や木々の緑で彩られた公園は、タイヤでできた跳び箱みたいな遊具以外には何もない。広さも学校の体育館の半分ほどだ。
穂月や希がもっち小さい頃に、よく遊びに連れてきてもらっていたらしい。
公園の中央は土や砂で固められており、遮るものがないので太陽に照らされて眩しいくらいだった。
「おー。まーたんがいるー」
半袖短パン姿でボールを土に弾ませていた不良っぽい少女が、穂月の声を耳にするなりギョッとした。
「何でお前らがここにいるんだよ」
「あそびにきたからだよー」
穂月の説明に若干苛ついたような素振りを見せる陽向に、遊びでも生来の委員長気質を発揮中の沙耶が補足する。
「ほっちゃんのおうちがちかくにあるんです」
「マジかよ……」
手で顔を押さえながら距離を取ろうとするが、その前に穂月が捕まえる。
「いっしょにあそぼ」
「おれはいいよ、夏休みまでお前らにまとわりつかれてたまるか」
「じゃあドッジボールしよう」
「話を聞けよ! それにお前ら、バドミントンのラケットを持ってきてるだろ」
なんとか逃れようとする陽向だが、穂月にTシャツをガッチリ捕獲されていてはどうしようもない。
「おたんじょうびかいもきてくれなかったし、いっしょにあそぶの」
「あれは……くっ、ちくしょうめ」
「諦めなさい。それよりまーたんこそ、どうしてこの公園で遊んでたの? 実は家が近所だったとか?」
穂月たちの引率役でもある朱華が尋ねると、陽向は拗ねたように唇を尖らせた。
「いつものとこが年上のやつらにつかわれてたんだよ」
家はそこまで近所ではなかったみたいだが、夏休みで時間もあるので、あることを知っていたこの公園までわざわざ出向いたという。
「だったら一緒に遊んだっていいじゃない。そもそもほっちゃんが逃がしてくれないと思うけど」
「うう……わかったよ、あそんでやればいいんだろ!」
*
陽向も一緒になって公園で遊び倒したあと、ムーンリーフで揃って昼食をとった。
午後はさあ何をしようかとなったところで、朱華が思わぬ提案をした。
「皆で宿題をしましょう。早めに終わらせておくと、ゆっくり遊べるもの」
「さすがあーちゃんです」
穂月や悠里と違い、幾つか手をつけているらしい沙耶が真っ先に賛成した。
「ハッ、じゃあ午後からは1人であそべるな」
手をひらひらさせてどこかへ行こうとする陽向を、今度は朱華が捕獲する。
「逃がすわけないでしょ。苦労も皆で背負えば楽しくなるものよ」
「おれをまきこむな!」
「いいから観念しなさい!」
かなり力の強い陽向だが、1学年上の朱華はそれ以上だった。力ずくでは逃げられないと察したのか、陽向は唾を飛ばしながら反対意見を並べる。
「だいたい、おれはしゅくだいなんて持ってきてねえぞ!」
「だったら取りに行くわよ」
「はあ!? だれが! おい、離せって!」
基本的に待ち合わせ場所はムーンリーフなので、穂月たちの宿題はそこにある。元から勉強をするつもりで、好美あたりに教えてもらおうとも思っていた。
悠里と沙耶にもその点は説明していたので、2人もムーンリーフに置いておいたリュックに宿題を詰め込んできていた。
残るは陽向1人で最後まで抵抗していたが、やがて諦めたように項垂れた。
「ま、お前らとつるむのもあきてきたしな」
半ズボンのポケットに手を突っ込んでいた陽向は、途中から不貞腐れたような態度になっていた。
そんな彼女に案内されたのは同じような建物が無数に並ぶ場所だった。
「ここがおれんちだよ」
鍵を使って陽向がドアを開ける。中はさほど広くなく、突き当りに部屋がある。
入口のすぐ横にトイレと風呂があり、突き当りの大部屋の他は襖で隔てた部屋が1つあるだけだった。
いわゆる市営住宅なのだが、そんなのは知らない穂月は友人の家に「おー」と新鮮な感動を露わにする。
「ボロいしきたないだろ。うちはびんぼうだからな。わかったらお前らもおれにかかわるなよ」
「どうして?」
「どうしてって、お前はちいさいからしらないだろうけどな、おとなにはいろいろあんだよ」
「まーたんはこどもだよ?」
「だから!」
激昂しかけた陽向に悠里と沙耶が怯えるも、朱華は気にせずに手で制止する。
「私もほっちゃんと同じ気持ちね。家がボロくて汚くてついでにまーたんが貧乏だから何だって言うのよ、くだらない」
「くだらないって……」
「どうせ他の大人にこそこそ言われたんでしょうけど、私たちなら大丈夫よ。
むしろそんな理由でまーたんを仲間外れにでもしたら、全員揃ってこっぴどく叱られちゃうわ」
穂月だけでなく、悠里や沙耶も頷く。
希だけは穂月の背中にもたれかかるようにして気怠そうにしているが。
「そんなことよりお邪魔するわよ、宿題をしないと」
「ほんきかよ、おいっ!」
「もしかして友達を家に上げると、お母さんに怒られちゃう?」
「いや……それはねえよ。だいたい、母親はパートってのをいろいろやってるから、ひるはうちにいねえし」
「その点はうちも似たようなものね。希ちゃんのとこもだけど」
襖で仕切られた奥が陽向の部屋らしく、ちらかっていると嫌がりながらも最後には穂月たちを案内してくれた。
*
「まあ、陽向のお友達?」
夕方になって帰宅した陽向の母親が、襖を開けたまま勉強していた穂月たちを見るなり顔を綻ばせた。
「宿題が嫌だと駄々をこねたので、家にまでお邪魔させてもらいました」
「そうなの? うふふ、いらっしゃい」
朱華の物言いにも眉を顰めたりせず、笑顔で歓迎する。溢れる愛嬌が人当たりの良さを連想させ、雰囲気も優しげだった。
買物ついでにムーンリーフまで送ってもらい、葉月とも何か会話をしていたみたいだが、内容について穂月はあまり興味を覚えない。
そんなことよりも大事なことがあった。
「まーたん、あしたもあそぼうね」
「はあ!? あそんだばっかじゃねえか!」
「いいじゃない、午前中のまだ涼しいうちに外で遊んで、日中からは家の中で勉強しましょう」
「お前もかってにきめるな!」
「お前じゃなくてあーちゃんよ」
「うぐっ……」
他の面々を愛称呼びするのにまだ抵抗があるらしい陽向は顔を真っ赤にする。
「うふふ、皆、いい子ね。
陽向は1人だと勉強しないんだから、お言葉に甘えなさい」
「それなら家で預かってますから、仕事終わりにでも立ち寄ってください」
「高木さん……ありがとうございます」
*
「どりゃあああ!」
翌日。ムーンリーフ近所の公園に、雄叫びのような陽向の声が響いた。穂月は慌ててラケットを伸ばすが、無情にもその先に打ち込まれたシャトルが落ちた。
「いちねんせいあいてにかっこわるいです」
「あまいな、よのなかはきびしいんだよ」
「むー、のぞちゃん!」
穂月が全力で呼ぶと、日陰の草むらで寝転がっていた希が億劫そうにしながらも立ち上がった。
「そういやお前にいつだったかのかりがあったな」
「まーたん、のぞちゃんってよんであげたほうがいいとおもうの」
悠里にも指摘され、陽向は顔を赤くする。よく遊ぶようになってわかったが、気性が荒いようでいて、意外と照れ屋ですぐに赤面していた。
「はずかしいっていってんだろ! どうしてもっていうんなら、おれにかってからにしろ!」
「……」
希がサーブを打つ。大人げない陽向は最初から全力のスマッシュで応戦するが、難なく希が拾う。
「相変わらず信じられない運動神経ね」
朱華が半ば呆れ気味に見守っていると、希が逆襲のスマッシュを放った。
「おー、のぞちゃんすごいー」
「……マジかよ。くそっ、もう1回だ!」
「……疲れたからやだ」
「嘘つけえ!」
強引に陽向がサーブするも、希はあっさり背中を向ける。
「お、おいって……」
「……」
「頼むって!」
「……」
「あと1回だけでいいから! のぞちゃん!」
「……次が本当に最後」
のぞちゃんと呼ばれて感動したわけではないだろうが、嬉しくてにこにこしている穂月を見たあと、ため息をついて希は陽向と対峙した。
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