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穂月の小学校編
秋の遠足は動物園、そういえば昔ゴリラと呼ばれた人がいたらしいですよ
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夏休みが終われば長い2学期が始まる。陽向だけはげんなりしていたが、学校も遊び場の1つという認識の穂月はウキウキ気分が止まらない。
家族のように慕う柚の顔を見るだけで笑みが浮かんでくるし、夏休み中は会えなかったクラスメートと会話すれば心も踊る。
そんな2学期には勉強だけではなく、体を動かす行事も存在する。
それが今日行われる体育祭だった。
家から体操着でやってきた穂月は昨年と同じ赤いハチマキを頭に巻き、むんと気合を入れる。
「ほっちゃんはやる気ですね」
グラウンドへの行進準備のため昇降口への移動中、足取りの軽い穂月の背中に沙耶が声をかけてきた。表情が浮かないのは運動がさほど得意ではないからだろう。
だが沙耶以上に気分を沈ませている少女が最後尾にいる。悠里だ。
「はふう、ゆーちゃん、とってもゆううつなの……」
行事のプリントに体育祭の文字が登場してからというもの、日に日に溜息の回数が増えていた。
「別に1位を取らなくてもいいんだよ」
言いながら穂月は友人にギュッと抱き着く。
穂月も母親からこうしてもらえると心が安らぐので、真似してみたのだ。
「ゆーちゃんが楽しめれば順位なんて関係ないよー」
「ほっちゃん……」
少女が涙目になる。
運動神経こそ優れていないが、悠里は別に体を動かすのが嫌いなわけではない。穂月たちと一緒ならドッジボールでもバドミントンでも積極的に遊ぶのがいい例だ。彼女が恐れているのは周りの足を引っ張ることだとわかっているから、安心させるように何度も成績は気にしないと声をかける。
「ほっちゃんの言う通りです。順位は後からついてくるもので、大事なのは皆で協力して頑張ることです」
「でも……男の子たちが何か言ってこないか心配なの……」
誰にでも物怖じせずに突撃する穂月。普段はぐーたらでも覚醒させると恐ろしい希。委員長らしく毅然とした態度で相手を言い負かす沙耶。
男子もあまり手を出さない3人組に比べると、華憐で内気な悠里は格好の的だ。
好きな子にほどなんとやらの精神でよく悪戯を仕掛けられては泣かされ、そのたびに沙耶がキツく注意する。
そのわりにクラスでの男子人気1位は圧倒的に悠里だったりする。話を聞くたびに、穂月はだったら仲良くすればいいのにと思うのだが、沙耶曰くできないから男子は子供なのだという。
「男子に責められたらすぐに言ってください。対処するのも委員長の仕事です」
昇降口の窓から差し込む日差しに黒ぶち眼鏡をキラリと反射させ、格好良く沙耶が言い切った。
*
春に入学した一年生からぞろぞろとグラウンドへ行進する。小学校での我が子の晴れ舞台に保護者席が一番の盛り上がりを見せる。逆に昨年はしゃぎまくっていた穂月の両親たちは2年目というのもあって、ほんの少し落ち着いているようだ。
「お父さんとお母さん、楽しそうです」
行進をしながらでも、滅多にない学校での保護者の姿に沙耶のみならず、穂月もにやけっぱなしだ。
「みんな一緒にいるのー」
子供同士の付き合いが深ければ、比例して両親の結びつきも強くなる。
3年生の保護者にはあまり話をする相手がいないのか、陽向の母親も葉月たちと同じスペースにいた。
「まーたんのママがいるね」
「ほっちゃんママたちに誘われて、休みを取ったそうです」
小声での穂月の疑問に、顔だけ振り返った沙耶が答えた。
こっそり手を振ってみれば、穂月の両親だけでなく、それこそ陽向の母親までもが笑顔で手を振り返してくれた。
整列と選手宣誓が終われば最初の種目のかけっこになる。5年生と6年生は100メートルで競うが1,2年生は50メートル。3,4年生は80メートルで競争する予定だ。
1年生から6人ずつ順番に走っていき、各クラスはもちろん総合で得た点数で優劣を競う。穂月たちは昨年も経験しているので、戸惑わずに順応できる。
「ほっちゃんとのぞちゃんの足を引っ張らないようにしたいです」
ハチマキを締め直し、沙耶は両手で頬を叩く。何事にも真面目な彼女らしいが、気合が空回りして怪我でもしたら大変だ。
「さっちゃんも楽しもう。ビリでもいいんだよー」
「わかってますが、委員長して頑張りたいんです」
名字が出雲だけに沙耶の出番は早い。競争というよりお遊戯みたいな1年生の50メートル走が終わると、すぐ先生に促されて彼女がスタートラインに立つ。今回もスターターを担当するのは柚だ。
「はわわ、さっちゃん速いのー」
クラスが変わらないので対戦相手は昨年と同じ。それでも成長の度合いによって脚力は変わる。
比較的運動が万能な穂月たちとよく遊んでいた影響か、沙耶の足運びは他の児童よりずっとスムーズで昨年より上の2位でゴールラインに到達した。
「次はのぞちゃんの……のぞちゃん?」
「はわわ、あっちの日陰でおねむしてるのーっ」
「おー」
泣きそうな柚に懇願されて、穂月がとことこと呼びに行く。
寝起きで気怠そうにも関わらず、希は他に大差をつけてトップでゴールする。
次は穂月と悠里の番だ。不幸中の幸いで、一緒に走れるから心強いと、昨年から何度も悠里は繰り返していた。
柚の「位置について」の声で前のめりになる。ピストルの音に合わせて右足から踏み出し、ぎゅいーんと叫びながら他の走者を置き去りにして真っ先にゴールする。
「ゆーちゃん、がんばれーっ」
すぐに振り返って、いまだ走っている最中の悠里に声援を送る。
「はわわっ、はわわっ」
よたよたとしながらも彼女もまた穂月たちと遊ぶことで、走るフォームを少しずつ習得していたらしく、圧倒的な最下位だった昨年と違ってなんとか5位になった。
運動が苦手な生徒にすれば着順が1つ上がっただけで大金星だ。疲れが吹き飛んだような笑顔で5位の列の最後尾に並び、キャイキャイと沙耶らとはしゃぐ。
「やったの、ゆーちゃん、やってやったの」
「うん、よかったね!」
友人の楽しそうな姿に穂月も顔を綻ばせた。
*
クラス替えをしていた陽向だけが白組で悪ぶりながらもいじけていたのが印象的だった体育祭が終わると、これまた春にもあった行事が名前を変えるだけで登場する。その名も秋の遠足である。
担任の柚は何度も学習目的だと告げていたが、児童にとって遠足は学校での遊びの代表格だ。穂月はもちろん、沙耶以外の誰もが本気にはしていなかった。
「信じらんねえ……遠足で勉強なんてさせるか、普通」
ブチブチと愚痴るのは3年生ながら何故か穂月たちと一緒に行動する陽向だ。
道中は学年ごとのバス移動だったが、今回の目的地こと県中央の動物園には全学年の児童が勢揃いしていた。
「園内を見て回りながら好きな動物を調べればいいんだから、そんなに大変でもないでしょ」
穂月たちを心配したわけではないだろうが、朱華までもが合流する。背後には彼女の友人も何人かいた。面倒見と人当たりが良い朱華は学年を問わずに人気者なので学校でも有名な存在だ。
その朱華が何かと構ってくれるので、穂月たちの周囲で虐めなどの問題は発生していない。
「くそ……俺は何の動物にするかな……」
「あれなんかいいんじゃない?」
「猿じゃねえか!」
騒ぐ陽向と朱華を横目に、穂月たちもどの動物を見ようか相談する。
「まーたんは怒ってますが、お猿さんも可愛いです」
「ゆーちゃんは吠えないわんちゃんが好きだけど……いないの」
「穂月はね、ゴリラさんが見たいー」
予想外だったのか、沙耶と悠里がほぼ同時に穂月を見る。
「子供の頃ね、のぞちゃんママは菜月ちゃんにゴリラって呼ばれてたんだってー」
理由を説明すると納得しつつも、どこか微妙な顔をする2人。
穂月がゴリラというニックネームについて菜月本人に尋ねた時も、似たような表情をしていたのを思い出す。
「2人の仲は悪くなかったですよね?」
「きっとのぞちゃんママが、ゴリラを好きだったのー」
「そうかもしれないですね」
「……じゃあ調べるのはゴリラで決定」
「「わわっ」」
ぬっと会話に混じった希に、沙耶と悠里が同時に驚く。普段ならこうした相談には加わらず、隅で寝ているからだ。
「のぞちゃんもゴリラ好きー?」
「ほっちゃんの話で興味が出てきた……」
いつになくやる気の希が目を光らせ、先頭に立って歩きだす。
「ちょっと待って、私たちも一緒に行くから」
「置いてくなって」
朱華と陽向も加わり、結構な大所帯で穂月たちは真っ先にゴリラのいるスペースを目指した。
*
「これも全部なっちーのせいだ……」
遠足からムーンリーフに帰って今日の報告をすると、丁度好美の部屋で休憩をしていた実希子がガックリと肩を落とした。
遠足での課題はすでに提出済みで、それを聞いた希の母親はさらに頭を抱える。
「母親のような包容力を感じるとかはまだいい。母親と見分けがつかないってのはあんまりだろ。つーか、そんなこと書いてたら、男子どもにからかわれるんじゃないのか」
「のぞちゃんと喧嘩しようとする男の子なんていないから大丈夫ー」
「一体どんな学校生活を送ってるんだよ……」
はあと大きく息を吐いた実希子の姿に、沙耶と悠里がひそひそと会話する。
「帰る前にのぞちゃんが、母ちゃん、早く帰ろうとゴリラさんに話しかけてたのは秘密なの」
「……私たちが黙ってても、ほっちゃんあたりがバラしそうです」
「いや、聞こえてっから。まさかそんなとこまでなっちーリスペクトだとは。懐いてる時点で対策をしとけばよかったぜ」
「ゴリラ……じゃなかった、母ちゃん、今日のおやつは?」
「滅多になく話しかけてきたと思ったら、それかよ!」
「これは絶対に以前の授業参観を根に持ってますね」
「間違いないの。のぞちゃんは怒らせないようにするの」
ワイワイガヤガヤとする室内。皆の様子が楽しげで穂月も笑顔になる。
「でも楽しかったー。また行きたいねー」
零した感想に全員が頷いてくれたので、ますます穂月は嬉しくなった。
家族のように慕う柚の顔を見るだけで笑みが浮かんでくるし、夏休み中は会えなかったクラスメートと会話すれば心も踊る。
そんな2学期には勉強だけではなく、体を動かす行事も存在する。
それが今日行われる体育祭だった。
家から体操着でやってきた穂月は昨年と同じ赤いハチマキを頭に巻き、むんと気合を入れる。
「ほっちゃんはやる気ですね」
グラウンドへの行進準備のため昇降口への移動中、足取りの軽い穂月の背中に沙耶が声をかけてきた。表情が浮かないのは運動がさほど得意ではないからだろう。
だが沙耶以上に気分を沈ませている少女が最後尾にいる。悠里だ。
「はふう、ゆーちゃん、とってもゆううつなの……」
行事のプリントに体育祭の文字が登場してからというもの、日に日に溜息の回数が増えていた。
「別に1位を取らなくてもいいんだよ」
言いながら穂月は友人にギュッと抱き着く。
穂月も母親からこうしてもらえると心が安らぐので、真似してみたのだ。
「ゆーちゃんが楽しめれば順位なんて関係ないよー」
「ほっちゃん……」
少女が涙目になる。
運動神経こそ優れていないが、悠里は別に体を動かすのが嫌いなわけではない。穂月たちと一緒ならドッジボールでもバドミントンでも積極的に遊ぶのがいい例だ。彼女が恐れているのは周りの足を引っ張ることだとわかっているから、安心させるように何度も成績は気にしないと声をかける。
「ほっちゃんの言う通りです。順位は後からついてくるもので、大事なのは皆で協力して頑張ることです」
「でも……男の子たちが何か言ってこないか心配なの……」
誰にでも物怖じせずに突撃する穂月。普段はぐーたらでも覚醒させると恐ろしい希。委員長らしく毅然とした態度で相手を言い負かす沙耶。
男子もあまり手を出さない3人組に比べると、華憐で内気な悠里は格好の的だ。
好きな子にほどなんとやらの精神でよく悪戯を仕掛けられては泣かされ、そのたびに沙耶がキツく注意する。
そのわりにクラスでの男子人気1位は圧倒的に悠里だったりする。話を聞くたびに、穂月はだったら仲良くすればいいのにと思うのだが、沙耶曰くできないから男子は子供なのだという。
「男子に責められたらすぐに言ってください。対処するのも委員長の仕事です」
昇降口の窓から差し込む日差しに黒ぶち眼鏡をキラリと反射させ、格好良く沙耶が言い切った。
*
春に入学した一年生からぞろぞろとグラウンドへ行進する。小学校での我が子の晴れ舞台に保護者席が一番の盛り上がりを見せる。逆に昨年はしゃぎまくっていた穂月の両親たちは2年目というのもあって、ほんの少し落ち着いているようだ。
「お父さんとお母さん、楽しそうです」
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「みんな一緒にいるのー」
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3年生の保護者にはあまり話をする相手がいないのか、陽向の母親も葉月たちと同じスペースにいた。
「まーたんのママがいるね」
「ほっちゃんママたちに誘われて、休みを取ったそうです」
小声での穂月の疑問に、顔だけ振り返った沙耶が答えた。
こっそり手を振ってみれば、穂月の両親だけでなく、それこそ陽向の母親までもが笑顔で手を振り返してくれた。
整列と選手宣誓が終われば最初の種目のかけっこになる。5年生と6年生は100メートルで競うが1,2年生は50メートル。3,4年生は80メートルで競争する予定だ。
1年生から6人ずつ順番に走っていき、各クラスはもちろん総合で得た点数で優劣を競う。穂月たちは昨年も経験しているので、戸惑わずに順応できる。
「ほっちゃんとのぞちゃんの足を引っ張らないようにしたいです」
ハチマキを締め直し、沙耶は両手で頬を叩く。何事にも真面目な彼女らしいが、気合が空回りして怪我でもしたら大変だ。
「さっちゃんも楽しもう。ビリでもいいんだよー」
「わかってますが、委員長して頑張りたいんです」
名字が出雲だけに沙耶の出番は早い。競争というよりお遊戯みたいな1年生の50メートル走が終わると、すぐ先生に促されて彼女がスタートラインに立つ。今回もスターターを担当するのは柚だ。
「はわわ、さっちゃん速いのー」
クラスが変わらないので対戦相手は昨年と同じ。それでも成長の度合いによって脚力は変わる。
比較的運動が万能な穂月たちとよく遊んでいた影響か、沙耶の足運びは他の児童よりずっとスムーズで昨年より上の2位でゴールラインに到達した。
「次はのぞちゃんの……のぞちゃん?」
「はわわ、あっちの日陰でおねむしてるのーっ」
「おー」
泣きそうな柚に懇願されて、穂月がとことこと呼びに行く。
寝起きで気怠そうにも関わらず、希は他に大差をつけてトップでゴールする。
次は穂月と悠里の番だ。不幸中の幸いで、一緒に走れるから心強いと、昨年から何度も悠里は繰り返していた。
柚の「位置について」の声で前のめりになる。ピストルの音に合わせて右足から踏み出し、ぎゅいーんと叫びながら他の走者を置き去りにして真っ先にゴールする。
「ゆーちゃん、がんばれーっ」
すぐに振り返って、いまだ走っている最中の悠里に声援を送る。
「はわわっ、はわわっ」
よたよたとしながらも彼女もまた穂月たちと遊ぶことで、走るフォームを少しずつ習得していたらしく、圧倒的な最下位だった昨年と違ってなんとか5位になった。
運動が苦手な生徒にすれば着順が1つ上がっただけで大金星だ。疲れが吹き飛んだような笑顔で5位の列の最後尾に並び、キャイキャイと沙耶らとはしゃぐ。
「やったの、ゆーちゃん、やってやったの」
「うん、よかったね!」
友人の楽しそうな姿に穂月も顔を綻ばせた。
*
クラス替えをしていた陽向だけが白組で悪ぶりながらもいじけていたのが印象的だった体育祭が終わると、これまた春にもあった行事が名前を変えるだけで登場する。その名も秋の遠足である。
担任の柚は何度も学習目的だと告げていたが、児童にとって遠足は学校での遊びの代表格だ。穂月はもちろん、沙耶以外の誰もが本気にはしていなかった。
「信じらんねえ……遠足で勉強なんてさせるか、普通」
ブチブチと愚痴るのは3年生ながら何故か穂月たちと一緒に行動する陽向だ。
道中は学年ごとのバス移動だったが、今回の目的地こと県中央の動物園には全学年の児童が勢揃いしていた。
「園内を見て回りながら好きな動物を調べればいいんだから、そんなに大変でもないでしょ」
穂月たちを心配したわけではないだろうが、朱華までもが合流する。背後には彼女の友人も何人かいた。面倒見と人当たりが良い朱華は学年を問わずに人気者なので学校でも有名な存在だ。
その朱華が何かと構ってくれるので、穂月たちの周囲で虐めなどの問題は発生していない。
「くそ……俺は何の動物にするかな……」
「あれなんかいいんじゃない?」
「猿じゃねえか!」
騒ぐ陽向と朱華を横目に、穂月たちもどの動物を見ようか相談する。
「まーたんは怒ってますが、お猿さんも可愛いです」
「ゆーちゃんは吠えないわんちゃんが好きだけど……いないの」
「穂月はね、ゴリラさんが見たいー」
予想外だったのか、沙耶と悠里がほぼ同時に穂月を見る。
「子供の頃ね、のぞちゃんママは菜月ちゃんにゴリラって呼ばれてたんだってー」
理由を説明すると納得しつつも、どこか微妙な顔をする2人。
穂月がゴリラというニックネームについて菜月本人に尋ねた時も、似たような表情をしていたのを思い出す。
「2人の仲は悪くなかったですよね?」
「きっとのぞちゃんママが、ゴリラを好きだったのー」
「そうかもしれないですね」
「……じゃあ調べるのはゴリラで決定」
「「わわっ」」
ぬっと会話に混じった希に、沙耶と悠里が同時に驚く。普段ならこうした相談には加わらず、隅で寝ているからだ。
「のぞちゃんもゴリラ好きー?」
「ほっちゃんの話で興味が出てきた……」
いつになくやる気の希が目を光らせ、先頭に立って歩きだす。
「ちょっと待って、私たちも一緒に行くから」
「置いてくなって」
朱華と陽向も加わり、結構な大所帯で穂月たちは真っ先にゴリラのいるスペースを目指した。
*
「これも全部なっちーのせいだ……」
遠足からムーンリーフに帰って今日の報告をすると、丁度好美の部屋で休憩をしていた実希子がガックリと肩を落とした。
遠足での課題はすでに提出済みで、それを聞いた希の母親はさらに頭を抱える。
「母親のような包容力を感じるとかはまだいい。母親と見分けがつかないってのはあんまりだろ。つーか、そんなこと書いてたら、男子どもにからかわれるんじゃないのか」
「のぞちゃんと喧嘩しようとする男の子なんていないから大丈夫ー」
「一体どんな学校生活を送ってるんだよ……」
はあと大きく息を吐いた実希子の姿に、沙耶と悠里がひそひそと会話する。
「帰る前にのぞちゃんが、母ちゃん、早く帰ろうとゴリラさんに話しかけてたのは秘密なの」
「……私たちが黙ってても、ほっちゃんあたりがバラしそうです」
「いや、聞こえてっから。まさかそんなとこまでなっちーリスペクトだとは。懐いてる時点で対策をしとけばよかったぜ」
「ゴリラ……じゃなかった、母ちゃん、今日のおやつは?」
「滅多になく話しかけてきたと思ったら、それかよ!」
「これは絶対に以前の授業参観を根に持ってますね」
「間違いないの。のぞちゃんは怒らせないようにするの」
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