397 / 495
穂月の小学校編
夏の全国大会は地元開催! 声援の後押しを受けて頑張ります
しおりを挟む
「はわわ、なんだか人が多いの」
穂月の隣で、悠里が口元に手を当てて仰天する。夏の太陽がギラつく市内のグラウンドに、昨年までよりも多くの観客が訪れていた。
「春の大会でもベスト8までいきましたから、私たちは注目されているんです」
眼鏡をクイと上げる沙耶に、悠里が尊敬の視線を向ける。
「さっちゃんはまったく緊張してないみたいなの、すごいの」
「先ほどまでは緊張していたのですが……あれを見たおかげでどこかへ吹き飛んでいったんです」
チラリと沙耶が見た先には、お嬢様ポーズで笑い声を響かせる凛がいた。
「うおっほほほ、注目は望むところですわ、うおっほほほ」
「……なんだかゴリラみたいになってるの」
「目立ちたがり屋なのに緊張しいというのは不思議です」
「でもでも、去年も今年も全国大会では普通だったの」
「なんでも知らない人間には幾ら見られても平気みたいです。人見知りでもないらしいですし」
「嘘っぱち貴族はとっても不思議なの」
「聞こえてますわよ、ゆーちゃんさん、うおっほほほ」
まだまだ笑顔のぎこちない凛に悠里が捕まる。
穂月も助けを求められたが、その前に沙耶が歩みよってきた。じゃれ合いみたいなものなので、放置を決めたのだろう。
「ほっちゃんは緊張したりしてませんか」
「うんっ、やることは変わらないし」
それはよかったですと沙耶が目を細める。
「ほんの少しだけ、ほっちゃんのあいだほ、が懐かしいです」
「えへへ、気付いたら言わなくなってたしね」
両親からも指摘され、大人になったということだとも言われた。その後に希の母親がうちの娘も大人にしてくれと言い出したのが印象的で、今もはっきり当時の光景を覚えている。
「のぞちゃんも頑張ろうね」
「大丈夫……ベンチは硬いけど余裕……」
「おー」
穂月が見ている前で、キャッチャーミットを枕に眠ろうとする希を阻止したのは皆の保護者役でもある沙耶だった。
*
今年の夏の全国大会は地元県で開催され、なんと4チームも出場できる。
県予選を制した穂月たちだけでなく、見知った顔を全国大会の舞台でも多く見られるのは心強くもあった。
「初戦は大切ですわ! 全国制覇のためにもきっちり勝ちますわよ!」
「DPのりんりんは守備につかなくてもいいから元気なの」
「ゆーちゃんさんもベンチでお留守番ではないですか!」
主戦投手は穂月が務め、控え投手が悠里。希は正捕手で沙耶は一塁手兼捕手の控えだ。
悠里は右翼のレギュラーも考慮されたが体力に乏しいため、全試合出るよりは登板試合に全力を尽くす方がチームのためになると現在の形になった。それもこれも昨年に続いて新入部員が多く入ってくれたおかげだった。
打力はチーム随一ながら、最後まで守備が上達しなかった凛は押しも押されもせぬDPである。
投手の負担を軽くするため、この試合では穂月の代わりに凛が打席に立つ。そのため穂月はFPという扱いになる。
悠里が投手の時は遊撃手を務める。昨年までレギュラーだった陽向の穴が大きい三塁は守備の上手い下級生がつき、外野も守備が上手い選手を柚は積極的に起用していた。
穂月と悠里を中心とした守備力を前面に押し出し、得点力が多少落ちても安定して戦えるチームに仕上がったと胸を張っていた。
同時に来年以降が不安だと今から胃をキリキリさせてもいるみたいだったが。
*
初戦を順当に勝った穂月たちは、二戦目も悠里の頑張りで勝ち抜いた。
穂月のみならず、希や凛など全国レベルと地元で話題の部員が在籍しているのもあり、まぐれだと言われることはなかった。
そしてベスト4を目指す一戦で、昨年と同じチームと対することになる。
先発は穂月。地元開催というのもあり、応援に来た陽向が仇を取ってくれと大騒ぎする中、試合は静かな投手戦で幕を開けた。
「去年と似たような展開になってきちゃったねー」
穂月が言うと、チームメンバーがギクリとしたように肩を震わせた。
「はわわ、思ってても誰も言わなかったことを、ほっちゃんが自らやらかしてしまったの」
「おー?」
「その様子では昨年の結果にもあまりショックを受けてなかったっぽいですね」
「まーたん先輩には教えられませんわね」
悲鳴じみた悠里の言葉に顔を傾けていると、沙耶と凛が腰に手を当てて苦笑していた。
「気合が入りすぎるよりはいいわ。大切なのは普段通りの自分を心掛けること、大事な試合ならなおさらね。でも……」
監督らしい発言をしたばかりの柚が、スッと目を細めた。
「だからといって所構わず寝ないで、希ちゃん!」
「そうです! 次は3番ののぞちゃんなんですから!」
沙耶に抱き起こされた希が、眠そうに目を擦りながら打席へ向かう。
見るからにやる気はなさそうだが、幼稚園時代みたいな自分本位さはだいぶ解消されている。
希の母親はああ言っていたが、彼女もまた大人になっているということなのだろう。穂月にはそれがいいことか悪いことなのか、まだ判別できないが。
甲高い音がグラウンドに木霊し、白球が大空高くに舞い上がる。
「ここぞという場面ではさすがです」
「勝負がかかった打席では4番のりんりんより結果を残してるの」
沙耶と悠里が興奮する中、悠々とグラウンドを一周した希がベンチに戻ってきた。
「……これで去年と同じじゃなくなったよ」
「うんっ、やっぱりのぞちゃんは頼りになるよー」
ギュッと穂月が抱き着いている間に、自分もと鼻息を荒くした凛は豪快な三振に倒れていた。
*
気温と疲労で頬に伝う汗を振り払い、穂月はホームベース後ろでしゃがむ親友のミットを覗き込む。
打席に立つのは焦り顔の打者。
一塁から聞こえてくるのは、耳に馴染む友人の応援。
ベンチからも、観客席からも大きな声が飛んでくる。
知らないものから懐かしいものまで様々だ。
フッと短く息を吐いて腕を振るう。白球がミットを叩く音が響き、球審が右手を上げてストライクをコールする。
「あと一球だ!」
「ほっちゃん、恰好良く決めて!」
観客席にはOGの陽向と朱華もいた。周囲には家族の姿も見える。
大きく深呼吸をしながら、確認したスコアボードは3-1。7回裏ツーアウトでランナーはなし。リードしているのはもちろん穂月たちだ。
「頼みますわよ、ほっちゃんさん! 祝勝会でわたくしたちの全国制覇をあーちゃん先輩やまーたん先輩に自慢するのですわ!」
「はわわ、なんとしてもほっちゃんに抑えてもらうの。ピンチになってゆーちゃんがマウンドに上がらされたら卒倒する自信があるの」
勝負を決めようとした1球が、ファールで粘られる。相手も可能性が残っている限り、決して諦めようとはしない。
それでも地元開催による声援の多さが穂月の背中を押してくれる。
舞台でスポットライトを浴びるのを今も夢見てはいるが、こういうのも悪くはない。自然とニヤけながら、穂月はふわりと投球動作に入る。
自分でも驚くほど滑らかなモーションから繰り出された一球は、何度も目で追ってきた中で最高の軌跡を描いた。
*
「散々ベスト8の壁に苦しんだってのに、突破したと思ったらあっさり全国制覇かよ。しかも俺たちが抜けてから」
嬉しいのか悔しいのか、穂月の首に回っている陽向の腕には結構な力が込められていた。
「その点、私たちはほっちゃんたちが進学してくれる来年が本番ね」
祝勝会だというのにため息交じりの朱華。陽向が加入して打力は上がったものの、朱華一人で全試合を投げ切るには厳しく、今年も地区大会で敗退していた。
「中学では練習も厳しくなるから覚悟しとけよ」
「違うわ、まーたん。まずはほっちゃんを入部させるところからよ」
「……そういや最初に最大の関門があるんだったな」
小学生とはいえ身内でも初の全国制覇。お祭り好きな希の母親だけでなく、叔母の菜月まで友人を呼んではしゃぎまくっていた。
おかげで菜月好きな希と凛も浮かれまくりの甘えまくりである。
沙耶は好美に何か感じるところがあるらしく、あれこれと話を聞いているみたいだった。
「なるほど……好美さんも苦労していたんですね」
「ええ……でも沙耶ちゃんほどじゃないわ。まさか同年代にあそこまでの逸材が揃うとは……」
ソフトボール部とは関係ないような気もするが、穂月はひとまず会話に加わらないでおく。
「ゆーちゃん、このパンも食べる?」
「はわわ、茉優おねーちゃんのパンは甘くて美味しいの」
悠里は似た感じでふわふわしている茉優に、お世話ならぬ餌付けをされているみたいだった。
楽しそうな周囲を見て穂月もニコニコしていると、母親の葉月がやってきた。
「全国制覇なんて穂月は凄いね。ママも応援に力が入っちゃったよ」
「ありがとっ、でも本番はこれからなんだよっ」
「え? 全国大会のあとって何かあったっけ? まさか世界大会? 小学生でもあったんだっけ? でもあるとしたら穂月たちは全国制覇したんだから何人か選ばれても不思議じゃないよね」
一人で問答する母親に、穂月は首を傾げる。
「あれ、ソフトボール部のこと……だよね?」
「違うよ、本番なのは演劇だよっ。夏休みが終われば文化祭があるんだよ!」
穂月が大きな声で叫んだのもあり、周囲の視線が一斉に集まる。
「そうだったの、ゆーちゃん、なんだか嫌な予感がしてきたの」
「確実に夏休みの残りは、練習と称してほっちゃんさんのお芝居に付き合わされますわね」
おろおろする悠里の隣で、凛が仕方ないとばかりに苦笑する。
「ほっちゃんの1番は演劇ですから」
「……アタシ、眠り姫がいい」
「眠り姫のお姫様はずっと眠っているわけではないですよ?」
「……じゃあ違うので」
沙耶と希の会話も聞きつつ、穂月は元気に頷く。心はもう夏を通り過ぎて秋の文化祭へと向かっていた。
穂月の隣で、悠里が口元に手を当てて仰天する。夏の太陽がギラつく市内のグラウンドに、昨年までよりも多くの観客が訪れていた。
「春の大会でもベスト8までいきましたから、私たちは注目されているんです」
眼鏡をクイと上げる沙耶に、悠里が尊敬の視線を向ける。
「さっちゃんはまったく緊張してないみたいなの、すごいの」
「先ほどまでは緊張していたのですが……あれを見たおかげでどこかへ吹き飛んでいったんです」
チラリと沙耶が見た先には、お嬢様ポーズで笑い声を響かせる凛がいた。
「うおっほほほ、注目は望むところですわ、うおっほほほ」
「……なんだかゴリラみたいになってるの」
「目立ちたがり屋なのに緊張しいというのは不思議です」
「でもでも、去年も今年も全国大会では普通だったの」
「なんでも知らない人間には幾ら見られても平気みたいです。人見知りでもないらしいですし」
「嘘っぱち貴族はとっても不思議なの」
「聞こえてますわよ、ゆーちゃんさん、うおっほほほ」
まだまだ笑顔のぎこちない凛に悠里が捕まる。
穂月も助けを求められたが、その前に沙耶が歩みよってきた。じゃれ合いみたいなものなので、放置を決めたのだろう。
「ほっちゃんは緊張したりしてませんか」
「うんっ、やることは変わらないし」
それはよかったですと沙耶が目を細める。
「ほんの少しだけ、ほっちゃんのあいだほ、が懐かしいです」
「えへへ、気付いたら言わなくなってたしね」
両親からも指摘され、大人になったということだとも言われた。その後に希の母親がうちの娘も大人にしてくれと言い出したのが印象的で、今もはっきり当時の光景を覚えている。
「のぞちゃんも頑張ろうね」
「大丈夫……ベンチは硬いけど余裕……」
「おー」
穂月が見ている前で、キャッチャーミットを枕に眠ろうとする希を阻止したのは皆の保護者役でもある沙耶だった。
*
今年の夏の全国大会は地元県で開催され、なんと4チームも出場できる。
県予選を制した穂月たちだけでなく、見知った顔を全国大会の舞台でも多く見られるのは心強くもあった。
「初戦は大切ですわ! 全国制覇のためにもきっちり勝ちますわよ!」
「DPのりんりんは守備につかなくてもいいから元気なの」
「ゆーちゃんさんもベンチでお留守番ではないですか!」
主戦投手は穂月が務め、控え投手が悠里。希は正捕手で沙耶は一塁手兼捕手の控えだ。
悠里は右翼のレギュラーも考慮されたが体力に乏しいため、全試合出るよりは登板試合に全力を尽くす方がチームのためになると現在の形になった。それもこれも昨年に続いて新入部員が多く入ってくれたおかげだった。
打力はチーム随一ながら、最後まで守備が上達しなかった凛は押しも押されもせぬDPである。
投手の負担を軽くするため、この試合では穂月の代わりに凛が打席に立つ。そのため穂月はFPという扱いになる。
悠里が投手の時は遊撃手を務める。昨年までレギュラーだった陽向の穴が大きい三塁は守備の上手い下級生がつき、外野も守備が上手い選手を柚は積極的に起用していた。
穂月と悠里を中心とした守備力を前面に押し出し、得点力が多少落ちても安定して戦えるチームに仕上がったと胸を張っていた。
同時に来年以降が不安だと今から胃をキリキリさせてもいるみたいだったが。
*
初戦を順当に勝った穂月たちは、二戦目も悠里の頑張りで勝ち抜いた。
穂月のみならず、希や凛など全国レベルと地元で話題の部員が在籍しているのもあり、まぐれだと言われることはなかった。
そしてベスト4を目指す一戦で、昨年と同じチームと対することになる。
先発は穂月。地元開催というのもあり、応援に来た陽向が仇を取ってくれと大騒ぎする中、試合は静かな投手戦で幕を開けた。
「去年と似たような展開になってきちゃったねー」
穂月が言うと、チームメンバーがギクリとしたように肩を震わせた。
「はわわ、思ってても誰も言わなかったことを、ほっちゃんが自らやらかしてしまったの」
「おー?」
「その様子では昨年の結果にもあまりショックを受けてなかったっぽいですね」
「まーたん先輩には教えられませんわね」
悲鳴じみた悠里の言葉に顔を傾けていると、沙耶と凛が腰に手を当てて苦笑していた。
「気合が入りすぎるよりはいいわ。大切なのは普段通りの自分を心掛けること、大事な試合ならなおさらね。でも……」
監督らしい発言をしたばかりの柚が、スッと目を細めた。
「だからといって所構わず寝ないで、希ちゃん!」
「そうです! 次は3番ののぞちゃんなんですから!」
沙耶に抱き起こされた希が、眠そうに目を擦りながら打席へ向かう。
見るからにやる気はなさそうだが、幼稚園時代みたいな自分本位さはだいぶ解消されている。
希の母親はああ言っていたが、彼女もまた大人になっているということなのだろう。穂月にはそれがいいことか悪いことなのか、まだ判別できないが。
甲高い音がグラウンドに木霊し、白球が大空高くに舞い上がる。
「ここぞという場面ではさすがです」
「勝負がかかった打席では4番のりんりんより結果を残してるの」
沙耶と悠里が興奮する中、悠々とグラウンドを一周した希がベンチに戻ってきた。
「……これで去年と同じじゃなくなったよ」
「うんっ、やっぱりのぞちゃんは頼りになるよー」
ギュッと穂月が抱き着いている間に、自分もと鼻息を荒くした凛は豪快な三振に倒れていた。
*
気温と疲労で頬に伝う汗を振り払い、穂月はホームベース後ろでしゃがむ親友のミットを覗き込む。
打席に立つのは焦り顔の打者。
一塁から聞こえてくるのは、耳に馴染む友人の応援。
ベンチからも、観客席からも大きな声が飛んでくる。
知らないものから懐かしいものまで様々だ。
フッと短く息を吐いて腕を振るう。白球がミットを叩く音が響き、球審が右手を上げてストライクをコールする。
「あと一球だ!」
「ほっちゃん、恰好良く決めて!」
観客席にはOGの陽向と朱華もいた。周囲には家族の姿も見える。
大きく深呼吸をしながら、確認したスコアボードは3-1。7回裏ツーアウトでランナーはなし。リードしているのはもちろん穂月たちだ。
「頼みますわよ、ほっちゃんさん! 祝勝会でわたくしたちの全国制覇をあーちゃん先輩やまーたん先輩に自慢するのですわ!」
「はわわ、なんとしてもほっちゃんに抑えてもらうの。ピンチになってゆーちゃんがマウンドに上がらされたら卒倒する自信があるの」
勝負を決めようとした1球が、ファールで粘られる。相手も可能性が残っている限り、決して諦めようとはしない。
それでも地元開催による声援の多さが穂月の背中を押してくれる。
舞台でスポットライトを浴びるのを今も夢見てはいるが、こういうのも悪くはない。自然とニヤけながら、穂月はふわりと投球動作に入る。
自分でも驚くほど滑らかなモーションから繰り出された一球は、何度も目で追ってきた中で最高の軌跡を描いた。
*
「散々ベスト8の壁に苦しんだってのに、突破したと思ったらあっさり全国制覇かよ。しかも俺たちが抜けてから」
嬉しいのか悔しいのか、穂月の首に回っている陽向の腕には結構な力が込められていた。
「その点、私たちはほっちゃんたちが進学してくれる来年が本番ね」
祝勝会だというのにため息交じりの朱華。陽向が加入して打力は上がったものの、朱華一人で全試合を投げ切るには厳しく、今年も地区大会で敗退していた。
「中学では練習も厳しくなるから覚悟しとけよ」
「違うわ、まーたん。まずはほっちゃんを入部させるところからよ」
「……そういや最初に最大の関門があるんだったな」
小学生とはいえ身内でも初の全国制覇。お祭り好きな希の母親だけでなく、叔母の菜月まで友人を呼んではしゃぎまくっていた。
おかげで菜月好きな希と凛も浮かれまくりの甘えまくりである。
沙耶は好美に何か感じるところがあるらしく、あれこれと話を聞いているみたいだった。
「なるほど……好美さんも苦労していたんですね」
「ええ……でも沙耶ちゃんほどじゃないわ。まさか同年代にあそこまでの逸材が揃うとは……」
ソフトボール部とは関係ないような気もするが、穂月はひとまず会話に加わらないでおく。
「ゆーちゃん、このパンも食べる?」
「はわわ、茉優おねーちゃんのパンは甘くて美味しいの」
悠里は似た感じでふわふわしている茉優に、お世話ならぬ餌付けをされているみたいだった。
楽しそうな周囲を見て穂月もニコニコしていると、母親の葉月がやってきた。
「全国制覇なんて穂月は凄いね。ママも応援に力が入っちゃったよ」
「ありがとっ、でも本番はこれからなんだよっ」
「え? 全国大会のあとって何かあったっけ? まさか世界大会? 小学生でもあったんだっけ? でもあるとしたら穂月たちは全国制覇したんだから何人か選ばれても不思議じゃないよね」
一人で問答する母親に、穂月は首を傾げる。
「あれ、ソフトボール部のこと……だよね?」
「違うよ、本番なのは演劇だよっ。夏休みが終われば文化祭があるんだよ!」
穂月が大きな声で叫んだのもあり、周囲の視線が一斉に集まる。
「そうだったの、ゆーちゃん、なんだか嫌な予感がしてきたの」
「確実に夏休みの残りは、練習と称してほっちゃんさんのお芝居に付き合わされますわね」
おろおろする悠里の隣で、凛が仕方ないとばかりに苦笑する。
「ほっちゃんの1番は演劇ですから」
「……アタシ、眠り姫がいい」
「眠り姫のお姫様はずっと眠っているわけではないですよ?」
「……じゃあ違うので」
沙耶と希の会話も聞きつつ、穂月は元気に頷く。心はもう夏を通り過ぎて秋の文化祭へと向かっていた。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。
その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。
全7話
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
会社員の青年と清掃員の老婆の超越した愛
MisakiNonagase
恋愛
二十六歳のレンが働くオフィスビルには、清掃員として七十歳のカズコも従事している。カズコは愛嬌のある笑顔と真面目な仕事ぶりで誰からも好かれていた。ある日の仕事帰りにレンがよく行く立ち飲み屋に入ると、カズコもいた。清掃員の青い作業服姿しか見たことのなかったレンは、ごく普通の装いだったがカズコの姿が輝いて見えた。それから少しづつ話すようになり、二人は年の差を越えて恋を育んでいくストーリーです。不倫は情事かもしれないが、この二人には情状という言葉がふさわしい。
学園のアイドルに、俺の部屋のギャル地縛霊がちょっかいを出すから話がややこしくなる。
たかなしポン太
青春
【第1回ノベルピアWEB小説コンテスト中間選考通過作品】
『み、見えるの?』
「見えるかと言われると……ギリ見えない……」
『ふぇっ? ちょっ、ちょっと! どこ見てんのよ!』
◆◆◆
仏教系学園の高校に通う霊能者、尚也。
劣悪な環境での寮生活を1年間終えたあと、2年生から念願のアパート暮らしを始めることになった。
ところが入居予定のアパートの部屋に行ってみると……そこにはセーラー服を着たギャル地縛霊、りんが住み着いていた。
後悔の念が強すぎて、この世に魂が残ってしまったりん。
尚也はそんなりんを無事に成仏させるため、りんと共同生活をすることを決意する。
また新学期の学校では、尚也は学園のアイドルこと花宮琴葉と同じクラスで席も近くなった。
尚也は1年生の時、たまたま琴葉が困っていた時に助けてあげたことがあるのだが……
霊能者の尚也、ギャル地縛霊のりん、学園のアイドル琴葉。
3人とその仲間たちが繰り広げる、ちょっと不思議な日常。
愉快で甘くて、ちょっと切ない、ライトファンタジーなラブコメディー!
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる