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さらに孫たちの学生時代編
勉学を疎かにしてはいけません、夏の大会後に補習をするはめになるからです
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青々とした空に、練習に励む球児の声が吸い込まれていく。そのうちの1人に春也がいた。もっとも今は全体練習に加わらず、ブルペンで投球練習の真っ最中だったりするが。
「春も県大会でいいとこまでいけたし、先輩たちも張り切ってんな」
監督の厳しいノックにも不満を漏らさず、一生懸命に汗を流している。
朝晩はまだ肌寒さが残っているものの、日中はもうだいぶ過ごしやすい。運動をするにはもってこいの季節だ。
「何が奴らをあそこまで狩り立てるのか、俺には微塵も理解できんな」
春也が腰に手を当てて、グラウンドを見学し始めたからか、これまでボールを受けていた智希がいつの間にか横に立っていた。
「お前は理解する努力をしろよ」
「くだらん。そんな暇があれば姉さんのことを考える時間に使うべきだ」
「相変わらず智希はのぞねーちゃん一筋だな」
「当たり前だろう。この世界に他に何があると言うのだ」
「色々あると思うんだがな。例えば……まーねえちゃんとか?」
「なるほど一理あるな」
珍しく即座に頷いた親友に、春也は「おっ」と目を開く。
「ついに智希もまーねえちゃんの魅力に気付いたか」
「うむ。あの茶髪ヤンキーが隣にいれば姉さんの清廉さが一層際立つからな。引き立て役がいてこそ高まる魅力もある。フッ……この俺ともあろう者が貴様から教えを受けることになろうとはな」
「はっはっは、引き立て役はのぞねーちゃんの方だろ。いつもぐーたらしてるから、まーねえちゃんの元気さがよくわかるしな」
「……ほう? つまり貴様は俺に喧嘩を売ってるのか?」
「先に仕掛けてきたのは智希だろ」
「上等だ。表に出るがいい」
「おう」
「……2人とも、ここはすでに表なんだけど、どこに行こうとしてるのかな?」
剣呑な空気でも感じたのか、外野での守備練習を終えた晋悟がブルペンにやってきた。本職は中堅手だが、春也の控え投手も務めるので、恐らくは監督から投球練習に移れと指示されたのだろう。
「貴様は阿呆か。表といったら外に決まっているだろう」
眉間に皺を刻みながらしれっと言う智希に、晋悟は頬を引き攣らせる。
「意味はわかったけど、どうして練習中に学校から出ようとしてるのかな」
「貴様は阿呆か。姉さんに会いに行くからに決まっているだろう」
「晋悟も行くか? 最近、ゆーねえちゃんとちょこちょこ話したりしてるだろ」
「あれはそういう意味じゃなくてもっと……っていうより、どうして春也君まで智希君の悪巧みに乗ろうとしてるのかな!? いつもは止める側だよね!?」
「はっはっは、晋悟は本当にアホだな。智希にくっついていけば、脱走したのを止めるためだって責任を押しつけた上でまーねえちゃんに会いに行けるだろ」
「親友を生贄にするのは良くないよ!? いいから2人とも、大人しく練習に参加してくれないかな!? 問題を起こすと何故か僕が怒られるんだから!」
*
たまにコントみたいな真似もするが、春也は基本的に練習は真面目に行う。小学生時代を彷彿とさせる自己中心的な言動も鳴りを潜めているので、先輩後輩問わずにチームメイトからは厚く信頼されている。
不思議なもので、試合になればそうした絆が時折普段以上の実力を発揮させてくれたりする。
「先輩、ナイスプレー」
ライナーを横っ飛びで好捕した遊撃の3年生に、春也はグラブをぽふぽふ叩いてマウンドから称賛を贈る。
「おう! どんどん打たせていいぞ!」
返ってきたボールの感触を確かめる。試合だというだけで、なんだか神聖な雰囲気さえ感じてしまう。高揚感から自然と笑みが浮かんでは、相手に失礼だと慌てて引っ込める。それでも投げられる嬉しさは消えない。
お目当ての人物が応援に来ていないせいで、マスク越しに溜息をつく親友に苦笑しつつ、ほどよく力を抜いて振りかぶる。気合を入れすぎると力も必要以上に入り、球速が出ても打たれると過去の経験からわかっていた。
指先にかかった直球が、友人の構えたミットに吸い込まれていく。朝食に祖母がトンカツを作ってくれたからか、やたらと体がスムーズに動く。
「これでまーねえちゃんが見に来てくれてたら……って、だめだな。最近、思考回路が智希っぽくなってるような気がする」
グラブを脇に挟み、頬を軽く二度ほど叩く。大きく息を吐き、肺一杯に吸い込んでからスコアボードを見る。3対0でリード中。最終回で残すアウトは2つ。
「県を制覇したら次は東北大会だ。全国まで勝ち進んで俺の名前を轟かせてやる」
ニヤリとした春也だが、先を見過ぎてしまったのがよくなかった。あれだけ注意していたにもかかわらず、うっかりと指に力が入り過ぎた。
甲高い金属音に慌てて目で打球を追う。痛烈に左中間に伸びていく白球に思うことは1つ。
塁上を賑わせられるのは嫌なので、どうせならスタンドまでいってくれ――。
半ば願うように打球を見つめていると、視界の外から影がスッと入り込んだ。
「あれに追いつくのかよ……さすが晋悟だな」
飛び込んだりもせずにランニングキャッチした友人が、笑顔で掲げたボールを内野に戻す。審判のアウトコールが心地よくグラウンドに響いた。
「あと1つだ。さっさと終わらせて姉さんの元へ行くぞ!」
なんとも締まらない号令だが、智希という存在を十分に知っているチームメイトは笑顔で「おう」と答える。そこにはもちろん春也も含まれていた。
*
「誤算だったぜ……」
まだまだ夏真っ盛りの教室で、春也は自分の椅子をギイと鳴らす。呟きに合わせて、口に咥えているシャーペンがぶらぶらと上下に揺れる。
「今頃は全国大会で大暴れしてるはずだったのにな……」
本日、何度目かもわからない溜息をつく。夏の県大会で優勝し、東北大会まで駒を進めたのは良かったが、制覇するどころか全国への出場権を得る前に敗退してしまった。
春也ではなく引退した3年生投手が打たれたのが原因だが、責めるつもりはまったくない。どれだけ調子が良かろうと、またそれまでは練習試合などでどんなに抑えていた相手だったとしても、その日のコンディション次第でどうなるのかわからないのが一発勝負の怖いところだと十分承知していた。
「終わってしまった願望を噛み締めるより、課題のプリントを早く終わらせた方がいいわよ」
扇風機すらない教室。窓から入り込む風に髪の毛を押さえながら苦笑するのは、2年生になっても担任の女教師だ。
「芽衣先生は部活を見に行かなくていいのか? ここは俺1人でも十分だぞ」
「補習を受けてる人の台詞じゃないわね……」
笑みの苦み成分を濃くした女教師が、揉みほぐすように眉間を人差し指で押さえる。
「心配はありがたいけれど、うちの子たちは大丈夫よ。コンクールに向けてしっかりと練習を積んでいるわ」
「演劇部は去年、初めて賞を獲ったんだよな。姉ちゃんたちの時はてんでだめだったのに」
「穂月ちゃんたちはソフトボール部と兼任だったから、どうしても練習時間は少なかったもの。それに本気は本気だったのでしょうけど、他の部員は穂月ちゃんの遊びに付き合うという感覚が強かったからね」
いまだにソフトボールとは兼部を認めているみたいだが、姉が卒業してからは着実にその数を減らしているらしい。その代わりに純粋な演劇部員が増え、元々文科系だった芽衣も熱心に顧問中だ。
「ほら、お話はここまで。補習を終わらせれば部活にも行けるんだから、もう少しだけ頑張って」
「ちえっ、芽衣先生なら上手く誤魔化されてくれると思ったのにな」
「……先生、春也君の私への評価をじっくり聞きたくなってきたわ」
*
春也は体を動かすのは大好きだが、勉強は苦手という典型的な体育会系だ。これまでは晋悟の献身でテストを乗り切っていたが、中学も2年生になると授業もより難易度を増す。おかげで赤点を取ってしまった次第である。
本来なら部活禁止の沙汰が下ってもおかしくなかったが、野球部の主戦力ということで監督が各教師に必死に頭を下げ、中間テストの結果で決まった補習すら夏休みに回っていた。
そんな体たらくなので期末テストでも晋悟の頑張り空しく、赤点の数を増やした。家で報告したら母親と祖父は笑っていたが、父親と祖母は眦を吊り上げていた。
「なんで勉強なんてものがこの世にあるんだ……」
「人生を豊かにするためよ」
教卓の前で、勝手に借りた生徒の椅子に着席中の芽衣が微笑む。授業形式のマンツーマン指導だけなら問題ないのだが、その後に理解してるか判別するため行われるテストが春也を苦しめていた。
それもこれも普通に追試だけでは受からなかった春也に原因があるのだが。
「失礼します」
重苦しい空気が充満する教室に、ユニフォームとジャージ姿の男女が入ってきた。新主将に任命された晋悟と、マネージャーの要だった。
「2人ともどうしたの?」
「春也君が遅いので、監督に様子を見てくるように言われました」
女教師に事情を説明してから、春也の隣に晋悟が腰を下ろす。逆側には女マネージャーが陣取った。
「あんまり進んでないね、私がわかりやすく――」
「――春也君なら素直に公式を当てはめるより、こうして解いた方がいいかもしれないね」
「おお、さすが晋悟だな。芽衣先生よりわかりやすい」
「……さすがに聞き捨てならないわね」
こめかみをヒクつかせた女教師も起立し、面倒見の良い晋悟と一緒になって、改めて春也への指導が行われる。
ポンと手を叩いたままの恰好で動きを止めていた女マネージャーが、唇を尖らせて晋悟をキッと睨んだ。
「私……晋悟君嫌い……」
「えっ!? どうして!?」
「晋悟は女心がわからないからな」
「春也君には言われたくないんだけど!?」
「……皆、若いわね」
ワイワイと騒ぐ生徒たちに、女教師が眼鏡の奥で目を細める。
少しばかり和やかになった空気に感謝しつつ、春也は新チームの練習に早く参加するべく懸命にシャーペンを動かした。
「春も県大会でいいとこまでいけたし、先輩たちも張り切ってんな」
監督の厳しいノックにも不満を漏らさず、一生懸命に汗を流している。
朝晩はまだ肌寒さが残っているものの、日中はもうだいぶ過ごしやすい。運動をするにはもってこいの季節だ。
「何が奴らをあそこまで狩り立てるのか、俺には微塵も理解できんな」
春也が腰に手を当てて、グラウンドを見学し始めたからか、これまでボールを受けていた智希がいつの間にか横に立っていた。
「お前は理解する努力をしろよ」
「くだらん。そんな暇があれば姉さんのことを考える時間に使うべきだ」
「相変わらず智希はのぞねーちゃん一筋だな」
「当たり前だろう。この世界に他に何があると言うのだ」
「色々あると思うんだがな。例えば……まーねえちゃんとか?」
「なるほど一理あるな」
珍しく即座に頷いた親友に、春也は「おっ」と目を開く。
「ついに智希もまーねえちゃんの魅力に気付いたか」
「うむ。あの茶髪ヤンキーが隣にいれば姉さんの清廉さが一層際立つからな。引き立て役がいてこそ高まる魅力もある。フッ……この俺ともあろう者が貴様から教えを受けることになろうとはな」
「はっはっは、引き立て役はのぞねーちゃんの方だろ。いつもぐーたらしてるから、まーねえちゃんの元気さがよくわかるしな」
「……ほう? つまり貴様は俺に喧嘩を売ってるのか?」
「先に仕掛けてきたのは智希だろ」
「上等だ。表に出るがいい」
「おう」
「……2人とも、ここはすでに表なんだけど、どこに行こうとしてるのかな?」
剣呑な空気でも感じたのか、外野での守備練習を終えた晋悟がブルペンにやってきた。本職は中堅手だが、春也の控え投手も務めるので、恐らくは監督から投球練習に移れと指示されたのだろう。
「貴様は阿呆か。表といったら外に決まっているだろう」
眉間に皺を刻みながらしれっと言う智希に、晋悟は頬を引き攣らせる。
「意味はわかったけど、どうして練習中に学校から出ようとしてるのかな」
「貴様は阿呆か。姉さんに会いに行くからに決まっているだろう」
「晋悟も行くか? 最近、ゆーねえちゃんとちょこちょこ話したりしてるだろ」
「あれはそういう意味じゃなくてもっと……っていうより、どうして春也君まで智希君の悪巧みに乗ろうとしてるのかな!? いつもは止める側だよね!?」
「はっはっは、晋悟は本当にアホだな。智希にくっついていけば、脱走したのを止めるためだって責任を押しつけた上でまーねえちゃんに会いに行けるだろ」
「親友を生贄にするのは良くないよ!? いいから2人とも、大人しく練習に参加してくれないかな!? 問題を起こすと何故か僕が怒られるんだから!」
*
たまにコントみたいな真似もするが、春也は基本的に練習は真面目に行う。小学生時代を彷彿とさせる自己中心的な言動も鳴りを潜めているので、先輩後輩問わずにチームメイトからは厚く信頼されている。
不思議なもので、試合になればそうした絆が時折普段以上の実力を発揮させてくれたりする。
「先輩、ナイスプレー」
ライナーを横っ飛びで好捕した遊撃の3年生に、春也はグラブをぽふぽふ叩いてマウンドから称賛を贈る。
「おう! どんどん打たせていいぞ!」
返ってきたボールの感触を確かめる。試合だというだけで、なんだか神聖な雰囲気さえ感じてしまう。高揚感から自然と笑みが浮かんでは、相手に失礼だと慌てて引っ込める。それでも投げられる嬉しさは消えない。
お目当ての人物が応援に来ていないせいで、マスク越しに溜息をつく親友に苦笑しつつ、ほどよく力を抜いて振りかぶる。気合を入れすぎると力も必要以上に入り、球速が出ても打たれると過去の経験からわかっていた。
指先にかかった直球が、友人の構えたミットに吸い込まれていく。朝食に祖母がトンカツを作ってくれたからか、やたらと体がスムーズに動く。
「これでまーねえちゃんが見に来てくれてたら……って、だめだな。最近、思考回路が智希っぽくなってるような気がする」
グラブを脇に挟み、頬を軽く二度ほど叩く。大きく息を吐き、肺一杯に吸い込んでからスコアボードを見る。3対0でリード中。最終回で残すアウトは2つ。
「県を制覇したら次は東北大会だ。全国まで勝ち進んで俺の名前を轟かせてやる」
ニヤリとした春也だが、先を見過ぎてしまったのがよくなかった。あれだけ注意していたにもかかわらず、うっかりと指に力が入り過ぎた。
甲高い金属音に慌てて目で打球を追う。痛烈に左中間に伸びていく白球に思うことは1つ。
塁上を賑わせられるのは嫌なので、どうせならスタンドまでいってくれ――。
半ば願うように打球を見つめていると、視界の外から影がスッと入り込んだ。
「あれに追いつくのかよ……さすが晋悟だな」
飛び込んだりもせずにランニングキャッチした友人が、笑顔で掲げたボールを内野に戻す。審判のアウトコールが心地よくグラウンドに響いた。
「あと1つだ。さっさと終わらせて姉さんの元へ行くぞ!」
なんとも締まらない号令だが、智希という存在を十分に知っているチームメイトは笑顔で「おう」と答える。そこにはもちろん春也も含まれていた。
*
「誤算だったぜ……」
まだまだ夏真っ盛りの教室で、春也は自分の椅子をギイと鳴らす。呟きに合わせて、口に咥えているシャーペンがぶらぶらと上下に揺れる。
「今頃は全国大会で大暴れしてるはずだったのにな……」
本日、何度目かもわからない溜息をつく。夏の県大会で優勝し、東北大会まで駒を進めたのは良かったが、制覇するどころか全国への出場権を得る前に敗退してしまった。
春也ではなく引退した3年生投手が打たれたのが原因だが、責めるつもりはまったくない。どれだけ調子が良かろうと、またそれまでは練習試合などでどんなに抑えていた相手だったとしても、その日のコンディション次第でどうなるのかわからないのが一発勝負の怖いところだと十分承知していた。
「終わってしまった願望を噛み締めるより、課題のプリントを早く終わらせた方がいいわよ」
扇風機すらない教室。窓から入り込む風に髪の毛を押さえながら苦笑するのは、2年生になっても担任の女教師だ。
「芽衣先生は部活を見に行かなくていいのか? ここは俺1人でも十分だぞ」
「補習を受けてる人の台詞じゃないわね……」
笑みの苦み成分を濃くした女教師が、揉みほぐすように眉間を人差し指で押さえる。
「心配はありがたいけれど、うちの子たちは大丈夫よ。コンクールに向けてしっかりと練習を積んでいるわ」
「演劇部は去年、初めて賞を獲ったんだよな。姉ちゃんたちの時はてんでだめだったのに」
「穂月ちゃんたちはソフトボール部と兼任だったから、どうしても練習時間は少なかったもの。それに本気は本気だったのでしょうけど、他の部員は穂月ちゃんの遊びに付き合うという感覚が強かったからね」
いまだにソフトボールとは兼部を認めているみたいだが、姉が卒業してからは着実にその数を減らしているらしい。その代わりに純粋な演劇部員が増え、元々文科系だった芽衣も熱心に顧問中だ。
「ほら、お話はここまで。補習を終わらせれば部活にも行けるんだから、もう少しだけ頑張って」
「ちえっ、芽衣先生なら上手く誤魔化されてくれると思ったのにな」
「……先生、春也君の私への評価をじっくり聞きたくなってきたわ」
*
春也は体を動かすのは大好きだが、勉強は苦手という典型的な体育会系だ。これまでは晋悟の献身でテストを乗り切っていたが、中学も2年生になると授業もより難易度を増す。おかげで赤点を取ってしまった次第である。
本来なら部活禁止の沙汰が下ってもおかしくなかったが、野球部の主戦力ということで監督が各教師に必死に頭を下げ、中間テストの結果で決まった補習すら夏休みに回っていた。
そんな体たらくなので期末テストでも晋悟の頑張り空しく、赤点の数を増やした。家で報告したら母親と祖父は笑っていたが、父親と祖母は眦を吊り上げていた。
「なんで勉強なんてものがこの世にあるんだ……」
「人生を豊かにするためよ」
教卓の前で、勝手に借りた生徒の椅子に着席中の芽衣が微笑む。授業形式のマンツーマン指導だけなら問題ないのだが、その後に理解してるか判別するため行われるテストが春也を苦しめていた。
それもこれも普通に追試だけでは受からなかった春也に原因があるのだが。
「失礼します」
重苦しい空気が充満する教室に、ユニフォームとジャージ姿の男女が入ってきた。新主将に任命された晋悟と、マネージャーの要だった。
「2人ともどうしたの?」
「春也君が遅いので、監督に様子を見てくるように言われました」
女教師に事情を説明してから、春也の隣に晋悟が腰を下ろす。逆側には女マネージャーが陣取った。
「あんまり進んでないね、私がわかりやすく――」
「――春也君なら素直に公式を当てはめるより、こうして解いた方がいいかもしれないね」
「おお、さすが晋悟だな。芽衣先生よりわかりやすい」
「……さすがに聞き捨てならないわね」
こめかみをヒクつかせた女教師も起立し、面倒見の良い晋悟と一緒になって、改めて春也への指導が行われる。
ポンと手を叩いたままの恰好で動きを止めていた女マネージャーが、唇を尖らせて晋悟をキッと睨んだ。
「私……晋悟君嫌い……」
「えっ!? どうして!?」
「晋悟は女心がわからないからな」
「春也君には言われたくないんだけど!?」
「……皆、若いわね」
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