470 / 495
春也の高校編
甲子園出場の副産物!? 予期せぬ人気はともかく可愛い嫉妬にニマニマが止まりません!?
しおりを挟む
欠伸をしながら、夏休み明けの高校に登校した春也を出迎えたのは、鼓膜が破れそうになるくらいの黄色い声だった。
「有名芸能人でも来てるのか?」
さすがに驚いた春也が周囲を見渡すも、それらしき人物は見当たらない。校門前に立っているのは、待ち合わせて一緒に登校中のいつもの友人2人くらいだ。
「多分だけど、お目当ては春也君じゃないかな」
「は? 俺?」
小学生の頃から智希ほどでなくとも、女子からキャーキャー言われてきた春也だが、うねる波のごとき量を浴びたのは初めてだった。
「智希と間違えてるんじゃないのか」
「少なからず入ってそうだけど、メインは春也君だと思うよ。1年生ながら甲子園にレギュラーで出場して、ヒットを打って、8回からは矢島先輩の後を引き継いで見事に敵の攻撃を抑えたし」
「そんなの練習試合とかでもあったろ」
晋悟の説明に、春也は片眉を上げて怪訝さを強くする。熱心な野球ファンかどうかは知らないが、一部の女子生徒は休日の練習試合に顔を出していた。この時ばかりは普段立ち入り禁止の外野スタンドの芝生スペースが一般開放されるのだ。
「甲子園は特別だからね、全国放送してるし。あと戻ってきたあとで、練習試合をしてないのも大きいんじゃないかな」
部員の疲労を少し抜いた後は、秋の大会を目指して合宿などキツめの練習メニューに取り組んでいた。おかげでまた少し体が大きくなった春也である。
「確かに見慣れない制服があるな」
細い道路を抜ければ大通りに面しているが、近くにある建物の陰からも視線を感じる。智希の指摘通り、他校の女子生徒までいるみたいだった。
「智希君も代打で活躍したし、一目みたいと思う女子が多かったんじゃないかな」
「そうは言っても一回戦負けだし、そもそも活躍度合いでいったら最後に力尽きたとはいっても、頑張って投げてた逆恨み先輩の方が凄いだろ」
「いやいやいや、そんなことはないとも」
やたらと気取った声が聞こえたと思ったら、伸ばし始めた髪を指で掻き上げる振りをしながら、噂の本人が歩いてきた。まだまだボーズ頭なのでまったく似合っていないのだが、何故か周囲の女子が手を取り合って甲高い声を発する。
「野球は1人じゃできないからな。俺があそこまで投げられたのも、高木というチームメイトが後ろにいてくれたからさ!」
「……なんか悪いもんでも食ったんスか、つーか食ってるスよね、吐き出した方がいいっスよ」
「手遅れだ。すでに慢心という毒薬は、奴の胃の中で消化されてしまった」
「おお、智希、詩人みたいだな」
「この場合は中二病っぽいのが正解だと思うけど」
普段ならここらでツッコミが入りそうなものだが、悦に浸っている感じの矢島は苛々した様子を見せず朗らかに笑っている。
「はっきり言ってキモいな」
「元からこの程度だったと記憶してるが」
「はっはっは、2人とも手厳しいな、はっはっは」
もはや処置なしと春也が智希と同時に肩を竦めていると、遠巻きに見ていた女子生徒が作りつつあった輪を、1人の女性が突き破るように歩いてきた。
「マネージャーじゃん、おっす」
「春也君、おはよう。智希君と晋悟君も。3人とも普段から人気だから、こんな時でも平常心なのは凄いよね、憧れちゃうな、恰好いいな」
頬に手を当て、軽く首を傾げる要。記憶にある彼女にはあまり似つかわしくない仕草は、とてもわざとらしく感じた。
だからこそ春也もどもり気味に返事をしたのだが、それ以上に露骨な反応を示す人間がいた。急な人気に浮かれまくっていた矢島だ。
「おい、ちょっと待て、今のはどういう意味だよ」
「他の女に目移りしまくってる先輩には関係ないでしょ!」
一息で吐き捨てた要は、目を吊り上げるなりしなやかな健脚で矢島にローキックを見舞った。
「うお、いい音鳴ったな」
「御子柴さんも部活中は練習を補佐するために走り回ってるからね。昔から継続してるし、筋肉がついてても不思議じゃないよ」
晋悟が春也の感想に頷いている間に、焦り顔の矢島が要の肩に手を伸ばしては荒々しく振り払われる光景が展開される。
「それに今のってもしかして……」
「多分、春也君の推測通りなんじゃないかな」
春也一筋だと公言していた女マネージャーも、いつの間にか吹っ切っていい人を見つけていたようである。
「こんなことなら春也君にずっと片想いしてる方がマシだったわ!」
「悪かったって、おい、要!」
その恋が数秒後には終わっていないように、春也としては祈るばかりだった。そして痛感する。男が天狗になると、大体碌な目にあわないと。
*
夜に来客が訪れたので食事を終えていた春也が応対すると、ドアホンにはいつになくおめかしした陽向が映っていた。
春也は驚きながらもすぐに自室へ案内する。冷蔵庫にあったスポーツドリンクをグラスに入れて出し、母親が店から持ってきた売れ残りのパンもテーブルに並べておく。
「なんか……まーねえちゃんがそんな恰好してると新鮮だな」
どちらかといえばパンツルックを好むのが陽向だ。スカートはほとんど学校の制服でしか見たことがなかった。それなのに今夜は薄いブルーのワンピースに、カーディガンを羽織ったお嬢様っぽい服装をしている。
「俺に会うため……とか? ヤバい、可愛すぎて惚れ直した」
「そ、そんなことねえけど……ま、褒めたいなら褒められてやってもいいぞ」
プイと横を向いた陽向は鼻梁まで真っ赤にしていた。褒め言葉一つでこんなにも照れてくれるのだから、春也にすれば無尽蔵に送りたくなってしまう。
「けど、どうしたんだ? わざわざこっちに戻ってくるなんて」
寮生活中とはいえ大学生なので、そこまでガチガチの規則で縛られているわけではないみたいだが、ソフトボール部にも所属しているので同級生ほど自由に身動きできないのである。
「別に? 俺が来たらなんかマズいことでもあるのかよ」
何の脈絡もなく機嫌を急降下させた陽向に、春也はあれ、と首を捻る。
「俺は全然嬉しいぞ、毎日まーねえちゃんの顔が見たいからな」
「そ、そうか、そうだよな、そうだと思ってたんだよ」
今度は急に上機嫌になる。春也が何かあったのかと訝るのも当然だった。
「さてはまたゆーねえちゃんあたりにあれこれ吹き込まれたんだろ」
「そんなわけねえし!? 俺は年上らしく常にドンと構えてるし!? 春也が学校でチヤホヤされてるからって気にしてねえからな!」
「おう、まーねえちゃんと真っ先に交際できたのが俺で良かったわ。放っておいたら悪い男に騙されまくってたわ、これ」
「人をチョロい女扱いすんな!」
「だってまーねえちゃん、さすがにわかりやすすぎるだろ。ま、そういう嫉妬の方が可愛いのは確かだし、抱き締めてやりたくなったけどな」
ニッとしつつ言うと、噴火したように恋人が耳まで真っ赤にした。
「またあっさりそういうことを……」
「なんか祖父ちゃんの血らしいぞ。前に祖母ちゃんが言ってた」
「ろくなもんじゃねえな」
「嬉しくなかったのか?」
「そ、そんなことを女に言わせるなよ!」
赤面したまま声を荒げると、今度は俯いてもじもじし始める。なんという可愛い生物かと、春也はにまにまが止まらない。
「いやー、まーねえちゃんが嫉妬して、俺の気を引こうとわざわざおめかししてまで夜に会いに来てくれるなんてな。彼氏冥利に尽きるよな。もっと素直に甘えてもいいんだぜ」
「……帰る」
無表情になって立ち上がった陽向に、からかいすぎたかと大慌てする春也。
「待ってくれって。せっかく会えたんだからもうちょっと話もしたいし……って帰りどうすんだ? こっちから中央の終電なんてとっくになくなってるだろ。もしかして車で来たとか? あ、わかった! 俺の部屋に泊って――」
「――いくわけねえだろうが! 自分の家に帰るんだよ!」
「だったら、余計にもうちょっと話そうって。もうからかったりしないから!」
「嘘だったら、二度と慰めてやらねえからな」
「うっ……」
甲子園で負けたあとの一幕を思い出し、春也は顔面を蒼白にして言葉に詰まる。これに勝機を見出したのが、防戦一方だった陽向である。
「子供みたいに泣いてな、あの時の春也は可愛かったよな」
「……帰る」
「おいおい、どこにだよ。お前の家はここだろ。優しいお姉さんが、お望み通りもっとお話してやるから座ってろって。なんならいい子いい子してやろうか?」
「それはちょっと興味が……じゃなくて! ちくしょう、高校生になった俺があっさり負けると思うなよ」
などと言ってはいたが、子供の頃から陽向にお世話になりまくっている春也である。昔の思い出を持ち出されれば、敵うはずがないのだった。
*
「そんなわけで昨夜は散々な目にあったぜ……」
「その割には今朝もまだニヤニヤしてるけどね」
教室で自分の椅子に座るなり、溜息混じりに説明した春也を、晋悟がどこか微笑ましそうに見てくる。
「昨日の御子柴さんもそうだけど、春也君も高校生っぽい青春を送ってるよね」
そう言って晋悟が視線を向けたのは、春也のスマホだった。他の女性に気を持たせないために、待ち受け画像を昨夜撮影したばかりのツーショットに変更していた。
「これだけじゃスマホを見せないとわからないから、バッグにはお揃いのキーホルダーとかもつけてある」
「でも陽向お姉さんの好みは男性っぽいのも多いから、パッと見は彼女とお揃いだとは思えないよな」
「だとすると、まーねえちゃんが前に南高校で使ってたジャージでも借りてくるか。それならさすがにわかるだろ」
「サイズが合えばの話だけどね」
女性にしては体格が良い方の陽向も、成長期真っ盛りの春也と比べると小柄に見えてしまう。
「貴様は阿呆か」
黙って話を聞いていた智希が、ここでお決まりのフレーズとともに参戦してきた。
「自作のプロマイドなどを所有物すべてに貼ればいいだろうが」
「それだ! やっぱりお前、天才だな」
「どうして春也君は乗り気になるのかな!? 確実に陽向お姉さんは嫌がると思うから止めた方がいいと思うな!」
晋悟だけでなく、途中から会話に加わったマネージャーからも強く制止され、さすがに諦めた春也だったが、この時の様子が徐々にファンらしき女子生徒たちに伝わって、騒動は収束の兆しを見せ始めた。
「有名芸能人でも来てるのか?」
さすがに驚いた春也が周囲を見渡すも、それらしき人物は見当たらない。校門前に立っているのは、待ち合わせて一緒に登校中のいつもの友人2人くらいだ。
「多分だけど、お目当ては春也君じゃないかな」
「は? 俺?」
小学生の頃から智希ほどでなくとも、女子からキャーキャー言われてきた春也だが、うねる波のごとき量を浴びたのは初めてだった。
「智希と間違えてるんじゃないのか」
「少なからず入ってそうだけど、メインは春也君だと思うよ。1年生ながら甲子園にレギュラーで出場して、ヒットを打って、8回からは矢島先輩の後を引き継いで見事に敵の攻撃を抑えたし」
「そんなの練習試合とかでもあったろ」
晋悟の説明に、春也は片眉を上げて怪訝さを強くする。熱心な野球ファンかどうかは知らないが、一部の女子生徒は休日の練習試合に顔を出していた。この時ばかりは普段立ち入り禁止の外野スタンドの芝生スペースが一般開放されるのだ。
「甲子園は特別だからね、全国放送してるし。あと戻ってきたあとで、練習試合をしてないのも大きいんじゃないかな」
部員の疲労を少し抜いた後は、秋の大会を目指して合宿などキツめの練習メニューに取り組んでいた。おかげでまた少し体が大きくなった春也である。
「確かに見慣れない制服があるな」
細い道路を抜ければ大通りに面しているが、近くにある建物の陰からも視線を感じる。智希の指摘通り、他校の女子生徒までいるみたいだった。
「智希君も代打で活躍したし、一目みたいと思う女子が多かったんじゃないかな」
「そうは言っても一回戦負けだし、そもそも活躍度合いでいったら最後に力尽きたとはいっても、頑張って投げてた逆恨み先輩の方が凄いだろ」
「いやいやいや、そんなことはないとも」
やたらと気取った声が聞こえたと思ったら、伸ばし始めた髪を指で掻き上げる振りをしながら、噂の本人が歩いてきた。まだまだボーズ頭なのでまったく似合っていないのだが、何故か周囲の女子が手を取り合って甲高い声を発する。
「野球は1人じゃできないからな。俺があそこまで投げられたのも、高木というチームメイトが後ろにいてくれたからさ!」
「……なんか悪いもんでも食ったんスか、つーか食ってるスよね、吐き出した方がいいっスよ」
「手遅れだ。すでに慢心という毒薬は、奴の胃の中で消化されてしまった」
「おお、智希、詩人みたいだな」
「この場合は中二病っぽいのが正解だと思うけど」
普段ならここらでツッコミが入りそうなものだが、悦に浸っている感じの矢島は苛々した様子を見せず朗らかに笑っている。
「はっきり言ってキモいな」
「元からこの程度だったと記憶してるが」
「はっはっは、2人とも手厳しいな、はっはっは」
もはや処置なしと春也が智希と同時に肩を竦めていると、遠巻きに見ていた女子生徒が作りつつあった輪を、1人の女性が突き破るように歩いてきた。
「マネージャーじゃん、おっす」
「春也君、おはよう。智希君と晋悟君も。3人とも普段から人気だから、こんな時でも平常心なのは凄いよね、憧れちゃうな、恰好いいな」
頬に手を当て、軽く首を傾げる要。記憶にある彼女にはあまり似つかわしくない仕草は、とてもわざとらしく感じた。
だからこそ春也もどもり気味に返事をしたのだが、それ以上に露骨な反応を示す人間がいた。急な人気に浮かれまくっていた矢島だ。
「おい、ちょっと待て、今のはどういう意味だよ」
「他の女に目移りしまくってる先輩には関係ないでしょ!」
一息で吐き捨てた要は、目を吊り上げるなりしなやかな健脚で矢島にローキックを見舞った。
「うお、いい音鳴ったな」
「御子柴さんも部活中は練習を補佐するために走り回ってるからね。昔から継続してるし、筋肉がついてても不思議じゃないよ」
晋悟が春也の感想に頷いている間に、焦り顔の矢島が要の肩に手を伸ばしては荒々しく振り払われる光景が展開される。
「それに今のってもしかして……」
「多分、春也君の推測通りなんじゃないかな」
春也一筋だと公言していた女マネージャーも、いつの間にか吹っ切っていい人を見つけていたようである。
「こんなことなら春也君にずっと片想いしてる方がマシだったわ!」
「悪かったって、おい、要!」
その恋が数秒後には終わっていないように、春也としては祈るばかりだった。そして痛感する。男が天狗になると、大体碌な目にあわないと。
*
夜に来客が訪れたので食事を終えていた春也が応対すると、ドアホンにはいつになくおめかしした陽向が映っていた。
春也は驚きながらもすぐに自室へ案内する。冷蔵庫にあったスポーツドリンクをグラスに入れて出し、母親が店から持ってきた売れ残りのパンもテーブルに並べておく。
「なんか……まーねえちゃんがそんな恰好してると新鮮だな」
どちらかといえばパンツルックを好むのが陽向だ。スカートはほとんど学校の制服でしか見たことがなかった。それなのに今夜は薄いブルーのワンピースに、カーディガンを羽織ったお嬢様っぽい服装をしている。
「俺に会うため……とか? ヤバい、可愛すぎて惚れ直した」
「そ、そんなことねえけど……ま、褒めたいなら褒められてやってもいいぞ」
プイと横を向いた陽向は鼻梁まで真っ赤にしていた。褒め言葉一つでこんなにも照れてくれるのだから、春也にすれば無尽蔵に送りたくなってしまう。
「けど、どうしたんだ? わざわざこっちに戻ってくるなんて」
寮生活中とはいえ大学生なので、そこまでガチガチの規則で縛られているわけではないみたいだが、ソフトボール部にも所属しているので同級生ほど自由に身動きできないのである。
「別に? 俺が来たらなんかマズいことでもあるのかよ」
何の脈絡もなく機嫌を急降下させた陽向に、春也はあれ、と首を捻る。
「俺は全然嬉しいぞ、毎日まーねえちゃんの顔が見たいからな」
「そ、そうか、そうだよな、そうだと思ってたんだよ」
今度は急に上機嫌になる。春也が何かあったのかと訝るのも当然だった。
「さてはまたゆーねえちゃんあたりにあれこれ吹き込まれたんだろ」
「そんなわけねえし!? 俺は年上らしく常にドンと構えてるし!? 春也が学校でチヤホヤされてるからって気にしてねえからな!」
「おう、まーねえちゃんと真っ先に交際できたのが俺で良かったわ。放っておいたら悪い男に騙されまくってたわ、これ」
「人をチョロい女扱いすんな!」
「だってまーねえちゃん、さすがにわかりやすすぎるだろ。ま、そういう嫉妬の方が可愛いのは確かだし、抱き締めてやりたくなったけどな」
ニッとしつつ言うと、噴火したように恋人が耳まで真っ赤にした。
「またあっさりそういうことを……」
「なんか祖父ちゃんの血らしいぞ。前に祖母ちゃんが言ってた」
「ろくなもんじゃねえな」
「嬉しくなかったのか?」
「そ、そんなことを女に言わせるなよ!」
赤面したまま声を荒げると、今度は俯いてもじもじし始める。なんという可愛い生物かと、春也はにまにまが止まらない。
「いやー、まーねえちゃんが嫉妬して、俺の気を引こうとわざわざおめかししてまで夜に会いに来てくれるなんてな。彼氏冥利に尽きるよな。もっと素直に甘えてもいいんだぜ」
「……帰る」
無表情になって立ち上がった陽向に、からかいすぎたかと大慌てする春也。
「待ってくれって。せっかく会えたんだからもうちょっと話もしたいし……って帰りどうすんだ? こっちから中央の終電なんてとっくになくなってるだろ。もしかして車で来たとか? あ、わかった! 俺の部屋に泊って――」
「――いくわけねえだろうが! 自分の家に帰るんだよ!」
「だったら、余計にもうちょっと話そうって。もうからかったりしないから!」
「嘘だったら、二度と慰めてやらねえからな」
「うっ……」
甲子園で負けたあとの一幕を思い出し、春也は顔面を蒼白にして言葉に詰まる。これに勝機を見出したのが、防戦一方だった陽向である。
「子供みたいに泣いてな、あの時の春也は可愛かったよな」
「……帰る」
「おいおい、どこにだよ。お前の家はここだろ。優しいお姉さんが、お望み通りもっとお話してやるから座ってろって。なんならいい子いい子してやろうか?」
「それはちょっと興味が……じゃなくて! ちくしょう、高校生になった俺があっさり負けると思うなよ」
などと言ってはいたが、子供の頃から陽向にお世話になりまくっている春也である。昔の思い出を持ち出されれば、敵うはずがないのだった。
*
「そんなわけで昨夜は散々な目にあったぜ……」
「その割には今朝もまだニヤニヤしてるけどね」
教室で自分の椅子に座るなり、溜息混じりに説明した春也を、晋悟がどこか微笑ましそうに見てくる。
「昨日の御子柴さんもそうだけど、春也君も高校生っぽい青春を送ってるよね」
そう言って晋悟が視線を向けたのは、春也のスマホだった。他の女性に気を持たせないために、待ち受け画像を昨夜撮影したばかりのツーショットに変更していた。
「これだけじゃスマホを見せないとわからないから、バッグにはお揃いのキーホルダーとかもつけてある」
「でも陽向お姉さんの好みは男性っぽいのも多いから、パッと見は彼女とお揃いだとは思えないよな」
「だとすると、まーねえちゃんが前に南高校で使ってたジャージでも借りてくるか。それならさすがにわかるだろ」
「サイズが合えばの話だけどね」
女性にしては体格が良い方の陽向も、成長期真っ盛りの春也と比べると小柄に見えてしまう。
「貴様は阿呆か」
黙って話を聞いていた智希が、ここでお決まりのフレーズとともに参戦してきた。
「自作のプロマイドなどを所有物すべてに貼ればいいだろうが」
「それだ! やっぱりお前、天才だな」
「どうして春也君は乗り気になるのかな!? 確実に陽向お姉さんは嫌がると思うから止めた方がいいと思うな!」
晋悟だけでなく、途中から会話に加わったマネージャーからも強く制止され、さすがに諦めた春也だったが、この時の様子が徐々にファンらしき女子生徒たちに伝わって、騒動は収束の兆しを見せ始めた。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。
その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。
全7話
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
会社員の青年と清掃員の老婆の超越した愛
MisakiNonagase
恋愛
二十六歳のレンが働くオフィスビルには、清掃員として七十歳のカズコも従事している。カズコは愛嬌のある笑顔と真面目な仕事ぶりで誰からも好かれていた。ある日の仕事帰りにレンがよく行く立ち飲み屋に入ると、カズコもいた。清掃員の青い作業服姿しか見たことのなかったレンは、ごく普通の装いだったがカズコの姿が輝いて見えた。それから少しづつ話すようになり、二人は年の差を越えて恋を育んでいくストーリーです。不倫は情事かもしれないが、この二人には情状という言葉がふさわしい。
学園のアイドルに、俺の部屋のギャル地縛霊がちょっかいを出すから話がややこしくなる。
たかなしポン太
青春
【第1回ノベルピアWEB小説コンテスト中間選考通過作品】
『み、見えるの?』
「見えるかと言われると……ギリ見えない……」
『ふぇっ? ちょっ、ちょっと! どこ見てんのよ!』
◆◆◆
仏教系学園の高校に通う霊能者、尚也。
劣悪な環境での寮生活を1年間終えたあと、2年生から念願のアパート暮らしを始めることになった。
ところが入居予定のアパートの部屋に行ってみると……そこにはセーラー服を着たギャル地縛霊、りんが住み着いていた。
後悔の念が強すぎて、この世に魂が残ってしまったりん。
尚也はそんなりんを無事に成仏させるため、りんと共同生活をすることを決意する。
また新学期の学校では、尚也は学園のアイドルこと花宮琴葉と同じクラスで席も近くなった。
尚也は1年生の時、たまたま琴葉が困っていた時に助けてあげたことがあるのだが……
霊能者の尚也、ギャル地縛霊のりん、学園のアイドル琴葉。
3人とその仲間たちが繰り広げる、ちょっと不思議な日常。
愉快で甘くて、ちょっと切ない、ライトファンタジーなラブコメディー!
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる