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春也の高校編
朱華の卒業……の余韻に浸る暇もなく、春也は大会に全力を注ぎます
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朱華の卒業を祝う会が、気付けば春也の激励会に変わっていた。春の甲子園はもう目の前なので、不思議に思うでもなく素直に受け入れる。
いつものスーパー前で行われるような大層なものではなく、あくまで家族や近しい知り合いしかいないのでずいぶんと気は楽だった。
「いつもほっちゃんの後ろを走り回ってた春也が、こんなに立派な男の子になるなんてね」
「あーねえちゃんだって、もう立派な大人じゃねえか。子供の頃から同じ年齢の奴よりお姉さんぽかったりするけど」
「ありがと。フフ、今からでも、そのお姉さんに乗り換えてみる?」
「ハッハッハ、ずいぶんと楽しそうな会話をしてるな。俺も混ぜてくれよ」
グイと春也と朱華の間に体を入れてきたのは、見事に笑みを引き攣らせている陽向だった。
「あら、まーたん。年頃の男女の会話を邪魔するなんて無粋ね」
「な……! まさか本当に……」
「あーねえちゃん、そこまでだ。まーねえちゃんが本気にしてショック受けてる。ただでさえあーねえちゃんに懐いてるんだから、泣きながら身を引くとか言いかねないぞ」
「……それはねえよ」
そっぽを向き、唇を尖らせ、それでも陽向は断言した。普段よりも口調がぶっきらぼうに感じられるのは、きっと照れているせいだろう。
「あーちゃんだろうと譲るつもりはねえよ。奪われたとしても奪い返すしな」
「うわ、怖い。実は相当なやきもち焼きで、束縛するタイプかもしれないわよ」
「かもじゃなくて実際そうだな。他の女と話してたって聞くだけで、超不機嫌になってるし。本人はバレてないと思って、余裕ぶってるけど」
またしてもからかわれていると察して、陽向が耳まで赤くする。ここまでは春也の想定通りだったが、反撃はその範疇に収まらなかった。
「……春也には1年間ご褒美禁止な」
「ちょ……! それはさすがに大人げねえよ! 俺にこの1年、何を楽しみにして生きろって言うんだよ」
「甲子園で活躍することをだよ! 大事な大会前に邪念ばっか膨らませてんじゃねえぞ!」
「まーたん厳しいわね。お姉さんに乗り換えたら、代わりにご褒美あげるわよ」
冗談だと知りつつも、春也は朱華に合わせて誘いに乗ってみる。
「マジで? じゃあちょっと試しに……」
「待て待て待て! 解禁する! もう解禁したから!」
「よっしゃ、ご褒美の約束ゲットだぜ!」
大喜びする春也を見て、ようやく陽向は罠にかけられたと理解する。
「ちくしょう、卑怯だぞ!」
「それだけまーねえちゃんからご褒美が貰いたいんだよ。とりあえず今日は……」
「毎日だなんて言ってねえぞ! おい、抱き着こうとすんな!」
春也と陽向のじゃれ合いを、朱華が楽しそうに見つめる。
「2人とも本当にお似合いよ。
まあ、晋悟とゆーちゃんもだけど」
穂月の隣を確保するのに余念がない悠里に命じられ、晋悟はせっせと彼女のためにお皿へ料理を盛りつけている。どことなく楽しそうなのは、なんだかんだ言いながらも他人の世話をするのが好きな晋悟らしかった。
「姉ちゃんと智希は……よくわからねえな。のぞねーちゃんの代役に選んだのかと思いきや、そうでもないみたいだし」
「あら、智希なら昔からずっとほっちゃん一筋だったじゃない」
「そうなのか!?」
朱華から明かされた衝撃の事実に、春也は目を剥いた。
「最初はライバル心みたいなもので始まって、次第に尊敬とか憧れの感情に変化して、そこから愛情に変わったみたいね。あくまでも私の見てきた印象に過ぎないから、絶対に合ってるかと言われても困るんだけど」
「ハッ、あーちゃんの推測かよ、それじゃ――」
「ちなみにまーたんの場合は、最初は子分の面倒を見る親分的な感じで、そこから弟みたいな関係になって、春也が成長するのに合わせて少しずつ男っぽくなる仕草に――」
「わかった! わかりました! あーちゃんの見立てはかなり正確だから、もう勘弁してくれ!」
友人の姉に泣きつく恋人を見て、春也は思った。
「まーねえちゃんって、一生あーねえちゃんに勝てそうにねえな」
「そこは小さい頃のままね。成長するにつれて変わる関係も多いけど、皆とはずっと同じ。それが何より嬉しいかな」
はにかむ朱華に、陽向が恥ずかしげに相変わらず茶色のショートヘアを、ガシガシと掻き毟った。
「……これからだってずっと変わんねえよ」
「フフ、そうね」
話が一段落したところで、春也はずっと気になっていた質問を朱華にする。
「そういや、あーねえちゃんって卒業したらどうすんだ?」
「秘密よ。女は謎を多く抱えてた方がミステリアスでしょ」
内緒とばかりに唇へ人差し指を当てる朱華。
「あーねえちゃんは一体何を目指してるんだよ」
大人なのか子供なのかわからない仕草に呆れつつも、春也はなんとなく友人の姉の進路がわかったような気がした。
*
大型バスで県中央まで揺られ、そこから新幹線で甲子園を目指す。宿舎に到着して地元より暖かい気候に体を慣れさせつつ、指定された日時に甲子園で練習する。それだけで戻ってきた気分になり、弥が上にも春也は高揚を覚えた。
大会前から気合が入り過ぎないように苦労するかと思いきや、地元のメディア以外からも取材されたりでそんな暇はなかった。
そして迎えた試合当日。
全員で応援に来てくれた南高校の関係者。大きな歓声が木霊させる一団の中には、大好きな恋人も駆け付けてくれていた。隣には大学を卒業したばかりの朱華だけでなく、穂月たちも勢揃いしていた。
「両親もいるじゃねえか。店は本当に大丈夫なんだろうな」
「そこら辺は好美さんが目を光らせてるだろうから問題ないだろう。そもそも俺たちの甲子園出場が決まった時点で、こうなるのを見越して専用のシフトを用意してそうだからな」
投球練習前に様子を見に来た智希が、春也の呟きを拾って言葉を返してきた。安心させるというよりは、単に事実を述べただけだが。
「こういう時には必ずいた祖父ちゃんと祖母ちゃんの姿がないのは、ちょっとだけ残念だけどな」
「それこそ葉月さんたちを送り出すために残ってくれてるからな。また店で常連客と一緒に、テレビの前から声援を送ってくれるだろう」
「だな。それにあの2人は他の家族がいないのを幸いに、心置きなくイチャイチャしてそうだし」
「いつまでも変わらず仲が良いというのは素晴らしいことだ」
「ウチの両親も理想だって目を輝かせてたよ」
「うむ。俺と穂月さんと姉さんもそうありたいものだ」
「へえ」
「変な顔をして、どうかしたのか」
「いや、何でもないから気にすんな」
ポジションへ戻る智希の背中を見て、春也は笑う。親友が大好きな自分の姉よりも、先に穂月の名前を出して仲良くありたいと願ってくれたことが嬉しくて。
*
1回戦と2回戦は春也が完投し、3回戦からは負担軽減のため晋悟の登板も増えた。さほど打線の強いチームではないが、南高校は専門雑誌でも評価されるほど守備力を鍛え上げていた。それは春也という絶対的エースを中心に勝ちあがるための最良の手段でもあった。
ランナーがでれば送りバントで先の塁へ進ませ、得点機会を増やすことに重点を置く。中でも最高の得点パターンは1番の晋悟が出塁して、盗塁か2番打者の送りバント、そこから3番の春也と4番の智希のバットでホームに返す。
そうして1点ずつ積み重ね、中盤から終盤にかけて点差が開いていくのに焦った相手が拙攻を繰り返し、ますます春也から点を奪えなくなる。
そして春也がこの大会で滅多打ちを食らうことはなかったため、当然のように南高校は決勝まで駒を進めた。
応援席には菜月どころか茉優の姿まである。もちろん姪も必死に応援してくれていて、お兄ちゃんの春也はますます負けられない。
懸命に腕を振り、アウトカウントを積み重ねるごとに声援が大きくなる。
「おい、智希。そろそろ点が欲しいぞ」
7回まで0を並べ終えた春也は、小走りで駆け寄った相棒に小声で要求する。
「業突く張りめ。仕方ないから黙ってベンチで見てろ」
フンと鼻を鳴らした数分後、智希は振り抜いたバットをカランとグラウンドに倒し、高々と舞い上がった打球を走りながら眺め、そして無人の地に落ちたのを確認すると小さく右手を挙げた。
*
「では、甲子園決勝で無安打に終わった晋悟を祝して……乾杯っ」
「「「乾杯!」」」
「春也君の挨拶がおかしいし、どうして皆も素直に乾杯するのかな!?」
せっかくの祝勝会で泣きそうな晋悟の頭に、大人だからとビールの入ったグラスを持った朱華が腕を乗せた。
「決勝で南高校があれだけ苦戦したのは、どこかの切り込み隊長が役目を果たせなかったせいでしょ」
春也と智希が打っても後続が続かずで、かなり焦れた展開になっていた。そのため両校の応援にも熱が入ったが、最終的には智希の本塁打が決勝点となり、0-1で南高校が勝利した。
「だからって槍玉に挙げるのはどうかと思うんだけど……」
友人の呟きが聞こえた春也は、傍まで行ってネタ晴らしをする。
「ゆーねえちゃんに頼まれたんだよ」
2人でその張本人を見ると、すぐに冷めた目が晋悟にだけ返ってきた。
「一生懸命応援したのに、ゆーちゃんの彼氏だけあの体たらくでは悲しくて嫌味の一つも言いたくなるの」
「なら自分で言えばいいのに」
春也の指摘に、悠里はフフンと胸を反らす。
「そんな真似をしたら、ゆーちゃんが悪者になってしまうの」
「さすが小心者の毒舌女王だな」
「その不名誉な称号は返上するの! 誰が言い出したのか教えるの!」
「晋悟」
「ちょ……! 僕は一言も……!」
「あとでお仕置き確定なの」
「春也君!?」
「頑張ってくれ、俺はまーねえちゃんにご褒美の催促に行くから」
あっさり親友を見捨てた春也だったが、一部始終を見ていた陽向にご褒美をお預けされ、晋悟同様にガックリと肩を落とすはめになった。
いつものスーパー前で行われるような大層なものではなく、あくまで家族や近しい知り合いしかいないのでずいぶんと気は楽だった。
「いつもほっちゃんの後ろを走り回ってた春也が、こんなに立派な男の子になるなんてね」
「あーねえちゃんだって、もう立派な大人じゃねえか。子供の頃から同じ年齢の奴よりお姉さんぽかったりするけど」
「ありがと。フフ、今からでも、そのお姉さんに乗り換えてみる?」
「ハッハッハ、ずいぶんと楽しそうな会話をしてるな。俺も混ぜてくれよ」
グイと春也と朱華の間に体を入れてきたのは、見事に笑みを引き攣らせている陽向だった。
「あら、まーたん。年頃の男女の会話を邪魔するなんて無粋ね」
「な……! まさか本当に……」
「あーねえちゃん、そこまでだ。まーねえちゃんが本気にしてショック受けてる。ただでさえあーねえちゃんに懐いてるんだから、泣きながら身を引くとか言いかねないぞ」
「……それはねえよ」
そっぽを向き、唇を尖らせ、それでも陽向は断言した。普段よりも口調がぶっきらぼうに感じられるのは、きっと照れているせいだろう。
「あーちゃんだろうと譲るつもりはねえよ。奪われたとしても奪い返すしな」
「うわ、怖い。実は相当なやきもち焼きで、束縛するタイプかもしれないわよ」
「かもじゃなくて実際そうだな。他の女と話してたって聞くだけで、超不機嫌になってるし。本人はバレてないと思って、余裕ぶってるけど」
またしてもからかわれていると察して、陽向が耳まで赤くする。ここまでは春也の想定通りだったが、反撃はその範疇に収まらなかった。
「……春也には1年間ご褒美禁止な」
「ちょ……! それはさすがに大人げねえよ! 俺にこの1年、何を楽しみにして生きろって言うんだよ」
「甲子園で活躍することをだよ! 大事な大会前に邪念ばっか膨らませてんじゃねえぞ!」
「まーたん厳しいわね。お姉さんに乗り換えたら、代わりにご褒美あげるわよ」
冗談だと知りつつも、春也は朱華に合わせて誘いに乗ってみる。
「マジで? じゃあちょっと試しに……」
「待て待て待て! 解禁する! もう解禁したから!」
「よっしゃ、ご褒美の約束ゲットだぜ!」
大喜びする春也を見て、ようやく陽向は罠にかけられたと理解する。
「ちくしょう、卑怯だぞ!」
「それだけまーねえちゃんからご褒美が貰いたいんだよ。とりあえず今日は……」
「毎日だなんて言ってねえぞ! おい、抱き着こうとすんな!」
春也と陽向のじゃれ合いを、朱華が楽しそうに見つめる。
「2人とも本当にお似合いよ。
まあ、晋悟とゆーちゃんもだけど」
穂月の隣を確保するのに余念がない悠里に命じられ、晋悟はせっせと彼女のためにお皿へ料理を盛りつけている。どことなく楽しそうなのは、なんだかんだ言いながらも他人の世話をするのが好きな晋悟らしかった。
「姉ちゃんと智希は……よくわからねえな。のぞねーちゃんの代役に選んだのかと思いきや、そうでもないみたいだし」
「あら、智希なら昔からずっとほっちゃん一筋だったじゃない」
「そうなのか!?」
朱華から明かされた衝撃の事実に、春也は目を剥いた。
「最初はライバル心みたいなもので始まって、次第に尊敬とか憧れの感情に変化して、そこから愛情に変わったみたいね。あくまでも私の見てきた印象に過ぎないから、絶対に合ってるかと言われても困るんだけど」
「ハッ、あーちゃんの推測かよ、それじゃ――」
「ちなみにまーたんの場合は、最初は子分の面倒を見る親分的な感じで、そこから弟みたいな関係になって、春也が成長するのに合わせて少しずつ男っぽくなる仕草に――」
「わかった! わかりました! あーちゃんの見立てはかなり正確だから、もう勘弁してくれ!」
友人の姉に泣きつく恋人を見て、春也は思った。
「まーねえちゃんって、一生あーねえちゃんに勝てそうにねえな」
「そこは小さい頃のままね。成長するにつれて変わる関係も多いけど、皆とはずっと同じ。それが何より嬉しいかな」
はにかむ朱華に、陽向が恥ずかしげに相変わらず茶色のショートヘアを、ガシガシと掻き毟った。
「……これからだってずっと変わんねえよ」
「フフ、そうね」
話が一段落したところで、春也はずっと気になっていた質問を朱華にする。
「そういや、あーねえちゃんって卒業したらどうすんだ?」
「秘密よ。女は謎を多く抱えてた方がミステリアスでしょ」
内緒とばかりに唇へ人差し指を当てる朱華。
「あーねえちゃんは一体何を目指してるんだよ」
大人なのか子供なのかわからない仕草に呆れつつも、春也はなんとなく友人の姉の進路がわかったような気がした。
*
大型バスで県中央まで揺られ、そこから新幹線で甲子園を目指す。宿舎に到着して地元より暖かい気候に体を慣れさせつつ、指定された日時に甲子園で練習する。それだけで戻ってきた気分になり、弥が上にも春也は高揚を覚えた。
大会前から気合が入り過ぎないように苦労するかと思いきや、地元のメディア以外からも取材されたりでそんな暇はなかった。
そして迎えた試合当日。
全員で応援に来てくれた南高校の関係者。大きな歓声が木霊させる一団の中には、大好きな恋人も駆け付けてくれていた。隣には大学を卒業したばかりの朱華だけでなく、穂月たちも勢揃いしていた。
「両親もいるじゃねえか。店は本当に大丈夫なんだろうな」
「そこら辺は好美さんが目を光らせてるだろうから問題ないだろう。そもそも俺たちの甲子園出場が決まった時点で、こうなるのを見越して専用のシフトを用意してそうだからな」
投球練習前に様子を見に来た智希が、春也の呟きを拾って言葉を返してきた。安心させるというよりは、単に事実を述べただけだが。
「こういう時には必ずいた祖父ちゃんと祖母ちゃんの姿がないのは、ちょっとだけ残念だけどな」
「それこそ葉月さんたちを送り出すために残ってくれてるからな。また店で常連客と一緒に、テレビの前から声援を送ってくれるだろう」
「だな。それにあの2人は他の家族がいないのを幸いに、心置きなくイチャイチャしてそうだし」
「いつまでも変わらず仲が良いというのは素晴らしいことだ」
「ウチの両親も理想だって目を輝かせてたよ」
「うむ。俺と穂月さんと姉さんもそうありたいものだ」
「へえ」
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「いや、何でもないから気にすんな」
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*
1回戦と2回戦は春也が完投し、3回戦からは負担軽減のため晋悟の登板も増えた。さほど打線の強いチームではないが、南高校は専門雑誌でも評価されるほど守備力を鍛え上げていた。それは春也という絶対的エースを中心に勝ちあがるための最良の手段でもあった。
ランナーがでれば送りバントで先の塁へ進ませ、得点機会を増やすことに重点を置く。中でも最高の得点パターンは1番の晋悟が出塁して、盗塁か2番打者の送りバント、そこから3番の春也と4番の智希のバットでホームに返す。
そうして1点ずつ積み重ね、中盤から終盤にかけて点差が開いていくのに焦った相手が拙攻を繰り返し、ますます春也から点を奪えなくなる。
そして春也がこの大会で滅多打ちを食らうことはなかったため、当然のように南高校は決勝まで駒を進めた。
応援席には菜月どころか茉優の姿まである。もちろん姪も必死に応援してくれていて、お兄ちゃんの春也はますます負けられない。
懸命に腕を振り、アウトカウントを積み重ねるごとに声援が大きくなる。
「おい、智希。そろそろ点が欲しいぞ」
7回まで0を並べ終えた春也は、小走りで駆け寄った相棒に小声で要求する。
「業突く張りめ。仕方ないから黙ってベンチで見てろ」
フンと鼻を鳴らした数分後、智希は振り抜いたバットをカランとグラウンドに倒し、高々と舞い上がった打球を走りながら眺め、そして無人の地に落ちたのを確認すると小さく右手を挙げた。
*
「では、甲子園決勝で無安打に終わった晋悟を祝して……乾杯っ」
「「「乾杯!」」」
「春也君の挨拶がおかしいし、どうして皆も素直に乾杯するのかな!?」
せっかくの祝勝会で泣きそうな晋悟の頭に、大人だからとビールの入ったグラスを持った朱華が腕を乗せた。
「決勝で南高校があれだけ苦戦したのは、どこかの切り込み隊長が役目を果たせなかったせいでしょ」
春也と智希が打っても後続が続かずで、かなり焦れた展開になっていた。そのため両校の応援にも熱が入ったが、最終的には智希の本塁打が決勝点となり、0-1で南高校が勝利した。
「だからって槍玉に挙げるのはどうかと思うんだけど……」
友人の呟きが聞こえた春也は、傍まで行ってネタ晴らしをする。
「ゆーねえちゃんに頼まれたんだよ」
2人でその張本人を見ると、すぐに冷めた目が晋悟にだけ返ってきた。
「一生懸命応援したのに、ゆーちゃんの彼氏だけあの体たらくでは悲しくて嫌味の一つも言いたくなるの」
「なら自分で言えばいいのに」
春也の指摘に、悠里はフフンと胸を反らす。
「そんな真似をしたら、ゆーちゃんが悪者になってしまうの」
「さすが小心者の毒舌女王だな」
「その不名誉な称号は返上するの! 誰が言い出したのか教えるの!」
「晋悟」
「ちょ……! 僕は一言も……!」
「あとでお仕置き確定なの」
「春也君!?」
「頑張ってくれ、俺はまーねえちゃんにご褒美の催促に行くから」
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