その後の愛すべき不思議な家族

桐条京介

文字の大きさ
487 / 495
春也の高校編

夏の甲子園始まる! 抽選で初出場の私立学園が対戦相手に決まりました

しおりを挟む
 まだ夏休み前ともあり、3年連続で夏の甲子園出場を決めた南高校はお祭り騒ぎだった。彼女がいると公言しているにもかかわらず、春也の元には大量のラブレターが届けられた。

 知り合い以外にはアドレスなどを教えておらず、また勝手に他の奴に情報を渡した人間とは容赦なく友人付き合いを辞めたため、昔ながらの手段でしかコンタクトを取れなくなっていたのだ。

「不良女が泥を被ってくれたにもかかわらず、効果は長続きしなかったな」

「お前な、人の彼女を不良呼ばわりすんなよ。例えばのぞねーちゃんを――」

「――眠り姫だな。そして穂月さんは……踊り姫?」

「自信なさそうに俺を見るな。いくら弟だからって、似合うあだ名まで知るか」

 微妙に話題を逸らされた気もするが、冗談だとわかっているので春也もそれ以上はしつこくしない。

「ならば悠里さんは腹黒姫か?」

「猫かぶり姫とかの方が似合ってねえか」

「2人とも……僕の恋人を辛辣に言うのはやめてくれないかな」

 喧騒から逃れるように教室の窓際で喋っていたら、内容を聞いていたらしい晋悟も加わってきた。春也たちを守るためにクラスメートとの談笑に応じていたが、さすがに辟易してきたのかもしれない。

「3人とも恋人がいるのに、他の子もめげないよね」

 マネージャーの要もやってきたが、こちらはウンザリした様子を隠そうともしていなかった。

「どうかしたのか?」

「3人を紹介してくれって凄いのよ。知り合いの知り合いのまた知り合いからのLINEとかもあったりで、今もどんどん知り合いだという女子が増殖中よ」

「活躍を褒められんのは嬉しいけど、ここまで周りに迷惑かけちまうと申し訳なくなってくんな」

 謝罪行脚でもした方がいいのだろうか、なんて友人たちと冗談半分で笑ったその日の夜。電話向こうで土下座でもしてそうな勢いで、去年卒業した高梨から合コンに参加してくれと頼まれた。

 県大学に進学していたので、即座に陽向に報告したら、翌日には半泣きで謝罪の電話がかかってきた。

   *

 出発前の壮行会でも、地元以外のメディアが数多く取材に来ていた。甲子園への抱負やら自信を聞かれるも、余計な発言をすると怒られてしまうので、一生懸命頑張りますとしか答えようがなかった。

 ようやくバスに乗り込むと、見送りに来てくれた両親たちに手を振りながらもホッとしてしまう。

「あの取材攻勢にだけはまだ慣れねえな」

「ほう。目立ちたがりの貴様のことだから、今日までずっと喜んでると思ってたがな」

「最初のうちはそうだったけどな。途中で好き勝手に喋るなって怒られただろ」

 小学校の頃から最後尾を3人で陣取るため、天井を見上げた春也の隣には智希だけでなく晋悟も座っている。

「それは公共の電波で、陽向お姉さんへ愛を告げた春也君の自業自得だよね!?」

「まあ、そうなんだけどな。それ以外にも好きな球団を言ったら駄目とか、色々あんだろ」

「阿呆か、貴様は」

 いつもみたいに智希がフンと鼻を鳴らした。

「どこぞの球団に行きたいと言って、単独指名などされてみろ。裏で話が通ってたんじゃないかと邪推され、チームのみならず選手個人も攻撃に晒されかねないだろうが」

「ってことは、あの暗黙の了解みたいなのは選手を守るためにあるってことか」

「俺の推測にすぎないがな。だからインタビューで叫ぶのは恋人への愛だけにしとけ」

「おう! 次は遠慮なしにかましてやるぜ!」

「だからそのせいで春也君の現状があるって話したばっかりだよね!? 2人揃って僕の話を聞いてなかったのかな!?」

   *

 テレビで甲子園の特集をすれば真っ先に名前が挙がり、プロからも注目されている。さらには夏の2年連続、春夏連覇、3大会連続といった記録もついて回るため、周囲はこれまででもっとも騒がしくなっていた。

 そんな南高校も参加する抽選日。テレビカメラも入った中で晋悟がくじを引き、南高校の初試合が大会3日目に決まった。

「対戦相手は……群雲学園?」

「私立高校で今回が初出場になるらしいな」

「参加校の情報を仕入れてたのか、一応はキャッチャーらしい仕事もしてたんだな」

「今さっきマネージャーから聞いただけだ」

「俺の感心を返せ」

「貴様が勝手に誤解しただけだろうが」

 周囲が群雲学園へ同情混じりの視線を向ける中、当事者たちと思われる一団も肩を落として――

「よっしゃ! ついてやがるぜ!」

 ――いたはずが、そのうちの1人が立ち上がるなり拳を突き上げた。

「だってそうだろ。勝てれば一躍俺たちが優勝候補だ!」

 そんな簡単な話でもないと思うが、やる気と情熱が凄まじいのはわかった。

「逆にこっちは周りから勝って当然みたいに見られるんだよな」

「阿呆すぎるにも程がある。予選を勝ち抜いた時点で、弱いチームなど存在しないだろうが」

「だな。つまり俺らが周囲の声に流されなければいいってことだ」

「ほう。油断が専売特許の貴様がそんなことを言うとはな」

「阿呆か、お前は」

 恒例のフレーズをやり返し、春也はニヤリとする。

「俺は油断してるんじゃなくて、調子に乗ってるだけだ」

「似たようなものだろうが、たわけ」

   *

 初戦の相手は決まったが、情報が圧倒的に不足していた。逆に向こうは南高校の戦力分析は幾らでもできる。春と夏で陣容が変わっている可能性も否定できないが、主力は相変わらず春也と智希、そして晋悟の3人だからだ。

 宿舎の一室。春也は他の部員ともども、監督が用意してくれた私立群雲学園のビデオを見ていた。

「……この1番、なんかやたらとうるさくないか」

 春也の感想に、他の部員が一斉に頷く。異様に吠えるというか、とにかく元気というか、そういう感じの打者だった。

「だが脚力は相当ありそうだ。とにかく足を使って出塁を目指すタイプの打者だな」

「逆に長打力はそこまでない感じか? そうなるとレベルとしては晋悟の方が高そうだな」

「ミート力でも晋悟には敵わんだろうな。監督の戯言かと思ったが、どうやら潰れかけから持ち直した野球部という噂は本当のようだ」

 監督が若干ショックを受けてるっぽいが、彼女ができてからとてつもなく寛大になったので、智希が怒られることはなかった。

「2番打者は堅実そうなタイプだな。上位打線の感じはウチと似てるかもな」

「僕が出塁して、得点圏に進んで、春也君と智希君で返す。その後、投手力を中心に守り勝つ……までいくとまんまそっくりだね」

 群雲学園の3番は背番号1をつけており、抽選会で気合の声を上げた部員だった。

「投手で3番でムードメーカー……ここまでそっくりとはな」

「だとすると強敵だな」

 恰好をつけて言ってみるも、自分と似た選手がいるから高評価をしてみたという春也の本音はすぐに見抜かれ、智希だけでなく部員全員から白い目を向けられる。

「何だよ、実際ウチだって――」

 画面から強烈な音が響いた。放たれた打球がグングン伸び、瞬く間にバックスクリーンまで到達した。

「おいおい、何だコイツ」

 春也の疑問に、事前に情報をまとめていたらしいマネージャーがタブレットPCを操作する。

「仮谷淳吾君っていうみたい。かなりの長距離打者で、昨年の春の大会や夏の予選でもホームランを打ってるね」

「5番はキャプテンの奴だな。ポジションはキャッチャーで左か。これも智希と被ってるな。打力もありそうだし」

「違うのは絶対的な4番の存在か」

「俺たちが欲しくて、手に入らなかったものだな」

 続けて見ていくと、下位打線はそれほど力がないことがわかった。春也も含めて部員はますます似ているという感想を抱いたが、客観的に総合的なチーム力を判断すれば決して負けているとは思えない。

「……って、おい。左投のキャッチャーかよ。これはこれで注目を集めそうだな」

「ピッチャーもなんか球、速いんだけど……」

 春也がキャッチャーに気を取られている間に1球目が投じられ、見ていたマネージャーが目を丸くした。

「春也と同じ本格派だな。だが球の重さという時点ではあまりないように感じられるな」

「あくまでも映像で見た印象でしかないけど、僕も同意見かな。その代わり、手元でグッと伸びてくる感じがあるから、気を付けないとボールの下を振らされそうだね」

 智希の印象を晋悟が補足する。春也も2人とほぼ同意見だった。

「この試合はエースが完封してるんだっけか。2番手投手とかはどうなんだ?」

「ええと……伊藤君ってちょっと可愛らしい感じの選手だね。コントロール重視の軟投派だったような……」

 またしてもタブレットから、マネージャーが必要な情報を引き出してくれた。

「本格派のエースに軟投派の2番手とくると、どこぞの強豪ソフトボール部を思い出すな」

「晋悟も基本的には速球派だからな。球質でいえば相手のエースに近いかもしれん」

 投手の分析に関しては智希に任せ、春也は春也で改めて群雲学園の野手に注目する。

「守備はかなり鍛えられてるみたいだな。けど例の4番の動きはそこまででもねえな」

「打撃特化型かもしれんな」

「ま、あれだけのホームランが打てるなら、守備は多少目を瞑るわな」

 あれこれと会話しつつ、用意された群雲学園の映像をすべて見終わる。ほとんどが相手の地元テレビ局で放映された予選のものだったが、まったくないよりは遥かにマシだった。

「相手の4番に一発がある以上、下手にランナーを溜めないようにしないとな」

 他の選手が晋悟を中心に相手投手攻略の作戦を練る中、春也は智希にマネージャーを加えた3人で、群雲学園の野手の印象を改めて話し合った。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

会社員の青年と清掃員の老婆の超越した愛

MisakiNonagase
恋愛
二十六歳のレンが働くオフィスビルには、清掃員として七十歳のカズコも従事している。カズコは愛嬌のある笑顔と真面目な仕事ぶりで誰からも好かれていた。ある日の仕事帰りにレンがよく行く立ち飲み屋に入ると、カズコもいた。清掃員の青い作業服姿しか見たことのなかったレンは、ごく普通の装いだったがカズコの姿が輝いて見えた。それから少しづつ話すようになり、二人は年の差を越えて恋を育んでいくストーリーです。不倫は情事かもしれないが、この二人には情状という言葉がふさわしい。

学園のアイドルに、俺の部屋のギャル地縛霊がちょっかいを出すから話がややこしくなる。

たかなしポン太
青春
【第1回ノベルピアWEB小説コンテスト中間選考通過作品】 『み、見えるの?』 「見えるかと言われると……ギリ見えない……」 『ふぇっ? ちょっ、ちょっと! どこ見てんのよ!』  ◆◆◆  仏教系学園の高校に通う霊能者、尚也。  劣悪な環境での寮生活を1年間終えたあと、2年生から念願のアパート暮らしを始めることになった。  ところが入居予定のアパートの部屋に行ってみると……そこにはセーラー服を着たギャル地縛霊、りんが住み着いていた。  後悔の念が強すぎて、この世に魂が残ってしまったりん。  尚也はそんなりんを無事に成仏させるため、りんと共同生活をすることを決意する。    また新学期の学校では、尚也は学園のアイドルこと花宮琴葉と同じクラスで席も近くなった。  尚也は1年生の時、たまたま琴葉が困っていた時に助けてあげたことがあるのだが……    霊能者の尚也、ギャル地縛霊のりん、学園のアイドル琴葉。  3人とその仲間たちが繰り広げる、ちょっと不思議な日常。  愉快で甘くて、ちょっと切ない、ライトファンタジーなラブコメディー! ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...