探偵と真夜中の太陽

桐条京介

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第8話 自称助手との出会い

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 食後に出されたコーヒーを有り難く頂戴しつつ、新は当時を思い出す。

 一仕事終えて事務所へ戻る途中、港の入口付近で悲鳴を聞いた。三人の不良に少女が乱暴されそうになっていたのである。

 喧嘩には自信がなくとも、懐には脅しに最適な道具が入っていた。年季が入っていようが銃は銃。

 遠目からでは改造されているなんてわかるはずもなく、新がその筋の人間を装って銃を片手に軽く警告するだけで十代後半と思われる男たちは逃げ出した。向かってこられたらどうしようと思っていたので、安堵したのが記憶に残っている。

 助けた少女に感謝されて、良い話として完結するはずだったのだが、予期せぬ続き展開が発生した。

 行く場所がないと涙ながらに訴える少女に舌打ちしながら事務所の就寝スペースを貸し、朝になったら出てけと告げた。

 こういうのも探偵らしいかもしれないと眠った新だったが、翌朝に認識が甘かったのを思い知らされる。

 探偵をしていると知った少女――祐希子は強い興味を示し、そのまま居ついてしまったのだ。

 一度強引に追い出したこともあったが、事務所前でずっと体育座りをしたまま動かず、最終的に新が根負けした。

 保護者への連絡と許可が貰えるのを条件に居候を認めたのだが、彼女の保護者だという祖父があっさりと許してしまった。

 その背景には祐希子から泣いて頼まれた千尋の力添えもあったのだが、裏技じみた事実を新が知ったのは今さら追い出せもしないつい最近のことだった。

「チッピーがいるから法律的には大丈夫だと思うけどぉ、まだ十七歳の子に変な気起こしたら駄目だかんね」

 里穂の言ったとおり、祐希子は十七歳で通っていた高校は休学中らしい。

 他人のことにあれこれ言うつもりもないので放置しているが、聞く人間が聞いたら大問題に発展しかねない。

 もっとも向こうの保護者の許可が取れているので通報される危険性は少ないし、新自身も戻せと要望されたら、有無を言わさずに送り返すつもりでいた。

 探偵助手だと自称しているが、実際には雇っていない。同居人として手伝っている……というよりは勝手についてきて騒いでいる感じだ。

 来るなと言っても尾行してきたりするので、最近では簡単な仕事なら同行させるケースもある。それが昨夜だ。

 いつの間にやら家計は祐希子が握っており、会計じみた真似もしているものの、料理は苦手。錦鯉探偵事務所のキッチンは半ばコーヒーやインスタントラーメンを作るお湯沸かし専用台みたいになっていた。

 そうした生活を送るようになって、祐希子は高校を中退しようとしたが、それだけは新が阻止した。探偵業に飽きて普通の高校生活へ戻る可能性もあるのだ。帰るべき場所を残しておくにこしたことはない。

 高校関係者が現状を知ったらひっくり返って抗議するだろうが、いまだにそうした兆候はなかった。どんな放任主義な実家なのかとは思うが、興味がないので詳しくは聞いていないし、祐希子も嫌になったら勝手に去るはずだ。

「俺はどっちかというと年上が好きなんだ。ガキに手を出すつもりはねえよ」

「マジでぇ? 錦鯉里穂かぁ。あんま似合ってなくない?」

「何でお前の姓を錦鯉にしなきゃいけないんだよ」

「だって、新って女にモテなさそーじゃん。里穂がボランティアしたげてもいーよぉ。三食昼寝付きの時給十万円で、家は超高級マンションでぇ」

「はいはい。そう言うのは夜にお前に群がる客どもに言ってやれよ」

 手を振って台詞を途中で遮ると、里穂が唇を尖らせた。

「言ってんだけどぉ、誰も嫁にするって言ってくんないだよねぇ。超薄情じゃねぇ? このナイスバディを好きにできるんなら、超安いっしょ」

「確かに身体はナイスだが、頭がぶっ壊れてるからな。金持ってる奴なら他の女を探すだろ」

「錦鯉新さぁん。ツケが溜まってるのでぇ、支払いをよろしくっすぅ。しめて一千五百万円でぇす♪」

 口に含んでいたコーヒーを危うく噴き出しそうになる。砂糖とミルクが入っているせいで、ぶちまけたらにおいもヤバいことになっていたに違いない。

「さっきと言ってることが違うじゃねえか。マスターが文句言ってねえから、いいとか言ってたろ。それに値段がおかしいぞ」

「里穂ってば、超前向きじゃん? だから過去は気にしないし、値段設定も良心的なイケてる女なの」

「そうかい。ならそのまま、どこまでも前に進んで行って、未来にでも旅立ってくれ」

 新と里穂のやりとりにマスターが苦笑していると、またしても準備中の札が下げられているはずのドアが開かれた。

 全員の視線が向く中、営業前のバーにやってきたのは話題になっていた未成年の祐希子だった。

「さすがに日中から酒は早えだろ。夜に出直せよ」

「ツッコむところそこじゃないし。ま、散々出入りしてっから、今さらだけどね」

 肩を竦める里穂の隣で、マスターが入店した祐希子にオレンジジュースを勧める。お酒の飲めない彼女のお気に入りである。

「わーい。じゃあ、アタシはオレンジジュースをご馳走になって帰るから、新は急いで事務所に戻ってね。一人で」

 当たり前のようにカウンター席の真ん中へ座る祐希子におしぼりを出しつつ、両手をカウンターに置いた里穂がその上に自分の顔を乗せる。

「ユッキーもツケ? それにアンタたち、揃って準備中の札が読めないわけぇ。開店前なのに賑わい出してるしィ。ここ、バーだよバー」

「それこそ、今さらだよね。よくお昼ご飯とか食べさせてもらってるし」

「あんまりマスターに迷惑かけんじゃねえぞ」

「新が言うなっつーの」

 里穂は怒っているのではなく、単純に新と祐希子をからかって遊んでいるだけだ。

 外見に似合わずと言うべきかどうかは不明だが、里穂は基本的に面倒見のいい姉御肌な女性だった。

 カウンターテーブルに出されたオレンジジュースを両手で挟み、嬉しそうに祐希子はストローで飲む。これもいつものスタイルだ。

「ところでお前、俺に急いで事務所に戻れとか言ってなかったか? どういう意味だ」

「ん。依頼人が来てた」

「ばっ――それを早く言えよ!」

「言いたかったけど、新、携帯の電源切ってるだろ」

 逃げるように事務所を出た際、しつこく呼び出されるのを嫌って切っておいたのだ。そのせいで連絡がつかず、祐希子は新がいそうな場所を探し回っていたのだろう。よく見れば首筋に汗を浮かべている。
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