異世界作者~ワナビがペンの力で生き抜きます!~

桐条京介

文字の大きさ
21 / 37

第21話 ペンは剣より強しって言葉があるのさ

しおりを挟む
「それは真か!?」

 なんとか辿り着いたガルブレドとの国境にあるクエスファーラの砦。指揮を執る将軍に事情を聞かされたリアが、カケルも見ている前で唇を震わせる。

「陛下がロスレミリアへ亡命なされただと……で、では王城には誰がいるのだ!」

「シャーレ王妃様と、アズバル宰相閣下でございます」

「……陛下を追い出して実権を握ったか。それとも亡き者にしようとして……いや、そうであるなら国内はもっとザワついているはず……」

 リアが爪を噛む。砦には行商人たちの姿もあり、アーシャが情報収集していたが、緊迫した話はなかった。それだけに彼女の驚きも大きかったのだ。

「恐れながらリアレーヌ王女殿下には、王妃様のお名前で出頭命令が出ております。我らが護衛をいたしますので、どうぞこのまま王都へお向かいください」

     ※

 リアを先頭に王城の謁見の間に入るなり、青筋を立てた宰相が盛大に唾を飛ばした。

「勝手に帰国するとは、どういうおつもりですか! 一刻も早くガルブレドへ戻り、婚姻による同盟を結んでいただきたい!」

 明らかに話が噛み合っておらず、困惑する王女が鉱山の件について切り出すと、宰相は嘲るように嗤った。

「聡明な王女殿下とは思えない浅はかな嘘ですね。ガルブレドに攻め込むなど正気の沙汰ではありません」

「わらわも同感だ。ゆえに理解できず、国へ戻ったのだ。アズバルが知らぬのであれば、ガルブレドの狂言か? それにしては向こうの騎士団長は鬼気迫っておったが……」

「小賢しい真似はおやめになり、王族としての責務を果たしてください。ゴフル王が責任を放棄なさった今、国を繁栄させるにはシャーレ様に新たな指導者になってもらうよりないのです。その役に立てるのであれば、リアレーヌ様も本望でしょう」

 リアが、宰相の説得を鼻で笑う。

「そうしてお主が後ろから国を操るのか」

「おっしゃっている意味がよくわかりませんね」

 負けじと宰相も嘲笑を顔に張りつけた直後、謁見の間に伝令の兵士が飛び込んできた。

「ガルブレドが我が国に対し、侵攻を開始しました! 騙し討ちで奪われた鉱山の報復を果たすとのことです!」

「何ですと!? 一体どうなっているのです!」

 動揺するアズバルを不審そうに眺めながら、リアが言わんこっちゃないとばかりに小さな肩を竦めた。

「まさか……ガルブレドに祖国を売り渡すおつもりか!」

「何故、わらわがそのような真似をせねばならぬ!」

 一触即発な謁見の間で、それまで黙って玉座に座っていた王妃が、いきなり楽しげに笑い出した。

「リアレーヌは何も知りません。鉱山を奪うように命じたのは私ですもの」

「なっ!? ど、どういうことですか」

「貴方が大量の鉄を欲しがったからです。我が国で生産した分は、もう使い切ってしまいましたし、貴方の威光を示す良い機会でもあります」

「……なるほど。ですが今後は私にも相談していただけると助かります」

「ではアズバル宰相、攻め込んできたガルブレド軍をどうすればよいと思いますか?」

 余裕を取り戻したアズバルが不敵に笑う。

「もちろん正面から撃退します」

「なっ!? 先ほど正気の沙汰ではないと言っていたであろう!」

 非難するリアに、宰相は得意げに人差し指を振って見せる。

「お披露目はもっと後にするつもりでしたが、私の秘密兵器を使えば不可能が可能になります。朗報をお待ちください、王女殿下」

 軍事国家と名高いガルブレドとの国境での一戦は、予想に反してクエスファーラの圧勝で終わる。

 最強と名高い敵国の騎士団を打ちのめしたのは、新設された鉄砲部隊だった。

     ※

 クエスファーラの勝利から一週間後、王都の宿屋の一室にカケルはいた。周囲にはいつもの面々が集まっている。

「いつまで落ち込んでんのよ」

「うむ。前にも話したが、お主のせいではない」

 口々に慰めてくれるが、カケルにはとてもそう思えなかった。

 何せ小説として書いた織田信長が武田の騎馬隊を破った時同様の展開になったのだ。誰のせいかは明らかだった。

 鉄砲という新時代の武器を得たクエスファーラ軍は波に乗り、奪われ返されていた鉱山を再び占領下に置き、補給線を確保しながら北上。

 途中に何度も襲撃を受けたが、鉄砲の乱射を食らったガルブレド軍は十分に接近もできずに瓦解するという展開を繰り返していた。

「俺が銃なんて存在を出さなければ、ガルブレドに攻めてなかっただろ」

「それは違うぞ」

 クエスファーラの王女は、改めてカケルの言葉を否定した。

「考えてもみろ。お主の本を参考にしたとはいえ、こうまで早く銃を製造できると思うか? 火薬は元々あった。鉄もあった。筒状にして、火薬を使って弾丸を放つという仕組みが構築されていなかったにすぎぬ。土台は元からあったのだ」

 人間という種族が暮らす以上、いずれはカケルのいた地球と同じ道筋を歩むのは避けられない。リアはそうも加えた。

「人の歴史は戦いの歴史。昔から大陸を統一しようと目論む統治者は多かった。南のアマゾネスの国も含めて、各国の国境線が制定されたのは、比較的最近になってからなのだ」

 戦いが激化すればより強い武器を求めるのは必須。クエスファーラも他国に負けず研究していた矢先、カケルという劇薬を体内に含んだ。

「宰相の手回しはわらわの想定を越えていた。不測の事態を招いたのが誰の責任かと問われれば、わらわ以外にはおるまい」

 重苦しい雰囲気に支配される室内に、ノックの音が響く。

 王妃が呼んでいると侍女に言われ、カケルたちもリアに付き添って謁見の間に入る。

「ロスレミリアが我が国に宣戦布告をしました」

 わざとらしいため息をつきながら、王妃ではなく宰相が報告する。

「……後ろ盾となった陛下を王座へ戻し、恩を売るつもりなのであろう」

「さすがに理解が早いですが、王女殿下、一つだけ誤りがあります。この国の支配者はもうゴフルなどという逆賊ではなく、ここにおられるシャーレ女王陛下なのですよ」

「よくもぬけぬけと……! 陛下を亡命に追い込んだ貴様こそが逆賊であろうが!」

「落ち着きさない、リアレーヌ。それにアズバルもです」

 玉座に座る王妃の柔らかながらも芯のある声が、謁見の間に響いた。

「私はまだ戴冠しておりません。そこでこちらはリアレーヌを女王にして、応戦します」

 これには宰相ばかりでなく、リアも目を剥いた。

「わらわが素直に従うとお思いですか」

「ええ。後ろにいる大切なお友達のためですもの」

 意図を理解したリアは唇を噛み、アズバルは愉快そうに口元を歪めた。

「……つまり、俺たちは人質ってことか」

「理解が早くなってきたわね。カケルもこっちに染まってきた証かしら」

 小声で呟いたカケルに、悪戯っぽくアーシャが言葉を返した。

「王女殿下を傀儡にして、クエスファーラを支配するつもりなんでしょ。何か問題が起こった時に、責任を取らせるためにもね」

「つくづく腐ってやがるな」

 舌打ちしたカケルに、同じように嫌悪感を露わにしたアーシャが言う。

「これが権力闘争よ。貴族も含めて、飽きもせずによくやるわ」

「誰かやめようとは思わないのか」

「弱気になったら最後、骨までしゃぶられるもの。特にカケルみたいなお人好しはいいカモね。一文無しにされて、家族ともども苦労するはめになった貴族もいたわ」

 悲しげなアーシャの横顔に吸い込まれそうになっていたカケルだったが、謁見の間を揺らすような怒声に反射的に顔を上げた。

「そんなに権力が欲しいのか!」

 王妃に詰め寄ろうとするリアを、アズバルの命令で数人の衛兵が取り押さえる。
「離せ! ええい、お主らに国を憂う気持ちはないのか!」

「リアレーヌ、少し頭を冷やしなさい。お友達も一緒にね。そうすれば何が最善か、おのずと結論も出るでしょう」

 話は終わりだと王妃は立ち上がり、カケルたちは揃って王城の個室に押し込まれた。

 天窓から光が差し込む部屋は幻想的だが、ドアの前には衛兵が常に立っており、自由に出入りできない現状では息苦しさしか感じない。

「広々としてるが、ベッドと机以外は何もないな」

「簡単に牢には入れられない身分ある者を、軟禁しておくための部屋だからな」

 面白くもなさそうにリアが鼻を鳴らした。

「いかに鉄砲部隊が強力でも、二国相手じゃ負けそうなもんだけどな」

「だが弓よりも遠くの距離から狙いをつけられるというのは恐怖だ。四六時中盾を構えているわけにもいかぬし、気の休まる暇がない」

 リアの指摘に、カケルはなるほどと頷く。

「最新武器なだけに、対応策はまだできてないわけか。しばらくは快進撃が続くか」

「補給線の問題もあるから、そう一気に帝都までは攻め込めないだろうけどね」

 貴族らしいというべきか、クオリアが敵国へ攻め込む際の注意点を並べる。大きな問題になるのはやはり水と食料、それに士気ということだった。

「だからロスレミリアは、ここぞとばかりにゴフル王へ協力したのかもな」

「カケルには、イザベラ女王の狙いがわかるの?」

「ガルブレドが落ちれば、鉄砲を所有するクエスファーラと一対一になる。攻め込まれる前に大義名分を得て、二体一となる現状を作り上げたかった……ってのはどうだ」

「確かに話としては繋がるわね。さすが小説家だわ」

 褒めているのかわからない言葉を発して、アーシャは人数分あるベッドの一つに体を弾ませた。

「何にせよ、アタシたちにできるのは休むことくらいね」

「いや、そうでもない」

 ニヤリとしたカケルに周囲の視線が集まる。

「俺の国にはな、ペンは剣より強しって言葉があるのさ。検閲もないクエスファーラなら、十分に戦えそうだぜ」

「……お主、何をするつもりだ」

 共犯者の顔になったリアが、楽しそうに問いかけた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

異世界召喚されたけどスキルが地味だったので、現代知識とアイテムボックスで絶品料理を作ったら大商会になっちゃいました

黒崎隼人
ファンタジー
手違いで剣も魔法もない異世界に召喚された、しがない日本のサラリーマン、湊カイリ。 彼に与えられたのは、無限に物が入る【アイテムボックス】と、物の名前が分かる【鑑定】という、あまりにも地味な二つのスキルだけだった。 戦闘能力は皆無。途方に暮れるカイリだったが、異世界の食事が絶望的に不味いことを知り、大きなチャンスに気づく。 現代日本の「当たり前」の知識は、この世界ではとんでもない「宝」なのだと! 「醤油?味噌?そんなものがあれば、この世界の食文化はひっくり返るぞ!」 ひょんなことから出会った没落貴族の美少女・リリアナと共に、カイリは現代知識と地味スキルを駆使して屋台から商売をスタート。 絶品料理で人々の胃袋を掴み、さらには便利な生活用品を次々と発明していく。 伝説の神獣の幼体「フェン」やドワーフの鍛冶師など、頼れる仲間たちも加わり、彼らが立ち上げた「サンライズ商会」は瞬く間に大躍進! 迫り来る悪徳商会や腐敗した貴族の妨害も、現代のマーケティング術と知恵で痛快に打ち破る! これは、平凡なサラリーマンが異世界の常識を覆し、食と生活に革命を起こして一代で大商会を築き上げる、痛快成り上がりファンタジー! 美味しい料理と、もふもふな相棒、そして仲間との絆。 人生、逆転できないことなんて何もない!

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

1×∞(ワンバイエイト) 経験値1でレベルアップする俺は、最速で異世界最強になりました!

マツヤマユタカ
ファンタジー
23年5月22日にアルファポリス様より、拙著が出版されました!そのため改題しました。 今後ともよろしくお願いいたします! トラックに轢かれ、気づくと異世界の自然豊かな場所に一人いた少年、カズマ・ナカミチ。彼は事情がわからないまま、仕方なくそこでサバイバル生活を開始する。だが、未経験だった釣りや狩りは妙に上手くいった。その秘密は、レベル上げに必要な経験値にあった。実はカズマは、あらゆるスキルが経験値1でレベルアップするのだ。おかげで、何をやっても簡単にこなせて――。異世界爆速成長系ファンタジー、堂々開幕! タイトルの『1×∞』は『ワンバイエイト』と読みます。 男性向けHOTランキング1位!ファンタジー1位を獲得しました!【22/7/22】 そして『第15回ファンタジー小説大賞』において、奨励賞を受賞いたしました!【22/10/31】 アルファポリス様より出版されました!現在第四巻まで発売中です! コミカライズされました!公式漫画タブから見られます!【24/8/28】 マツヤマユタカ名義でTwitterやってます。 見てください。

異世界で貧乏神を守護神に選ぶのは間違っているのだろうか?

石のやっさん
ファンタジー
異世界への転移、僕にはもう祝福を受けた女神様が居ます! 主人公の黒木翼はクラスでは浮いた存在だった。 黒木はある理由から人との関りを最小限に押さえ生活していた。 そんなある日の事、クラス全員が異世界召喚に巻き込まれる。 全員が女神からジョブやチートを貰うなか、黒木はあえて断り、何も貰わずに異世界に行く事にした。 その理由は、彼にはもう『貧乏神』の守護神が居たからだ。 この物語は、貧乏神に恋する少年と少年を愛する貧乏神が異世界で暮す物語。 貧乏神の解釈が独自解釈ですので、その辺りはお許し下さい。

処理中です...