異世界作者~ワナビがペンの力で生き抜きます!~

桐条京介

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第22話 できることをするしかないか

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 二面戦争に突入して十日ほどが経過したその日、にわかに騒がしさを増した王城の謁見の間に、カケルたち一行は呼びつけられていた。

「お久しぶりです、王女殿下。休暇は楽しんでいただけてますかな」

「お主の配慮には感謝の念が尽きぬよ。まだ足りぬゆえ、もうしばらくは遊ばせておいてくれぬか」

 薄い笑みを浮かべた宰相とリアが、火花を散らすように視線をぶつけ合う。

 最初に皮肉の応酬を切り上げたのは、宰相のアズバルだった。

「心優しい女王陛下が、王女殿下に再度、国のために働く機会を与えてくださいました」

「お断りだ。戴冠も済ませておらぬ者を、王と認めることはできぬ」

「では後ろのお友達ともども、国家反逆罪ということになりますね」

 舐めるような気色悪い視線に、カケルの全身に鳥肌が立つ。

 リアだけでなく、わざわざ全員を呼びつけたのは、人質の意味合いもあると再認識させるためだったのだろう。

「王女殿下とお友達の方々には、ガルブレドへ行ってもらいます。婚姻による同盟を再度、申し出るのです。書状は用意いたしました」

「貴様……頭が沸いているのか?」

 我が物顔で王座についているアズバルを、呪い殺さんばかりにリアが睨みつけた。

「いたって正常ですよ。それにガルブレドは同盟に応じますとも。鉄砲の技術を伝える旨も記してありますからね」

 驚くカケルたちとは別に、謁見の間にいる文官たちは沈痛な面持ちになる。

「まさか……ロスレミリアに負けたのか……」

 カケルが小声で呟くと、隣にいるクオリアが青い瞳を向けてきた。

「どうやら対抗手段を持っていたようだね」

「ガルブレドの敗北を知ってなお、強気でいられたのはそのせいか」

 それにしても、最新なはずの鉄砲部隊をあっさり撃破できるというのは驚きだった。

「フッ。それで急に恐れをなして、ガルブレドとの和平を望むわけか」

 リアが怒りで肩を震わせる。

 強国と二国になりたくない。少し前までロスレミリアの立場だと思っていた場所に、いつの間にかクエスファーラが立たされていたのである。

「理解が早くて助かります。では早速、出発なさってください」

「ふざけるな!」

 声を荒げたリアが宰相へ掴みかかろうとして、衛兵に止められる。

「死ににいくようなものではないか!」

「ええ。死んできてください」

 さらりと言ってのけた宰相に、場がザワつく。しかし誰も異を唱えず、城内の大半が掌握されている事実をまざまざと突きつけられた。

 謁見の間を追い出され、カケルたちは強制的に出立の準備を整えさせられた。

「わらわのせいですまぬ。お主らまで地獄に行く必要はない。途中で逃げるといい」

 見送りもないまま城門から出た矢先、俯き気味のリアが切り出した。

 異国というか異世界の地で死にたくない気持ちは強いが、カケルは素直に頷けない。

「気遣いはありがたいけどさ、多分、俺たちが国境を越えるまで監視ついてるよな」

 弾かれたように顔を上げたリアが目を瞬かせ、失念していた事実を認める。

「お主たちを逃がそうとすれば、そのまま国家反逆罪。捕らえたお主らともどもわらわを処刑し、その首を送ってガルブレドとの同盟を求める。奴ならやりそうな手だな」

「ろくでもない野心家ね。どうして王妃様はそんな男に魅力を感じたのよ」

 うんざりとした様子で、アーシャがため息をついた。

「どうしてでしょうね」

 鈴の転がるような声に振り向くと、カケルの開かれた両目には貞淑に微笑む王妃シャーレの姿が映った。

「お母様……」

「そんな顔をしないで、リア。大丈夫ですから」

「大丈夫? お母様は一体何を……」

「すべては思惑通りに進んでいるということです」

 一度閉じた目を、王妃がゆっくり開ける。溜め込んでいた妖艶さが放たれるような錯覚に、カケルは全身を悪寒でブルリとさせた。

「馬車の用意ができました。お急ぎください、王女殿下」

 詳しく事情を聞く前に、宰相の命を受けた兵士たちに馬車へ押し込まれる。

 ガタゴトと揺れながら走り出す馬車を、手も振らずに王妃が見つめていた。

     ※

 大気が震え、大地が揺れた。二頭の馬が恐怖に支配されて、馬車が明後日の方向に進む。

 転がってきたリアの頭を太腿で受け止め、カケルは窓から外を見る。

「あれは……」

「戦場ね。あの旗はロスレミリアだわ。もう国境を越えてきたのね」

 アーシャが隣に顔を出した。ふわりと舞った仄かに甘い香りが鼻腔をくすぐる。

 膝の上で体勢を整えたリアが、父親に甘える子供よろしくカケルの腕の中で顔を上げた。甘い展開でないのは、王族らしさを増した彼女の目つきでわかる。

「宰相ご自慢の鉄砲部隊をあっさり撃破してきたか。どのような手品を使っているのだ」

 リアにくっつきすぎないようセベカが口煩く言ってくるが、そんなのはどうでもよかった。

 カケルの瞳に映るもの。それは鉄砲よりも強力な武器だった。

「あれは……大砲だ」

「大砲? 確かそれもお主の小説にあったな」

 関ケ原の戦いを題材にした小説で、鉄砲に次ぐ兵器として登場させこそしたが、作り方はカケルも知らないので記していない。

 にもかかわらず、簡単な描写だけでロスレミリアは大砲を製造してしまった。

「カケル、自分を責めたりするなよ」

 落ち込む前に、鋭い声がリアから飛んだ。

「前にも言ったが、小説で着想を得たからといって、こんなにすぐは準備できぬ。恐らくはクエスファーラともども、最新兵器の開発を進めておったのだろう。いずれは両国ともに現在の状況へ到達していた」

「けど……」

「リア様のおっしゃる通りであります。強力なガルブレド騎士団に太刀打ちできないとなれば、別の兵器を開発するのは当たり前でありますから」

 小康状態を保てればいいが、そうでなければ国が占領される憂き目にあいかねない。

「現在のガルブレド皇帝は野心の低い人物でありますゆえ、十年以上も大規模な戦争は起きておりませんでした。しかし皇帝が崩御すれば話は変わるであります。先々を見越して対応策を練っておくのは、どの国も当たり前なのであります」

 繰り返しのセベカの説明を頭では理解しながらも、カケルの心はどうしようもない重苦しさに襲われる。

「俺の小説が新兵器の開発を加速させたのは事実だ。くそっ。自分のアホさ加減に腹は立つが、今はできることをするしかないか」

「そういえば出発前に、わらわを慕ってくれる侍女にこっそり何か手渡していたな。恋文かどうか、後で確認しようと思っていたのだ」

「聞き捨てならないであります」

 リアと一緒にセベカも凄んでくる。隣からは忌々しげなアーシャの舌打ちまで聞こえ、急激にカケルの心臓が痛くなる。

「あ、あれは変な意味じゃなくて……」

「……クエスファーラ側が攻勢に転じるみたいだよ」

 反対側の窓から身を乗り出していたクオリアが、額に手を当てたまま言った。カケルには大砲以外は黒点にしか見えないので、よほど視力が良いのだろう。

 ようやく馬を宥めた御者が元のルートへ戻ろうとした瞬間、またしても爆音が青空に轟いた。

 馬車が横転しなかったことが奇跡みたいに激しく揺れ、挟まれた女体の柔らかさを堪能する暇もなく、カケルは椅子にしがみつく。

「また大砲が撃たれたのか!」

 悲鳴じみたカケルの声に、真っ先に反応したのはクオリアだった。

「壊滅だ」

「何だって?」

「言葉通りだよ。英雄たる僕も戦慄を禁じ得ないよ。あの凶悪な一撃の前には、盾など無意味でしかない。今後、戦争のあり方は変わっていくだろうね……」

 いつになく真剣な口調が、クオリアの動揺ぶりを説明していた。

「だが大砲は遠距離用の兵器だ。威力も強い分、懐に入り込まれれば弱い」

「その点はロスレミリア側も考慮しているみたいだね。直撃を逃れて突撃した騎士たちが、次々と倒れていくよ。恐らくは向こうも鉄砲を持っているのだろう」

 戦場で回収した分も含めれば、クエスファーラとの戦力差は広がるばかりだ。その先に待つ未来を想像したのか、リアが顔面を蒼白にする。

「……何にしても、ガルブレドとの和解は最優先事項だな。あとはお母様やお父様に任せるしかあるまい。思惑通りというのが謎ではあるが……」

 戦場の凄惨さを目の当たりにして、ガルブレドとの国境まで急いだが、リアの出国は却下された。

「わらわにガルブレドへ首を差し出せと申したのは国だぞ! 何故、今更になって……」

 詰め所で歯噛みをするリアに、髭を生やした兵士が強張った顔で告げる。

「実はガルブレドにてクーデターが起こったようなのです」

「クーデターだと!? それは真か!」

「はっ。シュバイン皇帝は幽閉され、騎士団長が実権を握ったとのことです」

「なんという……しかし、間者からの情報とはいえ、わずかな間によくここまで回ってきたものだな」

 リアの応対を務めているのは国境守備隊の隊長であり、軍の幹部と呼べるほどの立場ではない。

「ガルブレド各地で噂になっていると王都へ報告したあとすぐ、事実なので国境を誰も通すなと指令がきたのです」

「行き違いか……いや、それにしても……」

 自覚なく漏らしたカケルに、リアが頷きを返す。

「うむ。手際が良すぎる。報告が届く前から、伝令を準備していたかのような周到さだ。まだ裏に何かあるのやもしれぬ」

 守備隊の隊長が考えすぎでしょうと苦笑するのを待っていたかのように、詰め所に伝令が走ってきた。
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