異世界作者~ワナビがペンの力で生き抜きます!~

桐条京介

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第31話 モテモテじゃん

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「はっはっは。酷い目にあったみたいだな」

 事の顛末を聞いたリアが大笑いする。

 謁見の間ではなく、関係者を集めた彼女の私室にいるため、張り詰めたような空気はない。この時ばかりは、苦楽を共にした仲間の一人に戻る。

「だがセベカが母親と和解したのは喜ばしい」

「リア様……」

 侍女から痴女に昇格というかクラスチェンジしかけているセベカが、街中でカケルを追いかけ回した時とは、まるで違うしおらしい顔をした。

「そして羨ましくもある」

「お母さんとのことね」

 アーシャが気遣いげに言うと、リアはゆっくりと首を左右に振った。

「セベカが欲求に素直に行動できることがだ」

「……リアも俺を追いかけ回したいのか?」

 恐る恐る聞くと、小さな女王はフフッと優雅に鼻を鳴らした。

「わらわには密かな夢があったのだ」

「夢?」

「うむ。ただの女に戻れた際には、好意を寄せる殿方に交際を申し込みたい」

 カケルは女の子らしい夢だと微笑ましい気持ちになったが、何故かアーシャとセベカはやめてくれとばかりに動揺する。

「だがわらわの勢力は強まり、民衆の人気も高まった。上手く民主化がなったとしても、しばらくは大統領として忙しい日々が続く。夢は遠のいてしまった」

「それは残念ね! でも、そのうちもっと素敵な人が見つかるわよ、うん!」

「そうであります! これ以上難敵が増え……いえ、リア様にはもっと相応しい殿方がいるであります!」

 アーシャとセベカの力のこもった応援というか励ましに、改めてカケルは疑問を抱く。

「二人はリアの意中の男を知ってるのか?」

「それを聞くわけ!?」

「歴史的な鈍さでありますね……」

 アーシャがこめかみに血管を浮かび上がらせ、セベカはため息を零した。

「ところで……セベカ? リアの手伝いもあるんだし、余計な苦労をする必要はないと思うわよ?」

「孫を望んでいる母上への、親孝行の一種であります。今夜あたり、しっぽりと楽しむつもりであります」

「それは無理だと思うわよ。もう予約が入ってるもの」

「破棄すればいいだけであります。母上譲りの魅力的な肉体で、すぐに虜にしてみせるであります」

 額をぶつけ合いながらも、笑顔を崩さないアーシャとセベカ。

 とてつもなく恐ろしいので、カケルはこそこそ逃げようとする。

「カケル殿、どこへ行くつもりでありますか! まさか他の女……」

「……ノアラが怪しいわね。先回りして吐かせるのはどうかしら」

「妙案でありますね」

「怖いこと言うな……って、まさか、さっきの予約とかなんとかは俺の話だったのかよ」

 カケルが今、気付いたといった顔をすると、アーシャは口元をひきつらせた。

「どんだけ自覚ないのよ! 敵の計略とかは看破するくせに!」

「ならばいっそはっきりさせるであります! 愛妾は認めてあげるでありますから、自分とアーシャ殿、どちらを正妻にするかこの場で決めるであります!」

「はあ!?」

 愕然とするカケルに、完全な傍観者であるリアがくつくつと笑う。

「それはよいな。是非、わらわも参加させてもらおう」

「だ、大統領候補に、こんなろくでなしは似合わないわよ!」

「そ、そうであります! 自分がもっと良い人を見繕ってさしあげるであります!」

 散々な言われぶりだが、どうやらアーシャとセベカは、リアが参戦したらかなりの強敵になると判断しているらしい。

 確かに現在は妹にしか思えないリアだが、このまま順調に成長していけば、お世辞抜きでも綺麗なシャーレ王妃みたいになっていくのだろう。

「……高貴な血筋に、お姫様らしい容姿か……ありだな」

「ふざけんじゃないわよ! 浮気なんてしたら殺すわよ! アタシは愛妾がいるのだって嫌なんだから!」

「アーシャ殿は度量が狭いでありますね。その点、自分を選べば、複数の女性と楽しめるでありますよ。もちろん正妻に一番の愛情を注ぐのが条件でありますが」

「……さっきの剣幕からすると、アーシャは愛人になんてなってくれないだろ」

 カケルが言うと、セベカはハンと両手を広げた。

「カケル殿が艶のある言葉で誘えば、アーシャ殿などいちころであります」

「……なあ、セベカ」

「何でありますか?」

「俺……お前と結婚はできないけど、ずっと一緒にいたい。ついてきてくれるよな」

 真面目な顔と声を作って試してみると、セベカの顔が加速度的に赤くなった。

「カ、カ、カケル殿……そ、それは……で、でも……そ、その……」

 いつもと違って感情を露わにし、声を裏返らせかけているセベカを目の当たりにして、ようやくカケルは自分がハーレムものの主人公っぽい立ち位置にいるのだと気づいた。

「凄いな。俺ってモテモテじゃん」

「それはよかったわね」

 ジャキッと音がした。

 振り向けば、恐ろしいほどに目を細めたアーシャが、ボウガンを構えていた。

「浮気者には死を」

「ま、待て! セベカの言葉が本当かどうか試しただけで、深い意味はないんだって!」

「なっ!? 乙女の心を弄んだでありますか!? 許せないであります!」

 数を増やした暗殺者が、女王の御前でありながら、カケルに挑みかかる。

「待つであります! 責任を取って、カケル殿の種を寄越すであります!」

「冗談じゃないわよ! こうなったら悪さできないようにちょん切ってやる!」

「誰か助けてえええ!」

 ハーレム展開はラノベの中だけで十分だと、カケルは強く思った。

     ※

 サグヴェンス家の力でゴフル派の切り崩しが着々と行われ、一方で中流家庭の国民はこぞってリアを支持。

 さらにはアーシャの両親やセベカの母親らの尽力もあり、中盤を過ぎてもリア陣営有利で進んでいた。

 民主化するのだからと支援者を分け隔てたりはせず、今では普通にセベカの母親も、選挙事務所同然のリアの私室へ出入りするようになっていた。

 そして頼もしい援軍がもう一人加わった。

「旧知の貴族には、私から支援を要請しましょう」

「お母様……」

「大統領になろうという者が、そんな顔をしてはいけませんよ」

 叱咤激励しながらも、母親らしくシャーレは愛娘の頭を撫でる。

「私がどこまで力になれるかわかりませんが、一緒に戦わせてね」

「心強いです!」

 リアのきらきらした瞳に見送られ、シャーレが退室する。

「シャーレ様まで味方についたなら、もう勝利は決まったも同然ね」

 小さく飛び跳ねて、アーシャがはしゃぐ。

「……なのにカケルはどうして難しい顔をしてるのよ」

「どこかの考えなしが夜に眠らせないので、疲れてるのであります」

「それはセベカのせいでしょ! 懲りずに何度も夜這いをかけようとするから、アタシだって……って、何を言わせんのよ!」

「溜まってるものがあるなら、色々と自分に吐き出してもらおうと思ったであります」

「だから! 人の男に手を出すなって言ってんの!」

 セベカの髪の毛を引っ張るアーシャ。相変わらずの賑やかぶりである。

「人の男ってところをあと十回くらい……あ、すみません。冗談です」

 もの凄い目で睨まれ、ぺこぺこ謝るカケルにリアが苦笑する。

「それで、カケルは何か気になることがあるのか?」

「いや、女は怖くて計算高いってのを実感してただけだ」

「お母様のことだな」

 少しだけ悲しげに、瞼を閉じながらリアは言う。

「わらわに味方しようと思ったのは、お父様に裏切られたかどうかよりも、こちらの陣営が勝利に近付いたからだろう。逆に……」

「……ああ。ゴフル元国王が有利だったら、向こうについたはずだ」

「あっちにはイザベラ女王がいるのにでありますか?」

 心底不思議そうなセベカに、目を開いたリアは苦笑交じりに告げる。

「そこがカケルの言う女の怖さと計算高さなのだろう。お母様はイザベラ女王を追い落として、再びお父様の隣に座ろうとする」

「うわあ……アタシにはついてけないわ」

 うんざりするアーシャに、リアはからかい半分に指摘する。

「お主とて、夜にカケルの隣をセベカと取り合っていたのだろう? 規模の大小こそあれ、似たようなものだ」

 頬をピンクに染めたアーシャが口を閉じる。

 張り合うようにカケルの隣へ陣取るようになったセベカも、どことなく気まずそうだ。

「さて、少しばかり静かになったところで、今後の話をしようか。カケル、お主の見立てではお父様はどう出てくる?」

「劣勢もありえるのは立候補の時点でわかってたはずだ。国民の大多数は平民だからな。解決するには貴族を増やすか、国民の人気を得るかしかない」

「もっともだな。それで、どちらで来ると思う?」

「両方だ」

 カケルが言い切ると、それまでのどこか浮ついた空気が一変した。

 ドンドン――。

 静かになった室内に、緊急を思わせる速めのノックが響く。

 リアが目で合図をすると、セベカが侍女らしく応対に出る。許可を得て入室したのは、渋面を作ったクオリアの父親だった。

「ゴフル元国王が力業を使ってきました」

 来たかと身を乗り出すリアに、サグヴェンス家の当主が報告する。

「年端もいかない貴族の子息を十五歳だと言い張らせ、投票権を得ている模様です」

「まずは貴族の数を増やしたか」

 貴族と文官の繋がりは濃い。なおかつ国で管理している戸籍のようなものはすべて手書きだ。幾らでも不正できる下地があった。

「さらには一般人への買収工作も行っているようですな」

「一気に国民の人気も得にきたわけね」

 爪を噛むアーシャの言葉を、カケルは少しばかり訂正する。

「というよりも、こちらの勢力を削ぎたいんだろ」

 要は切り崩しである。一般人ほど口コミの勢いが物を言う。

 そこでゴフルは物品などをフルに活用して、自分に投票した方が生活が楽になると吹き込んでいるのだろう。

「効果的な手ではある。確固たる意志のある人間ならともかく、なんとなく流れに乗ってリアに投票しようとしてた国民は躊躇うようになるからな」

「それって、結構マズいんじゃないの?」

 不安そうなアーシャへ、カケルは親指を立てる。

「心配すんな。この時のために、アーシャやセベカの親に動いてもらってたんだからな」
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