異世界作者~ワナビがペンの力で生き抜きます!~

桐条京介

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第32話 完全に袂を分かつか?

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 投票締め切りの期限が迫りつつある中、リアへの票数が一気に伸び始めた。毎日開示される途中結果を見て、リア陣営が一気に沸き立つ。

「旧貴族も肩書は立派な貴族。しかも冷や飯を食わされてきたから、元国王に好感は抱いてない。さすがカケルね。勝利が見えてきたわ!」

 肩を叩くアーシャに褒め称えられても、カケルは素直に喜べなかった。

「予想より票数が少ない」

「えっ? それって……」

 アーシャが何か言うよりも早く、リアと一緒に国民へ民主化を訴えていたはずのセベカが、血相を変えて選挙本部に飛び込んできた。

「大変であります! とにかく来てほしいであります!」

 王都の広場では多数の貴族に囲まれたゴフルが、声高に自分へ投票する得を叫んでいた。

「余が大統領となった暁には税金の免除を約束しよう。愚かな宰相による内戦で疲弊した国を癒すために!」

 さらにゴフルは自分に味方した貴族に、宰相一派だった貴族たちの領地を分譲すると明言した。とどめに王家直轄地の管理まで任せたいと言い出す始末。

「露骨すぎる懐柔策だな」

 さすがのリアも、血の繋がった父親を見る目に敵意を漲らせる。

「呼ばれて来てみれば、とんでもない演説を聞かされたもんね。税金を免除なんてしたら、国が傾くでしょうに」

 憤慨するアーシャに、カケルは推測したゴフルの狙いを説明する。

「期間を決めてないのがミソだな。一ヶ月だけ税金を免除すれば、約束は果たしたことになる。その後で税金を上げればいい」

「あっきれた。そんな言葉に騙されたりしないでしょ」

「どうかな」

 答えたのはリアだ。

「生活が苦しい民は目先の得に飛びつくし、旧貴族には栄光を取り戻したがっている者も多い。そうした連中にはまさに天の声だ」

 状況を理解したアーシャがげんなりとする。

「あくどい手を考えさせたら天下一品ね」

「しかし、これでお父様の考えは明確になった」

 言い切ったリアの隣で、カケルはゴフルから目を逸らさずに頷いた。

「ああ。大統領になっても、近い将来、王制に戻すつもりだな」

 その方が貴族の協力も取り付けやすい。何より野心家のゴフルにとって、民主化など百害あって一利なしだ。

「国の未来を考えれば、民主制になるのが望ましい。まったく問題がないとはいわぬがな。だからこそ、わらわはカケルの話を聞いて以来、ずっとそうなればと思ってきたのだ」

「……完全に袂を分かつか?」

 カケルの問いかけに、力強くリアが首肯する。

「わらわはどこかでお父様が当選してもよいと思っていたのかもしれぬ。だが先ほどの演説を聞いて覚悟が決まった。お父様は自分の未来しか見ておらぬ!」

「それにさっきの元王の言葉を聞けば、シャーレ様も完全に覚悟を決めるだろ」

「宰相に責を負わせるのであれば、行動を共にしていたお母様も逃れられぬ。脅されていたと公表もできるが、城内の多くの者が宰相と仲睦まじくしていたのを知っておるしな」

 カケルとリアの会話を黙って聞いていたアーシャが、眉根を寄せて腕を組む。

「最初からシャーレ様を切り捨てるつもりだったのかもね。内情を知りすぎた王妃様の口を閉ざさせるには、絶好の機会になったと。リアには悪いけど、事実だとしたらとんでもないクソ野郎だわ」

 忌々しげに吐き捨てたアーシャは、そのままの勢いで何故かカケルを睨む。

「二股をかける男って本当に最低よね。カケルはそんなことしないわよね?」

「何でいきなりそういう話になるんだよ!」

「即答しないってことは……」

「待てって!」

 詰め寄られるカケルの前に、セベカが身を盾にすべく滑り込む。

「カケル殿、こんな恐ろしい女とは早く縁を切るであります。自分なら蕩けるくらい甘やかしてあげるであります」

「……カケル。裏切り者の末路はわかってるわよね」

「わかってるからボウガンを構えるな! 大体、浮気なんてしてないだろ!」

 ハーレムラノベの主人公が羨ましいからといって、自分も同じ道を歩むかどうかは別だ。

「やはり情を交わらせると、精神の繋がりも強化されるでありますね。カケル殿、十分ほど時間を頂きたいであります、サクッと終わらせるであります」

「何をだよ! 俺の命が危うくなるから、もうやめて!?」

「クック。相変わらず賑やかな連中だ。尻尾を巻いて逃げなくていいのか?」

「ずいぶんと余裕ですね、ゴフル候補」

「ほう。覚悟を決めたか。それならば余が大統領となった際には遠慮はいらぬな。リアレーヌ候補」

 互いに父とも娘とも呼ばず、火花を散らす。緊迫した空気は周囲に拡散し、先ほどまでの喧騒が嘘みたいに、カケルの肌がピリピリしてくる。

「シャーレは息災か? 歳はくってもあれに慕情を抱いておる者は多い。そこらへんの忠告はしておいてやらねばな。まだ余の妻である身だ」

 恭順しなければ離縁し、味方した貴族への褒美にする。ゴフルは大きな声でそう宣言したのである。

 そして出来つつある人だかりの隅には、目立たぬ服装をした美麗な女性が共の者とこちらの様子を窺っていた。

(すべて計算尽くか。本当にとんでもない男だな)

 こうまで悪役に相応しい人間が存在するものかと、ある種の感動すら覚える。

 圧倒的な存在感に気圧される者が続出する中、同じ血を引くリアは一歩も引かずに剥き出しの敵意を受け止める。

「気の早いことですね。もう勝ったつもりですか」

「そちらこそ強気ではないか。優秀な側近を得て、ずいぶんと調子に乗っておるようだ」

 鋭くなった眼光が、今度はカケルを射貫く。

 心臓を鷲掴みにされたようなプレッシャーに、投獄された際の恐怖が呼び起こされる。

 ガクガクと膝から下が震え、渇ききった唇からは呻き声すら出てこない。

(怖い怖い怖い怖い怖い)

 助けてくれと叫びながら、土下座でもしたい気分だった。

 涙で視界が滲み、焼けそうなくらい胃が熱い。

「大丈夫よ。アタシが一緒にいる。地獄にだってついてってあげるわよ」

 キュッと手が握られた。安心させるように微笑むアーシャがいた。

 強い女だとは思わない。何故なら彼女の指先も不安そうに震えていた。

(好きな女の前でくらい、格好をつけられなくてどうすんだ!)

 カケルが目に力を取り戻すのに呼応するかのように、リアとセベカも前に出る。

「もう易々とカケルには手を出させぬ」

「この身を盾にしてでも、守り抜くであります」

「……フン。女に守られるとは良い身分だな」

 嘲るゴフルに、勇気を振り絞ってカケルは不敵な笑みを返す。

「女を利用することばかり考えてる貴方には、到底真似できないでしょうね」

「言いおるわ。女の影に隠れてこそこそ策を練るなど、あの愚かな宰相と同じだというのにな。だが良い悪役にはなってくれそうだ。惨めな敗北者には、何より相応しい役どころだからな。くっくっく。期待しておるぞ」

 ゴフル王が立ち去ると、それまで張り詰めていた空気が瞬時に弛緩した。

「ぷはあ! 漏らすかと思った……」

「うわ……この歳で介護なんてさせないでよ。けど、アタシもほとんど同じ」

「アーシャも失禁しそうになってた……?」

「想像しないでよ、変態ッ!」

 後頭部を引っ叩かれたおかげではないだろうが、恐怖で硬直していた思考回路が再び動き出した。

「大将同士の舌戦も終わって、いよいよ勝負は佳境に入るか。力一辺倒ではないだけに、どんな策を練ってくるのやら」

「わらわも気にはなっておる。最終的にはカケルの秘策を使わねばならぬかもしれん」

 リアの決意に合わせて、アーシャとセベカも頷く。そのための下準備はすでに済ませてある。

「並の相手なら寄り切れるだろうが……」

     ※

 選挙戦は終盤に差し掛かり、両陣営が勝負手を打つタイミングを窺う。

 投票締切日の前日。先に動いたのはゴフルだった。

「案の定、ゴフル元国王がロスレミリアの貴族を連れてきたであります!」

 セベカの報告を私室兼選挙本部で受けたリアが立ち上がる。

「カケルが前に言っていた、貴族を増やすというやり方そのものだな」

「クオリアのお父さんに指摘された時も驚いたけど、カケルがあえてですとか言ったからさらに驚いたのよね。アタシも鈍い方じゃないと思うんだけど、敵う気がしないわ」

 選挙要綱では国民が投票権を持つとしているが、どこのとまでは明記していない。

 感心するリアとは違い、当時を思い返したらしいアーシャはどこか呆れ気味だ。

「取り決めの裏側での勝負が大勢を決するというのは、貴族社会そのものだな。カケルが王族や貴族だったら、さぞかし名を馳せていたであろう」

「悪名高くなってただけのような気もするけどな」

 浮かべた苦笑をすぐにしまい、カケルは組んだ手に顎を落とす。

「ここまでは予想通り。あとはこちらの秘策を繰り出すだけか」

「すぐに準備にとりかかるであります」

 セベカが退室するのを見届け、アーシャが悪戯っぽく言う。

「元国王がどんな顔をするか見ものね」
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