悪役令嬢がガチで怖すぎる

砂原雑音

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異世界転生してました

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「……まったく。お父様は薄情だわ」


 結局、王都までついて来てはくれなかった。前日になって持病の腰痛が悪化して、王都まではとても無理だということになったのだ。馬車で一週間の道のりなので、確かに腰痛であれば無理があるけれども。それでも「お前なら大丈夫だろう」とあまり心配する素振りもなかった父親には、ちょっとばかり腹が立つ。

 母が代わって入学式に出席しようと言ってくれたが、とても支度が間に合いそうになく(何年も前のデイドレスしか余所行きがなかった)ベルは王都へ行く商家の馬車に同乗させてもらった。若い娘が貸し馬車でひとりで向かうよりも、付き合いのある商人に頼んだ方がよほど安全だと母の判断だ。


 入学式の前日、ベルは無事王都に到着し、ロベリア国立貴族学院の寄宿舎に入った。寄宿生は、地方の貴族家出身で王都にタウンハウスを持っていない令息令嬢が中心だ。高位貴族はほとんどが王都にタウンハウスを構えており、そこから馬車で通学する。寄宿舎に入るのは下位貴族が中心だと聞いて、少し気が楽になった。個室だったのも良かった。部屋の広さは実家の自室よりも少し手狭だが、ベッドと机がひとつずつあり、部屋に浴室と不浄もついている。これなら快適に三年間暮らせそうだ。


 ただ、学院に着いた時に、何か不思議な感覚がして首を傾げた。寄宿舎から、学舎の方を見た時だ。背の高い木々の合間から見えた学舎と大講堂を臨む風景に、なぜか既視感があった。入試の時にも来たからそのせいかとも思ったが、あの時は必死で周囲を眺める余裕もなかった。

 なんとなく不思議に思った、その翌日。

 入学式の朝、初めて制服に腕を通して姿見の前に立つ。鏡の中の自分と目が合った時、突然頭の中に無数の映像が流れ込んできた。


「えっ? いたっ!」


 あまりの情報量の多さに、ずきんとこめかみに痛みが走る。咄嗟に片手で痛む箇所を押さえる間も、走馬灯のように情報の流入は続いていた。

 学院の学舎や教会よりもずっと高いビルの森。馬よりも速い車、王都でも見ないほどに人に溢れた通り。ベルはいつも小さな四角い物を手に持っていた。

 その中に、無数の物語が溢れていて、暇さえあれば読んでいた。


(わたしは本の虫で、次から次に読んでいた。そう、本、というか、あの四角いの!)


 記憶が流れ込んでくるものの、言葉というより映像ばかりで後から音や声が追いかけてくる。だから、物の名前やらが中々一致しない。

 四角い何かでずっと何かを読んでいて、一番はっきりと覚えている物語がある。


(ロベリア国、ベル・リンドル……これって)


 映像がようやく落ち着いて、目の前の鏡に映る自分を見つめる。背中まで伸ばしたふわふわのピンクブロンドに春の新芽を思わせる明るい翠色の瞳。前世でいうところのブレザーの制服で、スカート丈は脹脛の真ん中ほど。学舎の中を歩き回ることを考えて、靴は編み上げブーツを履いているので足は見えない仕様である。この世界では、貴族女性は足を見せてはいけないのだ。


「これって、『ロベリアの花』だわ」


 前世の自分が何度も読み返していた、恋愛小説だった。


「うわ、すごい。そっか、実物だとこんな感じなんだ」


 ベルとして生まれてずっと見てきた顔のはずなのに、物語の中で見た挿絵にも似ているなんてとても奇妙な感覚だ。

 そして前世の感覚も混じってきたせいか、とてつもなく可愛らしい顔立ちに見えてきて急に気恥ずかしくなってきた。前世のベルは、もう少しあっさりとした顔だったので。少し角度を変えてみたり、俯いてみたりと若干浮かれながら自分の顔に見入っていて、はっと我に返った。


「いけない! 入学式!」


 壁掛け時計を見れば、まだ問題なく間に合う時間だ。ぱっと髪を手で撫でつけて少しの乱れを直すと、鞄を手に急いで部屋を出た。



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