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異世界転生してました
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しおりを挟む学院敷地内にある大講堂で、新入生とその保護者が集まっている。大講堂は学舎のすぐ隣に並び立つ荘厳な雰囲気を醸し出す建物で、学院内でのイベント時に使われるという。外観を間近に見て思ったことは「あ、これ表紙の背景だ」だった。
学院生活が始まる大事な初日だというのに気もそぞろで、式の進行中もどうしても前世の記憶のことばかり考えてしまう。
(完結してからも繰り返し読んだのよね。お話自体は異世界が舞台の恋愛もので……って今の私からすると向こうが異世界なんだけど。よくあるシンデレラストーリーなんだけど、ヒーローが好みのタイプで何より挿絵がすっごく綺麗で、それですっかりはまってたんだった。毎日仕事ばっかりでしんどくて、手っ取り早い癒しが欲しくて読んでみたらテンポがよくて面白かった)
そう。恋愛小説で、下位貴族の娘が文武両道で眉目秀麗な王太子と恋に落ちるシンデレラストーリーだ。身分差があるため主人公は想いは秘めて身を引こうとするもの、王太子に強く求められやがて心を明け渡す。そして、元々優秀だった主人公はさらに努力し、王太子妃への道をゆく決心をするのだ。
(王太子には婚約者がいるんだけど、政争絡みの正真正銘政略結婚の相手で本人の承諾なく結ばれたものなのよね。後ろ盾であることに間違いはないから、円満に解消しようにも応じてもらえなくて。婚約者と父親の公爵ふたりそろって公務にも圧をかけてくるものだから、誠実で真面目な王太子は苦悩の連続……そんな時に出会ったのが主人公のベル・リンドル。……え、わたし? そうだよわたしだった……は?)
前世の記憶を思い出してテンションが上がりきっていたところに、ようやく、物語と現実が合致していることへの危機感がじわじわと沁みてくる。
「それでは、学院在校生を代表して我が国の王太子クリストファー・ロードベルク殿下よりお言葉を頂戴いたします」
司会の言葉が耳に響いて、一気に意識が現実に引き戻された。顔を上げると今まさに、背の高い金髪の青年が壇上に上がったところだった。
「新入生の諸君、まずは入学おめでとう」
柔らかな微笑みを浮かべ煌めく薄い空色の瞳で、一堂を見渡す様は堂々として、まだ学生にも拘らず既に王族たる風格を備えていた。どっ、とベルの心臓が大きく跳ねる。何度も見た挿絵の記憶。花が咲き誇る庭園で、金髪の美しい青年がベルを抱き上げ颯爽と歩く場面。実物と絵との違いはあれど、間違いなく彼がベル・リンドルの相手役、いや王太子殿下その人だ。
(……出会いの時の挿絵だ。確か、ぶつかって転んだっていうベタな内容で)
王太子殿下の言葉が続く中、女生徒たちはうっとりとして囁き合う声がする。その声は現実のもので、はっと我に返った。ここは庭園ではなく、入学式の会場だ。金髪の美青年は祝辞を述べている最中だ。
(あの人と、わたしが、恋をするの? 本当に?)
自分は男爵令嬢、しかも裕福でもなく寧ろ貧乏な。そしてあちらは、王族、やがて王となって国政を担う人物だ。
(いやいや。ないない。そんな無理な展開、物語だからおもしろいのよ。王太子の相手っていずれは、王太子妃……王妃でしょ。無理だって!)
身分違いにもほどがあり、ベルにあのような殿上人の隣に立つような気概はない。
一気に目が覚め、本当の現実に引き戻された。現実に本当も何もないのだけれど。
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