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赤い傘
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赤い傘 高木康文
空腹を押さえ、白っぽい強い雨の中を、震えながら傘もなく、歩いて、コンクリートの歩道に倒れた。水が冷たくしみる。 「どうしたの?」赤い傘がバサッと踊って、貴女に抱き起こされた。 「・・・・」泣いても、濡れてわからない。 唇が切れて血がしおからい。貴女は暖かい色のハンカチをあてた。 悲しく、寂しく、生きて、人に裏切られ続けて・・ 貴女は肩を貸してくれて、 「わたしのところ、すぐそこだから・・」店の2
階のアパートの部屋、玄関のドアの中で息をつく。 「・・どうして、私を?・・」 「風邪ひくじゃない」「わたしはほっとけないの」 「・・今仕事も無いんだ・・」 「あなた、泣いてるのね。元気を出して」 「洗面所のお湯で顔洗って。頭からこれでふいて、はい・」白いバスタオルをわたしてくれた。「唇にこれぬって」「・ありがとう・・優しい女性に逢えるとは思わなかった・・」 貴女は暖かい紅茶を入れてくれた。私はカップを持つ手がぶるぶる震えて、口をつけた。 「わたしは、今日お休みだから、ゆっくりしてっていいのよ」 「・・これ、前の勤めのときの名刺です・・落ち着くことができたら、お礼に来ないと・」「貴女は私の天使だ・・」 「暖まってから、傘、女ものでよければ持ってってね」 「貴女は、そうだ・金のネックレスがよく似合う人だと思う・」 「う~ん、友だちばっかで、買ってくれそうな人いないけど、天使じゃなくって、色彩の彩に香りと書いて、彩香っていいます。よろしく・・」「・僕は・浅田光行といいます。とても優しくしていただいて、どうもありがとう・・。」 「元気出してね」私は全身をふいて、紅茶をお腹に飲み込んだ。 「・もう、行かなきゃ・・」
私は彩香さんの部屋を後にした。白っぽい雨はまだ、弱まらない。 花模様の傘に隠れて、瞳から熱く濡れて、こぼれて頬を伝う。 ずっと何があっても忘れないでいよう。雨の中にバサっと踊った、赤い傘、・・天使の傘・・・
光行は古いアパートの2階の自室に帰り着いた。・思いもよらなかった優しさを持った彩香さんに助けられた・・涙がまたうっすらとにじんだ。しかし、この今のストップ状態から脱出しなければ。高校を卒業後、バイトを少し、その後事務系のサラリーマンを、でも仕事は少し遅い光行だった。馴染めない会社だということから、退職をしたところだった。何か絵や文を描く仕事は、でもそうはない。町役場の中途採用の募集は知って、その町の特色を調べて、子どものころに数人で自転車で行ったことがあった。そうっと目を閉じて・、就職のし直しをする・・、そう考えた。私はひとり暮らしをして、自分の知らないことを知って、心の修行をと思って、生活を見直してきた。試験を受けるため、書類を提出した。3か月が経って、光行は町役場事務職員となった。土日の休みには仕事の本だったり、小説だったりを読む。詩やイラストも試しに手を出した。あの日、赤い傘がバサッと踊って、彩香さんに抱き起こされた、さあお礼を言いに行こうと決めた。あの白い雨の日の、帰り道を逆に歩いた。お借りした花模様の傘は、もうそっと彩香さんのお部屋に、「ありがとうございます。」のメモを入れて、お返ししてある。
街の通りは陽の光が十分射している。自分の気持ちを自然とまっすぐにというような、意識を持ってそれが光行には、少しのうれしいことだった。
インターフォンを押した。「・こんにちは・この間の雨の日にお世話になった、光行です。」「まあ、はいいらっしゃい、どうぞ上がってください。」開いたドアから暖かい笑顔の彩香さん、光行にも柔らかいほほ笑みが出せている。スイーツを差し上げた。「そーなの、公務員さんにね・・、貴男に合っていると想うわ」「光行さんの瞳には、心がそのまま映っているもの」・・素敵な女性だなぁ・・という気持ちは心地よく感じる・・「ようやく落ち着いた暮らしができています。雨の中に赤い傘がバサッと踊ったとき・・そこから・・。」「ロマンのある人ねぇ、朝焼けや夕陽が沈むのが・きっと好きっていう感じ・なのかしら」・「・そうですね、どんなに寂しい風景でも、二人で見ると幸福なんです。」
光行は少し間をおいてから、彩香さんに、心に予定していたことを話した。「彩香さん、私とこれからお付き合いをしてくださいますか。しっかり男性として、彩香さんをお守りします。」
「はい、わたしとてもうれしいの。よろしくお願いね。」その眼差しに明るいほほ笑みがとても暖かい。彼女は大きい会社内の食堂で、店員をやっていて、栄養の面でも自然と勉強を続けたという人だった。「天気もまあまあだし、町を散歩に行きましょうか」「ええ、行きましょう」住宅街からゆっくり歩いて、公園に出てきた。語らいベンチとでも言えるところ、「光行さんもいろんな苦労をしたのねぇ」木々があって、ちょうど木漏れ陽が射している。「彩香さん、この木漏れ陽ってけっこう癒されますよね・」「そうねぇ、金色」
「貴女に似合う、金のネックレス・」「金色の、貴男はロマンの詩人だから、お上手ねって、そこが光行さんのよいところなのね」光行は歌の歌詞も自然に覚えるのが、好きだった。「木漏れ日の向こうに君がいるようだ~~」という歌もそらで歌えるくらい。カバンからプリントした文を取り出した。こういう詩文を考えました。「金色の瞳の乙女 長い髪を吹流しのように 風に吹かれながら 貴女が空を飛ぶ 白っぽく薄い 夏の装いで飛ぶ うっすらと目を細めるくらいの笑みを持ち 泳ぐように空を流れる 瞳には金色の輝きの星を持って 僕の大脳の空を遥か超えて飛ぶ 僕はとぼとぼと歩いてゆく 赤いりんごを投げ上げると 貴女は夕焼けに広げ ワンセットの色鉛筆を 虹のアーチにする そして 僕の冷たい胸の揺れを オーロラに変え 貴女は舞い降りてきて 座り込み 二人で頬杖ついて そっと見上げる」
「ふーん、青春の童話とか、メルヘン、まとめることがいいわ」・・「乙女は能力があって、そして、僕、のそばにいる人。色彩が見えるのね・」「いつか発表ができることを期待できそうね」 公園で遊ぶ小学生くらいの子どもたちが、わぁーっと声を上げて、走って行った。「彩香さん、お昼を食べに行きますか」「朝にサンドイッチを少し作ったの、一緒によかったら、食べましょう」「缶コーヒーを常温だけど、私が持ってきました」「ちょうどよかったわね」モグもぐタイム、風がさわやかに二人を、ニコッと眺めるかのように吹いてゆく。
光行と彩香は話しながら「困っている人は助ける」という気持ちも確かめ合うことができた。メールや電話をやりとりして、学生のときに内向性だった光行は少しずつ、笑顔が増えて仕事も知識を増やしていった。
また光行はネットで調べたことがあり、昔の戦争の歴史の中で、ヨーロッパで迫害を受けた人々の命を救った事実に、熱い関心を持っていた。ポーランドのイレーナセンドラ―、ドイツのオスカーシンドラー、そして日本人の杉原千畝のことだった。当時、バルト三国で領事館を開いた杉原千畝は、国を追われた大勢の人々のために、第三国への渡航ビザを発給し続けた。イレーナは閉鎖されたワルシャワゲットーへ入る許可をとりつけ、大きいスカートの中に子どもを隠して、門番に気づかれないように、外へ脱出させた。子どもの両親の名を記録し、リンゴの木の下に埋めて、まず命を守った。シンドラーは貨車に乗せられて、収容所に送られる人々を、自分の工場の熟練工だと主張し、賄賂を渡してでも、命を救った。この話題は彩香さんも共通だった。自分が苦しいとき、彩香さんに雨の中で抱き起された、「困っている人を見たら、黙っていてはいけない」という言葉は、彼女も心に思っていたのだった。光行は役所のボーナスを支給されたとき、金色のネックレスを彩香さんにプレゼントをしたいので、一緒にお店へ行って、選んでもらった。自分の苦しかったときの節約も二人で考えて、これからのことも心に置いた。じき夏が訪れて、光行と彩香は湘南の海へ向かった。片瀬江ノ島の海は、静かな波の日だった。水色の海の水に浸って、砂浜ではしゃいだ後、やがて夕陽の時間になった。光行は、もう決まりのプロポーズのことばを言うことを決めていた。紅く染まった頬で、目を細めている彩香の顔をまっすぐ見た。「私と結婚をしてください。貴女を、一生自分の身にかけて、守ります。」彩香は、瞬時に真顔をして、「はい、わたしはほんとうに、うれしいわ、ずっとよろしくお願いします。」言い終わると、両手を差し出して、光行の胸の中に顔をうずめた。何度も彩香の長めの髪をいたわり撫でながら、暖かく、私たちは強く抱きしめ合った。私たちの頬が心地よく触れあうとき、彼女はうっすらと涙を流し、私は熱い喜びの雫が、目からあふれていった。どのくらい時が経ったか、空と海は、そっと夕映えと穏やかな水面のきらめきをしながら、ほほ笑んでいてくれた。夏の浜辺には、大きな心のジェントゥルピンクが、私と彩香を、天使の翼でそっと、覆ってくれるのだった。
黄色い水着に白っぽいブラウス、光行の書いた「金色の瞳の乙女」まるで、ポエムに近かった。孤独な少年の気持ちを背負ってきたが、光行は決して恋がどうのと、深くわかることではなく、自分に優しく接して、受け入れてくれる彩香を幸福にしたかった。あのとき、赤い傘がバサッと踊って、彼女は濡れることをいとわず、雨の中で倒れた私を、抱き起してくれたこと。自分がほんとうに困ってしまっていたときだった。「困っている人がいたら、黙って見ていないこと」、このことが、二人の多きな共通の想いなのだ。
空腹を押さえ、白っぽい強い雨の中を、震えながら傘もなく、歩いて、コンクリートの歩道に倒れた。水が冷たくしみる。 「どうしたの?」赤い傘がバサッと踊って、貴女に抱き起こされた。 「・・・・」泣いても、濡れてわからない。 唇が切れて血がしおからい。貴女は暖かい色のハンカチをあてた。 悲しく、寂しく、生きて、人に裏切られ続けて・・ 貴女は肩を貸してくれて、 「わたしのところ、すぐそこだから・・」店の2
階のアパートの部屋、玄関のドアの中で息をつく。 「・・どうして、私を?・・」 「風邪ひくじゃない」「わたしはほっとけないの」 「・・今仕事も無いんだ・・」 「あなた、泣いてるのね。元気を出して」 「洗面所のお湯で顔洗って。頭からこれでふいて、はい・」白いバスタオルをわたしてくれた。「唇にこれぬって」「・ありがとう・・優しい女性に逢えるとは思わなかった・・」 貴女は暖かい紅茶を入れてくれた。私はカップを持つ手がぶるぶる震えて、口をつけた。 「わたしは、今日お休みだから、ゆっくりしてっていいのよ」 「・・これ、前の勤めのときの名刺です・・落ち着くことができたら、お礼に来ないと・」「貴女は私の天使だ・・」 「暖まってから、傘、女ものでよければ持ってってね」 「貴女は、そうだ・金のネックレスがよく似合う人だと思う・」 「う~ん、友だちばっかで、買ってくれそうな人いないけど、天使じゃなくって、色彩の彩に香りと書いて、彩香っていいます。よろしく・・」「・僕は・浅田光行といいます。とても優しくしていただいて、どうもありがとう・・。」 「元気出してね」私は全身をふいて、紅茶をお腹に飲み込んだ。 「・もう、行かなきゃ・・」
私は彩香さんの部屋を後にした。白っぽい雨はまだ、弱まらない。 花模様の傘に隠れて、瞳から熱く濡れて、こぼれて頬を伝う。 ずっと何があっても忘れないでいよう。雨の中にバサっと踊った、赤い傘、・・天使の傘・・・
光行は古いアパートの2階の自室に帰り着いた。・思いもよらなかった優しさを持った彩香さんに助けられた・・涙がまたうっすらとにじんだ。しかし、この今のストップ状態から脱出しなければ。高校を卒業後、バイトを少し、その後事務系のサラリーマンを、でも仕事は少し遅い光行だった。馴染めない会社だということから、退職をしたところだった。何か絵や文を描く仕事は、でもそうはない。町役場の中途採用の募集は知って、その町の特色を調べて、子どものころに数人で自転車で行ったことがあった。そうっと目を閉じて・、就職のし直しをする・・、そう考えた。私はひとり暮らしをして、自分の知らないことを知って、心の修行をと思って、生活を見直してきた。試験を受けるため、書類を提出した。3か月が経って、光行は町役場事務職員となった。土日の休みには仕事の本だったり、小説だったりを読む。詩やイラストも試しに手を出した。あの日、赤い傘がバサッと踊って、彩香さんに抱き起こされた、さあお礼を言いに行こうと決めた。あの白い雨の日の、帰り道を逆に歩いた。お借りした花模様の傘は、もうそっと彩香さんのお部屋に、「ありがとうございます。」のメモを入れて、お返ししてある。
街の通りは陽の光が十分射している。自分の気持ちを自然とまっすぐにというような、意識を持ってそれが光行には、少しのうれしいことだった。
インターフォンを押した。「・こんにちは・この間の雨の日にお世話になった、光行です。」「まあ、はいいらっしゃい、どうぞ上がってください。」開いたドアから暖かい笑顔の彩香さん、光行にも柔らかいほほ笑みが出せている。スイーツを差し上げた。「そーなの、公務員さんにね・・、貴男に合っていると想うわ」「光行さんの瞳には、心がそのまま映っているもの」・・素敵な女性だなぁ・・という気持ちは心地よく感じる・・「ようやく落ち着いた暮らしができています。雨の中に赤い傘がバサッと踊ったとき・・そこから・・。」「ロマンのある人ねぇ、朝焼けや夕陽が沈むのが・きっと好きっていう感じ・なのかしら」・「・そうですね、どんなに寂しい風景でも、二人で見ると幸福なんです。」
光行は少し間をおいてから、彩香さんに、心に予定していたことを話した。「彩香さん、私とこれからお付き合いをしてくださいますか。しっかり男性として、彩香さんをお守りします。」
「はい、わたしとてもうれしいの。よろしくお願いね。」その眼差しに明るいほほ笑みがとても暖かい。彼女は大きい会社内の食堂で、店員をやっていて、栄養の面でも自然と勉強を続けたという人だった。「天気もまあまあだし、町を散歩に行きましょうか」「ええ、行きましょう」住宅街からゆっくり歩いて、公園に出てきた。語らいベンチとでも言えるところ、「光行さんもいろんな苦労をしたのねぇ」木々があって、ちょうど木漏れ陽が射している。「彩香さん、この木漏れ陽ってけっこう癒されますよね・」「そうねぇ、金色」
「貴女に似合う、金のネックレス・」「金色の、貴男はロマンの詩人だから、お上手ねって、そこが光行さんのよいところなのね」光行は歌の歌詞も自然に覚えるのが、好きだった。「木漏れ日の向こうに君がいるようだ~~」という歌もそらで歌えるくらい。カバンからプリントした文を取り出した。こういう詩文を考えました。「金色の瞳の乙女 長い髪を吹流しのように 風に吹かれながら 貴女が空を飛ぶ 白っぽく薄い 夏の装いで飛ぶ うっすらと目を細めるくらいの笑みを持ち 泳ぐように空を流れる 瞳には金色の輝きの星を持って 僕の大脳の空を遥か超えて飛ぶ 僕はとぼとぼと歩いてゆく 赤いりんごを投げ上げると 貴女は夕焼けに広げ ワンセットの色鉛筆を 虹のアーチにする そして 僕の冷たい胸の揺れを オーロラに変え 貴女は舞い降りてきて 座り込み 二人で頬杖ついて そっと見上げる」
「ふーん、青春の童話とか、メルヘン、まとめることがいいわ」・・「乙女は能力があって、そして、僕、のそばにいる人。色彩が見えるのね・」「いつか発表ができることを期待できそうね」 公園で遊ぶ小学生くらいの子どもたちが、わぁーっと声を上げて、走って行った。「彩香さん、お昼を食べに行きますか」「朝にサンドイッチを少し作ったの、一緒によかったら、食べましょう」「缶コーヒーを常温だけど、私が持ってきました」「ちょうどよかったわね」モグもぐタイム、風がさわやかに二人を、ニコッと眺めるかのように吹いてゆく。
光行と彩香は話しながら「困っている人は助ける」という気持ちも確かめ合うことができた。メールや電話をやりとりして、学生のときに内向性だった光行は少しずつ、笑顔が増えて仕事も知識を増やしていった。
また光行はネットで調べたことがあり、昔の戦争の歴史の中で、ヨーロッパで迫害を受けた人々の命を救った事実に、熱い関心を持っていた。ポーランドのイレーナセンドラ―、ドイツのオスカーシンドラー、そして日本人の杉原千畝のことだった。当時、バルト三国で領事館を開いた杉原千畝は、国を追われた大勢の人々のために、第三国への渡航ビザを発給し続けた。イレーナは閉鎖されたワルシャワゲットーへ入る許可をとりつけ、大きいスカートの中に子どもを隠して、門番に気づかれないように、外へ脱出させた。子どもの両親の名を記録し、リンゴの木の下に埋めて、まず命を守った。シンドラーは貨車に乗せられて、収容所に送られる人々を、自分の工場の熟練工だと主張し、賄賂を渡してでも、命を救った。この話題は彩香さんも共通だった。自分が苦しいとき、彩香さんに雨の中で抱き起された、「困っている人を見たら、黙っていてはいけない」という言葉は、彼女も心に思っていたのだった。光行は役所のボーナスを支給されたとき、金色のネックレスを彩香さんにプレゼントをしたいので、一緒にお店へ行って、選んでもらった。自分の苦しかったときの節約も二人で考えて、これからのことも心に置いた。じき夏が訪れて、光行と彩香は湘南の海へ向かった。片瀬江ノ島の海は、静かな波の日だった。水色の海の水に浸って、砂浜ではしゃいだ後、やがて夕陽の時間になった。光行は、もう決まりのプロポーズのことばを言うことを決めていた。紅く染まった頬で、目を細めている彩香の顔をまっすぐ見た。「私と結婚をしてください。貴女を、一生自分の身にかけて、守ります。」彩香は、瞬時に真顔をして、「はい、わたしはほんとうに、うれしいわ、ずっとよろしくお願いします。」言い終わると、両手を差し出して、光行の胸の中に顔をうずめた。何度も彩香の長めの髪をいたわり撫でながら、暖かく、私たちは強く抱きしめ合った。私たちの頬が心地よく触れあうとき、彼女はうっすらと涙を流し、私は熱い喜びの雫が、目からあふれていった。どのくらい時が経ったか、空と海は、そっと夕映えと穏やかな水面のきらめきをしながら、ほほ笑んでいてくれた。夏の浜辺には、大きな心のジェントゥルピンクが、私と彩香を、天使の翼でそっと、覆ってくれるのだった。
黄色い水着に白っぽいブラウス、光行の書いた「金色の瞳の乙女」まるで、ポエムに近かった。孤独な少年の気持ちを背負ってきたが、光行は決して恋がどうのと、深くわかることではなく、自分に優しく接して、受け入れてくれる彩香を幸福にしたかった。あのとき、赤い傘がバサッと踊って、彼女は濡れることをいとわず、雨の中で倒れた私を、抱き起してくれたこと。自分がほんとうに困ってしまっていたときだった。「困っている人がいたら、黙って見ていないこと」、このことが、二人の多きな共通の想いなのだ。
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