きずもの華族令嬢は初恋の男とクズ夫に復讐する 〜わたしたちは、罪悪です。〜

サバ無欲

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《十五》

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 そのことばに、声に、覚えがある。でもなんだったか思い出せなくて、もどかしくなって、わたしは夢見心地のままに呟きかけて、

「千景さん……それ、なん……」

 さっきからんだ指先が、今度は唇をそっと塞ぐ。
 彼が──千景さんが、困ったように眉尻を下げてほほえんでいる。いつかのように。

「お嬢さん、僕はもう千景ではありません……その名は捨てたんです」

 なおも優しくほほえんだまま、その人はそんなふうに言うから駄目だった。視界がにじむ。ああ、初めて出会った時と同じ顔だ。わたしが恋した、諦めなければならないと思った、あの人そのものだ。

『僕はいずれ、この家を出ようと思うのです』

『兄のいない、尾上の名もない、だれも僕を知らないところでひとりの人間としてやり直したいのです』

 気づけば顔を覆って、ごめんなさい、ごめんなさい、とそればかり繰り返していた。もう見ていられない。だって、どうやって報いていいのかわからない。優しかったあの人を、自由だったその将来を、奪って、縛りつけて、永遠に捨てさせてしまった。

 こんなの、どうあっても報いきれるわけがない。

「……お嬢さん」

「ごめ……なさい……ゆるし、て……く、ださい……」

「はははっ…………許す?」

 ゾッとするような低い声だった。

「あっ」

 片手で両手首を掴み上げられ、頭上に縫い止められて強引に泣き顔を暴かれる。もう片方の手が、暗色の浴衣帯をゆっくりとほどいた。大雨の日に見た均整のとれた体が、ランプの光に照らされて隆起の影をより濃く彩っている。でも表情は、ランプの影に隠れてわからない。

「ひどいひとだ……僕が許そうが許すまいが、僕にはとうに、あなたしかいないのに」

「ひぅっ……!」

 突然の刺激に息を飲む。
 熱い切っ先が入り口に当てられていた。頭ではまだどうしていいのかすら判断できないのに、快楽に慣らされた体は正直に、猛った雄を迎えようと腰を浮かしてしまう。先端はぬる、ぬち、とすべりながら花芯を引っかけるばかりで押し入ろうとせず、余計な焦りばかりがつのる。

「うぁ、あ……あぁん……っどうし、てぇ……」

「……もうこんな風に男を誘えるんですね、お嬢さんは」

「あ……」

 男が短く息を吐いた。
 失望されたのだろう。そう思うと一度ゆるんだ涙腺からあふれるようにまた涙が出て止まらなかった。なさけなくて、恥ずかしくて、どうしたらいいのか分からない。顔をそむけて、せめて許しを乞うしかできない。

「ごめ、なさい……ふ、ふしだらで……ごめんなさ……い……ゆるして、くだ、さい……」

「お嬢さん」

「……おねがい、き、きらわないで……」

「……嫌いになんてなりません」

 優しくなった声とともに、ぐぽっと音を立てて、丸くて太い傘の部分が秘裂に割り入る。

「か、はっ……!」

「くだらない嫉妬です。すみません、やっぱり僕は意地が悪い」

 深い。
 息ができない。
 ついさっきまで絶頂を繰り返していた蜜壷は、少し休んだところでなんの痛みもなく、それどころか体中を甘くしびれさせながら、ひと息で奥の奥まで剛直に支配されてしまう。

「んぅ……んぅうう……っ!」

 ひだがきゅうきゅうと男に絡みついて早く動けとねだっている。先端がくちづけのように奥の悦いところを軽く押して、一向に動いてくれないからだ。
 いつの間にかすべて脱いだ彼の体がわたしを押し潰すかのようにのしかかって、なかよりもずっと激しく唇を奪われる。罪悪感と幸福感で何度も軽く達してしまって、男が、形のいい眉をひそめた。

「ああ……そんなに締められると、どうにも、耐えられそうにない」

「んあっ……!?」

 ずろろ、と逸物が緩慢に引かれて、そのわずかな動きでさえ背中が震え上がるほど気持ちいい。しかしそれだけではない予感があった。ほの暗い瞳に見下ろされて、期待と、恐怖がないまぜになる。

「すみません。乱暴に、します」

「きゃうぅッ…………!!」

 突然、強く穿たれた。

 丈夫なほうの足が制御できずにピンと張って浮いてしまう。それが落ち着くことさえ待たずに、腰が持ち上げられた。どちゅどちゅ、重い音がして、今度は背中ごと仰け反ってしまう。

「あっあっあ、イッ、うぁ、あああん! やら、やらぁああ!!」

「はっ……こ、ちょう……胡蝶、胡蝶……!」

 押し上げられ、奥をえぐられるたびに、らしからぬ切羽詰まった声で名を呼ばれる。

 何度も、何度も、何度も、何度も……
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