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case3.卯衣の場合
05.卯衣、流される◾️
しおりを挟む婚姻申し込み書類ーー通称赤紙のやりとりは本来当人同士でしか確認できない。
もし卯衣がおしゃべりな性格で、逐一誰かに申し込んだ旨を伝えていたなら、回り回って鷹臣の耳に入ったとしても……あまり現実的ではないが、まぁ、分からなくはない。
しかし卯衣は友人、職場、両親においても、赤紙を出した事すら伝えていなかった。卯衣はそういった事を大っぴらに言える人間ではなかったし、話すことによって心配されたり干渉されるのも煩わしかったからだ。
だから本来、卯衣の情報を鷹臣が把握しているなどあり得ない。あり得ないのに、鷹臣は卯衣が赤紙を出した回数はおろか、出した相手までも分かっている口ぶりだった。
「なんでもって……」
「なんでもはなんでもだよ。そろそろ出ようか、卯衣のぼせそうだし」
「待っておみくん、どうし、……っ」
元の口調に戻った鷹臣は、しかし卯衣に遠慮も躊躇もしなかった。なおも愛称で呼ぶ卯衣の乳首を潰すように捻り上げ、痛みを与え、躾けてゆく。
「何度も言わせないで。俺は馬鹿は嫌いだよ」
「……つッ……」
「ほら、俺のことはなんて呼ぶんだった?」
彼はあくまで、卯衣を許しはしなかった。このまま卯衣が屈服しなければ、今度はまた脅しを使ってくるのだろう。堂々巡りで埒があかない。
彼女はか細い声でかろうじて、言い慣れない言葉を紡いだ。
「だんな、さま……」
「うんそうだよ。痛くしてごめんね卯衣」
指を離され、唇に軽いキスをされても、今の卯衣には何かを感じる余裕すらない。悦びや恐怖は大きな疑問の波に流され、彼女の思考はそればかりに占領された。
どうして、どうして知ってるの?
鷹臣は忘我する卯衣の手を引き、湯船から出すとまた腰を抱いてキスをした。左の腰骨に、やたらと熱い塊が直接押し付けられている。いつの間にかタオルは脱げていて、卯衣は抵抗しようとしたが、どうせ同じことだと諦めた。
「んん……ふうっ……」
貪られるように、呼吸もさせてもらえないキスが続く。濡れた片手が太ももをなぞり、卯衣の淫毛を手にとって遊んだ。
こうなると何も感じない訳にもいかず、がくがくと足が震えている。もうきっと彼を拒む術はないのだろうが、卯衣は覚えさせられた言葉を使って彼に苦言を呈した。
「いや……、だんなさま……」
「立ってるの辛い? 座ろうか」
全く違う風に取られてーーあるいはわざとなのだろうがーー卯衣は置かれていた透明なバスチェアに座らされた。鷹臣は目の前に跪き、今度は胸をまさぐってゆく。
「……っ」
「やらかい……卯衣はどこもかしこも柔らかいね。ああでも、ここは固くなってる……」
乳房を掴まれ、ちゅう、と乳首を吸われる。
恐怖と快楽の狭間で、心臓は警鐘を鳴らし、身体は熱を上げてゆく。ひとしきり胸を揉まれる間、卯衣はなんとか声を抑えた。そうすると彼は飽きたのか、じわじわと唇を下になぞってゆく。
「……い、いや……」
「この体勢じゃちょっと厳しいな。卯衣、こっちに座ってくれる?」
鷹臣は風呂に板状の蓋をして、そこへ座るよう命令した。バスチェアよりも高い座高で、座れば、跪く彼の目の前に何がくるか容易に想像できてしまう。卯衣は必死に首を振ったが、鷹臣は卯衣の手首を掴み、強引にそこへ座らせてしまった。さらに肩を押さえつけられ、蓋の上に寝転ぶ体勢になる。
「あんまり暴れないでね。蓋が壊れたらいやでしょう?」
「やだ、……だんなさま……っ」
「やっと覚えてくれた? ……そうだよ、俺は卯衣の、旦那様。卯衣は俺の奥さんなんだからね」
何の事情もなく、ただそれだけを言われていたなら、どれだけ嬉しかっただろう。
人懐っこい笑顔を見せた鷹臣は、卯衣の膝を持って強引に割ると、間髪入れずにその中心へ顔を埋めた。片手で淫毛を上によけ、舌先が、的確に卯衣の淫芽に触れる。卯衣も知らないほどの女の声が、風呂場に高く反響した。
「あっ、うう……ッ!」
ぢゅくぢゅくといやらしい音が立てられて、卯衣の思考は四散する。
どうして家政婦として自分を呼んだのか
どうして赤紙のことを知っているのか
どうして旦那様なんて言わせるのか
どうして卯衣を、妻と呼ぶのか
どうして、どうして、どうして……
「……邪魔だなぁ」
「え……」
「ちょっとこのままでいてね。危ないから」
「ひぁ、やっ、ちょっ……」
舌が離れたかと思うと、今度は手で卯衣のソコに触れ、ぐりぐりと円を描くようにこすりつけられる。次第にぬめった感覚と、ボディソープのさわやかな匂いが鼻をくすぐった。
「な、なにを……」
「動かないでねほんとに、危ないから」
念を押して卯衣に告げると、恥骨にひやりと冷たいものが当たった。それは虫が這うように、ゆっくりと卯衣の中心へ進む。わずかに擦れるような音と、その冷たいものの動きで、卯衣はようやく何をされているのか理解した。
剃られているのだ、そこを。
「やだッ! 何してるのおみくん!」
「あぶなっ、動かないでって卯衣」
「いや、本当にイヤ……! おみくんおかしいよ、どうしてこんな……!」
「卯衣。違うでしょう」
有無を言わせない恐ろしい口調に、卯衣は黙らざるを得ず、風呂の天井を見ながらとうとう静かに涙をこぼした。
冷たい刃は卯衣の秘部を丁寧になぞり、おおよそ全ての場所を通っていった。湯をかけてソープが流れ、鷹臣の手が確認するようにそこを撫でると、今までにはなかった密着感に嫌気が差す。
一体、いつから。
一体いつから彼は変わってしまったのだろう。卯衣の知っている鷹臣は、こんな風に人を虐げ、弄び、全てを奪っていくような人ではなかった。
「ああ……綺麗だ」
「……お、み、……くん……っ」
鷹臣はゆっくりと、まっさらになった恥部を舌でなぞった。淫毛が無くなったソコは、彼の舌や唇が這う感覚を鮮明にとらえていた。毛の有無だけで、こんなにも感じ方が違うなんて。
恐ろしいのに気持ちがよくて、卯衣の唇から、はっ、はっ、と荒い息が吐かれる。
まるで自分こそ犬のようだと、卯衣は思った。
「違うでしょう? 何度言えば分かるの?」
「あっ、ごめ……なさい、だんな、さま……!」
陰唇を痛くない程度に甘噛みされ、卯衣のナカから、とろとろと愛液がこぼれる。
彼は満足そうに柔らかく微笑み、彼女の愛液を舌ですくった。
「ひゃうっ」
「そろそろ上がろっか。2階でしよう、卯衣」
中途半端な熱だけで放置され、卯衣にはもう抵抗する気力もなかった。何故2階なのだろうと頭の片隅で考えたが、彼がタオルで卯衣を拭き始め、考えはまた追いやられる。
「っあ……」
鷹臣はまるで執事か何かのように、卯衣の裸体を隅々まで拭いてゆく。自分では雑に拭き終えてしまうような、例えば足の指の間ですら、彼は膝をついて一ヶ所ずつ丁寧に拭っていた。
「俺のことも拭いて? 卯衣」
「……はい……」
お互いに裸で、なんて卑猥な行為だろう。
卯衣は鷹臣にされたように、丁寧に彼の身体を拭っていった。22歳の裸体は美しく水を弾き、無駄な肉もなく鍛え上げられている。
上体を拭き終えると、次は下半身にいかなくてはならない。そそり勃つ彼の怒張を見ないようには出来なかった。
顔が熱くなるのを感じながら膝をつき、足先まで拭いてやると、彼の吐息が震えている。視線をあげると、グロテスクな逸物と顔を真っ赤にして息をこらえる鷹臣が同時に見えた。
「……は……っ、ごめんやばいかも……」
……どうして、そんな顔。
卯衣は直接、それを触ったわけでもない。ただ身体を拭いてやっただけだ。
だというのに、彼の大きな瞳は熱に浮かされ潤んでいて、その先端からは透明な蜜が溢れている。誰が見ても、鷹臣が昂ぶった欲情をこらえているのは明らかだ。
卯衣の心臓が途端に大きく跳ねた。
彼は卯衣を見て、卯衣に触られただけでこんなことになっている。あんなに乱暴な事をされたのに、それを帳消しにするほど、彼の素直な表情は卯衣を昂ぶらせた。
「うい……っキス、したい……」
泣きそうな顔をしてキスをせがまれ、卯衣は自然に、自分から唇を重ねた。
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