冷酷な男爵は家事で惚れさせる!?~その無慈悲さ、料理でほどける~

花霞つばき

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 ぎこちない時間が流れる応接間。ハロルド公爵は会話の糸口を探りながら、グレイヴに気軽な質問を投げかける。

「男爵は普段、領地の管理でお忙しいのかね?」

「はい。領地がそれほど広くはない分、私の目が届く範囲で整備をしています。少し前に道路の補修を終えたところです」

 淡々とした返事。けれど、整備だの補修だの、地道な作業に男爵自らが関わるとは意外だ。

「それは大変ですね。お疲れはありませんか?」

 リリアナが遠慮がちに尋ねると、グレイヴはかすかに視線を動かして応える。

「仕事だ。疲れるも何もない」

 まるで感情を感じさせない物言いに、リリアナは何を言っていいかわからなくなる。しかし、その冷ややかな言葉の裏に、領地のために労を惜しまない献身があるのではと察する。

「男爵、よろしければ何かご要望はありますか? 何でも用意させますが」

 ハロルド公爵がもてなしの意を示したそのとき、執事が焦った顔で控え室へとやってきた。

「申し訳ございません、準備していた茶菓子が急に足りなくなっておりまして…こちらの手違いで」

「おや、それは困った。失礼、すぐに対処いたしましょう」

 公爵が慌てて席を立つと、グレイヴは静かに言葉を挟む。

「もし甘いものが必要ならば、私が少し用意しましょう」

「え?」

 リリアナは驚いて声を上げる。まさか無慈悲の男爵が菓子を?

「自前のレシピがある。キッチンを借りても?」

 困惑する公爵に代わって、リリアナが思わず答える。

「ええ、もちろんです! でも、男爵様が菓子を作られるのですか?」

 グレイヴは「不要ならやめる」と言わんばかりに目を伏せる。リリアナは慌てて首を振った。

「ぜひ作ってください。私もお手伝いしますわ」

「手伝いは要らない」

 一刀両断に断られ、リリアナは唖然とする。彼のぶっきらぼうな態度に小さな苛立ちを覚えつつも、なぜか胸の奥がときめいた。

「……それでは、キッチンへご案内を」

 使用人が道を示し、グレイヴはゆっくりと席を立つ。その後ろ姿を見送りながら、リリアナは内心の鼓動が高まるのを感じた。

 しばらくして、公爵家のキッチンはなぜか重苦しい空気。使用人たちは“男爵が料理?”といぶかしみ、誰も手を出さない。ただ一人、グレイヴは黙々と器具を揃え、粉を計り、泡立て器を動かす。

「……」

 その手際は驚くほど洗練されている。リリアナがこっそり見守る中、バターや砂糖の分量を正確に計算して混ぜ合わせていく。動作に無駄がなく、手慣れていることが一目でわかる。

「男爵様、すごいですね」

 思わず声をかけると、グレイヴはちょっとだけ振り返り、すぐに視線を戻した。

「集中しているので話しかけないでくれ」

 冷たく突き放された。けれど、その横顔はどこか真剣さに満ちていて、リリアナは見惚れてしまう。いつも見せる冷たい仮面とは違う、本当の彼がここにいるのかもしれない。

「……こんな姿、滅多に見られないんだろうな」

 そう思った途端、リリアナは自分の頬が熱くなるのを感じ、そっと胸に手を当てた。 
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