【拝啓、天国のお祖母様へ 】この度、貴女のかつて愛した人の孫息子様と恋に落ちました事をご報告致します。

秘密 (秘翠ミツキ)

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34話

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 収穫祭も終わり、暫く穏やかな日々が続いていた。そんなある日、フレミー家の屋敷にとある人物が訪ねて来た。

「やあ、孫ちゃん。久しぶりやな。実はな、色々あって少し国を離れてたんよ」

 最後に会ったのはロミルダが亡くなる前だったので、彼と顔を合わせるのはかれこれ三ヶ月以上ぶりだ。



「でもそうか、ロミルダちゃん、最後は幸せだったんやな」

 ティアナは、ニクラスにロミルダの死の間際の話をした。彼は何度も頷きながら目を細め、独り言の様にそう呟いた。

「それで今日は、どうされたんですか。花薬なら、お祖母様はもういないので、作る事は出来ませんが……」

 ロミルダの生前、花薬の作り方は教わった。何度も何度も練習したが、祖母の様に上手くいかず、結局そのままになってしまった。

「まあその事もあるんやけど、それはまた今度でいい。今は孫ちゃんに、確認したい事があってな」

 何時になく深刻な面持ちで話すニクラスに、ティアナは居住まいを正した。何か重大な話に違いない。

「俺がいない間、孫ちゃん、花薬の依頼を受けんかった?」

「いえ、受けてませんが……」

「そらそうか。誰も花薬の作り手は知らんもんな」

「何か、あったんですか」

「実はな……」

 ニクラスの言葉に、ティアナは眉根を寄せた。

「何か進展あったら、知らせるな」

 それだけ言うと、彼は帰って行った。ティアナは、モヤモヤとして暫く落ち着かなかった。








 ◆◆◆


「花薬」

 何時もと変わらず、何時もの顔触れで城の中庭でお茶をしていた時だった。クラウディウスが突然聞きなれない言葉を発した。

「花薬?何だよ、それ」

 ヘンリックが訝しげな表情で、クラウディウスを見ると、彼は深刻そうな面持ちで口を開いた。

「裏社会で取り引きされている、特別な薬だよ」

 レンブラントも名前くらいは聞いた事はあるが、実際本当にその薬が存在するのかは怪しいと思っている。

「万能薬と言われていて、不老不死の薬なんて噂もある」

 その理由は、今クラウディウスが言った通りで、万能薬やら不老不死の薬と言われているからだ。この世にそんな物があるなど、正直レンブラントには信じる事が出来ない。それに、そもそも花薬について全てが曖昧なのだ。入手場所、方法、金額に作り手……どれもが不明。何時どうやって誰から買う事が出来るかも分からない様な花薬という名ばかりの存在を、逆に信じる人間達の気持ちが分からない。だがきっと”万能薬”、”不老不死”といった魅惑的な言葉がそうさせているのだろうとは思う。

「で、その花薬がどうかしたんですか?」

「実は……少し厄介な事になっているみたいでね。’”偽花薬”なる物が出回っているらしいんだ」

 その言葉に、お茶を飲んだり菓子に手をつけるのを止め、その場の全員がクラウディウスを見た。

「所謂、詐欺という事ですか」

「あぁ、簡単に言えばそういう事だ。かなり高額で取り引きされているらしいが、購入した人間の証言では効果は全くない。それどころか、逆に体調の不調を訴える者もいる。なんでも、仲介屋という怪しげな男から買ったそうだ。ここ数ヶ月で、かなりの被害が出ていて、先日父上から話をされたんだ。君達は大丈夫だとは思うが、親族や知人友人等にも、注意させて欲しい。こちらでは騎士団員等を使い調べさせてはいるが中々尻尾を掴めなくてな」

「分かりました。それなら私達も協力をした方が良さそうですね」

「だな!」

 レンブラント達も情報収集などを手伝う事になり話は纏まった。その後、何となしにティアナを見たのだが、顔が強張って見えた。

「ティアナ、どうかした」

 声を掛けると、一瞬身体をピクリとさせる。明らかに様子がおかしい。

「い、いえ……。あの、急用を思い出してしまったので、今日はこれで失礼しても宜しいですか」

「……うん、それは構わないけど。送って行こうか?」

「だ、大丈夫です!では、失礼致します」

 逃げる様に去って行ったティアナに、レンブラントは眉根を寄せた。その後エルヴィーラも退席して、クラウディウス、ヘンリック、テオフィルとレンブラントの四人だけになる。

「ねぇ、どうしてあの場で”仕事の話”をしたの」

 気になっていた事を口にする。あれは明らかに世間話を逸脱しており、仕事の話だ。普段ならティアナやエルヴィーラがいる時に、仕事の話はしないのが暗黙の了解となっている。した所で分からない二人には退屈させてしまうだろうし、そもそも幾ら身内でも情報漏洩の可能性もある。それに余計な情報を知って身の危険に晒される事も考えられ、それ等の理由からこれまでする事はなかった。なのにどうして、今日あの場で話題を出したのか分からない。

「君には言いづらいんだが……先程中々尻尾を掴めていないと言ったが、少し語弊があってね。実は今回の騒動に関係している目ぼしい人物は何人か上がっているんだ」

「……」

「その中に、彼女がいる」

 最初何を言われたのか分からず呆然としてしまった。

「関係者の中にティアナがいる?そんな事ある筈……」

 ある筈がない、そう言おうとしたが先程のティアナの様子を思い出し言葉に詰まってしまった。

「レンブラント、勘違いしないで欲しい。別に彼女が、犯罪に加担しているとは言っていない。ただ、こちらが目をつけている人物が、彼女の事を嗅ぎ回っているらしいんだ。だがその理由までは分かっていない。だが、私はティアナ嬢自身も花薬に関して何等か事情を知っていると考えている。だから敢えてあの場で話をさせて貰った」

「ならっ、どうして事前に僕に教えておいてくれなかったんだよ⁉︎」

 側近であり彼女の婚約者でもある自分に、何の相談もなく、ティアナを試す様な真似をした事に酷く腹が立つ。

「君は、ティアナ嬢の事になると冷静さに欠けるからな。だから今回は事後報告とした」

「そんな事は」

「あるだろう。現に今、君は冷静じゃない。兎に角、これからティアナ嬢がどうするか動向を探る。その間、君は極力彼女と関わらない様にして貰う。これは提案やお願いではなく、私からのだ。無論彼女には、護衛を付けているから心配はいないよ」
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