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71話
しおりを挟む大きな屋敷に広い庭。豪華な調度品にドレスや装飾品。傅く沢山の使用人達。まるで夢の様な世界だ。
フローラは優雅にお茶を啜りながら用意されている焼き菓子を口に放り込む。今口にした菓子一つとっても昔の自分なら高価過ぎて簡単に口にする事は出来なかった。それが今は望めば幾らでも食べる事が出来る。ドレスだって宝石だって、彼に強請れば幾らでも用意してくれる。何しろ今自分はこの国の王太子の婚約者となったのだ。
(今の私が望んで手に入らない物なんて一つもないわ)
「フローラ」
「クラウディウス様」
毎日の様に彼は会いに来る。
「会いたかった」
「ふふ、嫌ですわ。昨日会ったばかりではないですか」
「まあ、そうなんだが」
ワザとらしくはにかみ、甘えた様に上目遣いをすると彼は照れた様に返事をした。
クラウディウスはフローラの隣に腰を下ろすと頭を撫でたり手を握ったりとしてくる。それをやんわりと遇らいながらフローラはお茶を愉しむ。実に気分が良い。
「クラウディウス様も一緒にお茶を飲みましょう」
使用人には任せずフローラはクラウディウスへ手際良くお茶を淹れると彼の前に置いた。それを彼は何の躊躇いもなく飲み干す。
「美味しいですか」
「あぁ、とても美味いよ」
始め彼にお茶を飲ませるまでは意外と時間が掛かったが、一度飲ませてしまえばそれまでだ。
流石王太子だという事もあり親しくなってからも彼は警戒しているのかフローラが淹れたお茶には一切口をつけてはくれなかった。仕方がないので彼が目を離した隙に、彼のお茶に薬を入れた。所謂媚薬なるものだ。
「また来る」
名残惜しいのか何度も彼は振り返りフローラを見てくる。効果は順調だ。今クラウディウスは正にフローラの虜になっている。フローラは一人ほくそ笑んだ。
本来薬の効果は一回飲めば数日は続くが、念の為彼が来る度に飲ませている。もしも効果が切れる様な事があれば全てが終わってしまう。
実はフローラ達は花薬の件からずっと機会を窺っていたのだ。本当なら花薬を利用してフローラの聖女としての知名度を一気に上げるつもりだったが、フローラが動くその前に事態は収束してしまい失敗に終わってしまった。
その後、彼とは街の小さな教会で出会った。
その日教会では慈善活動の一環で、子供達の為に催し物が開かれていた。無論その事は予め調査済みだった。
あの様な場で奇跡なるものを披露すれば信心深い教会の人間は聖女の存在に惹かれると分かりきっていた。何しろこの国はもう何百年と聖女が現れていないと聞く。そんな貴重な存在を放って置く筈がない。それに純粋無垢な子供達の言葉ならば大抵の大人は受け入れるだろうとも考えた。そんな事からあの日あの場には様々な条件が揃っていた。
ただ王太子達があの場に居合わせた事だけは予期せぬ幸運だった。何しろフローラは、何れは王太子妃延いては王妃にになるのだと野心を抱いている。それ故こんなにも早く機会が巡ってくるとは思わなかったと歓喜したがそれは束の間で、折角接触出来た王太子は直ぐに行ってしまった。
だがその後直ぐにフローラはクラウディウスと再会を果たす事になった。どうやら彼は聖女に興味を示したらしく自ら接触して来たのだ。なんて好都合なのだろうか、そして今度こそ機会を逃すものかと徐々に彼との距離を詰めていき、今に至る。
(花薬の時は失敗したけど、今回は上手くいったわね)
「それにしても、ティアナ・アルナルディねぇ」
花薬の一件で浮上した娘だ。姿を見たのは教会でが初めてだったが話はアルノーから聞いて知っていた。
ただあの娘が花薬の作り手かまでかは分からない。だが関係者である事は明白だ。フローラは花薬の現物は見た事はないが、話を聞いた限り普通の人間に作れる代物ではない。
それに彼女を見て直ぐに分かった。彼女からはあの女と同じモノをヒシヒシと感じる。自分と同類であり同類ではない存在。
ーー苛々する。
フローラは唇を噛んだ。
アルノーには彼女を仲間に引き入れる様に言われたが、正直面白くない。だが彼女はクラウディウスの側近の婚約者でもあり同類である事などを差し引いても利用価値は十分にある。
「まあ良いわ」
臆する必要はない。何しろ今の自分は王太子妃も同然であり将来は王妃となるのだ。
フローラは鼻を鳴らすと徐にまた焼き菓子を口に放り込んだ。
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