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アルフォンスから話を聞いてから半月が過ぎた。相変わらずクロヴィスはリゼットに優しくしてくれる。だが、一向にリゼットに噂について話してくれる気配はない。リゼットも敢えて尋ねる事をしなかった。思いもよらぬ形で知る事になってしまったが、彼の口から真相を聞きたいと思ったからだ。 
そして更に半月が経ち、リゼットはそれでも待ち続けた。

「リゼット、今良いかな」

夕食を済ませて自室で本を読んでいた時、クロヴィスがやって来た。一瞬にしてリゼットに緊張が走る。

クロヴィスに連れられ、部屋を移動した。すると部屋の中には所狭しとドレスやら装飾品などが並べられていた。この部屋は来客があった際に応対する場所として使われており、決して狭くはない。なんなら他の部屋よりも広めに造られている。その部屋が狭く感じる程に、沢山積み上げられていた。

「クロヴィス様、あの」

目を丸くして彼を見遣ると、にっこりと笑い適当にドレスを一枚掴むと、リゼットに合わせてみせた。

「うん、良いね。よく似合う」

「クロヴィス様」

「でも、こっちもいいかな」

「クロヴィス様」

まるでリゼットの声が聞こえていないかの様に、クロヴィスは振る舞う。次々にリゼットに似合うだろう衣装を合わせていき、一人愉しげだ。

「クロヴィス様!」

「……」

リゼットは少し声を荒げる。自分の存在を無視をされている様で悲しかった。

「五日後、屋敷で夜会を開く。そこで君のお披露目をする」

「……」

クロヴィスはリゼットへと背を向けながら、今度は適当に装飾品を弄る。

「もう……知っているんだろう?」

「……はい」

「まあ、あれだけ噂になってたら当たり前か……そうだよね」

独り言の様に彼は呟いた。

「どうして何も聞かなかったの」

「クロヴィス様が、話してくれると思ったので……」

「そうなんだ……。でももう知っているなら、分かると思うけど、今回の夜会は君の結婚相手を探す為のものだ。あぁ、心配はいらないよ。夫候補の令息等は僕が確りと吟味したから、家柄も人柄も申し分ない。誰を選んでも君を幸せにしてくれる筈だから。相手が決まったら……」

何時もよりもかなり早口で饒舌に話すクロヴィスに、リゼットは唇を巻き込む。
彼から話してくれるのを覚悟をしながら、ずっと待っていた。だが実際に直面すると、泣きたくなった。しかも、彼はリゼットと向き合って話す事はせずに、リゼットを視界に入れない様にしている。まるで早く面倒事を済ませてしまいたいとばかりに話す。

「どうして……ですか」

せめて理由を彼の口から直接聞きたい。縋る様な思いでクロヴィスの背中を見つめた。その瞬間、彼はピタリと話すのをやめた。

「……」

彼は黙りで何も答えてくれない。初めてかも知れない、彼に対して怒りが込み上げてくる。

「私が、子供過ぎてクロヴィス様の妻には相応しくないからですか?それとも、他に愛する人がいて、その方と結婚したいから……私が邪魔になったんですか」

水を打ったように部屋が静まり返る。互いに黙り込み、掛け時計が秒針を刻む音がいやに耳についた。長い沈黙の後、口を開いたのは彼だった。

「リゼットって普段鈍いのに、そう言う所は鋭いんだね」

「え……」

「僕なりに気を使ったつもりではいたんだ。でも、もう良いや。君もそこまで子供じゃないしね。そうだよ、リゼットが思っている通り僕には好きな女性ひとがいるんだ。だから君に居られると困るんだよ。僕はその 女性ひとと一緒になりたい。……子供のおもりをするのはもう沢山だ」

頭から水を浴びせられた様に感じた。自分で言ったのに、彼の口から言われて頭が真っ白になる。もう一言も発せない。身体が震えて、立っているのも辛い。

「此処に用意した物は、全て君の嫁入り道具だよ。僕からの君への最後の贈り物だ」

彼は一度もリゼットを振り返る事なく、部屋から出て行った。扉が閉まる音が冷たく響く。

「っ……」

一人になった部屋でリゼットは、彼が似合うと言ってくれたドレスを抱き締め崩れ落ちた。




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