愛する旦那様が妻(わたし)の嫁ぎ先を探しています。でも、離縁なんてしてあげません。

秘密 (秘翠ミツキ)

文字の大きさ
28 / 29

26.5

しおりを挟む


「いよいよ明日ですね」

廊下で立ち止まり中庭を眺めていたコンラートの背後から声を掛けてきたのは息子のレンブラントだった。

「あぁ、そうだな」

「嬉しそうですね」

クロヴィスとリゼットの離縁騒動から半年が過ぎた。あの後、クロヴィスは周囲を騒がせたとして三ヶ月謹慎処分を下し屋敷に軟禁状態になった。その間はリゼットを城で預かり、一切の接触を禁止してクロヴィスに頭を冷やさせた。アルフォンスの方はあの後怒り狂って手が付けられず、仕舞いには周囲に当たり散らした。仕方なく暫くコンラートの二番目の弟である辺境伯の元へと預けた。二番目はかなり厳格な人物故、少しは成長して戻って来る事を切に願っている。

そして明日、クロヴィスとリゼットの二人の挙式が執り行われる。

「昔から思ってたんですが、父上は叔父上に本当に甘いですよね」

「そうか?」

「はい、なんなら息子の俺達なんかに対してよりも甘々です」

珍しいと、コンラートは眉を上げた。
三人いる息子の中でこの末のレンブラントは、生真面目で妬みや嫌味などは言わないと思っていたが……。

「なんだ、妬きもちか?」

「まさか、そんな気色悪い事思う訳ないじゃないですか」

昔はこんな風に言わなかったが、最近口が悪くなった気がした。成長と言って良いものか悩ましい……複雑だ。

「他意はありませんよ。ただ純粋な興味です」

「……アレは、愛情が良く分からないんだ」





コンラートは七人兄弟だが、母親が同じなのはクロヴィスだけだった。二人の母は、正妃であり、政略結婚で国王に嫁いだが父は母を溺愛していた。それこそ他の側妃には子が出来たら、一度も足を向ける事がなかったそうだ。

ただコンラートを産んでからは母は子を身籠る事が出来ず仕舞いだった。王太子である自分を産んだのだから十分だと言えるが、父はそうでは無かった様だ。

コンラートが生まれてから十五年後、驚く事に母が身籠った。それがクロヴィスだ。ただ、年齢が高い所為か母はクロヴィスを産むとそのまま亡くなってしまった。
溺愛していた妻を亡くした父は、嘆き悲しみ怒りの矛先をクロヴィスへ向け、恨んだ。

「国王である父から恨まれ蔑まれていれば、周囲がアレにどう接するかは言うまでもない」

「そうですね……誰だって自ら望んで国王から不興など買いたくないですからね」

「当時私は王太子としての重圧や責任で、自分自身の事で精一杯だった。故にアレの事は気掛かりではあったが、何もしてやれなかった……」

クロヴィスは容姿や勉学に特別秀でており、その事でも周囲からの妬み嫉みを受け、ますます孤立していった。

誰からも愛情を向けられる事なく育った弟は、何時しか貼り付けた様な笑顔を作る様になった。自分なりに身を守る為だったのかも知れない。相手に対して敵意がない事を必死に示していたのだろう。

そんな弟は学院に入学する歳になると同時に、逃げる様にして城を出た。まだ早いと思ったが、本人からの強い希望を尊重した。
この頃コンラートは先代の王であった父が亡くなり既に国王に就任しており、まだまだ新米な王であったコンラートには余裕などがある筈もなく、多忙な日々を送りやはりクロヴィスとは殆ど顔を合わす事はかった。

そしてクロヴィスが十四になったそんなある日、転機が訪れる。アリセア国から届いた献上品、彼女がやって来たのだ。

第六感と言えば良いのか分からないが、彼女に会った時何故か頭にクロヴィスが浮かんだのだ。もしかしたらこの小さな少女が、弟の孤独を埋めてくれるかも知れないと直感で思った。

「そんな理由で叔父上とリゼットを結婚させたんですか?」

「まあ、な。半信半疑ではあったが」

「父上……」

「ゴホンッ……仕方ないだろう。私もまだまだ未熟で精一杯だったんだ。そんな目で見るな」

そしてクロヴィスは変わった。彼女以外には相変わらずではあるが、彼女へ向ける笑みは本物だった。しかも信じられない事にあの弟が、妻の惚気話をしていたのだ。その事がどうしようもなく嬉しかった。

「成る程。あの溺愛の仕方は、どう愛情表現していいのかが分からないからだったんですね。ルヴィエ家には何度も足を運んでいますが、叔父上からリゼットに買い与えた物でこれでもかと言う程、溢れ返っていました。正直初めて行った時は唖然として立ち尽くしましたよ。しかも叔父上は延々とリゼットの話ばかりで、対応に困りました」

だがそんなに溺愛していた彼女と離縁すると言い出した時には、表情にこそ出さなかったがコンラートは驚愕した。しかも理由が「僕は彼女の兄代わりなんです」などと宣い、最早意味不明だった。賢い筈の弟は恋愛になると、とんでもなく鈍く莫迦だったのだ。

ただクロヴィスは、もういい歳した大人だ。口を挟むつもりはなかった。今更兄面をして説教するのも正直気が引けたという事もある。

「だがまあ、これでようやく落ち着く」

「そうですね、叔父上は兎も角、リゼットには幸せになって貰いたいです」

「お前はリゼット嬢、贔屓だな」

「俺にとって彼女は、妹みたいなものですから」

「レンブラント……お前もか」

「ハハッ」
しおりを挟む
感想 58

あなたにおすすめの小説

愛するひとの幸せのためなら、涙を隠して身を引いてみせる。それが女というものでございます。殿下、後生ですから私のことを忘れないでくださいませ。

石河 翠
恋愛
プリムローズは、卒業を控えた第二王子ジョシュアに学園の七不思議について尋ねられた。 七不思議には恋愛成就のお呪い的なものも含まれている。きっと好きなひとに告白するつもりなのだ。そう推測したプリムローズは、涙を隠し調査への協力を申し出た。 しかし彼が本当に調べたかったのは、卒業パーティーで王族が婚約を破棄する理由だった。断罪劇はやり返され必ず元サヤにおさまるのに、繰り返される茶番。 実は恒例の断罪劇には、とある真実が隠されていて……。 愛するひとの幸せを望み生贄になることを笑って受け入れたヒロインと、ヒロインのために途絶えた魔術を復活させた一途なヒーローの恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は、他サイトにも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID25663244)をお借りしております。

【完結】そんなに好きならもっと早く言って下さい! 今更、遅いです! と口にした後、婚約者から逃げてみまして

Rohdea
恋愛
──婚約者の王太子殿下に暴言?を吐いた後、彼から逃げ出す事にしたのですが。 公爵令嬢のリスティは、幼い頃からこの国の王子、ルフェルウス殿下の婚約者となるに違いない。 周囲にそう期待されて育って来た。 だけど、当のリスティは王族に関するとある不満からそんなのは嫌だ! と常々思っていた。 そんなある日、 殿下の婚約者候補となる令嬢達を集めたお茶会で初めてルフェルウス殿下と出会うリスティ。 決して良い出会いでは無かったのに、リスティはそのまま婚約者に選ばれてしまう── 婚約後、殿下から向けられる態度や行動の意味が分からず困惑する日々を送っていたリスティは、どうにか殿下と婚約破棄は出来ないかと模索するも、気づけば婚約して1年が経っていた。 しかし、ちょうどその頃に入学した学園で、ピンク色の髪の毛が特徴の男爵令嬢が現れた事で、 リスティの気持ちも運命も大きく変わる事に…… ※先日、完結した、 『そんなに嫌いなら婚約破棄して下さい! と口にした後、婚約者が記憶喪失になりまして』 に出て来た王太子殿下と、その婚約者のお話です。

戦場から帰らぬ夫は、隣国の姫君に恋文を送っていました

Mag_Mel
恋愛
しばらく床に臥せていたエルマが久方ぶりに参加した祝宴で、隣国の姫君ルーシアは戦地にいるはずの夫ジェイミーの名を口にした。 「彼から恋文をもらっていますの」。 二年もの間、自分には便りひとつ届かなかったのに? 真実を確かめるため、エルマは姫君の茶会へと足を運ぶ。 そこで待っていたのは「身を引いて欲しい」と別れを迫る、ルーシアの取り巻きたちだった。 ※小説家になろう様にも投稿しています

【完結】今日も旦那は愛人に尽くしている~なら私もいいわよね?~

コトミ
恋愛
 結婚した夫には愛人がいた。辺境伯の令嬢であったビオラには男兄弟がおらず、子爵家のカールを婿として屋敷に向かい入れた。半年の間は良かったが、それから事態は急速に悪化していく。伯爵であり、領地も統治している夫に平民の愛人がいて、屋敷の隣にその愛人のための別棟まで作って愛人に尽くす。こんなことを我慢できる夫人は私以外に何人いるのかしら。そんな考えを巡らせながら、ビオラは毎日夫の代わりに領地の仕事をこなしていた。毎晩夫のカールは愛人の元へ通っている。その間ビオラは休む暇なく仕事をこなした。ビオラがカールに反論してもカールは「君も愛人を作ればいいじゃないか」の一点張り。我慢の限界になったビオラはずっと大切にしてきた屋敷を飛び出した。  そしてその飛び出した先で出会った人とは? (できる限り毎日投稿を頑張ります。誤字脱字、世界観、ストーリー構成、などなどはゆるゆるです)

【完結】私の愛する人は、あなただけなのだから

よどら文鳥
恋愛
 私ヒマリ=ファールドとレン=ジェイムスは、小さい頃から仲が良かった。  五年前からは恋仲になり、その後両親をなんとか説得して婚約まで発展した。  私たちは相思相愛で理想のカップルと言えるほど良い関係だと思っていた。  だが、レンからいきなり婚約破棄して欲しいと言われてしまう。 「俺には最愛の女性がいる。その人の幸せを第一に考えている」  この言葉を聞いて涙を流しながらその場を去る。  あれほど酷いことを言われってしまったのに、私はそれでもレンのことばかり考えてしまっている。  婚約破棄された当日、ギャレット=メルトラ第二王子殿下から縁談の話が来ていることをお父様から聞く。  両親は恋人ごっこなど終わりにして王子と結婚しろと強く言われてしまう。  だが、それでも私の心の中には……。 ※冒頭はざまぁっぽいですが、ざまぁがメインではありません。 ※第一話投稿の段階で完結まで全て書き終えていますので、途中で更新が止まることはありませんのでご安心ください。

【改稿版・完結】その瞳に魅入られて

おもち。
恋愛
「——君を愛してる」 そう悲鳴にも似た心からの叫びは、婚約者である私に向けたものではない。私の従姉妹へ向けられたものだった—— 幼い頃に交わした婚約だったけれど私は彼を愛してたし、彼に愛されていると思っていた。 あの日、二人の胸を引き裂くような思いを聞くまでは…… 『最初から愛されていなかった』 その事実に心が悲鳴を上げ、目の前が真っ白になった。 私は愛し合っている二人を引き裂く『邪魔者』でしかないのだと、その光景を見ながらひたすら現実を受け入れるしかなかった。  『このまま婚姻を結んでも、私は一生愛されない』  『私も一度でいいから、あんな風に愛されたい』 でも貴族令嬢である立場が、父が、それを許してはくれない。 必死で気持ちに蓋をして、淡々と日々を過ごしていたある日。偶然見つけた一冊の本によって、私の運命は大きく変わっていくのだった。 私も、貴方達のように自分の幸せを求めても許されますか……? ※後半、壊れてる人が登場します。苦手な方はご注意下さい。 ※このお話は私独自の設定もあります、ご了承ください。ご都合主義な場面も多々あるかと思います。 ※『幸せは人それぞれ』と、いうような作品になっています。苦手な方はご注意下さい。 ※こちらの作品は小説家になろう様でも掲載しています。

結婚5年目の仮面夫婦ですが、そろそろ限界のようです!?

宮永レン
恋愛
 没落したアルブレヒト伯爵家を援助すると声をかけてきたのは、成り上がり貴族と呼ばれるヴィルジール・シリングス子爵。援助の条件とは一人娘のミネットを妻にすること。  ミネットは形だけの結婚を申し出るが、ヴィルジールからは仕事に支障が出ると困るので外では仲の良い夫婦を演じてほしいと告げられる。  仮面夫婦としての生活を続けるうちに二人の心には変化が生まれるが……

結婚から数ヶ月が経った頃、夫が裏でこそこそ女性と会っていることを知りました。その話はどうやら事実のようなので、離婚します。

四季
恋愛
結婚から数ヶ月が経った頃、夫が裏でこそこそ女性と会っていることを知りました。その話はどうやら事実のようなので、離婚します。

処理中です...