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三話〜清々しい朝〜
しおりを挟む実に清々しい朝だ。
カーテンの隙間から差し込む朝日が輝いている。
高級なベッドのお陰で昨夜は安眠出来た。
「若奥様、おはようございます」
「おはよう、ボニー」
「昨夜はゆっくりお休みになられましたか?」
エレノラより十歳ほど年上で肩まで切り揃えられた黒髪と焦茶の瞳の彼女は、エレノラ付きの侍女になったボニーだ。
「えぇ、ぐっすり眠れたわ」
「それは良かったです」
穏やかに笑むボニーは、手際良くエレノラの身なりを整えていく。
初夜なのにも拘らず夫が不在の状況で、普通ならボニーの言葉は嫌味にも捉えられる。だが彼女からはまるで悪意は感じられず、言葉以上の意味はないだろう。
それに例え嫌味だとしても、正直どうでもいいし寧ろ安堵しているくらいだ。
親密にしている女性が沢山いるので閨の心配はしていなかったが、流石に初夜は分からないと少し不安だった。
だが彼の言動からしてエレノラに全く興味がないみたいだし、寧ろ嫌われているくらいだ。なのでこれからも心配する必要はないだろう。
そもそもそんなに愛人がいるならば、その内誰か産んでくれるだろうし問題ない筈だ。
それにあれだけ嫌がられているのだから、その内離縁して貰えるかもと淡い期待もしていたりする。その際はたっぷりと慰謝料を請求出来そうだ。
考えただけで頬が緩みそうになる。
ただ今追い出されるのは困る。実はまだ祝い金と名の報酬を貰えていないのだ。
婚姻書を書いた時に挙式後に支払うと言われたが、まさか一年後とは聞いていなかった。
流石だ。徹底している。人生そんなに甘くはない……。
体裁もあるので結婚して直ぐに離縁などされたら困るのだろう。
だが公爵にその気がなくても、本人が離縁したいと言い出せばどうなるか分からない。好かれる必要はないが、余り嫌われるのも考えものだ。
「お食事の用意が出来ておりますが、如何なさいますか?」
「頂くわ。ミル、行きましょう」
シュウ~!
エレノラの身支度が終わるまでベッドの上でゴロゴロしていたミルを呼ぶと、嬉しそうに駆けてくる。
「あら、可愛らしい! 若奥様のペットですか?」
「ミルっていうの」
「ふふ、ミル様ですね、宜しくお願いします」
シュウ!
好き嫌いが激しいミルだが、どうやらボニーの事を気に入ったみたいだ。差し出された指に顔を擦り付けていた。
それにしても、まさかミルが様付けされる日がくるとは驚きだ。
食堂へ行くと次々に食事が運ばれてきた。
焼き立てのフワフワのパンに、オムレツ、新鮮な野菜を使ったサラダ、ソーセージ、スープに瑞々しいフルーツーー流石、公爵家だ。朝から贅沢過ぎる。
昨夜もそうだった。なので一人分にしては多過ぎると使用人に声を掛けたが「お好きな分だけお召し上がり下さい」と和かに言われた。
(残ったのはどうするのかしら……。やっぱり、捨てるのよね……?)
頭では理解している。
ここは国王のお膝元、所謂城下で都会、そして大貴族である公爵家だ。エレノラの生まれ育ったど田舎の貧乏な伯爵家とは別世界だ。これが当たり前で普通なのだろう。だがーー
(もったいないな……)
これだけあれば、父や弟達と一緒に食べても余りそうだ。こんな贅沢なご飯を食べたら、どんなに喜ぶだろう……。
オムレツを一口食べれば、濃厚な卵とバターの風味が口一杯に広がる。
正に至福の味がする!
食べる前から分かっていたが、やはり頬っぺたが落ちそうな程美味しい。だが、余計な事を考えてしまい食事を余り楽しめなかった。
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