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八十三話〜自信〜
「ユーリウス様? 本日の面談は終わりましたよ」
「あ、ああ……すまない、少し考え込んでいた」
気付けば目の前に呆れ顔のエレノラが立っていた。
部屋には彼女と二人きりだ。その事に酷く安堵する。
「明日もありますから、頑張りましょう」
責める訳でも他人事でもなく、そう声を掛けてくれる彼女に様々な感情が込み上げてくる。
「え、あのっ、ユーリウス様⁉︎」
そして気付けばエレノラを抱き締めていた。
突然の事に驚きの声を上げる彼女はきっと怒るだろう。もしかしたら嫌われてしまうかも知れないと不安になるが、身体が言う事を聞かない。
「ユーリウス様……?」
「少しだけでいい、このままでいたい」
「……」
だが意外にも彼女は何も言わなかった。
身体の力を抜き大人しくなされるがままになっている。
初めて抱き締めた彼女の身体は想像していたよりも小さくて細く、強く力を入れたら壊れてしまいそうだ。
(こんなに小さな身体で、一人で家族を支えてきたのか……)
ユーリウスは宣言どおり、現在フェーベル家の再建に向けて動いている。
エレノラが嫁いでくる以前に父が集めた資料を入手し、現状の把握に努めた。そして彼女の話していた内容と事実確認を行ないながら改めて思い知った、これまでエレノラがどれだけ苦労してきたかという事を。
「君は凄いな」
「え……」
「あ、いや……」
心の中で思ったつもりが口に出ていた。
一瞬焦るが開き直り腕の中で見上げている彼女に笑んだ。
「もし君が私の立場だったなら、きっと私のようにはなっていないだろうと思ってな。逆に私が君の立場だったなら、疾うの昔に諦め逃げ出していたかも知れない」
この二日で嫌という程、自分の愚かさや情けなさを実感した。
三者面談といいながら、実質二者面談であり自分は当事者にも拘らず空気のようだった。
この場にいる意味があるのかとさえ思えてしまうが、その一方で何故エレノラが三者面談にしたのか分かる気がした。
ユーリウスに愛人達の現状を見せ、自分自身と向き合う時間を与えてくれたのだと思う。また彼女達に対しても然りだろう。
何故他人にそこまで心を砕く事が出来るのか分からない。本来なら彼女は自分自身の事だけで手一杯の筈なのに……。
「凄くなんてないです。ただ必死だっただけですよ。母が亡くなって、父は食事も摂れないくらい気落ちしてしまい二人の弟は二歳と乳飲み子で私がどうにかするしかありませんでした。家族を、フェーベル家を守れるのは私だけだって自分に言い聞かせてきた、ただそれだけです」
何でもないようにそう言って笑う姿を見て、彼女を守りたい思いが心の底から込み上げてくるのを感じる。
「エレノラ、聞いて欲しい事がある」
「はい」
「本当は落ち着いてから話そうと思っていたんだが……」
愛人達との関係の清算とフェーベル家の再建の目処が立ったら言おうと決めていたが、伝えたい気持ちが抑えられそうにない。
「これまでの事を謝りたい……すまなかった。もし許して貰えるなら君と一から本当の夫婦としてやり直したい」
拒絶されたらと思うと怖くなり少し前までなら言葉にするのを躊躇っていただろう。だが今はエレノラなら自分を受け入れてくれると自信があった。
最近は以前よりも距離は格段に近付いている事を実感している。
互いに向き合って話をしてから、自然と食事やお茶を一緒にするようになり、彼女からも笑って話し掛けてくれるようになった。そこに以前のような金銭のやり取りはない。
だがエレノラの反応はユーリウスの期待したものとは違った。
彼女は眉を下げ目を逸らす。
「少し、時間を下さい」
「っ……」
「今日の面談の資料を纏めなくてはならないので、お先に失礼します」
腕の中からするりと抜け出すと、エレノラは逃げるように部屋から出て行ってしまった。
取り残されたユーリウスは放心状態でその場に立ち尽くしていた。
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