97 / 101
九十五話〜独占欲〜
しおりを挟むベッドに横になるリズをセドリックは眺める。
戸惑う彼女を優しく宥め、今し方ようやく眠りに就いてくれた。
「……リズ」
無防備にベッドの上に投げ出されている手をそっと取ると、手の甲に口付けをする。
毎日あれだけ雑事をこなしているというのに滑やかで綺麗だ。
彼女を失うかも知れないと思ったあの瞬間、全身の血の気が引き粟立った。
恐怖と怒りでどうにかなってしまいそうだった。
もし後少し遅かったら……そう考えると今この瞬間も恐怖に駆られ怒りに支配されそうになる。
リズ達を襲撃した男達の素性は分かっていないが、ただのならず者ではないだろう。
今回殉職した二人の護衛は優秀な騎士だった。
彼等はサイラスが城から連れて来た者達で腕は確かであり場数も踏んでいるベテランだ。
幾ら相手の方が数を上回っていたからといって、命を落とすなど考えられない。そうなると相手もそれ相応の訓練を積み尚且つかなりの実力の持ち主だったと仮定される。恐らく何処かの国の騎士かも知れない。
そしてルークが逃げた後を追わなかった事からして、狙いはリズである事は明白だ。
以前からリズが訳ありだとは分かっていた。
あの時彼女は、自分がルヴェリエ帝国の皇子と知って屋敷を去ろうとしていた。だが当初セドリックはあまり深刻に捉えず楽観的に考えてしまった。
今回の件も踏まえて有能なリズ自身でも手に負えないくらいの問題を抱えているのだと分かった。そう例えば……国際問題などだ。
仮にそうだとするとリズは西大陸の上流貴族のそれも政治などに強く関わりのある家柄の令嬢か、若しくはこれは考えたくないが密偵や暗殺者などとも考えられる。
現時点では五分五分と言った所だろう。
何故ならあの剣の構えは素人ではない。だが剣術自体は素人にしか思えなかった。
その事実が余計にセドリックを混乱さ
せていた。
ただいずれにしても関係ない。
(リズを誰にも傷付けさせたりはしない)
セドリックはリズの解けた長い髪をひと束掴むと今度はそこに口付けた。
癖になってしまいそうだ。
現時点で既に予定より長く滞在しているが、更に滞在期間の延長をした。その理由は例の事件の調査の為だ。
「内密に進めているんだ、通常よりも時間は掛かるに決まっているだろう」
水面下で調査を始めて数日経つが、有力な情報は掴めず進展はない。
「そこをどうにかするのが叔父上の役目なのでは?」
「無茶ばかり言ってくれるな。これでも出来る限り手は尽くしている」
セドリックが不満気に文句を言うと、サイラスは深いため息を吐いた。
「後三日以内にお願いします」
何か言いた気なサイラスを一人執務室に残こし退室をする。
流石にこれ以上は延長は出来ない。
公務が滞っているし、あまり長い間第三部隊を放置は出来ない。普段ほとんど顔は出さないが、直ぐに駆け付けられる場所にいるのといないとでは雲泥の差だ。
それにまた襲撃を受ける可能性も否めない。
あれからサイラスが屋敷の警備を強化したが、やはり辺鄙なヴュストよりも王都であるラルエットの方が安心だ。故になるべく早く事を済ませ帰るのが最良だろう。
部屋に戻るべく廊下を歩いていると、ふと窓の外が視界に入った。
そこには中庭でルークと一緒にいるリズの姿があり、思わず立ち止まり二人を眺める。
「……」
サイラスは自分にルークの面倒をみさせる為にわざわざ呼び寄せたが、彼とは絶対に打ち解ける事はないだろう。
あの日、ルークが森に行くと言い出さなければあんな事にはならなかった。仮にならず者達に襲われるような事があっても、セドリックが近くにいれば直ぐにリズを守る事が出来た筈だ。
それに理由はそれだけではない。まだ八歳ではあるが男性に違いなく、妙にリズに懐いている所も気に食わない。
大人気ないと分かっているが、何もかもが好きになれない。
「リズ、少しいいかな」
「セドリック様」
中庭に出ると親し気にルークと話している彼女に声を掛けた。
側には何人もの護衛達の姿がある。
「ルーク様、失礼します」
丁寧に頭を下げたリズはこちらへとやって来る。
ルークは分かり易く不満気な顔をしてセドリックを睨んでくるが不敵に笑って見せた。すると益々顔を歪ませる。
「お茶を淹れて欲しいんだ」
「承知致しました」
快諾する彼女を連れてセドリックは満足そうにしてその場を後にした。
341
あなたにおすすめの小説
三年の想いは小瓶の中に
月山 歩
恋愛
結婚三周年の記念日だと、邸の者達がお膳立てしてくれた二人だけのお祝いなのに、その中心で一人夫が帰らない現実を受け入れる。もう彼を諦める潮時かもしれない。だったらこれからは自分の人生を大切にしよう。アレシアは離縁も覚悟し、邸を出る。
※こちらの作品は契約上、内容の変更は不可であることを、ご理解ください。
私たちの離婚幸福論
桔梗
ファンタジー
ヴェルディア帝国の皇后として、順風満帆な人生を歩んでいたルシェル。
しかし、彼女の平穏な日々は、ノアの突然の記憶喪失によって崩れ去る。
彼はルシェルとの記憶だけを失い、代わりに”愛する女性”としてイザベルを迎え入れたのだった。
信じていた愛が消え、冷たく突き放されるルシェル。
だがそこに、隣国アンダルシア王国の皇太子ゼノンが現れ、驚くべき提案を持ちかける。
それは救済か、あるいは——
真実を覆う闇の中、ルシェルの新たな運命が幕を開ける。
婚約破棄をしておけば
あんど もあ
ファンタジー
王太子アントワーヌの婚約者のレアリゼは、アントワーヌに嫌われていた。男を立てぬ女らしくないレアリゼが悪い、と皆に思われて孤立無援なレアリゼ。彼女は報われぬままひたすら国のために働いた……と思われていたが実は……。
王子様への置き手紙
あおた卵
恋愛
フィオナは王太子ジェラルドの婚約者。王宮で暮らしながら王太子妃教育を受けていた。そんなある日、ジェラルドと侯爵家令嬢のマデリーンがキスをする所を目撃してしまう。ショックを受けたフィオナは自ら修道院に行くことを決意し、護衛騎士のエルマーとともに王宮を逃げ出した。置き手紙を読んだ皇太子が追いかけてくるとは思いもせずに⋯⋯
結婚後、訳もわからないまま閉じ込められていました。
しゃーりん
恋愛
結婚して二年、別邸に閉じ込められていたハリエット。
友人の助けにより外に出ることができ、久しぶりに見た夫アルバートは騎士に連行されるところだった。
『お前のせいだ!』と言われても訳がわからなかった。
取り調べにより判明したのは、ハリエットには恋人がいるのだとアルバートが信じていたこと。
彼にその嘘を吹き込んだのは、二人いたというお話です。
私は……何も知らなかった……それだけなのに……
#Daki-Makura
ファンタジー
第2王子が獣人の婚約者へ婚約破棄を叩きつけた。
しかし、彼女の婚約者は、4歳年下の弟だった。
そう。第2王子は……何も知らなかった……知ろうとしなかっただけだった……
※ゆるい設定です。ゆるく読んでください。
※AI校正を使わせてもらっています。
婚約破棄されたのでファンシーショップ始めました。 ― 元婚約者が、お人形さんを側室にしようとして大恥をかきました ―
鷹 綾
恋愛
隣国の王子から「政略的にも個人的にも魅力を感じない」と婚約破棄された、ファンタジア王国第三女王タナー。
泣きも怒りもせず、彼女が考えたのは――「いつか王宮の庇護がなくなっても困らない生き方」だった。
まだ八歳。
それでも先を見据え、タナーは王都の片隅で小さなファンシーショップを開くことを決意する。
並ぶのは、かわいい雑貨。
そして、かわいい魔法の雑貨。
お茶を淹れてくれるクマのぬいぐるみ店員《テイデイ・バトラー》、
冷めないティーカップ、
時間になると小鳥が飛び出すアンティーク時計――。
静かに広がる評判の裏で、
かつての元婚約者は「お人形さんを側室にしようとして」赤っ恥をかくことに。
ざまぁは控えめ、日常はやさしく。
かわいいものに囲まれながら、女王は今日も穏やかにお店を開けています。
---
この文面は
✔ アルファポリス向け文字数
✔ 女子読者に刺さるワード配置
✔ ネタバレしすぎない
✔ ほのぼの感キープ
を全部満たしています。
次は
👉 タグ案
👉 ランキング用超短縮あらすじ(100字)
どちらにしますか?
砕けた愛
篠月珪霞
恋愛
新婚初夜に男に襲われた公爵令嬢エヴリーヌは、不義密通の罪を被せられた。反逆罪に問われた彼女の一族は処刑されるが、気付くと時間が巻き戻っていた。
あなたへの愛? そんなものとうに、砕け散ってしまいました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる