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二話〜東大陸へ〜
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夜明け前、辺りは暗闇に包まれていた。
ランプは使えないので、夜目を頼りに進むしかない。そんな中、護衛騎士や衛兵の目を掻い潜り宮殿の外へと出る事に成功した。
正直、素人の自分が潜り抜けられた事に拍子抜けすると同時に警備の甘さが気になるが、今はそんな事を考えている場合ではない。
エヴェリーナは、数歩歩くと振り返りセレーナ宮殿を見上げるが直ぐに踵を返すと歩き出す。それ以降、振り返る事はなかった。
ジュリアスから離縁の話をされてから半月、密かに宮殿を出る準備をしてきた。
荷物整理や仕事の引き継ぎの為の書類の作成、宮殿を出るルートの確認から通行書の手配と忙しなかった。無論通行書は偽装したもので身分は平民であり名前はリズとした。余談だが名前の由来は、昔母が読んでくれた絵本に登場した勇敢な少女の名から拝借した。
街に着くと、エヴェリーナは朝一の乗り合い馬車を使い街を出た。
ここからは幾つもの市街地を経由し、ローエンシュタイン帝国を出て国一つ横断すれば西大陸から出る事が出来る筈だ。
「あら、これは……」
道中、宿に泊まり荷物を確認していた時だ。入れた覚えのない布袋が鞄から出てきた。中を見てみればそれは金貨や宝石類だった。それにーー
「砂糖漬けとナッツ?」
袋の中に更に袋。その袋にはフルーツの砂糖漬けやナッツ類がたっぷりと入っている。非常食には丁度良い。
自分でも暫く生活するだけの金銭は持ってはきたが、いつ移住先や仕事が見つかるかも分からないので心許なさは感じていた。だがこれだけあれば当面は安心だろう。
エヴェリーナは、布袋を凝視する。
明らかに紛れ込んだ物ではなく、準備された物だと分かる。そしてこれを入れた人物が誰なのか心当たりがあった。
「グレッタ……」
グレッタとはセレーナ宮殿の侍女長だ。
彼女は元々ジュリアスの母アデラインの侍女でありジュリアスの乳母でもあった。そんな彼女はいつもエヴェリーナを助けてくれた。
どうやらグレッタは、エヴェリーナが宮殿を出る事に気付いていたらしい。
手紙を残してきたが、不義理な事をしてしまったと胸が痛む。だがあのまま宮殿に留まる選択は出来なかった。せめて直接の別れの挨拶をしたかったが、彼女を巻き込む訳にはいかない。
「ごめんなさい、そして、ありがとう……」
大切に使わせて貰おう。
布袋を握り締め感謝すると、それを鞄にそっと戻した。
宮殿を出てから一カ月ーー
ここまで追手もなく予定通り進む事が出来ている。
今、目の前にある通行所を抜ければ西大陸から東大陸へと入る。そうすれば、追手に見つかる確率は格段低くなり安心出来る。
ただ東大陸は未知の領域だ。不安に思うが、確かな期待感もある。
自分の事を誰も知らない場所で、ひっそりと生きたいーー
東大陸に入り一ヶ月、休む事なく移動した。
途中小国を二つ通り、辿り着いたのは東大陸で一番大きな国でありそれ等を統括するルヴェリエ帝国だ。資料で読んだだけだが、ルヴェリエ帝国は割と自由な国だという。
落ち着く先は東大陸の国ならば拘りはなかったのだが、同じように西大陸を統括するローエンシュタイン帝国とどれ程違うのか少し興味があった。
ローエンシュタイン帝国は規律が厳しいのだと、道中出会った東大陸の人々に聞いた。
生まれた時からずっと帝国で過ごしてきたので、あまりピンとこないが。
「凄い……」
更に半月かけて首都で皇帝のお膝元でもあるラルエットまでやって来た。
馬車を降り、取り敢えず宿を探す為に往来に出て見れば沢山の人々でごった返していた。
沢山の出店には、食べ物から日用品まで様々な物が並んでいる。
エヴェリーナは、少し緊張しながらもゆっくり歩き出す。
食べ歩きをする人や大声で話す人、不意に怒声が聞こえ視線を向ければ喧嘩が始まっており、子供の泣き声や豪快な笑い声も聞こえてきた。とても賑やかだ。
エヴェリーナは、ローエンシュタイン帝国で暮らしていた時は領地に行く時以外で街に出る事はほぼなかったが、直ぐに違いを感じた。
ここはローエンシュタイン帝国に比べて活気がある。人々が生き生きと暮らしている。それに比べてローエンシュタイン帝国の人々は、物静かでどこか疲弊していたように思えた。
歩いていると、道行く人々からチラチラと視線を向けられる。
始めは理由が分からなかったが、視線が頭上へと向いている事で納得をした。
(私の髪を見ていたんですね)
エヴェリーナの髪色は金色だ。恐らく珍しいのだろう。
昔、家族から太陽のように明るく絹のように美しいと褒めて貰った事を思い出す。
西大陸は明るい茶髪やら赤毛が多くはあるが、金髪も然程珍しくはない。特に貴族に多く見受けられる。だが東大陸は、暗めの茶髪や黒髪が多いらしい。ただ東大陸、特にルヴェリエ帝国は様々な民族が入り乱れており一概には言えないだろう。
髪色はともかく、道ゆく人々を見ても肌の色や髪質、顔立ちなど様々な人々が入り乱れている。だがやはり金髪はエヴェリーナだけみたいだ。
余り目立つのは良くないと、マントのフードを被ると足早に往来を抜けて行った。
ランプは使えないので、夜目を頼りに進むしかない。そんな中、護衛騎士や衛兵の目を掻い潜り宮殿の外へと出る事に成功した。
正直、素人の自分が潜り抜けられた事に拍子抜けすると同時に警備の甘さが気になるが、今はそんな事を考えている場合ではない。
エヴェリーナは、数歩歩くと振り返りセレーナ宮殿を見上げるが直ぐに踵を返すと歩き出す。それ以降、振り返る事はなかった。
ジュリアスから離縁の話をされてから半月、密かに宮殿を出る準備をしてきた。
荷物整理や仕事の引き継ぎの為の書類の作成、宮殿を出るルートの確認から通行書の手配と忙しなかった。無論通行書は偽装したもので身分は平民であり名前はリズとした。余談だが名前の由来は、昔母が読んでくれた絵本に登場した勇敢な少女の名から拝借した。
街に着くと、エヴェリーナは朝一の乗り合い馬車を使い街を出た。
ここからは幾つもの市街地を経由し、ローエンシュタイン帝国を出て国一つ横断すれば西大陸から出る事が出来る筈だ。
「あら、これは……」
道中、宿に泊まり荷物を確認していた時だ。入れた覚えのない布袋が鞄から出てきた。中を見てみればそれは金貨や宝石類だった。それにーー
「砂糖漬けとナッツ?」
袋の中に更に袋。その袋にはフルーツの砂糖漬けやナッツ類がたっぷりと入っている。非常食には丁度良い。
自分でも暫く生活するだけの金銭は持ってはきたが、いつ移住先や仕事が見つかるかも分からないので心許なさは感じていた。だがこれだけあれば当面は安心だろう。
エヴェリーナは、布袋を凝視する。
明らかに紛れ込んだ物ではなく、準備された物だと分かる。そしてこれを入れた人物が誰なのか心当たりがあった。
「グレッタ……」
グレッタとはセレーナ宮殿の侍女長だ。
彼女は元々ジュリアスの母アデラインの侍女でありジュリアスの乳母でもあった。そんな彼女はいつもエヴェリーナを助けてくれた。
どうやらグレッタは、エヴェリーナが宮殿を出る事に気付いていたらしい。
手紙を残してきたが、不義理な事をしてしまったと胸が痛む。だがあのまま宮殿に留まる選択は出来なかった。せめて直接の別れの挨拶をしたかったが、彼女を巻き込む訳にはいかない。
「ごめんなさい、そして、ありがとう……」
大切に使わせて貰おう。
布袋を握り締め感謝すると、それを鞄にそっと戻した。
宮殿を出てから一カ月ーー
ここまで追手もなく予定通り進む事が出来ている。
今、目の前にある通行所を抜ければ西大陸から東大陸へと入る。そうすれば、追手に見つかる確率は格段低くなり安心出来る。
ただ東大陸は未知の領域だ。不安に思うが、確かな期待感もある。
自分の事を誰も知らない場所で、ひっそりと生きたいーー
東大陸に入り一ヶ月、休む事なく移動した。
途中小国を二つ通り、辿り着いたのは東大陸で一番大きな国でありそれ等を統括するルヴェリエ帝国だ。資料で読んだだけだが、ルヴェリエ帝国は割と自由な国だという。
落ち着く先は東大陸の国ならば拘りはなかったのだが、同じように西大陸を統括するローエンシュタイン帝国とどれ程違うのか少し興味があった。
ローエンシュタイン帝国は規律が厳しいのだと、道中出会った東大陸の人々に聞いた。
生まれた時からずっと帝国で過ごしてきたので、あまりピンとこないが。
「凄い……」
更に半月かけて首都で皇帝のお膝元でもあるラルエットまでやって来た。
馬車を降り、取り敢えず宿を探す為に往来に出て見れば沢山の人々でごった返していた。
沢山の出店には、食べ物から日用品まで様々な物が並んでいる。
エヴェリーナは、少し緊張しながらもゆっくり歩き出す。
食べ歩きをする人や大声で話す人、不意に怒声が聞こえ視線を向ければ喧嘩が始まっており、子供の泣き声や豪快な笑い声も聞こえてきた。とても賑やかだ。
エヴェリーナは、ローエンシュタイン帝国で暮らしていた時は領地に行く時以外で街に出る事はほぼなかったが、直ぐに違いを感じた。
ここはローエンシュタイン帝国に比べて活気がある。人々が生き生きと暮らしている。それに比べてローエンシュタイン帝国の人々は、物静かでどこか疲弊していたように思えた。
歩いていると、道行く人々からチラチラと視線を向けられる。
始めは理由が分からなかったが、視線が頭上へと向いている事で納得をした。
(私の髪を見ていたんですね)
エヴェリーナの髪色は金色だ。恐らく珍しいのだろう。
昔、家族から太陽のように明るく絹のように美しいと褒めて貰った事を思い出す。
西大陸は明るい茶髪やら赤毛が多くはあるが、金髪も然程珍しくはない。特に貴族に多く見受けられる。だが東大陸は、暗めの茶髪や黒髪が多いらしい。ただ東大陸、特にルヴェリエ帝国は様々な民族が入り乱れており一概には言えないだろう。
髪色はともかく、道ゆく人々を見ても肌の色や髪質、顔立ちなど様々な人々が入り乱れている。だがやはり金髪はエヴェリーナだけみたいだ。
余り目立つのは良くないと、マントのフードを被ると足早に往来を抜けて行った。
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