出涸らしと呼ばれた第七皇子妃は出奔して、女嫌いの年下皇子の侍女になりました

秘密 (秘翠ミツキ)

文字の大きさ
14 / 101

十二話〜剣術大会〜

しおりを挟む



「剣術大会ですか?」

 最近、第一印象が無愛想だったセドリックの護衛騎士のブライスと、ひょんな事から話すようになった。
 初めて屋敷を訪れた時、執務室の前で佇む彼を見た時は威圧感が凄かった。まああの時は、どう見ても不審人物にしか見えなかったので仕方がないだろう。
 雑談をするようになった今も強面は健在であり笑う姿は見た事はないが、存外話し易い。
 それはきっと裏表を感じさせないからかも知れない。

 社交界では皆、腹の探り合いばかりで気が滅入ってしまう。誰もが和かに微笑んでいるが、本当は誰一人心の中では笑ってなどいない。どうやって他者を蹴落とすか、利用するかと考える者達ばかりだった。
 また使用人達は、主人の顔色ばかりを伺い媚び諂う者ばかりで、それはそれで気疲れをした。

 それにくらべてブライスやこの屋敷の人達は皆、立場を弁えながらも確りと自分の意志があり主張する。
 セドリックの事は接する機会が少ないのでまだよく分からないが、それでもこれまで見てきた貴族達とは違うと感じている。上手く言えないが、人間味があるように思う。


「毎年、城下にある闘技場で開かれている。一般参加も可能で、多くの見物客も訪れるんだ」

「ブライスさんも参加されるのですか?」

「いや、私は任務がある。それに主人を差し置いて参加など出来ない」

「セドリック様も剣の心得があるのですか?」

「無論だ。騎士団で隊長の任に就かれている」

「セドリック様が隊長ですか?」

「ああ、そうだ。私など足元にも及ばない。かなり腕が立つ。だがこれまで一度たりとも大会に参加された事はない、残念だがな」

 主人を立てているのかそれとも本心かは分からないが、とにかく意外だった。
 騎士と聞けば、今目の前にいるブライスのように筋骨逞しい人を想像してしまう。実際、ジュリアスやエヴェリーナの護衛騎士達は皆そうだった。

 だがセドリックは見る限り線が細く、部屋に篭って仕事をしているイメージなので、身体を動かすなど縁遠いと思っていた。だが以外にも騎士団に所属しており、更には隊長だと聞かされ驚いた。

「それは残念ですね。私もセドリック様の勇姿を拝見させて頂きたかったです」

「まあ、その内機会があるだろう」

 実はエヴェリーナも、剣術まではいかないが護身術の心得がある。いざという時に役に立つと考えて、昔護衛騎士から指導して貰ったのだ。お世辞ではあるが、護衛騎士からは筋が良いと褒められ、齧る程度に剣術も教わった。なので、ブライスがセドリックを絶賛するのを聞いてかなり興味が湧いた。
 セドリックが剣を振るう姿を見てみたいと思ったので、建前などではなく本心から残念に思う。



 それから暫くして、剣術大会当日を迎えた。
 エヴェリーナは、外出着に着替え髪が目立たないようにマントを羽織ると馬車に乗り込んだ。

「まさかセドリック様が出場なさるとは、驚きました。これまで興味ないと突っぱねていらしたのに」

 馬車に揺られながら、向かい側に座るソロモンは少し興奮した様子で話す。

「それにしてもソロモンさん、本当に私まで観覧に行っても宜しかったのでしょうか」

 闘技場の観覧客は殆どが貴族だという。
 理由は単純で、席料が高額だからだ。
 皇帝を始めとする王族も観覧にくるらしいので、恐らく警備などに莫大なお金がかかるのだろうと思われる。それにある程度裕福ならば、不品行な者も少ない筈で大会の品位も保たれるといった所かも知れない。
 
「勿論ですよ! セドリック様の許可も頂いています。セドリック様の勇姿を、一緒に見届けましょう!」
 
「ふふ、はい」

 ローエンシュタイン帝国には剣術大会といった催し物はないので、ソロモンのように表面には出さないが、エヴェリーナも初めての事に期待に胸をふくらませていた。
 新たな経験や知識を得る時は、いつも高揚感に包まれる。今の心境は、初めて読む本の次のページを捲る時の胸の高鳴りとよく似ていた。





 



 
しおりを挟む
感想 34

あなたにおすすめの小説

三年の想いは小瓶の中に

月山 歩
恋愛
結婚三周年の記念日だと、邸の者達がお膳立てしてくれた二人だけのお祝いなのに、その中心で一人夫が帰らない現実を受け入れる。もう彼を諦める潮時かもしれない。だったらこれからは自分の人生を大切にしよう。アレシアは離縁も覚悟し、邸を出る。 ※こちらの作品は契約上、内容の変更は不可であることを、ご理解ください。

私たちの離婚幸福論

桔梗
ファンタジー
ヴェルディア帝国の皇后として、順風満帆な人生を歩んでいたルシェル。 しかし、彼女の平穏な日々は、ノアの突然の記憶喪失によって崩れ去る。 彼はルシェルとの記憶だけを失い、代わりに”愛する女性”としてイザベルを迎え入れたのだった。 信じていた愛が消え、冷たく突き放されるルシェル。 だがそこに、隣国アンダルシア王国の皇太子ゼノンが現れ、驚くべき提案を持ちかける。 それは救済か、あるいは—— 真実を覆う闇の中、ルシェルの新たな運命が幕を開ける。

婚約破棄をしておけば

あんど もあ
ファンタジー
王太子アントワーヌの婚約者のレアリゼは、アントワーヌに嫌われていた。男を立てぬ女らしくないレアリゼが悪い、と皆に思われて孤立無援なレアリゼ。彼女は報われぬままひたすら国のために働いた……と思われていたが実は……。

王子様への置き手紙

あおた卵
恋愛
フィオナは王太子ジェラルドの婚約者。王宮で暮らしながら王太子妃教育を受けていた。そんなある日、ジェラルドと侯爵家令嬢のマデリーンがキスをする所を目撃してしまう。ショックを受けたフィオナは自ら修道院に行くことを決意し、護衛騎士のエルマーとともに王宮を逃げ出した。置き手紙を読んだ皇太子が追いかけてくるとは思いもせずに⋯⋯

私は……何も知らなかった……それだけなのに……

#Daki-Makura
ファンタジー
第2王子が獣人の婚約者へ婚約破棄を叩きつけた。 しかし、彼女の婚約者は、4歳年下の弟だった。 そう。第2王子は……何も知らなかった……知ろうとしなかっただけだった…… ※ゆるい設定です。ゆるく読んでください。 ※AI校正を使わせてもらっています。

結婚後、訳もわからないまま閉じ込められていました。

しゃーりん
恋愛
結婚して二年、別邸に閉じ込められていたハリエット。 友人の助けにより外に出ることができ、久しぶりに見た夫アルバートは騎士に連行されるところだった。 『お前のせいだ!』と言われても訳がわからなかった。 取り調べにより判明したのは、ハリエットには恋人がいるのだとアルバートが信じていたこと。 彼にその嘘を吹き込んだのは、二人いたというお話です。

婚約破棄されたのでファンシーショップ始めました。 ― 元婚約者が、お人形さんを側室にしようとして大恥をかきました ―

鷹 綾
恋愛
隣国の王子から「政略的にも個人的にも魅力を感じない」と婚約破棄された、ファンタジア王国第三女王タナー。 泣きも怒りもせず、彼女が考えたのは――「いつか王宮の庇護がなくなっても困らない生き方」だった。 まだ八歳。 それでも先を見据え、タナーは王都の片隅で小さなファンシーショップを開くことを決意する。 並ぶのは、かわいい雑貨。 そして、かわいい魔法の雑貨。 お茶を淹れてくれるクマのぬいぐるみ店員《テイデイ・バトラー》、 冷めないティーカップ、 時間になると小鳥が飛び出すアンティーク時計――。 静かに広がる評判の裏で、 かつての元婚約者は「お人形さんを側室にしようとして」赤っ恥をかくことに。 ざまぁは控えめ、日常はやさしく。 かわいいものに囲まれながら、女王は今日も穏やかにお店を開けています。 --- この文面は ✔ アルファポリス向け文字数 ✔ 女子読者に刺さるワード配置 ✔ ネタバレしすぎない ✔ ほのぼの感キープ を全部満たしています。 次は 👉 タグ案 👉 ランキング用超短縮あらすじ(100字) どちらにしますか?

砕けた愛

篠月珪霞
恋愛
新婚初夜に男に襲われた公爵令嬢エヴリーヌは、不義密通の罪を被せられた。反逆罪に問われた彼女の一族は処刑されるが、気付くと時間が巻き戻っていた。 あなたへの愛? そんなものとうに、砕け散ってしまいました。

処理中です...