出涸らしと呼ばれた第七皇子妃は出奔して、女嫌いの年下皇子の侍女になりました

秘密 (秘翠ミツキ)

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七十七話〜自覚〜

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 リズの華麗なる交渉も無事終わり、セドリック達はコルベール家を後にした。
 去り際にニコラからは戸惑った様子でリズに関しての謝罪を受け、敗北感漂うホルストからは「一体何処からこんな優秀な人材を連れてきたのですか? もし宜しければリズさんを当家に……」と言われたので即拒否をした。
 冗談じゃない。
 何のためにホルストを後任者に据えたと思っているんだ。
 リズは僕の侍女であり、絶対に誰にも渡さない。
 

「セドリック様、本日は本当にありがとうございました」

 帰りの馬車の中、向かい側に座っているリズはお礼を言い丁寧に頭を下げた。

「いや、お礼を言われるような事じゃないよ。寧ろ、少しお節介だったよね」

「そんな事はありません。正直、私では力不足だと感じておりましたので」

「リズが? そんな事はあり得ない。事業計画も完璧だったじゃないか」

 あれだけの完成度の高い事業計画を立て、更にホルストとの交渉の様子を見ていたが実に手練れていた。
 交渉後のやり取りで更に取り引き先候補も既に調べ上げている事が分かり、力不足とは到底思えない。

「私はセドリック様の侍女ですから、何時迄もニコラ様のお役に立つ事は難しいので。それに、今ニコラ様に必要なのは協力者は無論の事庇護者も重要です。ホルスト様でしたら、そのどちらも備わっていますので安心出来ます」

 ”セドリック様の侍女”の言葉にセドリックは満悦する。だが後半はニコラを心から心配している事が窺えて面白くないとも思う。

「セドリック様、あの……」

「どうしたの?」

 珍しく歯切れが悪く言い淀んでいるリズに、眉を上げた。

「勝手な行動をしてしまい、申し訳ありませんでした。怒っていらっしゃいますよね」

 恐らく無意識なのだと思われるが、リズはこちらを窺うように上目遣いで見てくる。それが可愛くて、思わずだらしなく頬が緩みそうになった。
 だが彼女に格好悪い姿は見せられないと、どうにか堪える。
 ただもしこれがリズでなく別の女性だったならば、あざといと思い嫌悪感しか湧かないだろう。
 まあ仮にリズが意図的にやっていたとしても、寧ろ喜ばしいとしか思えないが。

「怒っていないよ」

 否定したその言葉にリズが胸を撫で下ろした事が分かった。その様子を見て少し意地悪心が湧く。

「怒ってはいないけど、リズがコルベール家に通っていると聞いて悲しかった。正直、僕に一言くらい相談して欲しかった……。それに、そのままコルベール家の侍女になりたいなんて言われたらどうしようかと気が気じゃなかったよ」

 もしそんな事になろうとも絶対に阻止をするに決まっている。それに仮にそんな事になれば、ニコラには悪いがコルベール家にはそのまま没落して貰う事となるだろう、などとは口が裂けても言えない。

「セドリック様……」

「だから、次からは何かあるなら僕に相談して欲しい」

「承知致しました」

「約束だよ?」

「はい」

 穏やかに笑を浮かべ、リズは頷く。
 言質をとりセドリックは安堵した。
 彼女は誠実な女性故、約束は守ってくれると確信している。
 そして、もっと彼女から頼られる男性にならなくてはと決意した。


「後、先ほどのお話ですが」

「何の話?」

「私がお願いをした際に」

「ああ、リズのお願いは何でも叶えて上げるって言った事? 本心だよ」

 何でもないかのように平然と答えると、彼女は眉根を寄せた。

「迂闊にそのような発言をするのは危険です。それも相手の思惑も分からない状態で……」

「大丈夫だよ。相手がリズだから言ったんだ。
僕はリズを信頼しているからね」

「私が悪人ならどうするおつもりですか?」

「ははっ、リズが悪人なんてある筈がないよ。でも仮にそうだとしても……僕は君の味方だから」

 真っ直ぐに彼女を見据え、そう言い切った。
 リズを見れば案の定、目を見張り困惑して見えた。だが撤回するつもりはない。
 問題発言だろうと自分でも理解している。人として皇子として間違っていると分かった上で言っている。
 もし世界が君の敵になろうとも、僕はリズの味方をするだろうーーそんな陳腐な言葉が脳裏に浮かんだ。だがこれがセドリックの本心だ。
 
(はは……ダメだ、勘違いなんかじゃない。やっぱり僕は、リズが好きみたいだ)

 それも重症かも知れないと自嘲した。


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