攻略失敗99回目。もう諦めました。

VVV

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追跡

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「なんなのよアイツら!!」

 サラは買い物しながら地団太を踏み、苛立ちをぶつけていた。

「やることが陰湿ったらありゃしないわ! あの良い子ちゃんもよ! 無害そうな顔して本っ当にたちが悪い!」

「根は良い子なんだけどね」

「そう、根は良い子なんだけど! 無神経すぎるのよ! 普通の人間だったらあの界隈でレイナがどんなひどい目に遭ってるかくらいすぐに分かるはずなのに、まるで見えていないみたいに振る舞って……どういうつもりなのかしら? 自分はお姫様だから関係ないとでも思っているのかしら」

「そこまで考えてないと思うわ。あの子は権力者に守られて生きているから、身近に悪意があるってことに気付けないだけなのよ」

 レイナとしてはロワールと同じくらい、ジュディもどうでも良いのだ。
 本気で腹を立てるつもりはない。
 淡々としたレイナの反応にサラはいっそう苛立ったようで、腕を絡めて顔を寄せ、内緒話をするみたいに声を潜めた。
 
「レイナ。あんた本当にあの賭けやるの? カルバンの野郎、絶対何か妨害してくるわよ。なのに負けたらバニーガールって」

「分かってるわ。でも勝っても負けても関係ないの。言ったでしょう。私、ロワールから離れるって。アイツにはそのための時間稼ぎをしてもらいたいだけ」

「なーるーほーどー! 頭いい! ……え、ってことは、レイナ、待って。あなた、もしかしてこの街を出るつもりなの……?」
 
「ええ」

「やーだー! レイナがいなくなったら寂しいー!」

「いつでも遊びに来てよ」

「うん! 絶対行くわ! 毎週末押しかけてやるんだから、絶対に居場所を教えてよね!」

「もちろんよ」
 
 適当にその話を切り上げて話題を新シーズンのファッションに移し、楽しく買い物をして車に戻った。


 
「お疲れ様、お姉ちゃん。これからどうするの?」

 ずっとおとなしく付いて来ていたロイがシートに座ってようやく口を開いた。
 
「とりあえず、拠点を見付けたいわね。マンションを買ってもいいんだけど、どうせすぐに出ることになるから……ホテル暮らししましょうか」

「うん」

 ロイのお兄さんがいつ迎えに来るのか分からないが、もう賭けは始まってしまったので、もし半月経っても姿が見えなかったら逃亡先にこの子を連れて行こうと思った。
 お互いに連絡先は分かっているのだ。多少居場所を変えても問題ないだろう。

「じゃあ決まりね。えーと、どこのホテルにしようかな……」

 ロイは子どもなので同じ部屋を取るしかない状況だ。
 1泊や2泊ならツインベッドの部屋でもいいが、半月ともなればお互いにプライバシーを確保できるだけの空間があった方が良い。
 となると、スイートルーム……。
 この街にあるホテルでベッドルームが複数あるほどのスイートがあるのはクワイエット家の傘下かガーネット家傘下のいずれかになる。
 ならばガーネット家の経営するホテルがいいだろう。
 クワイエット家のホテルは顔馴染みが多すぎるし、何よりロワールの縄張りだ。
 これから逃亡しようという時にそんなところには滞在できない。

 スマホでスイートルームを予約し、ホテルガーネットへと車を走らせる。
 この世界に生きて長いが、ガーネット家のホテルに泊まるのはこれが初めてだ。
 自由への第一歩を踏み出したような気持ちで、心が浮つく。
 購入したばかりの服を抱えてチェックインし、意気揚々と最上階のスイートルームの扉を開いた。

 その様子を、お抱えのハッカーにレイナの動向を探らせていたロワールがホテルガーネットの監視カメラ越しに見ていた。
 
「……ロ、ロワール様……」

 ハッカーは戦々恐々としていた。
 この雇い主、突然一人の女の電話番号を突き出して「こいつの動向を探れ」と言ってきたと思ったら、追跡対象がホテルガーネットのスイートを予約したと分かった瞬間とんでもない冷気を発し始めた。
 恐ろしくて目を合わせられない……。
 なんなんだ、この女は? 恋人か?
 いや、しかしクワイエット家の御曹司は確かジュディとかいう女に夢中だったはず……。
 深く考えるはよそう。
 賢明にもそう判断したハッカーは、口を閉じて黙って次の命令を待った。
 
「室内の様子は?」

「む、無理です……。さすがに室内には監視カメラがありませんから」

「スマホのカメラをハックできるだろう」

「で、できますが! でもすぐにバレますよ。バッテリーが早く減りますし」

 その言葉に、ロワールは不機嫌さを隠しもせずに指先をトントンと机に叩き付ける。
 パソコンのモニターに浮かぶ監視カメラのリアルタイム映像をじっと睨みつけた。
 昨日の夜から様子がおかしいと思って調べてみたらこれだ……。
 たまに外泊するのは気分転換にもなるし、いいだろう。しかし、まさかダリルの家のホテルに泊まろうとするとは。なぜクワイエットのホテルを使わない?
 考え込む彼の耳に、次なる報告が入る。

「あ……彼女、人材募集のアプリに登録したようです。依頼内容は……“マンションの片付け・荷物の整理”だそうで」

「マンションの片付け?」

 その言葉に昨晩レイナが口にした言葉が脳裏をよぎった。

『明日から一切あなたの前に姿を現さない。あなたから借りているマンションは今月中に人を雇って片付けさせる。それでいい?』

 レイナはそう言っていた。
 あの時はただ拗ねているだけかと思っていたが……まさか、本気だったのか!?

「……その募集枠を全て押さえとけ。依頼主と連絡が取れるようになったら報告しろ」

「は、はい」

 カタカタと作業を進めるハッカーを横目に、ロワールはスマホを片手に取った。
 レイナ。あいつ、どういうつもりなんだ……?
 急に距離を取ると言い出したのもそうだが、あの子どもは一体なんなんだ?
 あいつにはきょうだいも親戚もいないから、身内という訳ではないだろう。
 問いただそうとレイナの連絡先を開いた瞬間、悪友のカルバンからの着信で画面が切り替わり、勢いで通話に応じてしまった。
 少し苛立ったが、出てしまったものは仕方ない。

「なんだ」

『ロワールか? あのさ、お前……その、なんだ。最近、レイナと何かあったのか?』

 なんでこいつがレイナの話を?

 疑問に思うと同時に、そういえばさっきジュディが電話してきた時、カルバンと買い物してる途中でレイナに会ったと言っていたことを思い出した。
 そうか。こいつもレイナと遭遇したのか。

「別に何もないが……あいつが何か言ってたのか?」

『いや! 別に何も! 何も言ってない! ただ、ジュディが心配してたから何かあったのかと思って』
 
 カルバンがレイナの心配を?
 こいつは悪友の中でもとりわけ性格が悪い男だ。ジュディならともかく、レイナの心配なんてするはずがない。
 悪い冗談にしか思えなかったロワールは話を続ける気になれず電話を切ろうと思ったが、相手が続けた言葉につい指先の動きを止めた。

『まぁどうでもいいよな、そんな事。それよりロワール。明日、市の商工会会長の結婚40周年パーティーがあるだろ。ダリルも出席するやつ。覚えてるか?』

「ああ。それがどうした?」

 市の商工会会長は地元の実業家が数年ごとに持ち回りで受け持つ役職だが、発言力が強い割に基本のんびりした組織のため役を受け持つのは現役を引退したご老人がほとんどだった。
 人脈が多いロワールの元には数日と空けずにこういった大小様々なパーティーの招待状が届くが、数あるパーティーの中でもこれは出ておいた方が良いと思っていた。
 なにせ商工会は行政との繋がりが強いのだ。わざわざ祝いの席を空けて会長の機嫌を損ねる道理はない。
 パートナーにはレイナを連れて行くつもりでいた。会長はレイナを「気立ての良い娘だ」と言って気に入っていたからな。
 レイナの顔を思い浮かべたロワールの口角が無意識に上がる。
 
 確かに俺はあいつに冷たすぎたかもしれないな……。
 せっかくの機会だ。誕生日プレゼントの代わりにアクセサリーでも買って、埋め合わせするか。
 
 そう思うロワールにカルバンは続けた。
 
『もしロワールが出席するなら、ジュディがパートナーになってもいいって言ってるんだが』

 ――ジュディが!?

 予想もしなかった展開に、ロワールは咄嗟に返事ができなかった。
 こういったパーティーではジュディはだいたいダリルのパートナーとして出席していた。
 今回もそうだろうと思っていたのだが、今、彼は何と言った? ジュディが俺のパートナーに!?

 ロワールは頭の中が真っ白になった。
 ジュディは初恋の女性だ。彼女が自分を選び、隣で腕を組んでくれたらどんなに良いかと思っていた。
 しかし現実は上手くいかないもので、ダリルとロワール、どちらかを選ばないといけない場面では彼女は必ずダリルを選んできた。
 過去に数回だけパートナーになってくれたこともあったが、それはダリルが出席しないパーティーに限った話。
 自分はいつだって2番手で、選ばれない方。
 最初の頃は悔しかったが、最近ではロワールもそれを当然のこととして受け入れるようになってきていた。
 なのに……今頃になって俺を選ぶのか。

 今まで何度も想像してきた。ジュディが自分を選んでくれる場面を。
 そのたびに想像の中の自分は天にも昇る気持ちで喜び、一も二もなく彼女を迎えに家を飛び出すのだ。
 しかし、実際にそうなって感じたのは……思っていたほど嬉しくないな、という気持ち。
 自分でも戸惑うほどの無感動だった。代わりに脳裏に浮かぶのはレイナの顔。
 自分が贈ったアクセサリーを見て喜ぶレイナの顔が、ありありと浮かぶ。

 断ろうとして口を開きかけたロワールの耳に、『ちょうどいいや。俺、まだジュディと一緒なんだ。電話、代わるよ』という声が聞こえる。

「いや、いい――」

『ロワール?』

 鈴の転がるような繊細な声に、ロワールの言いかけた言葉が全て引っ込んでしまった。

『急な話でごめんね? わたし、レイナさんのことが心配で……。何があったのか、ロワールからもお話を聞きたいの。レイナさんは大切な親友だから』

 
 
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