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水盤試験①
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敷地内の東側、通常授業が行われる本館から少し距離を置き、独立して建っている三階建ての実技棟。
その二階にある一室で、ルドヴィックが所属する一年生クラスの午後の授業が始まった。
入学式や上級生との顔合わせ、学校内の施設案内などで初日はバタバタと過ぎて行き、本格的な授業が始まったのは昨日の午後から。
三日目の今日も、依然として新入生達の間にはソワソワした空気が漂っている。
午前中は座学だったので、魔法を伴う実技はこれが初めてだ。
伝統的でカッチリした制服から、動きやすい運動服に着替えた生徒達が集められた部屋には、「魔法実技Ⅰ専用第三習練場」というご大層な名前がつけられているものの、中央に銀色の水盤があるだけの小ぢんまりとした場所だ。
今、その水盤には並々と水が張られ、魔法実技Ⅰ担当のアンジェ・ボルテール女史が傍らに立っている。
小柄ながらシャンと背筋の伸びたこの女性は、このクラスの学級担任でもある。
年齢はたぶん30歳を少し過ぎたところ、ゆるくウエーブする紺色の長い髪をうなじの辺りで束ね、理知的な茶色の瞳が眼鏡の奥に光る、穏やかな雰囲気の美しい人だ。
いつもは短い指し棒を持っている白くほっそりとした手に、今日は水色の丸い石を嵌め込んだ細長い杖が握られている。
水魔法に特化した杖だ。
彼女がその杖で水盤の縁をコツコツと叩くと、水盤の底に彫り込まれた呪文が淡く発光し、水面が盛り上がって直径20センチほどの水の球(たま)が上空に打ちあがる。
水盤の呪文とアンジェの魔力によって作られた水の球は、約2メートルほどの高さに達すると、水面へ落下して消えてしまう。
そうなる前に風系の魔法を当てて球を撃ち落とすのが、この授業の課題だ。
生徒達はランダムに一人ずつ呼ばれ、水盤の前に立つと、魔力を引き出すサポート効果のある腕輪を填めて、魔技を放つ構えを取る。
先生が与えてくれるチャンスは三回。
水の球は水盤のどこから現れるかはわからない。
同年代の子供たちに課せられる一般教育の基準と照らし合わせると、それなりに難易度の高い内容だが、さすがに超難関試験を突破した面々が集まっているだけのことはあり、今のところ三発ぜんぶ外した者はいない。
多くの生徒が二発以上は当てているし、一発しか当てられなかった者も、あとの二発ともほんの少しズレただけで掠ってはいる。
「すごい、コントロールいいじゃん!」とか
「あ~~、惜しかったね!」とか、
同級生達が自分たちの出した結果に喜んだり悔しがったりして盛り上がっているなか、ルドヴィックは相変わらず冷めている。
「それじゃ次は……ルドヴィック・ド・ギュスターヴ。前に来てちょうだい」
敷地内の東側、通常授業が行われる本館から少し距離を置き、独立して建っている三階建ての実技棟。
その二階にある一室で、ルドヴィックが所属する一年生クラスの午後の授業が始まった。
入学式や上級生との顔合わせ、学校内の施設案内などで初日はバタバタと過ぎて行き、本格的な授業が始まったのは昨日の午後から。
三日目の今日も、依然として新入生達の間にはソワソワした空気が漂っている。
午前中は座学だったので、魔法を伴う実技はこれが初めてだ。
伝統的でカッチリした制服から、動きやすい運動服に着替えた生徒達が集められた部屋には、「魔法実技Ⅰ専用第三習練場」というご大層な名前がつけられているものの、中央に銀色の水盤があるだけの小ぢんまりとした場所だ。
今、その水盤には並々と水が張られ、魔法実技Ⅰ担当のアンジェ・ボルテール女史が傍らに立っている。
小柄ながらシャンと背筋の伸びたこの女性は、このクラスの学級担任でもある。
年齢はたぶん30歳を少し過ぎたところ、ゆるくウエーブする紺色の長い髪をうなじの辺りで束ね、理知的な茶色の瞳が眼鏡の奥に光る、穏やかな雰囲気の美しい人だ。
いつもは短い指し棒を持っている白くほっそりとした手に、今日は水色の丸い石を嵌め込んだ細長い杖が握られている。
水魔法に特化した杖だ。
彼女がその杖で水盤の縁をコツコツと叩くと、水盤の底に彫り込まれた呪文が淡く発光し、水面が盛り上がって直径20センチほどの水の球(たま)が上空に打ちあがる。
水盤の呪文とアンジェの魔力によって作られた水の球は、約2メートルほどの高さに達すると、水面へ落下して消えてしまう。
そうなる前に風系の魔法を当てて球を撃ち落とすのが、この授業の課題だ。
生徒達はランダムに一人ずつ呼ばれ、水盤の前に立つと、魔力を引き出すサポート効果のある腕輪を填めて、魔技を放つ構えを取る。
先生が与えてくれるチャンスは三回。
水の球は水盤のどこから現れるかはわからない。
同年代の子供たちに課せられる一般教育の基準と照らし合わせると、それなりに難易度の高い内容だが、さすがに超難関試験を突破した面々が集まっているだけのことはあり、今のところ三発ぜんぶ外した者はいない。
多くの生徒が二発以上は当てているし、一発しか当てられなかった者も、あとの二発ともほんの少しズレただけで掠ってはいる。
「すごい、コントロールいいじゃん!」とか
「あ~~、惜しかったね!」とか、
同級生達が自分たちの出した結果に喜んだり悔しがったりして盛り上がっているなか、ルドヴィックは相変わらず冷めている。
「それじゃ次は……ルドヴィック・ド・ギュスターヴ。前に来てちょうだい」
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