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28期待
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「先輩、私、急にお腹が痛くなってきました。一緒にお手洗いに来てくれませんか?」
休憩を終えた実乃梨が事務所に戻ろうとしたら、相沢に引き留められた。
「体調が悪いようには見えないけど、何を企んでいるの?」
「企むなんてひどいです。ただ」
栄枝先輩に見てもらいたいものがあるんです。
まったく体調が悪いように見えなかったので、実乃梨が問いかけると、相沢は急に声を潜めて本当の用件を話し出す。これは、あの方の指示で、何か見せなければならない、ものがあるということか。
実乃梨たちは、あまり使われていない事務所から少し遠いお手洗いに向かうのだった。
お手洗いにやってきた実乃梨は、相沢が何を暴露してくれるのか、何を見せられるのかと身構える。そんな様子の実乃梨のどこがおかしいのか、相沢は笑っている。
「そんなに警戒しないでも、取って食ったりしませんよ」
「私は別に」
「栄枝先輩って、典型的な不老不死の女性ですね。反吐が出る」
笑ったと思ったら、今度はじろりと睨まれる。相沢の表情はコロコロとよく変わる。今日だけで、喜怒哀楽すべての表情を拝むことができそうだ。
「反吐が出るような女とお手洗いにまで来たわけだけど、相沢さんは私にまだ用事があるのでしょう?用件をさっさと済ませてくれないと困ります。今は勤務中ですよ」
さて、今度はいったい何をしでかしてくれるのだろうか。
「はあ。私に何を期待しているのか知りませんが、私たちみたいな人間以外に、そんな顔を見せないことをお薦めします」
至極まっとうなことを言ったつもりなのに、なぜか大きなため息をつかれてしまう。実乃梨は自分の頬に手を当てて、今の表情を考える。
そして、自分自身の心の動きに衝撃を受ける。相沢に対して、仕事があるからさっさと用件を済ませて欲しいと口にした。しかし、実際に実乃梨の心のうちにあったのは、相沢への期待だった。
今から楽しいことが起こる。相沢が実乃梨に平凡で退屈な日常に変化をもたらしてくれる。そんなことを期待していた。決して今のこの状況は、実乃梨にとって良いものではない。むしろ、危険な状況に陥っている。それなのに、もっと大変な状況になってしまうことに胸を躍らせている。
「なんとなくわかりました。確かに今の表情は自分でもやばいと思います」
実乃梨の今の表情は、鏡でわざわざ確認するまでもなかった。しかし、実乃梨たちがいるのはお手洗い。目の前の手洗い場には鏡が設置されている。自分の顔がどんな顔になっているのかわかったところで、仕方なく鏡で表情を確認する。
「ひどい顔ですね」
鏡の映る実乃梨の顔は、不自然に口元がゆがんでいた。楽しくて仕方がないというのに、表情筋が気持ちに追い付いていない。不老不死になり、長く生きすぎて、楽しいという感情を表に出すことを忘れてしまった。そのため、顔の表情筋が楽しい時の顔の作り方を忘れてしまったらしい。
「先輩の顔を見て笑っていても仕方ありません。私はこれを見せたくて、先輩にお手洗いまでついてきてもらいました」
突然、相沢に腕をひかれたと思ったら、お手洗いの個室に実乃梨は連れ込まれた。抵抗する間もなく、二人が入った個室のカギが相沢によって閉じられた。
休憩を終えた実乃梨が事務所に戻ろうとしたら、相沢に引き留められた。
「体調が悪いようには見えないけど、何を企んでいるの?」
「企むなんてひどいです。ただ」
栄枝先輩に見てもらいたいものがあるんです。
まったく体調が悪いように見えなかったので、実乃梨が問いかけると、相沢は急に声を潜めて本当の用件を話し出す。これは、あの方の指示で、何か見せなければならない、ものがあるということか。
実乃梨たちは、あまり使われていない事務所から少し遠いお手洗いに向かうのだった。
お手洗いにやってきた実乃梨は、相沢が何を暴露してくれるのか、何を見せられるのかと身構える。そんな様子の実乃梨のどこがおかしいのか、相沢は笑っている。
「そんなに警戒しないでも、取って食ったりしませんよ」
「私は別に」
「栄枝先輩って、典型的な不老不死の女性ですね。反吐が出る」
笑ったと思ったら、今度はじろりと睨まれる。相沢の表情はコロコロとよく変わる。今日だけで、喜怒哀楽すべての表情を拝むことができそうだ。
「反吐が出るような女とお手洗いにまで来たわけだけど、相沢さんは私にまだ用事があるのでしょう?用件をさっさと済ませてくれないと困ります。今は勤務中ですよ」
さて、今度はいったい何をしでかしてくれるのだろうか。
「はあ。私に何を期待しているのか知りませんが、私たちみたいな人間以外に、そんな顔を見せないことをお薦めします」
至極まっとうなことを言ったつもりなのに、なぜか大きなため息をつかれてしまう。実乃梨は自分の頬に手を当てて、今の表情を考える。
そして、自分自身の心の動きに衝撃を受ける。相沢に対して、仕事があるからさっさと用件を済ませて欲しいと口にした。しかし、実際に実乃梨の心のうちにあったのは、相沢への期待だった。
今から楽しいことが起こる。相沢が実乃梨に平凡で退屈な日常に変化をもたらしてくれる。そんなことを期待していた。決して今のこの状況は、実乃梨にとって良いものではない。むしろ、危険な状況に陥っている。それなのに、もっと大変な状況になってしまうことに胸を躍らせている。
「なんとなくわかりました。確かに今の表情は自分でもやばいと思います」
実乃梨の今の表情は、鏡でわざわざ確認するまでもなかった。しかし、実乃梨たちがいるのはお手洗い。目の前の手洗い場には鏡が設置されている。自分の顔がどんな顔になっているのかわかったところで、仕方なく鏡で表情を確認する。
「ひどい顔ですね」
鏡の映る実乃梨の顔は、不自然に口元がゆがんでいた。楽しくて仕方がないというのに、表情筋が気持ちに追い付いていない。不老不死になり、長く生きすぎて、楽しいという感情を表に出すことを忘れてしまった。そのため、顔の表情筋が楽しい時の顔の作り方を忘れてしまったらしい。
「先輩の顔を見て笑っていても仕方ありません。私はこれを見せたくて、先輩にお手洗いまでついてきてもらいました」
突然、相沢に腕をひかれたと思ったら、お手洗いの個室に実乃梨は連れ込まれた。抵抗する間もなく、二人が入った個室のカギが相沢によって閉じられた。
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