30歳処女、不老不死になりました

折原さゆみ

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61夢見る少女

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『実乃梨さんと過ごした日々は、とても楽しいものでした。一緒に暮らそうって言った言葉は嘘ではなかったんですよ。その当時は、本気で実乃梨さんと一緒に生きていこうと思っていました。ですが、それは叶わぬものに。私にある思いが生まれたからです』

「ある人への恋心を自覚してしまいました」

 口に出してしまうと、なんて陳腐な言葉だろうか。実乃梨は和音の夢見る少女のようなセリフに吐き気を覚える。不老不死の女性がいまさら何を言っているのかと、呆れてしまう。

『その人との出会いは、運命的でした。彼との出会いは、私の人生を大きく変えるものになりました。実乃梨さんの家を出てから一週間ほどのことです。私は用事を終えて、疲れ果てた身体を癒そうと、あるバーに足を運びました。そこで』

 これは、本当に和音からの手紙だろうか。運命とか、人生を変えたとか、不老不死とはあまりに無縁な言葉の数々に不信感を覚えてしまう。とはいえ、この手紙で和音の近況がわかるのなら。しぶしぶ手紙を読み進めていく。

『そこで、彼と出会いました。彼のことは初め、可愛い女の子とかと思いました。それがまさか、だったとは驚きでした。でも、不思議と彼には、私の男性を嫌悪する気持ちが湧くことはなく、何と、彼と手をつないでも平気でした。それから』

 ぐしゃりと、実乃梨はA4の紙を握りつぶしてしまった。先を読まなくても、この後は想像できる。


「こいつもまた、私側の人間ではなかったということか」

 いくら相手がという特殊な人間だとしても、女装をしていて女性に見えたとしても、男性であることに変わりはない。そんな人間に和音はほだされてしまったのか。

 実乃梨は和音からの手紙を最後まで読むことはせず、そのまま握りつぶしてゴミ箱に放り投げる。紙くずとなった手紙は弧を描いて、ゴミ箱に吸い込まれた。


「あああ、私もそんな運命的な出会いで、不老不死から解放されたいなあ」

 手紙を捨てた実乃梨は、仕事から帰ったばかりの自分の恰好に気付き、部屋着であるスウェットに着替えてベッドに横たわる。そして、誰もいない部屋で、大声で叫んでしまう。しかし、言葉とは裏腹に自分が不老不死から逃れられることはないと悟っていた。



 その夜、実乃梨は夢を見た。

「実乃梨、一人になってもきちんと三食食べるのよ。お母さんたちがいなくなっても、元気でね」

「実乃梨、お父さんたちはお前がこちらに来るのを待っているから、安心して往生しなさい」

 ずいぶんと前に亡くなった両親が最期の言葉を投げかける。すでに彼らの年齢はとうに超えている。さらには彼らの二倍の年数が過ぎようとしていた。髪が白髪でしわだらけの両親が実乃梨に明るく話しかけて、彼女の前から去っていく。


「さようなら、実乃梨先輩。先輩の前にも素敵な男性が現れますように」

「実乃梨さんにも、この気持ちを味わって欲しいわ。さようなら、あなたの人生に幸あれ」

 年を取って、に成り下がった相沢と和音が実乃梨に最期の挨拶をする。そして、両親と同じように彼女の前からいなくなる。


 そのほかにも、これまで働いていた会社の社員たちが年を取った姿で実乃梨に別れの挨拶をして、彼女から離れていく。


 そうして、最後に広い草原に実乃梨は一人取り残された。

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