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第3章 いじめの代償~クラスメイトの無視~

2(1)クラスの人気者の男子①

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 ぼくはこまっている人がいると、つい手をさしのべてしまう。助けが必要だと思う人には積極的に手をかそうと考えている。ぼく自身がいろいろな人に助けられていると自覚しているので、その分ぼくも他のだれかを助けることができたらいいなと思っている。

 いじめについても同じだ。いじめられている人を見かけたら、いじめている人にやめろと声をかけている。紫苑すみれと同じクラスになるまではそれができた。かのじょと同じクラスになって初めて気づいた。ぼくがやってきたことはただの自己満足だということに。

 紫苑すみれと初めて同じクラスになったのは小学3年生の時だ。かのじょのうわさはよく耳にしていた。なんでもかのじょの父親がえらい人らしい。そのためにかのじょのわがままはどんなものでも通ってしまうようだ。



 
 例えば、いじめの問題。かのじょがだれかをいじめていてもだれも助けはしない。むしろいじめに参加しているようだ。下手にいじめを止めようとすると、とばっちりをくらい、いじめられている人と同じようなあつかいを受けてしまう。

 話を聞いた当初はそんなことが起こるのかと半信半疑だったが、同じクラスになってようやくそれが本当だということがわかった。

 ある日のことだった。ぼくはいつも通りにクラス内でいじめられていた人を助けようとした。しかし、それがかなうことはなかった。なんと、クラスメイトによって止められたのだ。あろうことか、クラスメイトは紫苑すみれに向かってあやまりだした。ぼくについてこう語っていた。

「こいつはやめておいてくれると助かる。こいつ今年初めて同じクラスになって、クラスのルールについてよくわかっていないんだよ。おれたちからもよく言い聞かせるから、今回はみのがしてくれ。」

 とつぜん何を言い出すのだろうか。クラスのルールとはいったい何のことだろう。ぼくはただクラスでいじめられている人がいたので助けようとしただけだ。それなのにどうしていじめている人、加害者にゆるしてもらわなければならないのか。

「まあ、別にいいけど。それにだれにでも失敗はあるでしょう。私は、一度目はみのがすことにしているから大丈夫よ。」

 ぼくが考えている間に勝手に話が進んでいる。どうして、かのじょはこんなにも上から目線で物を言っているのか不思議だった。それに対して当たり前のことのように話を続けているクラスメイトも不思議だ。クラスの友だちに紫苑すみれについて質問してみた。

「それは君がかのじょのことを知らないから言えるセリフだね。かのじょに逆らうとひさんな目に合うことは、君もうわさで聞いていると思うけど。」




 うわさというと、かのじょがあの逆らってはいけない人ということか。確かに名前は紫苑すみれである。道理でぼくのことをクラスメイトが止めようとしたわけである。かのじょは本人でだけでなく、家族や兄弟にも手を出すことがある。それに気付いてクラスメイトはぼくを止めようとしたのだ。

 確かにぼくはかのじょに目をつけられるとやばい立場である。ぼくだけなら我慢できるが、家族に手を出されてはひとたまりもない。父親を過労死で亡くし、妹は病弱で入退院をくり返している。かのじょたちに手が回されることはさけなくてはならない。

 それからぼくはかのじょに逆らうことはしなくなった。しかし、ぼくの中のだれかの役に立ちたいという思いは消えることはなかった。かのじょがいないところで、ぼくは人助けを続けることにした。人目を気にして人助けをするなんて、これこそ自己満足もいいところだ。

 それでもぼくは自己満足のために今日もかのじょの目をぬすんでいじめられている人に手をさしのべたいと思っている。
 
小学5年生になり、今年も紫苑すみれと同じクラスになった。新しく来た転校生はいかにも紫苑すみれのいじめの対象になりそうな人物だった。ぼくはなるべく、転校生を助けていきたいと考えている。
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