朔夜蒼紗の大学生活~幽霊だって勉強したい~

折原さゆみ

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バイトをしよう

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 今日はいよいよ、バイト初日である。大学の授業は午前中だけで、いつものように二人と一緒に講義を受けて、今日は用事があるからと伝えて早めに家に帰ってきた。とてもわくわくする。いったいどんな生徒に勉強を教えるのだろう。
 
 黒いズボンに白いワイシャツ、黒いカーディガンを着用する。スーツでなくてもいいらしい。塾までは自転車で行った。バイトが始まる10分前に塾に到着すると、塾にはすでに瀧さんの姿があった。



「こんばんは。今日からよろしくお願いします。」

「こちらこそ、よろしくお願いします。」


 挨拶を終えると、さっそく仕事内容を教えてくれた。生徒が来る前の仕事は、塾をきれいに掃除する、塾に来る生徒を名簿で確認し、勉強内容をきめて、カリキュラムに記入することの2つだった。

 さっそく、塾内を掃除する。机を水拭きし、床を掃除機できれいにする。さらにトイレもきれいに掃除しておく。次に塾に来る生徒の確認をする。この塾は小学生と中学生を対象とした塾であり、今日来る生徒も小学生が6人と、中学生が4人の10人の名前が載っていた。それぞれ今日は何を勉強するかの予定がカリキュラムには詳しく書かれている。



「今日は、朔夜さんは初めてですので、あらかじめ予定を書いておきました。次からは生徒の予定を自分で記入してください。」



 そうこうしているうちに生徒を迎える準備が整った。少し時間があったので、瀧さんと雑談をする。




「そういえば、今日来る生徒はどんな能力を持った子なんですか。」


「今日は、一般の子供たちで特殊能力を持っている生徒ではありません。普通に勉強を教えてあげてください。」

 


 そうだった。ここには一般の生徒も通っているのだった。普通の生徒と幽霊が通っている特殊な塾であることを忘れていた。そういえば、幽霊たちに勉強を教えていてお金になるのだろうか。



「幽霊たちに勉強を教えていて、お金になるのですか。」


「お金にはなりません。彼らに勉強を教えているのはあくまで私の個人的なことですので、塾を運営している会社は私が塾生以外の生徒に勉強を教えていることは知りません。あくまで私が勝手にやっていることですので。」



 お金にならないのに勉強を教えているなんて、すごい人だ。私ならお金がもらえなかったらきっと塾の生徒にしか教えていないだろう。

  
 話しているうちに生徒が塾に来る時間になったようだ。生徒の話し声が外から聞こえてくる。




「こんにちは、瀧先生。今日もよろしくお願いします。」

「瀧先生、今日もよろしく。」



 最初に塾に来たのは小学生と中学生の兄弟だった。今日来るのは特殊能力を持たない一般の生徒である。ケモミミも尻尾も当然生えていない。




「新しい人がいるね。新しい先生かな。」


「今日から君たちの先生になった朔夜先生ですよ。朔夜先生と一緒にこれからも勉強頑張っていきましょうね。」


「朔夜蒼紗です。今日から瀧先生と一緒に勉強を教えていくのでよろしくお願いします。」

「わあい、新しい先生だ。先生はすぐにいなくなったりしないよね。前の先生はすぐにいなくなったから。」


「大丈夫ですよ。朔夜さんは前の先生みたいにすぐにいなくなったりしませんから、心配せずに勉強頑張りなさい。」

 

 兄弟が自分のカリキュラムが置かれた席に着く。そして、すぐにかばんからテキストとノートを取り出し、丸つけを始めた。



「塾で出した宿題の丸つけをしているのですよ。塾が終わるころに宿題を出すので、家でやってくることになっています。この兄弟は真面目なのでしっかり宿題をやってきてくれてとても良い子たちですよ。」

 
 私は兄弟の兄だと思われる生徒の机に近づいてテキストをのぞいてみる。この子は中学1年生のようだ。数学の宿題が出されていたようで、正と負の計算を勉強しているようだ。



「何かわからないことがあったら、朔夜先生に聞いてくださいね。私は他の仕事がありますから、朔夜先生よろしくお願いしますね。」

 

 その後も次々と生徒がやってきて、私は生徒の質問に答えながら、勉強を教えていった。どの生徒もしっかりと塾で出された宿題をきちんとやってきていた。そして、カリキュラムに書かれた内容をしっかりとこなしていた。塾専用のテキストが生徒には配布されていて、テキストに書かれた問題の答えを自分のノートに書きこんでいく。とても良い子たちだったので、特に注意することなく、生徒がわからないと質問してきたことに答えていくだけの仕事だった。
 
 一時間に一回、休憩時間があるようだった。瀧先生が「休憩にしましょう」と声をかけると、途端に生徒たちはほっとしたようにくつろぎ始める。そして、近くにいる生徒と楽しくおしゃべりを始める。

 



 今日着た生徒は本当に真面目な子たちで休憩時間になると、楽しくおしゃべりをしだすのだが、休憩時間以外はあまり無駄口をたたくことなく、静かにテキストの問題を黙々と問いている。うるさい生徒がいたら注意しようと思っていたのだが、その心配はなさそうである。初対面の私に対して緊張していて静かに勉強しているだけなのだろうか。初めての塾なので、生徒の普段の様子はまだわからない。

 
 生徒には当然、初対面なので自己紹介をしたのだが、どの生徒にも同じことを聞かれた。




「先生は、すぐにいなくなったりはしないよね。」

「前の先生もその前の先生もすぐにやめてしまったから聞いてみた。朔夜先生はどうかなと思って。」

 



 前の先生は入ってすぐにやめてしまったようだ。さらにその前の先生も同様だったらしい。長年、この塾に通っている生徒が話していたので本当のことだろう。どうしてすぐにやめてしまったのか気になって、私は生徒全員が帰った後に瀧さんに聞いてみることにした。



「私の前に働いていた先生がいたようですが、その先生方はなぜすぐにやめてしまわれたのですか。いったいどんな先生だったのか、差し支えなければ教えていただけますか。」

「生徒たちが言っていたのですか。確かにここ数か月で数人の先生が塾をやめています。塾の仕事が合わなかったのでしょう。みな良い人たちだったのですが、残念です。」



 瀧さんは今日来た生徒たちのカリキュラムを確認しながら答えた。残念という言葉には感情が乗っておらず、淡々と答えている。何か先生が問題でも起こしたのだろうか。しかし、私がこれ以上聞いていいものだろうか。別にやめた先生のことを聞いても仕方ない。





 こうして、バイト1日目は無事終了した。瀧さんとは今後のバイトのシフトについて詳しく決めることになった。
 バイトに入る日は週2日となった。塾自体は月、水、金の週3日開講しているらしい。幽霊たちは土曜日に特別に教室を開けて教えているようだ。私は週2日、一般の生徒を教えて、土曜日はボランティアという形で幽霊に勉強を教えることになった。
 
 土曜日については瀧さんの趣味でやっていることであり、私に給料が発生することはない。それでも私は土曜日に塾に行くことに決めた。あれほど詳しく瀧さんから幽霊について聞いてしまっては、断りにくい。それに、幽霊が成仏する姿をこの目で見てみたいという好奇心もあった。普通の生徒と幽霊の子供たち相手で教え方に違いがあるのかも気になるし、断るより、楽しそうだと思ってしまった。





「今日は、ありがとうございました。いつもは一人で教えているので助かりました。今後もよろしくお願いします。」

「こちらこそ、よろしくお願いします。ところで、瀧さんの他に先生は誰がいますか。他の先生のシフトも考えずに勝手に決めて大丈夫ですか。」

「大丈夫ですよ。前の先生はやめてしまわれたので今は私と朔夜先生だけですし。それにたいてい、塾で教える先生は一人が多いので、朔夜さんが入ってくれると二人になって、子供たちも喜びます。」



 そんな緩い感じでいいのだろうか。まあ、瀧さんがそれでいいなら別に構わない。



「都合が悪い場合は言ってください。この塾は他にも数か所教室が開講されているのでそこから来てもらうことも可能ですから。」
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