5 / 38
5存在自体が愛おしい
しおりを挟む
「お待たせいたしました」
店内が混みあっているだけあり、料理が運ばれてくるのに結構な時間を要した。その間に大学生活の思い出を語り合って盛り上がっていた。
「ぐう」
卒業式で意外と体力を消耗していたようだ。料理が届いたとたん、楓子のおなかが盛大に空腹を訴えた。幸い、賑やかな店内のため店員が気づくことはなかった。テーブルに二人分の料理を置いてそのまま席を離れていく。
向かい側に座る美耶に見つめられるが、無視してすぐに料理に手を付ける。当然、「いただきます」の挨拶は忘れない。美耶は苦笑していたが、何も言わなかった。二人は冷めないうちに料理を食べ始めた。
「まっひゃく、わしゃしは、こんなことでごまかされないから」
「食べながら話すなって、親に言われなかった?」
いくら親友とはいえ、他人に空腹の音を聞かれるのは恥ずかしい。何も言われなかったが絶対に美耶は空腹の音に気付いている。それをごまかすために、食べながら美耶に話し掛ける。その様子が面白かったのか、美耶は笑っていた。
「やっぱり、楓子はかわいいねえ」
「ひゃに?」
「何でもないよ」
食べるのに夢中で美耶の言葉を聞き返すが、笑ってごまかされる。その後は無言で互いに自分の料理がなくなるまで食べ続けた。
「よし、ご飯も食べてエネルギーも補給したし、話の続きをしていこうか」
空腹が満たされ、楓子は美耶に話の続きを促した。夕方に行われる二次会まではまだ時間がある。親友に対する疑問はさっさと解決したい。先ほどまでの恥ずかしさは忘れて口を備え付けの紙ナプキンで拭ってきりりとした表情で美耶に視線を向ける。
「そうだねえ。適当に話をごまかすことも出来るけど……。楓子のその表情を見る限り、ごまかしは通用しなさそうだね」
はあとため息をついた美耶は、食後にもらった珈琲を一口飲んで、しぶしぶ楓子との弟と付き合うに至った経緯を話し始めた。
美耶は物心つく頃から、同性を好きになることが多かった。初めて人を好きになったのは小学生のころ。その頃は体が小さく、周りの男子からよくからかわれていた。
「それで男子が苦手になって、女子が好きになったとか?」
話を聞くと言っていたのに、途中で口をはさんできた親友を無視して美耶は話を続ける。別にそれが原因とはいえない。ただ、きっかけくらいにはなったのかもしれない。大学生になった今ではよくわからない。
「男性が苦手ってわけではないけど、積極的には関わりたくはないかな」
「ああ、それで大学の研究室を女性の教授のところにしたんだね。てっきり私は、美耶があのおじいちゃん教授のところに行くかと思っていたから。だって、興味があるのは絶対そっちだったでしょ」
そういう親友の勘の鋭いところを美耶は気に入っていた。大学のゼミを選ぶ際に教授のことで迷ったのは事実だ。親友のいうおじいちゃん教授でもよかったが、教授の性格が男性というだけでなく生理的に無理だった。大学生活の残りの時間、一緒に研究をしていかないとわかって断念した。しかし、たまたまその教授の研究内容の次に興味があったのが女性の教授だっただけだ。
(大学教授なんて、男性が多いんだから男性が苦手なんて言っていられないからね)
しかしそれをあえて美耶は言わないことにした。親友が自分の事を男性が苦手だと思わせておくことにした。実際には親友が思っているほど苦手ではないことも秘密だ。
「私の性癖の話はこのくらいで、どうして楓子の弟の紅葉君と付き合うことになったかだよね。実はこれには少し、私の家の事情が絡んでいて……」
自分の性癖について話すことに抵抗はなかった。すでに親友に告白した時点でばれている。家の事情はそれと関係のあることだが、それを言って親友に嫌われてしまったら。少しだけ美耶の言葉が小さくなる。言葉が止まってしまうが、目の前の親友は真剣な瞳で美耶を見つめてくる。
(もう後戻りはできないし、もし離れていったとしても)
絶対に逃がさない。
美耶は自分がこんなに独占欲の強い人間だとは思わなかった。改めて親友を眺めてみるが、どこを好きになったかといわれると、すぐには答えることができない。
(存在そのものが好きなんだよね)
勘の鋭いところ、女性にしては背が高めで、目が一重ではたから見たら常に不機嫌そうに見えるところ、髪や肌にあまり気を遣わずにいるずぼらなところ、自分の告白を受けても気味悪がらずに、今も一緒に卒業式に参加しているところ。
だから、本当なら親友と付き合って、一生をともにしたい。とはいえ、それは世間が許してくれない。親友と美耶の性別は同じだ。今の日本の法律では同性同士は結婚できない。
「家の事情って、確か美耶の家っていろいろ厳しいところだったよね」
美耶の気まずそうな雰囲気を感じ取った親友が顔を覗き込んでくる。言いたくなければ言わなくてよい、という感じではない。ただ、強制的に話せということでもないようだ。ゆっくりとでも話せということかもしれない。
「実はね、私の家ってかなりの男尊女卑なんだ。そもそも、私は大学でひとり暮らしをしているでしょ。これもかなり親に反対された」
どうあっても、話さないという選択肢はないようだ。美耶は意を決して自分の家庭事情を親友に話すことにした。
店内が混みあっているだけあり、料理が運ばれてくるのに結構な時間を要した。その間に大学生活の思い出を語り合って盛り上がっていた。
「ぐう」
卒業式で意外と体力を消耗していたようだ。料理が届いたとたん、楓子のおなかが盛大に空腹を訴えた。幸い、賑やかな店内のため店員が気づくことはなかった。テーブルに二人分の料理を置いてそのまま席を離れていく。
向かい側に座る美耶に見つめられるが、無視してすぐに料理に手を付ける。当然、「いただきます」の挨拶は忘れない。美耶は苦笑していたが、何も言わなかった。二人は冷めないうちに料理を食べ始めた。
「まっひゃく、わしゃしは、こんなことでごまかされないから」
「食べながら話すなって、親に言われなかった?」
いくら親友とはいえ、他人に空腹の音を聞かれるのは恥ずかしい。何も言われなかったが絶対に美耶は空腹の音に気付いている。それをごまかすために、食べながら美耶に話し掛ける。その様子が面白かったのか、美耶は笑っていた。
「やっぱり、楓子はかわいいねえ」
「ひゃに?」
「何でもないよ」
食べるのに夢中で美耶の言葉を聞き返すが、笑ってごまかされる。その後は無言で互いに自分の料理がなくなるまで食べ続けた。
「よし、ご飯も食べてエネルギーも補給したし、話の続きをしていこうか」
空腹が満たされ、楓子は美耶に話の続きを促した。夕方に行われる二次会まではまだ時間がある。親友に対する疑問はさっさと解決したい。先ほどまでの恥ずかしさは忘れて口を備え付けの紙ナプキンで拭ってきりりとした表情で美耶に視線を向ける。
「そうだねえ。適当に話をごまかすことも出来るけど……。楓子のその表情を見る限り、ごまかしは通用しなさそうだね」
はあとため息をついた美耶は、食後にもらった珈琲を一口飲んで、しぶしぶ楓子との弟と付き合うに至った経緯を話し始めた。
美耶は物心つく頃から、同性を好きになることが多かった。初めて人を好きになったのは小学生のころ。その頃は体が小さく、周りの男子からよくからかわれていた。
「それで男子が苦手になって、女子が好きになったとか?」
話を聞くと言っていたのに、途中で口をはさんできた親友を無視して美耶は話を続ける。別にそれが原因とはいえない。ただ、きっかけくらいにはなったのかもしれない。大学生になった今ではよくわからない。
「男性が苦手ってわけではないけど、積極的には関わりたくはないかな」
「ああ、それで大学の研究室を女性の教授のところにしたんだね。てっきり私は、美耶があのおじいちゃん教授のところに行くかと思っていたから。だって、興味があるのは絶対そっちだったでしょ」
そういう親友の勘の鋭いところを美耶は気に入っていた。大学のゼミを選ぶ際に教授のことで迷ったのは事実だ。親友のいうおじいちゃん教授でもよかったが、教授の性格が男性というだけでなく生理的に無理だった。大学生活の残りの時間、一緒に研究をしていかないとわかって断念した。しかし、たまたまその教授の研究内容の次に興味があったのが女性の教授だっただけだ。
(大学教授なんて、男性が多いんだから男性が苦手なんて言っていられないからね)
しかしそれをあえて美耶は言わないことにした。親友が自分の事を男性が苦手だと思わせておくことにした。実際には親友が思っているほど苦手ではないことも秘密だ。
「私の性癖の話はこのくらいで、どうして楓子の弟の紅葉君と付き合うことになったかだよね。実はこれには少し、私の家の事情が絡んでいて……」
自分の性癖について話すことに抵抗はなかった。すでに親友に告白した時点でばれている。家の事情はそれと関係のあることだが、それを言って親友に嫌われてしまったら。少しだけ美耶の言葉が小さくなる。言葉が止まってしまうが、目の前の親友は真剣な瞳で美耶を見つめてくる。
(もう後戻りはできないし、もし離れていったとしても)
絶対に逃がさない。
美耶は自分がこんなに独占欲の強い人間だとは思わなかった。改めて親友を眺めてみるが、どこを好きになったかといわれると、すぐには答えることができない。
(存在そのものが好きなんだよね)
勘の鋭いところ、女性にしては背が高めで、目が一重ではたから見たら常に不機嫌そうに見えるところ、髪や肌にあまり気を遣わずにいるずぼらなところ、自分の告白を受けても気味悪がらずに、今も一緒に卒業式に参加しているところ。
だから、本当なら親友と付き合って、一生をともにしたい。とはいえ、それは世間が許してくれない。親友と美耶の性別は同じだ。今の日本の法律では同性同士は結婚できない。
「家の事情って、確か美耶の家っていろいろ厳しいところだったよね」
美耶の気まずそうな雰囲気を感じ取った親友が顔を覗き込んでくる。言いたくなければ言わなくてよい、という感じではない。ただ、強制的に話せということでもないようだ。ゆっくりとでも話せということかもしれない。
「実はね、私の家ってかなりの男尊女卑なんだ。そもそも、私は大学でひとり暮らしをしているでしょ。これもかなり親に反対された」
どうあっても、話さないという選択肢はないようだ。美耶は意を決して自分の家庭事情を親友に話すことにした。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる