囚われの姉弟

折原さゆみ

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19親友の家族構成

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「ここが、私が予約した部屋だよ。4人部屋だから、今日は楓子たちもここに泊まるといいわ」

 美耶たちの案内で楓子たちはホテルの一室にたどり着く。部屋に入ると、ずいぶんと広かったが、4人泊まれるというのなら納得だった。ベッドはツインベッドがふたつ置かれていた。「泊まるといい」と軽く言っているが、当然、楓子と紅葉は結婚式に参加するだけだと思って宿泊の用意はしてない。そのうえ、こんな高そうなホテル代に泊めてもらうのは気が引けた。

「困っている顔もそっくりだねえ。そこまで緊張しなくていいよ。とりあえず、座って話そう」

 いきなりのことすぎて困惑するのは当然だ。それなのに困った顔が似ていると笑う親友がどうかしている。何か文句を言ってやろうかと思ったが、何を言っても親友には効果ないだろうと楓子は口をつぐむ。弟も同じ考えなのか何も口にすることはなかった。

 しかし、いつまでも入り口近くで立っているわけにもいかない。楓子と紅葉は無言で部屋に備え付けられているソファに隣同士に腰掛ける。美耶は楓子たちの正面に座り、雅琉はソファに座ることなく、美耶の後ろに静かに移動した。


「まずは何かルームサービスでも頼む?おなか減ったでしょう?」

 気を利かせたつもりなのか、今回の件の元凶である美耶が口を開いた。ルームサービスなど頼んだら、ただでさえ高い宿泊費にさらに追加でお金を出すことになる。親友にこれ以上の支出を許してはならない。

「そんなことしてもらわなくても」

「雅琉」
「はい」

 楓子の断りの言葉は途中で遮られる。雅琉はすぐに机に備え付けられていた電話でルームサービスを頼みだす。簡単な料理と飲み物を注文してすぐに受話器を置いて、親友に向きなおる。

「30分以内に運んでくれるそうです」
「ありがとう。さすが私の『おとうと』」

「ねえさんに褒められるほどではありません」

「謙遜しなくてもいいのに。そうそう、部屋に連れてきたから、もうその敬語はいらないよ。いつも通りにしてちょうだい」

「わかった」

 突然、美耶と雅琉は楓子たち姉弟にとって不可解な会話を始めた。親友は「おとうと」と言っていた。親友に弟などいただろうか。楓子は必死に大学時代の親友との会話を思い出すが、姉弟がいたという会話をした記憶はない。むしろ、一人っ子だったという話を聞いたことがある。

「紅葉先輩。この男が『おとうと』って」

 疑問を先に口にしたのは弟だった。紅葉にとっても親友のおとうと発言は驚きだったようだ。楓子たちが説明を求めるように視線を向けると、にっこりとほほ笑まれる。

「紹介がまだだったわね。この子は私の『おとうと』の『原雅琉(はらまもる)』っていうの」

「『おとうと』とは言っても、ねえさんの母親とオレの父親が再婚した結果、『おとうと』になったわけで、血のつながりはありません」

「血のつながりはない……」

「何を心配しているのかなんとなくわかるけど、私たちはあくまで姉弟だからね。あなたたちと一緒。恋愛感情はないから、気味の悪い想像はやめてくれる?」

「ねえさんの言っていた通り、かなり純真な姉弟なんだね。自分たちが今からどういう目にあうのか知らず、のんきなものだね」

 美耶と雅琉の二人の会話は楓子の耳に届いているが、そのまま素通りしていく。美耶がおとうとの自己紹介を始めたとたんに、雅琉の言葉遣いが変わったことにも気づかない。

(両親が離婚して、再婚した……)

 きっと、それは楓子たちが大学を卒業してからの出来事だろう。大学卒業後の親友の身に起きたことなど知る由もない。

「美耶を苦しめる奴が、一人減った」

「楓子?」

 両親が厳しいと言っていたが、どちらが美耶に結婚を強いていたのだろうか。どちらが男尊女卑を説いていたのだろうか。どちらにせよ、両親が一人減ったなら、美耶を縛り付ける人間が一人減ったということだ。

「姉ちゃん、顔が怖いよ」

「美耶は自由に生きるべきだ」

「楓子、と、突然どうしたの?」

 楓子は美耶に対して思ったことを自然と口にしていた。これは美耶にとって良いことだ。これを機に彼女の両親が強要したことを忘れて欲しい。

(でも、もし美耶が自由に生きると決めたとしたら、私と美耶は……)

 楓子は弟と親友の言葉に我に返る。今の自分の顔を想像するが、きっとおかしな顔になっているだろう。

 ちらりと美耶のおとうとだという男を観察する。この男が美耶にどんなことを言ったとしても問題はない。美耶の両親ほど影響を与えるとは思えない。たとえ、なにか言ったとしても、今度は自分が。楓子の思考はどんどん悪い方向に進んでいた。

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