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異世界転移をした彼女は異世界の常識を変えようと試みるが、勇者がくそ過ぎて困りました

13女王に謁見することができました

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「ここがこの国の首都「ネームオールドハウス」よ。」

 カナデたち一行は、ようやく首都にたどりついた。エルフのシーラやウルフのルーを仲間にして、ギーフからの旅はすでに一週間以上が経過している。この世界に来る前は、ただのしがない事務員だったカナデはもちろん、ユーリも引きこもりの高校生だったので、旅の疲れで顔がげっそりとやつれ、身体もあちこちが悲鳴を上げている。限界に近い状態であった。

『WELCOME TO NAME OLD HOUSE』と書かれた看板が目に入る。

「言葉は思いっきり、アルファベット表記だな。」

「そのようですね。」


「まずは、あそこに見えるNOHキャッスル、そこに行って、いろいろ詳しい話を聞きましょう。」

 エミリアが珍しく先頭を切って歩き出す。他の一行もそのあとに続いていく。



 その建物は、お城のような建物だった。異世界転移・転生後によくみられる、中世ヨーロッパ風のお城だ。この表現もどうかと思うのだが、大抵の話はこの表現が用いられているので、この表現を拝借することにしよう。

城の前には警備をしているだろう、屈強な男性が鎧を身につけて立っていた。ユーリが勇者である証拠の札を見せると、すぐに男たちは城の中へ通してくれた。城の中を進んでいくと、最初に教会であった司祭と同じ白いローブを身にまとった老人に出会った。


「魔王討伐のメンバーに選ばれた「勇者」のユーリだ。後のメンバーもオレと同じ魔王討伐メンバーだ。」

 城の警備をしていた男たちに見せたように札を見せると、老人はしげしげと札を観察する。そして、控えの間とでも言うのだろうか。おそらく、客人を待たせる部屋にカナデたちを案内した。ここで少し待っているように告げて、その場から立ち去っていく。城の主とやらにユーリたちの訪問を伝えに行ったのだろう。

「ねえ、そもそも、どうして、ここまでの道のりは転移装置を使わなかったの。」

 老人が戻ってくるまでの間、疑問に思っていたことをカナデがイザベラに質問する。

「それは、ここまでの道のりがどうなっているのか確かめるためですよ。勇者様もカナデもこの世界に来て日が浅いでしょう。だから、この世界の様子見がてらということですよ。」

 カナデの質問に珍しく答えてくれたイザベラだった。ただ、勇者には様がついて、カナデには様がつかないのはいつも通りだった。



「トントン。」

「どうぞ。」

 ユーリが代表で答える。数秒後、ドアを開けて入ってきたのは、若い女性だった。メイド服らしき黒いロングスカートに白いエプロンを身につけた女性が、今後は案内してくれるらしい。

「陛下がお待ちです。」

 カナデたち一行がたどりついたのは、城の内部でも最も豪華な間だった。目の前には玉座が置かれ、そこには一人に女性が座っていた。そのわきには護衛だろうか。城の前で警備していた男たちよりも強そうな雰囲気を醸し出した男が二人つき従えていた。


「よく来てくれた。われはこの国を治める女王、エリザベス。この度、魔王討伐のメンバーがそろったと聞いた。そなたたちがそのメンバーというわけか。」

 女王と名乗る女性は、金髪碧眼の美女であり、肩が出ている真っ赤なドレスを着ていた。胸がはち切れそうになっているが、腰は細く、男性の目は釘付けにするような色気を放っていた。勇者はすでに、女王の虜となっていた。


 今のところ、魔王討伐のリーダーは勇者であるので、話を進めてもらわなければ困る。カナデはユーリを肘で小突くと、慌てて、顔を引き締めて女王に話しかける。


「ごほん。この国の女王様に挨拶できること、誠に光栄でございます。オレの名前はユーリ。女神からの計らいで、異世界よりまいりました。魔王討伐の任務、謹んでお受けいたします。」

 カッコつけて、女王様のもとに跪き挨拶をする。カナデたちもそれにならい、女王に挨拶して跪く。そういえば、魔王討伐メンバーは勇者、聖女、魔王使い、剣士の四人だったはずだが、それ以外のメンバーは今回の魔王討伐に参加できるのだろうか。純粋に疑問に思ったカナデだが、女王の言葉で我に返る、いつの間にか、他のメンバーは挨拶を終えていたようだ。

「お主が最後のメンバーか。」

「ハイ。名をカナデと申します。私も女神の計らいで、ユーリ様と共に異世界よりまいりました。ユーリ様のサポート係として、魔王討伐のメンバーに加わりたいと思っております。」

 聖女というポジションで異世界に来たのだが、本物の聖女がここにいる以上、自らが聖女というのは名乗りづらい。そもそも、名乗ったところで信じてもらえるのかもわからない。さらには、自ら聖女などというのは、カナデには恥ずかしすぎた。


「お主たちの名前と魔王討伐のおのおのの役割は理解した。本来なら、勇者、聖女、魔王使い、剣士の四人が正式な魔王討伐メンバーだが、お主たちの誠意はわれに伝わった。今までの魔王討伐の記録にも、四人以上で戦ったという記録が残っている。必ずしも四人だったわけではないようだ。今回はお主たち七人で任務をこなすがよい。われのため、国のために精進せよ。詳しい計画はまた明日、部下のものに説明させよう。今日は遠いところから、わざわざご苦労だった。今日はゆっくりと休むがよい。お主たちはわれわれの未来を担っている。この城で泊るがよい。」


 カナデたちはほっと安堵する。さすがにこれからすぐに魔王討伐の説明を受けるのはきついと感じていた。女王の配慮をありがたく受け取ることにした。

 話は終わりとばかりに、先ほどのメイド服を着た女性がカナデたちを誘導する。素直に従って、ユーリたちは部屋を出ていく。カナデも後に続こうとしたが、女王に呼び止められた。

「カナデ、とか言ったな。少し、主とは話がしたい。」


 やはり、ユーリのサポート係の説明には無理があったのか。仕方なく、カナデは女王と二人きりで話をすることになった。
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