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異世界転移をした彼女は女性の意識改革(服装改革)を行うことにした

17署名活動を始めました

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「これらの理由から、女性騎士団の制服改定を要請します。改定に賛成の者たちの署名も集めました」

 レオナの言葉に、その場にいた男性たちが眉をひそめた。

「そのような理由で制服改定とは嘆かわしい。君たち女性にふさわしいと提案してくださった英雄に失礼ではないか。署名をした者たちも、君たちの口のうまさに騙されているのではないのかね」

「そんな些細なこと、我慢すればいいではないか?我々男性だって我慢していることはいくらでもある。女性だけが我慢を強いられていると思ったら大間違いだ」

「まったくもって、受け入れがたい要請ですね。くだらないことで議論している暇は、私たちにはないのですよ。それとも、あなたたち女性たちは、そんなにも暇を持て余しているのですか?ああ、そうですよね。そもそも、非力な女性がこのような場所で働いていることがおかしいのかもしれません」

 男性たちの容赦ない言葉にひるみそうになったレオナだが、ぐっと唇をかみしめて耐えていた。ここで怒りを爆発させてしまっては、今までの行動が水の泡になってしまう。エリザベスやソフィアがそばにいることもあり、おとなしく席に着いた。





 カナデが男性騎士団の服を調整してから三カ月、ソフィアたちは各方面へ制服改定の話の根回しに当たっていた。具体的には、城で働く人々や城下町にいる人々の意見を集めて、女性騎士団の制服改定を求める嘆願書を作成するための署名活動を行っていた。

 まず初めに、同性である女性たちから署名を集めることにした。城で働いている女性はもちろん、城の近くにある町、いわゆる城下町にも署名を集めるために、ソフィアたちは奔走していた。女性たちは誰もが声をそろえて、新しい女性騎士団の服装に賛成だった。


「女性騎士団の制服を変えたいと思うのですが、どう思いますか?左の女性が着ているのが、今現在の騎士団の女性用の制服、右の女性が着ている服が、私たちが提案する新たな女性騎士団の制服となります」

「騎士団の女性の制服改定?へえ、これがその新しい制服かい。ずいぶんとカッコよく仕上がっているねえ。いいと思うわよ」

「これを見せられると、今までの制服がいかに破廉恥で仕事に支障が出ていたのかわかるねえ。聖女様の提案なのだったら、いい仕事したとほめたいくらいだ」

「ありがとうございます。私の侍女の提案から生まれたんですよ。私は侍女の提案に乗っかり行動しているだけです」

 ソフィアは、イザベラとレオナを連れて歩いていた。二人が非番の時を狙い、署名活動に勤しんでいた。その時には、イザベラには新しく騎士団の制服になる予定の制服を、レオナには今まで通りの制服を着用してもらっていた。これをもとに、制服改定の意義を女性たちに吹聴していた。


「ソフィアさん、あの私たちを連れて歩いている理由はわかりますが、皆さんにじろじろと見られて恥ずかしいです」

「私も、イザベラと同じです。いや、私の方が恥ずかしいです。比較のためとは言え、他に方法はなかったのですか?」

「そうですねえ。私もお二人の負担にならないような方法を考えていたのですが、なかなかいいアイデアが思い浮かびませんでしたので。ですが、皆さん、快く署名をしてくださいましたし、結果オーライなのでいいではないですか」

 イザベラとレオナの文句に、ソフィアは悪びれることなく署名が集まって良かったという始末で、取り付く島もない。

「ソフィアさんって、最初に出会った時とだいぶ印象が違いますよね。最近のソフィアさんって、なんだか男前というかなんというか……」

「カナデさんに似てきましたよね」

 ソフィアに自分たちの気持ちが伝わっていないと感じた二人が、ふとソフィアに抱いた印象を口にする。

「何を言っているのかわかりませんね。どうしてここで、カナデの名前が出るのですか。カナデは今ここに居ませんし、私がカナデに似ているなんてことがあるわけありません。カナデみたいに、バカ正直であんなくそダサくて芋くさい、でも女性の不満を正直に口にしてしまうような奴に似ているなんて言われるとは、心外です。言っていいことと悪いことがあります。それに、カナデなんて、異世界では嫌われるタイプですよ。異世界物の男性主人公のハーレムの根底を覆し、エロイ格好をこの世界から減らすかもしれない。いわゆる、この世界での敵ですよ。そんな奴のどこに似ているというのか。まあ、私も最初にこの世界に転生し、聖女として売り飛ばされたときには、この世界を呪いました。カナデと同じようにハーレムもエロイ格好もごめんだと思いました。ですが、それとこれとは今は関係のない話です。それに……」

 カナデという言葉に反応して、ソフィアが興奮したように口から次々と言葉があふれ出す。よほどカナデと似ていると言われるのが嫌なのか、言葉が途切れることなく紡がれていく。

「それに、私はカナデみたいに異世界物が好きでも何でもなかったんですよ。それなのに、死んでしまって目を覚ましたらこのありさま。まさか、自分が転生して聖女になるなんて思いもしませんでした。たまたま、生前、クラスメイトからラノベを薦められて読んだからいいものの、読みもせず、予備知識なしにこの世界に転生していたと思うとぞっとします。まったく、本当に嫌になりますよ」

「あの、ソフィアさん、異世界?転生?何を言っているのですか」

「男性主人公って、この世界が物語みたいなことを言うんですね。どういうことですか?私たちは物語の中の人間ではなく、現実に存在していますよ」

 興奮したソフィアは、二人の冷静な突っ込みにやっと我に返る。自分が何を言っていたのか思い出し、さっと顔が青ざめていく。

「あらやだ。私ったら、見苦しいところを見せてしまったわね。こんな姿、カナデの前以外にさらしたことがないのに。でも、あなたたちが悪いのよ。カナデのことを話題に出すから。つい興奮してしまったわ。いいかしら。今後私の前で、不用意にカナデの話題を口にしないで頂戴」

 青ざめたかと思ったら、すぐに開き直り、カナデの話題を出した二人が悪いと言い出した。その言葉に、二人はこれ以上ソフィアを刺激するのはまずいと感じ、その場は頷くだけにとどめた。
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