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命のキス
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「さて、と…」
私は誰もいない学校のプールサイドで、伸びをした。
そして始めるラジオ体操。
「イチニッ、イッチニッ!」
一人で虚しいとかは考えない。
…って言うか、考えてらんない。
夏休みになり、私の所属する水泳部は輪をかけて部活動に力を注ぐようになっていた。
私は1年生で、マネージャーをしていた。
けれど本当はカナヅチで、少しでも泳げるようになりたいからマネージャーになった。
部員ではみんなの足を引っ張るのは目に見えていたから…。
だからはじめての挨拶の時、そのことを言ったら、部員達は笑って受け入れてくれた。
そして部活の時、余裕があったら泳ぎを教えてくれるようになった。
優しい人達だ。
なのに私ときたら…。
思い起こすこと十日前…夏休みに入ってすぐの部活の時だった。
あの日は最初からプールに入れた。
もうすぐ大会だから、その日で教えるのは一時休止にしようと部長から言われていた。
だからはりきって泳いだのに…。
「はあ…」
溺れた。思いっきり。みんなの見ている前でっ!
そして部長に救助されて…。
人口呼吸で息を吹き返した……。
つまり…。
「ファーストキスが、人口呼吸…」
気分と共に、体が重くなる。
部長は行動的な人で、面倒見の良い先輩。
泳ぎを一生懸命に教えてくれた。
なのに…溺れた挙句に、人口呼吸までさせてしまった。
悪くて体調が優れないという理由で、今の今まで部活を休んでしまった。
もうすぐお盆だから、部活自体が休みに入る。
その前に内緒で一人、泳ぎに来た。
「せっせめて溺れないようにしないと…」
ビート板では早く泳げるようになった。
…それこそ選手より早く。
けれどビート板無しでは、ズブズブ沈んでいく。
……体重のせい? と思ってしまうぐらい。
「よしっ!」
準備運動は終わった。十分に体もほぐれた。
最初はビート板を持って泳いだ。
ちゃんと泳げた。
「ふぅ…」
今度はビート板を近くに浮かせながら、一人で泳いでみよう。
バタ足で息継ぎをちゃんとすれば、ごっ5メートルぐらいは…!
「うぶっ!」
ところが何度か顔を上げているうちに、体が沈み始めた。
ここでパニックになってはいけない。
冷静に、冷静に…。
「うぶぶぶっ!」
って、やっぱりムリ!
両手両足をバタつかせてしまう。
これは…ヤバイっ!
「部っ長…!」
頭の中に、部長の困り顔が映った。
人口呼吸の後、目を覚ました私に、
「…ったく。はじめてだったんだぞ」
…って、顔を真っ赤に染めながら言っていた。
その意味がすぐに分かった。
だから申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
なのにまた同じことを繰り返してしまった。
「がぼっ!」
あっ、コレは流石にマズイな…。
体の力が抜けていく。
「…のバカっ!」
ぐいっと水の中から引き上げられた。
「がほっ、ごほっ!」
「何度同じこと繰り返せば気が済むんだ!」
「ごほっ…って、部長?」
引き上げてくれたのは、制服姿の部長だった。
「部室に忘れ物を取りに来たら、プールで誰か泳いでいると思ったら…一人で何してたんだ?」
うっ…怒ってる。しかもハンパじゃなく怒ってる。
「おっ泳ぐ練習を…」
「一人でか?」
「…はい」
「このっバカっ!!!」
ひぃっ! …耳元で怒鳴らないでほしい。
「前にも同じことしたくせに、学習能力がないのか、お前はっ!」
「はっ反省してます。反省してますから、少し声のボリューム落としてください。また気失いそうです…」
「あっ悪い…」
部長は黙ってしまった。私の手を掴み、腰を掴んだまま。
「…ところで、そろそろ離してくれませんか? 流石にもうプールには入りませんから」
と言うか、もう授業以外では入らない。
そう心に決めた。
「…いや」
「えっ」
いきなり捕まれた手と腰を引かれた。
そのまま抱き締められる。
「あの、部長?」
「お前はこうして捕まえて見ていないと、何するか分からないからな。―離さない」
そう言ってぎゅうっと抱き締めてくる。
「あの、これじゃあ着替えることも出来ないんですけど…」
「もう少し…このままで」
そう言った部長の体は、震えていた。
「…部長?」
「心臓がっ…止まるかと思った。お前が溺れているのを見て…」
「あっ…」
「前にもあって…。びっくりどころの話じゃないんだぞ?」
「…はい。すみません」
部長の背中を優しくさすった。少しでも震えが止まるようにと。
「もうっオレの見てないところで泳ぐな」
「はい、分かりました」
「絶対だぞ?」
「分かっています。人口呼吸なんて、二度と部長にやらせませんから」
「えっ、いや、それは…」
「…はい?」
急にうろたえ出した部長。
すると顔を上げて、真っ直ぐに私を見る。
「キスは…イヤじゃないから」
「キス…ではなくて、人口呼吸です」
「それでもキスだろっ?」
…まあそう言えない事もないけど。
「だからっ! …キスは良いんだ」
………もしかして、コレは告白……なのか?
「…まあ私も、部長だったらキスは良いですよ」
「ほっホントか?」
「はい。部長だったら、何度しても良いです」
「なっ何度もってお前な…」
部長は真っ赤になって言葉を失くした。
けれど次に目を開けた時は、真剣な顔になっていた。
だから私は目を閉じ、顔を上げた。
―冷たいキス。
けれど胸が熱くなった。
「…まっ、お前の場合、溺れ方を先に教えた方が良いみたいだな」
「よっよろしくご指導のほど、お願いします」
「ああ、任せろ!」
…部長の怒鳴り声は、まだしばらく続きそうだった。
私は誰もいない学校のプールサイドで、伸びをした。
そして始めるラジオ体操。
「イチニッ、イッチニッ!」
一人で虚しいとかは考えない。
…って言うか、考えてらんない。
夏休みになり、私の所属する水泳部は輪をかけて部活動に力を注ぐようになっていた。
私は1年生で、マネージャーをしていた。
けれど本当はカナヅチで、少しでも泳げるようになりたいからマネージャーになった。
部員ではみんなの足を引っ張るのは目に見えていたから…。
だからはじめての挨拶の時、そのことを言ったら、部員達は笑って受け入れてくれた。
そして部活の時、余裕があったら泳ぎを教えてくれるようになった。
優しい人達だ。
なのに私ときたら…。
思い起こすこと十日前…夏休みに入ってすぐの部活の時だった。
あの日は最初からプールに入れた。
もうすぐ大会だから、その日で教えるのは一時休止にしようと部長から言われていた。
だからはりきって泳いだのに…。
「はあ…」
溺れた。思いっきり。みんなの見ている前でっ!
そして部長に救助されて…。
人口呼吸で息を吹き返した……。
つまり…。
「ファーストキスが、人口呼吸…」
気分と共に、体が重くなる。
部長は行動的な人で、面倒見の良い先輩。
泳ぎを一生懸命に教えてくれた。
なのに…溺れた挙句に、人口呼吸までさせてしまった。
悪くて体調が優れないという理由で、今の今まで部活を休んでしまった。
もうすぐお盆だから、部活自体が休みに入る。
その前に内緒で一人、泳ぎに来た。
「せっせめて溺れないようにしないと…」
ビート板では早く泳げるようになった。
…それこそ選手より早く。
けれどビート板無しでは、ズブズブ沈んでいく。
……体重のせい? と思ってしまうぐらい。
「よしっ!」
準備運動は終わった。十分に体もほぐれた。
最初はビート板を持って泳いだ。
ちゃんと泳げた。
「ふぅ…」
今度はビート板を近くに浮かせながら、一人で泳いでみよう。
バタ足で息継ぎをちゃんとすれば、ごっ5メートルぐらいは…!
「うぶっ!」
ところが何度か顔を上げているうちに、体が沈み始めた。
ここでパニックになってはいけない。
冷静に、冷静に…。
「うぶぶぶっ!」
って、やっぱりムリ!
両手両足をバタつかせてしまう。
これは…ヤバイっ!
「部っ長…!」
頭の中に、部長の困り顔が映った。
人口呼吸の後、目を覚ました私に、
「…ったく。はじめてだったんだぞ」
…って、顔を真っ赤に染めながら言っていた。
その意味がすぐに分かった。
だから申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
なのにまた同じことを繰り返してしまった。
「がぼっ!」
あっ、コレは流石にマズイな…。
体の力が抜けていく。
「…のバカっ!」
ぐいっと水の中から引き上げられた。
「がほっ、ごほっ!」
「何度同じこと繰り返せば気が済むんだ!」
「ごほっ…って、部長?」
引き上げてくれたのは、制服姿の部長だった。
「部室に忘れ物を取りに来たら、プールで誰か泳いでいると思ったら…一人で何してたんだ?」
うっ…怒ってる。しかもハンパじゃなく怒ってる。
「おっ泳ぐ練習を…」
「一人でか?」
「…はい」
「このっバカっ!!!」
ひぃっ! …耳元で怒鳴らないでほしい。
「前にも同じことしたくせに、学習能力がないのか、お前はっ!」
「はっ反省してます。反省してますから、少し声のボリューム落としてください。また気失いそうです…」
「あっ悪い…」
部長は黙ってしまった。私の手を掴み、腰を掴んだまま。
「…ところで、そろそろ離してくれませんか? 流石にもうプールには入りませんから」
と言うか、もう授業以外では入らない。
そう心に決めた。
「…いや」
「えっ」
いきなり捕まれた手と腰を引かれた。
そのまま抱き締められる。
「あの、部長?」
「お前はこうして捕まえて見ていないと、何するか分からないからな。―離さない」
そう言ってぎゅうっと抱き締めてくる。
「あの、これじゃあ着替えることも出来ないんですけど…」
「もう少し…このままで」
そう言った部長の体は、震えていた。
「…部長?」
「心臓がっ…止まるかと思った。お前が溺れているのを見て…」
「あっ…」
「前にもあって…。びっくりどころの話じゃないんだぞ?」
「…はい。すみません」
部長の背中を優しくさすった。少しでも震えが止まるようにと。
「もうっオレの見てないところで泳ぐな」
「はい、分かりました」
「絶対だぞ?」
「分かっています。人口呼吸なんて、二度と部長にやらせませんから」
「えっ、いや、それは…」
「…はい?」
急にうろたえ出した部長。
すると顔を上げて、真っ直ぐに私を見る。
「キスは…イヤじゃないから」
「キス…ではなくて、人口呼吸です」
「それでもキスだろっ?」
…まあそう言えない事もないけど。
「だからっ! …キスは良いんだ」
………もしかして、コレは告白……なのか?
「…まあ私も、部長だったらキスは良いですよ」
「ほっホントか?」
「はい。部長だったら、何度しても良いです」
「なっ何度もってお前な…」
部長は真っ赤になって言葉を失くした。
けれど次に目を開けた時は、真剣な顔になっていた。
だから私は目を閉じ、顔を上げた。
―冷たいキス。
けれど胸が熱くなった。
「…まっ、お前の場合、溺れ方を先に教えた方が良いみたいだな」
「よっよろしくご指導のほど、お願いします」
「ああ、任せろ!」
…部長の怒鳴り声は、まだしばらく続きそうだった。
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